覚悟を決めた
そして初対面となる新郎と合流し、その手を取る。
2人は腕を組み、教会の中へと歩を進める。
そして牧師の下へとたどり着く。
「───
牧師の言葉は
彼女はただ、
「妻なる者よ。
心残りは、バレンタインの告白の返事。
答えが分かり切っていても、本人の
「……沈黙もまた答えです。誓約したと認めます」
そして出来れば、もう一度。
「では指輪の交換と、誓いのキスを─────」
もう一度。
「その結婚、ちょっと待ったぁあぁー!」
そんな声とともに、教会の扉が左右に弾け飛ぶ。
見ればそこには3人の男女の姿が。
左右の少女たちは蹴り足を戻す。
どうやら彼女たちが扉を蹴破ったようだ。
中央の少年は行き場を失った手を戻しつつバツが悪そうに目を逸らす。
どうやら彼は何もできなかったようだ。
そこには、
『お帰り願いなさい、
しかしそこに冷水が浴びせられる。
『やれやれ、こんな所まで来るなんて……本当に子供って面倒よね』
それは、彼女の耳元のイヤホンへと届く、母親の声。
『
言う通りにしないと、わかってるわね?
「何をしに来たのですか?
意を決して、
「
一度開けば、止まらない。
「あぁもしかして
だとしたらそれは誤解です。
そんなつもりは無いのに。
「それともまさか、未だに
だとしたらそれも大きな誤解です。
だいたい一条さんの方こそ、
それとも、たとえ気の無い女性でも他の方の物になってしまうのは許せないと?
寒気がします」
彼を傷つける言葉が、止まらない。
「お引き取りを」
それでも……
「せっかくあなたに見切りをつけて真の幸せを手に入れようとしてるんです。
これ以上、邪魔しないでください」
言いたいことはすべて言ったと、笑顔のまま沈黙する
しかし彼女は気が気でない。
なんせよくよく見れば、
左右の少女たちはどこからか取り出した大きなビデオカメラと集音マイクを構えている。
これ絶対、後から
「橘……お前ら、やっぱ親子だな。動揺すると口数が増える」
ようやく
彼らが現れたときには変わらなかった表情が、それを聞いてピクリと動く。
「それと、お前は昔、岬に言われただろ? 大根役者って」
そんな事は言っていない。
古典の名作を勝手に変えるマヌケとは言ったが。
「そういうセリフは、もっと幸せそうな顔して言え」
今にも泣きだしそうな顔をして言うものではない。
そんなのでは、誰も騙せやしない。
彼はそれほど察しの良い方ではないが、これを見落とすほど
「それにな、お前を他の男に渡さないために邪魔しに来た? その理屈でいうと2人は……」
「ごめん、私あんたのことはただの友達だとしか見てないから……」
「私も心に決めた人がいるのでちょっと……」
「な、なんで
そりゃあ『あなたたち
まったく、自分と『
「橘、難しく考えるな。オレらは
「無理矢理結婚させられる橘を、助けに来ただけだ」
それは、
しかし、イヤホンから聞こえる母親の言葉を
「────────」
さらにベールをむしり取り、整えられていた髪をほどいていつもの髪型に戻す。
そして、胸元からいつもの髪飾りを取り出す。
これは小さい頃に
当時のマリーというあだ名に合わせた、黄色いマリーゴールド。
花言葉の「健康」の願いを込めた、病弱な彼女への贈り物。
それが再び、彼女を飾るアクセサリーとなる。
「橘のかーちゃん、めっちゃ
「良い感じにダメージが通ったみたいね!」
「これだけハッキリと逆らえば、そうなりますよね」
まずは手始めに
7~8人は座れそうな長い椅子を片手で、ボクシングのヘヴィ級の計量へ臨むくらいの感覚で持ち上げ、そして無造作に左側の壁へと投げつける。
それは人が居ない座席の上を飛び越え、壁に当たると同時に大爆発を起こす。
「……おい、思ってたよりもヒドイことになってんぞ」
「火薬が多すぎましたかね?」
教会の壁と、天井の一部まで達する大きな穴が開いた。
確実に壁を破壊するために、衝撃で作動するよう爆薬を仕掛けてあったのだが。爆発はすべて外向きになるように設置していたため問題なかったが、少しやり過ぎたかもしれない。その証拠に、駆けつけてきた和装の警備員たちの一部が腰を抜かしている。
「みんな、逃げろ!!」
「
式場は大混乱である。我先にと反対側の非常出口へと殺到する。
招待客と警備員たちは協力して避難し、全員が無事脱出できたようだ。
