本当にせこい   作:七九六十

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13-07 九州動乱 決着

 

 

 

「じゃあ私たちはヘリを返してくるから」

「あとは若いおふたりで……」

「この中で一番若いヤツのセリフじゃねーな」

 

 途中、開けた場所で(らく)万里花(まりか)をヘリから降ろす。

 いかにも結婚式の途中で連れ出してきましたという風情の万里花(まりか)を、人目にさらすわけにはいかなかったのだ。

 それに、(らく)と積もる話もあるだろうという気遣いである。

 

「あー、無事に脱出できて良かったな」

「はい! 本当にありがとうございました!」

 

 とりあえずその場に座りこむ2人。

 告白した者とそれを断った者。少し気まずい。

 

「……そして、申し訳ございません。ここまでしていただいたのに、(わたくし)はすぐに戻らないといけません」

 

 目を伏せてそう告げる万里花(まりか)に、何事かと(らく)も姿勢を正す。

 

「……(らく)様にはずっと黙っていたんですけど。病気なんです、もうずっと小さい頃から」

 

 え、今さら? と思いつつも、黙って聞くことにする。

 橘から直接聞いたのは『体が弱い』ってだけで、病気だとは言ってないんだっけ? と少し混乱する。

 

 薬で進行を遅らせていたが、それも限界が来たこと。

 このままでは命にかかわるが、治療をすれば治ること。

 ここまでは既に(らく)も知っている通りだ。

 

 そしてこの病気を治療できるのが、アメリカにある特別病院だけであること。

 そこで2年間の入院が必要になる事を聞かされる。

 

「そしてそこの経営権を握っているのが、橘家です」

 

 治療のために病院に(おもむ)けば、そこで確実に捕まるのだ。

 

 もし、もっと早い段階で治療していれば。

 このまま(らく)とともに逃避行という選択肢もあったかもしれない。

 それでなくとも薬でごまかしながら苦しみ続ける必要はなかったのだ。

 

 しかし、それではダメだった。

 彼女には2年間も入院することはできなかったのだ。

 

 好きな男に好みじゃないからと言われても諦めきれなくて。

 その上、相手の本命の少女が近くにいるかもしれないという状況の中で。

 どうにか決着がつく前に、(らく)の好みの女性へと成長した姿を見せる必要があったのだ。

 

 それを考えると、2年間の入院は長すぎた。

 

「高校に勝負を賭けていたんです。本当はもっと早く決着をつけるつもりだったんですが、思いの外……高校生活が楽しかったもので……」

 

 彼女にとってこの勝負は、本当に博打だったのだろう。

 置かれた状況が、分が悪いどころではない。それでいてこの結果で人生が決まるのだから。

 

 ただしその勝負にかける情熱のせいで周囲との交流が疎かになり、結果として(らく)との距離が縮まらなかったというのは皮肉である。

 『友達』というものに深い思い入れがある(らく)にとって、輪の外へと引っ張る万里花(まりか)を受け入れることは無かったのだ。

 それこそ10年前のように、周囲の少女たちと仲良く遊ぶ中で迫っていたら、もしかしたら……

 

「今回の件でも、(わたくし)の為にこんなバカな事をしてくれる人たちが居ると知って、嬉しくなりました」

 

 そんな周囲に馴染もうとしない彼女に対しても、彼らは友人として扱ってくれたのだ。

 そして、わざわざ九州まで結婚を止めに来てくれたのだ。

 

「もしそれを知らずに結婚して家に縛られていたら、(わたくし)は絶望してしまっていたかもしれません。

 でもおかげで希望を(もら)いました。この先も前を向いて生きていく為の希望を……」

 

 万里花(まりか)は笑顔を浮かべる。

 

「状況は変えられませんでしたけど、(わたくし)の心が変わったんです。

 本当にありがとうございました。もうこれで本当に会えなくなると思いますが、本当に楽しかったです……」

 

 前向きなようで、しかしすべてを諦め受け入れた笑顔を。

 

 

 

 それを黙って見ていた(らく)であったが、ため息を1つ吐く。

 

