本当にせこい   作:七九六十

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13-09 九州動乱 休憩

 

 

 

「めでたしめでたし、ってね」

「オイちょっと待て」

 

 せっかくキレイにまとめたのに、(らく)は不満のようだ。

 

「……じゃあこの宴会は」

「垂れ幕の通り、千花(ちか)ちゃんへのお祝いを兼ねた、今回の作戦に対する打ち上げだよ」

 

 小咲(こさき)(はる)は城の人たちと協力し、この宴の準備を進めていた。

 最初から、万里花(まりか)の結婚を祝うための物ではなかったのだ。

 

「この人たちは……」

 

 (らく)は周囲を見渡す。年配の、やけに貫禄のある人たちである。悲願達成を喜んだり、情けない婿養子を(いじ)ったりで実に賑やかである。

 

「関連企業のお偉いさんたち、普段の千花(ちか)ちゃんと接する人たちだよ」

 

 通称『千花(ちか)ちゃんファンクラブ』の中でも精鋭の皆さんである。

 ちなみに会員数は第三回人気投票時点で186名である。

 

「式場での動きは、事前に打ち合わせしてありました」

「……やけにあっさり退くと思ったら、仕込みだったのかよ」

 

 (つぐみ)の言葉によって、教会での騒動の流れが理解できてくる。

 ちなみに警備の人が腰を抜かしたのは素だったりするのだが。

 

「つーか、事前にオレたちにも言ってくれれば……」

「前に言ったでしょ? 『全員まとめていきなり巻き込む形で参加させてしまおう』って」

 

 万里花(まりか)が転校してきたときの話である。

 

「何のことだか分かんないけど、楽しかったからOKです!」

「私も久しぶりにヘリを操縦できて楽しかったわ。それにご飯も美味しいし」

 

 そのときにいなかった1年生組も巻き込んだが、コチラも問題は無かったようだ。

 

「みんな、本当にありがとう。おかげで最良の結果が得られた」

 

 おそらく舞斗(まいと)単独でも、橘母娘を助けることはできただろう。

 しかしそこに大人たちが参加することで、橘家自体を救う道ができた。

 そしてさらに万里花(まりか)の友人である子供たちがこんなにも大勢で加わったことで、より良い物に仕上がったのだ。

 

「……なんだか素直に受け取れん」

「あら(ダーリン)ったら、照れちゃって」

「うっさいぞ千棘(ハニー)

 

 (らく)が引っ掛かっているのは、舞斗(まいと)に上手く踊らされたからというよりも、自分が千花(ちか)に取ってしまった態度のことである。

 万里花(まりか)を助けることに注力していたからとは言え、彼女に対してちょっと失礼なことをしてしまったと気にしているのだ。

 もし事前に彼女も助ける対象だと知っていれば、もっと上手くやれたのにという思いがある。

 

「いや一条も千棘(ちとげ)ちゃんも、事前に知ってたら変なボロ出したと思うよ?」

「おい」

「お姉ちゃんヒドい」

 

 演技ができないというよりも、下手に演技をさせるよりも勢いで行動させたほうが良い、という感じである。

 ただし細部でのフォローは必要になる。

 でないと千棘(ちとげ)ママのときのように、詰めを誤る可能性が高い。

 

「橘さんから見れば、千花(ちか)ちゃんは諸悪の根源、極悪人でしかないからね」

 

 万里花(まりか)に味方することは、イコールで同じ目線に立つことではないのだが。それでも大なり小なり彼女と同じように千花(ちか)を見ることになる。そのため完全に敵だと看做(みな)して攻撃してもおかしくはない。

 

 では今回の(らく)はというと、対立はしたがそれ以上ではない。これは事前にある程度の事情が分かっていたことにより、一方だけに肩入れするという考えにならなかったためであろう。

 ……決して、対象が万里花(まりか)だったから冷静でいられたとかそういうことではない。

 

「それを考えると、一条の態度はそこまで気にするものでもないと思うけど」

「……うーん、なら良いんだが」

(ダーリン)、食べないの?」

「一条君、無理しなくて良いのよ?」

「おい待て、ローストビーフと伊勢エビを持って行こうとするんじゃない」

 