いつの間にか新郎も居なくなっており、彼らと
いや、まだ一人居た。
「お嬢様、お下がりください」
「あら本田」
そして彼女が前に出ると同時に、壁に空いた穴から独特の風切り音が聞こえる。
「あれは……ヘリ?!」
当主の護衛である黒服が声を上げる。
その声を聞き、当主は悟る。このために穴を開けたのだと。
そして
あっという間に城の近くまでやってきたヘリだが、その形状のせいである程度以上には近づけない。
ドアが開き
今のうちに
彼女は袖口から鎖分銅を伸ばし、
「……え?」
そしてそれを鎖分銅ごと
あっけにとられる
何が起きているのか分からず、動きが止まってしまう。
しかしそこは橘家当主。いち早く我に返ると、本田に向かって叱責の言葉を飛ばそうとする。
が、今回もまた本田の方が早かった。
「さあ
「望むところです!」
さも因縁がありそうなセリフと共に、まったく因縁の無い対決が始まる。
2人は式場を縦横無尽に飛び回り、ついでとばかりに周囲のものを軽く破壊して回る。
素人目にはさも激しい戦闘が行われているかのように映るだろう。
状況に置いて行かれ、
そんな苛立ちの募る彼女に背後からわざわざ飛び越えるようにして応援が現れる。
「遅くなりまして申し訳ございません。なんなりとご命令を」
本田と同じく、黒スーツに身を包んだ10名の女性。
顔のデザインが明らかに手抜きなのはどういうことなのか。たまに背景の女子生徒等で見られる方向性である。
唯一まともなデザインの、先頭で
まあこの人も年齢が上手く顔に現れていない感があるのだが。
「あ、あれは、
「ああ、確か
「実力としては本田さんがトップとかいう話だったな」
「……ちょっとお待ちください。なぜお2人がそれを知っているのですか?!」
どさくさに紛れてあっさりと合流に成功した
「彼らを排除すればよろしいので……?」
「いいえ」
戦力が増えて余裕が出てきた当主から、命令が下る。
「
「御意」
その命に従い、
そんな彼女たちに鎖分銅が襲い掛かる。
「お前たちは手を出すな! あいつはオレの獲物だ!」
「え、いや、私たちはお嬢様を……」
「問答無用!!」
「ちょっ?!」
極自然な流れで
この人数差でもひっくり返せる実力差ではなかったようで、まとめて吹き飛ばされる盛り上げ役になってしまっている。
「さて、今のうちに」
この隙を逃すはずもなく。
現状ではヘリが近づけないため、急な角度の
最悪、ヘリがカプコンしてしまう。
ではどうするのか。
ここで活躍するのが
「……行かせないで!! なんとしてでも止めなさい!!」
それを見た当主が叫び声を上げる。もはや余裕は無い。
しかしそれを果たすべき
「え、こんなあっさりと脱出できていいんですか?」
「そのためにいろいろと準備したんだから、いいんだよ」
普通なら
盛り上げるための苦境など、よっぽど上手く見せないとストレスにしかならないのだ。
そんなこんなでヘリの真下までたどり着いた
「ようこそ。歓迎するわ」
「お邪魔しま……って宮本?!」
2人を迎えたのは、迷彩服に身を包んだクラスメートだった。
るりは手際よく2人を引き込み、
「この2日間、みっちり練習したのよ」
「なるほど、だから今まで別行動だったんだな」
そしてこの場に居るのは彼女だけではない。
運転席にはこれまた見慣れた少女の姿がある。
「え、ポーラ?」
「ヘリの操縦はヒットマンの
もちろん免許は偽造済みである。
「ぼうや、四輪ドリフトって知ってるかしら?」
「誰がぼうやだ。タイヤも付いてないしカーブも無いんだから、普通にやってくれ」
空にも航路というものがあるので、カーブはあるのだが。
まあそんなポーラのセリフとは裏腹に、ヘリは安全運転で発進する。
るりはそれを確認した後で
「橘さん、私はあなたに対して恋愛感情なんて持ってないから」
「あ、私もー」
「だからなんで
こちらはもう大丈夫なようだ。
そうとなれば後は教会に残された2人である。
「つぐみ! 私たちも脱出よ!」
「了解です!」
それは閃光と共に大量の煙を吐き出し、辺りを白く染める。
2人はそれに紛れて姿をくらませるのだった。
「……逃げられましたか」
追う気が一切無い本田が悔し気に
それにツッコむべき
もはや追っ手を放つ余裕も無く。
こうして