「……あのな、橘。だから勝手に自己完結すんじゃねーよ」

 

 (らく)としても、万里花(まりか)にそんな顔をさせるために助けたのではない。

 だから、ここで終わりではないのだ。

 

「じゃあ、何か状況を変える良い手があるんですか?」

「……………………それは知らん」

「…………えー??」

 

 よくよく考えれば、この後のことを何も聞いていなかったのだ。

 目の前の結婚を止めることに集中していたため、特に気にしていなかったというか、結婚さえ止められればどうにかなると思っていたというか。

 

 他人に頼るということを覚えた彼であるが、それが良かったのか悪かったのか。

 

「…………えー???」

「大丈夫だ、アイツなら何とかしてくれるはず」

 

 今回の主犯というか何というか。

 この先の事も考えて計画を進めている節があったので、たぶん大丈夫だろう。

 

 そんな事を考えていた(らく)の下に、タイミングよくメールが届く。

 

「お、ウワサをすれば何とやら……?」

 

 しかし、差出人は『小野寺小咲(こさき)』となっていた。

 

『ご飯だから戻っておいでー』

 

「……んー?」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「ああそれなら、小咲(こさき)(はる)の2人は今回の料理担当だから」

「マイちゃん様が『全部片付いたら打ち上げパーティやろう』って」

「…………えー?」

 

 そんなわけで、るりとポーラと合流して事情を確認した(らく)たちは、再び橘家の城へと戻ってきたのだった。

 ポーラの運転するヘリを使った決死の逃避行から僅かな時間しかたっていないのに、今度は同じくポーラの運転する車で正面玄関からの帰宅である。

 

 警備員などは変わりなく配置されているが、誰も彼らを捕らえようとしない。

 るりが他人の家の中を先導するという謎の状況に流されるままに進んでいくと、板張りの大広間へとたどり着く。万里花(まりか)にとってはつい昨日、当主と対面した思い出の地である。

 ただし今は、えらく陽気な笑い声に包まれた宴会場になっているが。

 

千花(ちか)ちゃん、おめでとう!!』

 

 一行が目にしたのは色とりどりに飾り付けられた、そんな垂れ幕であった。

 

 

 

「……はぁ?!?!」

 

 万里花(まりか)としては、まったく理解できない光景である。

 結婚式の参列者だったり、橘家所縁(ゆかり)の企業のお偉いさんだったり。実に楽し気に騒いでいる。

 その中には新郎の姿もある。

 

 そしてその中心には彼女の母親である橘千花(ちか)が、いつもの当主としての着物姿ではなく、シンプルなセーターとロングスカート姿で座っている。

 さらにその横には元クラスメートである岬舞斗(まいと)が、寄り添うように座っているのだ。

 

 状況がまったく理解できない。

 

「一条君、私たちの席はあっちみたいよ」

「ん、ってあっちにも岬が居るし……」

 

 るりが指差す方をみれば、それ以外にも左右に小咲(こさき)(はる)、向かい合うように千棘(ちとげ)(つぐみ)がテーブルを囲んでいる。

 また分身してんのかとのん気に受け入れている(らく)とは違い、万里花(まりか)の混乱は増していく。

 

 酒を片手に盛り上がる大人たちとは距離を置いて、今回の件に関わった未成年組がようやく顔を合わせる。

 

万里花(まりか)お嬢様はコチラでお着替えを」

「えー?」

 

 その直後に万里花(まりか)は連れ去られてしまう。

 いつまでもウェディングドレスでいるのも場違いなので、本田と一緒に席を外すことになったのだ。

 

 

 

 そんな万里花(まりか)を見送って。

 このテーブルの周りだけやけに静かなのは、どうせまた結界とか張ってんだろーなぁと考えた(らく)は、これ幸いと首謀者への事情聴取を行う。

 

「さて岬、事情を説明してもらおうか?」

「今少し時間と予算をいただければ……」

「弁解は罪悪と知りたまえ」

 

 というわけで、小野寺姉妹の料理を摘まみながら、彼らが脱出した後に何があったかの説明を受けるのであった。

 

 

 

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