 美味(おい)しい料理を前に、いつまでも思い悩んでいるものではない。千棘(ちとげ)とるりの魔の手から、いつまでも守り通せるものでもなさそうだし。

 せっかくの小野寺小咲(こさき)の手料理である。それを食べないなどという選択肢は、一条(らく)の中には無いのだ。

 

 ということで気を取り直し、箸を片手にいざ出陣。

 

「っ!? これ美味(うま)すぎだろ!! え、小野寺また腕を上げた?!」

「今回は食材が凄いんだよ。マイちゃんもだけど、社長さんたちが予算を奮発しすぎたせいで、どれもザ・高級食材って感じで」

「それをしっかり調理できるお姉ちゃんも凄いんだけど……」

 

 食材も調味料も飲み物も、すべてが一級品である。

 金額についてもそうだが、これらを即日で用意できる伝手があるというのが驚きである。

 

 そしてそんな高級食材たちを、同じランクの物を食べなれている千棘(ちとげ)が驚くレベルの料理に仕上げたのが小咲(こさき)である。

 

「……なるほど。食材が良ければ、もっと美味(おい)しいものが食べられるのね」

(はる)ちゃんも言ってたけど、その良さを活かせる料理人が居てこそだけどね」

 

 もくもくと食べていたポーラが反応する。

 普段の食事も美味(おい)しいのだが、せいぜい近所のスーパーで手に入る中ではそこそこ良い食材、によるものでしかない。

 それが今回は農業、漁業が盛んな九州各地から集めた、選りすぐりの食材たちなのだ。

 今までにない美味(おい)しさなのも納得である。

 

 そして普段は食べない食材も縁起物として並んでおり、これがまた美味(おい)しい。

 

「……でもなんで、筑前煮があるんだ? 福岡だからか?」

「え?」

 

 豪華絢爛な料理に紛れて、地味な煮物が1つ。

 ちなみに一般的な鶏肉入りの他に、スッポン入りや骨付き鶏肉入りも用意されている。

 

「縁起物だからって言われて作ったんだけど」

「まあ、お(せち)にも入れるし、そう言われればそうか」

 

 味が染みていて美味(うま)い。

 豪華な料理もいいが、こういう家庭的な煮物もまた格別である。

 こう思わず、結婚後の幸せな食卓を想像してしまうような……

 

「たしか、『ラブ・ストーリーは筑前煮』って」

「おい誰だ、小野寺に変な事を教えたヤツは!」

 

 3名ほどが視線を逸らす。

 まあ出席者の年齢層が高めなので、こういう料理も喜ばれるだろう。

 

「……どれが母ちゃん?」

「ポーラさん、それレンコンだよ。竹の子じゃないよ?」

 

 ちびっ子たちが不穏なやり取りをしているが、気にしてはいけない。

 

 

 

 そんないつもの学校での昼食と似たような盛り上がりを見せる一行に、忍び寄る怪しい影。

 

(らく)様~!」

 

 そう、今回の主役だったはずの橘万里花(まりか)である。

 ウェディングドレスから着替えるために、席を外していたのだ。

 

「どうですか(らく)様! お色直しをしてきましたわ!」

 

 そう言ってその場でクルリと身をひるがえす万里花(まりか)

 オレンジのドレスに身を包んだ彼女は可愛いのだが……

 

「マイちゃん様、たしかお色直しって……」

「相手の色に染まるよって意味の白から変化することで、もう染まったよって意味になるね」

万里花(まりか)あんた……私たちがあれだけ苦労して助けたっていうのに」

「ち、違います、そうじゃないんですっ!?!!」

 

 いつもの自爆芸を披露した彼女も加えて、食事会の続行である。

 ちなみに席は(らく)の隣である。騒ぐのが目に見えていたので、あらかじめ空けておいたのだ。

 ……決して、最後だから餞別にというわけではない。

 

 まあそれはともかくとして。

 

「……皆さん、今日は本当にありがとうございました」

 

 席に着く前に、万里花(まりか)はそう告げて頭を下げる。

 

「珍しいわね。万里花(まりか)が私たちの方を向くなんて」

「原作では一条様以外にお礼を言ってませんからね。読み返してびっくりでした」

「そこ、いくらなんでも(わたくし)に対して失礼ですわ」

 

 (らく)を挟んで反対側に座る千棘(ちとげ)(つぐみ)が驚いている。

 ちなみに原作では見送りに来たことへのお礼は言っているが、直前の騒動には触れていなかったりする。

 (らく)以外は眼中にないというスタンスを貫く姿は魅力の1つではあるのだが、そのせいで彼女の語る周りとの関係性に取って付けた感が……

 

