本当にせこい   作:七九六十

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13-06 九州動乱 式場

 

 

 

 覚悟を決めた万里花(まりか)は控室を出て、式場へと向かう。

 そして初対面となる新郎と合流し、その手を取る。

 

 2人は腕を組み、教会の中へと歩を進める。

 

 そして牧師の下へとたどり着く。

 

「───(なんじ)、健やかなる時も病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、固く節操を保つ事を───……」

 

 牧師の言葉は万里花(まりか)へと届いていなかった。

 彼女はただ、(らく)の事だけを考えていた。

 

「妻なる者よ。(なんじ)、永遠の愛を誓いますか?」

 

 心残りは、バレンタインの告白の返事。

 答えが分かり切っていても、本人の(くち)から聞いておきたかった。

 

「……沈黙もまた答えです。誓約したと認めます」

 

 そして出来れば、もう一度。

 

「では指輪の交換と、誓いのキスを─────」

 

 もう一度。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その結婚、ちょっと待ったぁあぁー!」

 

 

 

 

 

 

 そんな声とともに、教会の扉が左右に弾け飛ぶ。

 見ればそこには3人の男女の姿が。

 

 

 左右の少女たちは蹴り足を戻す。

 どうやら彼女たちが扉を蹴破ったようだ。

 

 中央の少年は行き場を失った手を戻しつつバツが悪そうに目を逸らす。

 どうやら彼は何もできなかったようだ。

 

 

 

 

 そこには、万里花(まりか)が望んだ(らく)の姿があった。

 

 

 

 

『お帰り願いなさい、万里花(まりか)

 

 しかしそこに冷水が浴びせられる。

 

『やれやれ、こんな所まで来るなんて……本当に子供って面倒よね』

 

 それは、彼女の耳元のイヤホンへと届く、母親の声。

 

万里花(まりか)、あなたの(くち)から言うのよ。でないとあの子、聞きはしないわ』

 

 

 

 言う通りにしないと、わかってるわね?

 

 

 

 万里花(まりか)は歯を食いしばってでも、その言葉に従うしかない。

 

「何をしに来たのですか? ()()()()

 

 意を決して、(くち)を開く。

 

(わたくし)の結婚を止めに来たのですか? どうしてそんなひどい事をなさるのでしょう」

 

 一度開けば、止まらない。

 

「あぁもしかして(わたくし)がこの結婚を強いられているとお思いですか?

 だとしたらそれは誤解です。

 (わたくし)は望んでこの方と一つになりたいと思っているのですよ?」

 

 そんなつもりは無いのに。

 

「それともまさか、未だに(わたくし)があなたの事を好きだと思っているのでしょうか。

 だとしたらそれも大きな誤解です。

 (わたくし)はもう、あなたの事なんてこれっぽっちも好きではありません。

 だいたい一条さんの方こそ、(わたくし)の気持ちに応えて下さる気は無かったではありませんか。

 それとも、たとえ気の無い女性でも他の方の物になってしまうのは許せないと?

 傲慢(ごうまん)ですね。

 寒気がします」

 

 彼を傷つける言葉が、止まらない。

 

「お引き取りを」

 

 それでも……

 

「せっかくあなたに見切りをつけて真の幸せを手に入れようとしてるんです。

 これ以上、邪魔しないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言いたいことはすべて言ったと、笑顔のまま沈黙する万里花(まりか)

 しかし彼女は気が気でない。

 

 なんせよくよく見れば、(らく)は平然とした顔のままであるし。

 左右の少女たちはどこからか取り出した大きなビデオカメラと集音マイクを構えている。

 

 これ絶対、後から(いじ)られるヤツだ!

 

「橘……お前ら、やっぱ親子だな。動揺すると口数が増える」

 

 ようやく(らく)が言葉を発したと思えば、何気に当主を(あお)るオマケ付きである。

 彼らが現れたときには変わらなかった表情が、それを聞いてピクリと動く。

 

「それと、お前は昔、岬に言われただろ? 大根役者って」

 

 そんな事は言っていない。

 古典の名作を勝手に変えるマヌケとは言ったが。

 

「そういうセリフは、もっと幸せそうな顔して言え」

 

 今にも泣きだしそうな顔をして言うものではない。

 そんなのでは、誰も騙せやしない。

 

 彼はそれほど察しの良い方ではないが、これを見落とすほど(にぶ)くはない。

 

「それにな、お前を他の男に渡さないために邪魔しに来た? その理屈でいうと2人は……」

 

 (らく)はチラリと横の2人に目線を向ける。

 

「ごめん、私あんたのことはただの友達だとしか見てないから……」

「私も心に決めた人がいるのでちょっと……」

「な、なんで(わたくし)が告白したかのような、しかもフラれてるしっ!?」

 

 そりゃあ『あなたたち(わたくし)の事が好きだから追いかけて来たんでしょ? ん?』みたいなことを言われれば……

 

 まったく、自分と『(らく)様』だけしか頭に無いから、こういう(いじ)られ方するのだというのに。

 (らく)は呆れながらも、最近は久しく見られなかった懐かしい光景に口元が緩む。

 

 

 

 

「橘、難しく考えるな。オレらは()()を助けに来ただけだ」

 

 (らく)は、万里花(まりか)を真っ直ぐに見て宣言する。

 

「無理矢理結婚させられる橘を、助けに来ただけだ」

 

 それは、万里花(まりか)が本当に望んでいた言葉ではない。

 しかし、イヤホンから聞こえる母親の言葉を(さえぎ)るのには十分で。

 

「────────」

 

 万里花(まりか)は決別の証として、イヤホンを床に落とし、それを踏み砕く。

 さらにベールをむしり取り、整えられていた髪をほどいていつもの髪型に戻す。

 

 そして、胸元からいつもの髪飾りを取り出す。

 

 これは小さい頃に(らく)からもらった思い出の品である。

 当時のマリーというあだ名に合わせた、黄色いマリーゴールド。

 花言葉の「健康」の願いを込めた、病弱な彼女への贈り物。

 

 それが再び、彼女を飾るアクセサリーとなる。

 

「橘のかーちゃん、めっちゃ(にら)んでるぞ」

「良い感じにダメージが通ったみたいね!」

「これだけハッキリと逆らえば、そうなりますよね」

 

 万里花(まりか)の決意が固まったので、彼らも行動を起こす。

 まずは手始めに(つぐみ)が手近にあった椅子を持ち上げる。

 7~8人は座れそうな長い椅子を片手で、ボクシングのヘヴィ級の計量へ臨むくらいの感覚で持ち上げ、そして無造作に左側の壁へと投げつける。

 

 それは人が居ない座席の上を飛び越え、壁に当たると同時に大爆発を起こす。

 陸奥圓明流(むつえんめいりゅう)伊達(だて)ではない。

 

「……おい、思ってたよりもヒドイことになってんぞ」

「火薬が多すぎましたかね?」

 

 教会の壁と、天井の一部まで達する大きな穴が開いた。

 確実に壁を破壊するために、衝撃で作動するよう爆薬を仕掛けてあったのだが。爆発はすべて外向きになるように設置していたため問題なかったが、少しやり過ぎたかもしれない。その証拠に、駆けつけてきた和装の警備員たちの一部が腰を抜かしている。

 

「みんな、逃げろ!!」

死人(しにん)が出るぞぉ!!」

 

 式場は大混乱である。我先にと反対側の非常出口へと殺到する。

 招待客と警備員たちは協力して避難し、全員が無事脱出できたようだ。

 いつの間にか新郎も居なくなっており、彼らと万里花(まりか)の間には何の障害も無くなっていた。

 

 いや、まだ一人居た。

 

「お嬢様、お下がりください」

「あら本田」

 

 万里花(まりか)の護衛兼監視役の本田である。

 そして彼女が前に出ると同時に、壁に空いた穴から独特の風切り音が聞こえる。

 

「あれは……ヘリ?!」

 

 当主の護衛である黒服が声を上げる。

 その声を聞き、当主は悟る。このために穴を開けたのだと。

 そして万里花(まりか)がヘリにたどり着いた時が敗北だと。

 

 あっという間に城の近くまでやってきたヘリだが、その形状のせいである程度以上には近づけない。

 ドアが開き縄梯子(なわばしご)が降ろされるが、飛び移ることもできない距離である。

 

 今のうちに万里花(まりか)を捕らえるよう指示を出すつもりだった当主だが、それよりも早く本田が動く。

 彼女は袖口から鎖分銅を伸ばし、縄梯子(なわばしご)の下端を絡めとる。

 

「……え?」

 

 そしてそれを鎖分銅ごと万里花(まりか)に手渡してしまう。

 あっけにとられる万里花(まりか)と当主の2人。

 何が起きているのか分からず、動きが止まってしまう。

 

 しかしそこは橘家当主。いち早く我に返ると、本田に向かって叱責の言葉を飛ばそうとする。

 が、今回もまた本田の方が早かった。

 

「さあ(つぐみ)さん、今こそ決着をつけましょう!」

「望むところです!」

 

 さも因縁がありそうなセリフと共に、まったく因縁の無い対決が始まる。

 2人は式場を縦横無尽に飛び回り、ついでとばかりに周囲のものを軽く破壊して回る。

 素人目にはさも激しい戦闘が行われているかのように映るだろう。

 

 

 

 状況に置いて行かれ、(くち)を開いただけになった橘家当主。

 そんな苛立ちの募る彼女に背後からわざわざ飛び越えるようにして応援が現れる。

 

「遅くなりまして申し訳ございません。なんなりとご命令を」

 

 本田と同じく、黒スーツに身を包んだ10名の女性。

 顔のデザインが明らかに手抜きなのはどういうことなのか。たまに背景の女子生徒等で見られる方向性である。

 唯一まともなデザインの、先頭で(ひざまず)く顔に傷のある女性が代表して(くち)を開く。

 まあこの人も年齢が上手く顔に現れていない感があるのだが。

 