「あ、橘さん。念のため言っておくけど、俺たちも愛してるからとかそんなのは無いよ」

「それはもういーですからっ!?」

 

 (らく)の向かい側に座る舞斗(まいと)から声が上がり、その左右に座る小野寺姉妹も(うなず)いている。

 これでこの場に居る全員にフラれたことになる。

 

「こんなに美味(おい)しいネタを振ってくれたんだから、しっかり返さないとと思って」

「ぐぬぬ」

 

 扱いに納得のいかない万里花(まりか)であったが、いつものことである。

 本田に促され、しぶしぶと腰を下ろす。

 

 そして不満をぶつけるように、目の前にあった料理を(くち)に運ぶ。

 食べなきゃやってられないのだ。昨日からロクに食べていないので、お腹が空いていたというのもあるし。

 

「っ!? え、何これ美味(おい)し!!?」

 

 (らく)と似たような反応である。

 料理が得意な2人だけに、よりレベルの高さに驚くのだろう。

 

 ただし、(らく)の方は「小野寺の料理は美味(うま)いよなー」とのん気な様子だが、彼がその先に何を考えているか分かっている万里花(まりか)のほうは、心中穏やかでない。

 彼女の料理の腕もその道のプロに引けを取らないレベルなのだが、なぜか彼へのアピールに繋がらないのだ。

 

 さらに不満をぶつけるように料理を口に運ぶ。美味(おい)しいのが悔しい。

 

「……ねえ、マイちゃん」

「ん?」

 

 そんな彼女のストレスの元凶となっている小咲(こさき)はと言えば、こちらは何やら様子がおかしい。

 (おもむろ)舞斗(まいと)へと抱き着く。

 何事かと周囲が驚くが、そのままの姿勢で動かない。

 

「……ねえマイちゃん。まだ何か隠しているでしょ」

「………………」

 

 しっかりと抱き締めながらも、舞斗(まいと)の顔を真っ直ぐに見つめて告げる。

 例えるならそう、こっそり京都で買った高級天然砥石がバレたときのようなプレッシャーを放っている。

 

「ねえマイちゃん。どうして鼓動が早くなったの?」

「それはね、小咲(こさき)ちゃんが魅力的だからだよ」

 

 小咲(こさき)が密着すれば、誰だってそうなる。

 実際、(らく)なんかは近づかれただけで心拍数が跳ね上がる。

 

「ねえマイちゃん。どうして目が泳いでるの?」

「それはね、小咲(こさき)ちゃんが(まぶ)しいからだよ」

 

 小咲(こさき)に顔を覗き込まれれば、誰だってそうなる。

 実際、(らく)なんかは視線が合いそうになるだけで挙動不審になる。

 

「ねえマイちゃん。どうして」

「それはね、小咲(こさき)ちゃんを食べるためだよっ」

 

 再び生き返らぬよう、そなたの(はらわた)を喰らいつくしてくれるわっ、とばかりに小咲(こさき)を抱き返す。

 まあそんな分かりやすい反応を返しているのは、彼女とじゃれ合うためでしかなくて。

 彼は肉体の反射や生理的な反応を消すくらいはできるのだ。

 

「で、実際のところどうなんだ?」

「……まあ千花(ちか)ちゃんには話さないといけないし、皆もいずれ知ることになると思うから話すけど」

 

 (らく)(たず)ねるも、正直なところ伝えるべきか悩む内容なのだ。

 しかし後から知ってしまうとそれはそれで問題になるものだし。

 なのでむしろ、全員が(そろ)っているこの場で話した方が良いかと考える。

 

 まさか気付かれるとは思ってもみなかったが、小咲(こさき)のお陰で踏ん切りがついた。

 …………内緒で買った高級土鍋、念のため隠し場所を変えておこう。

 

「まずは食事を済ませよっか。結構、後味の悪い話になるから」

「なんかもうそのセリフだけで食欲が……」

 

 繊細なのは(らく)だけなので大丈夫だ。

 そのうえ席に着いたばかりの万里花(まりか)を除けば、8割方は食べ終えているか、食欲とかそれ以前の食べっぷりを発揮しているかなので、特に問題は無いだろう。

 

 

 

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