「あ、あれは、隠衛衆(かくれこのえしゅう)!?」

「ああ、確か万里花(まりか)の家に代々仕える忍者みたいな人たちだっけ」

「実力としては本田さんがトップとかいう話だったな」

「……ちょっとお待ちください。なぜお2人がそれを知っているのですか?!」

 

 どさくさに紛れてあっさりと合流に成功した千棘(ちとげ)(らく)

 雷電的なポジション(かいせつやく)として目立とうとした万里花(まりか)であったが、事前に(つぐみ)から説明を受けていた2人には必要ない。

 

「彼らを排除すればよろしいので……?」

「いいえ」

 

 戦力が増えて余裕が出てきた当主から、命令が下る。

 

万里花(まりか)を捕らえなさい。それで全て済むわ」

「御意」

 

 その命に従い、万里花(まりか)に向かって移動を開始する隠衛衆(かくれこのえしゅう)

 そんな彼女たちに鎖分銅が襲い掛かる。

 

「お前たちは手を出すな! あいつはオレの獲物だ!」

「え、いや、私たちはお嬢様を……」

「問答無用!!」

「ちょっ?!」

 

 極自然な流れで隠衛衆(かくれこのえしゅう)を巻き込んだ本田と(つぐみ)の戦いは、さらに激しさを増していく。

 この人数差でもひっくり返せる実力差ではなかったようで、まとめて吹き飛ばされる盛り上げ役になってしまっている。

 

「さて、今のうちに」

 

 この隙を逃すはずもなく。

 (らく)たちは脱出の手筈(てはず)を整えていく。

 

 現状ではヘリが近づけないため、急な角度の縄梯子(なわばしご)が彼らとヘリとを繋いでいる。これに掴まって宙に身を躍らせたのでは、振り子のように勢いが付きすぎて危険である。

 最悪、ヘリがカプコンしてしまう。

 

 ではどうするのか。

 

 ここで活躍するのが千棘(ちとげ)と鎖分銅である。

 (らく)万里花(まりか)縄梯子(なわばしご)につかまり、その縄梯子(なわばしご)千棘(ちとげ)が鎖分銅で引っ張りつつ、落下速度を調整するのだ。

 

「……行かせないで!! なんとしてでも止めなさい!!」

 

 それを見た当主が叫び声を上げる。もはや余裕は無い。

 しかしそれを果たすべき隠衛衆(かくれこのえしゅう)にも、余裕は無い。

 

「え、こんなあっさりと脱出できていいんですか?」

「そのためにいろいろと準備したんだから、いいんだよ」

 

 普通なら万里花(まりか)が囚われたり、(らく)が打ちのめされたりとありそうな流れだったのに。その一切を無視して順調に事を進める。

 盛り上げるための苦境など、よっぽど上手く見せないとストレスにしかならないのだ。

 

 そんなこんなでヘリの真下までたどり着いた(らく)万里花(まりか)。鎖分銅を外し、縄梯子(なわばしご)を上ってヘリに乗り込む。

 

「ようこそ。歓迎するわ」

「お邪魔しま……って宮本?!」

 

 2人を迎えたのは、迷彩服に身を包んだクラスメートだった。

 るりは手際よく2人を引き込み、縄梯子(なわばしご)も格納してドアを閉める。

 

「この2日間、みっちり練習したのよ」

「なるほど、だから今まで別行動だったんだな」

 

 そしてこの場に居るのは彼女だけではない。

 運転席にはこれまた見慣れた少女の姿がある。

 

「え、ポーラ?」

「ヘリの操縦はヒットマンの(たしな)みよ」

 

 もちろん免許は偽造済みである。

 

「ぼうや、四輪ドリフトって知ってるかしら?」

「誰がぼうやだ。タイヤも付いてないしカーブも無いんだから、普通にやってくれ」

 

 空にも航路というものがあるので、カーブはあるのだが。

 

 まあそんなポーラのセリフとは裏腹に、ヘリは安全運転で発進する。

 るりはそれを確認した後で万里花(まりか)に向き直る。これだけは言っておかないといけない、大事な台詞があるのだ。

 

「橘さん、私はあなたに対して恋愛感情なんて持ってないから」

「あ、私もー」

「だからなんで(わたくし)がフラれる形になってるんですかー?!!」

 

 こちらはもう大丈夫なようだ。

 そうとなれば後は教会に残された2人である。

 

「つぐみ! 私たちも脱出よ!」

「了解です!」

 

 千棘(ちとげ)の声に合わせ、(つぐみ)は懐から取り出したテニスボールサイズの物体を床に叩きつける。

 それは閃光と共に大量の煙を吐き出し、辺りを白く染める。

 2人はそれに紛れて姿をくらませるのだった。

 

「……逃げられましたか」

 

 追う気が一切無い本田が悔し気に(つぶや)き、逃走完了のフラグを立てる。

 それにツッコむべき隠衛衆(かくれこのえしゅう)はといえば、ようやく苛烈な攻撃から解放され、その場にへたり込んでいる。

 

 もはや追っ手を放つ余裕も無く。

 

 こうして(らく)たちは無事、万里花(まりか)の身柄の確保に成功したのであった。

 

 

 

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