本当にせこい   作:七九六十

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13-10 九州動乱 追撃

 

 

 

 デザートまでしっかり食べて、食後のお茶を手に舞斗(まいと)の話を待つ。

 (らく)も落ち着きを取り戻しており、美味(おい)しい食事の偉大さが分かる。

 

「さて今回の騒動について、皆は橘さんを助けることを目的にしてたけど、俺は千花(ちか)ちゃんを助けることが目的だったんだ」

「妖怪ババアをですか?」

 

 それぞれの目的に対する構成人数を大きく盛っているが、わざわざ本当の事を言う必要も無いので友情パワーということにしておく。

 当の本人は母親に対してヒドイ言い草をしているが、彼女たちの関係を考えれば仕方のない事である。ちなみに別の所では『ババァ妖怪クソバーバ』などと呼んでいたりする。

 

「助けるだけなら会社の人、お城の人たちでどうにかできたんだけど。問題は当人が助かる気が無かったというか、そんな事を考えられないほどに心を閉ざしていたことなんだ」

 

 (らく)たちには既に話しているが、万里花(まりか)のために要点だけまとめる。

 

「だから助けを求められる状態まで持って行こうと思って、千花(ちか)ちゃんの心を揺さぶろうとしたんだ。

 橘さんを結婚式から助け出したのも、その一環だね」

「まあ確かに、式が予定通り進まない事にかなりイライラしてましたものね」

 

 ざまーみろですわ、なんて考えている万里花(まりか)だが、話はそれだけではないのだ。

 

「本命は、橘さんに『友達が助けに来た事』なんだ。『私のときは誰も助けてくれなかったのに』って相当ダメージになったと思うよ」

「…………え?」

 

 万里花(まりか)は橘家の当主について興味が無いため、また自分の運命の過酷さゆえに他を気にする余裕が無かったために、あまり深く考えていなかったのだが。

 自分が家のために結婚を()いられるのと同じように、これまでも無理矢理結婚させられた人が居るのではないか。

 今さらながらに、その考えにたどり着いてしまう。

 

「しかも皮肉なことに、千花(ちか)ちゃんも橘さんと同じように凡矢理(ぼんやり)高校に通ってたんだよね」

「…………え?」

 

 異なるのは、誰か特定の人物を追いかけてというわけではないところ。

 そのため普通の学生生活を送り、友達ができて、毎日を楽しく過ごしていた。

 そして同じように途中で体調を崩し、連れ戻されて結婚させられたのだ。

 

「……なあ、もしかして岬が制服姿なのって」

「これも小道具の1つだね。当時とデザインが変わってなくて良かったよ」

 

 (らく)が指摘する通り、凡矢理(ぼんやり)高校の特徴的なセーラー服によって当時の記憶を刺激するためである。

 

「同じように高校に通っていたのに、自分の友達は誰も助けに来てくれなかった。

 千花(ちか)ちゃんは、一条たちが助けに来なかった場合の橘さん、って言ってもいいかもしれないね」

「………………」

 

 彼らが家まで来てくれたと知ったとき。

 そして式場で助けてくれたとき。

 そのときの喜びを、希望を感じることも無く、ただ絶望だけを感じて生きていくことになっていたら。

 

 そんな最悪の結末を想像して、万里花(まりか)の身体が震える。

 

「今から20年以上も前の事だからね。当時はまだ子供全員が個人で連絡手段を持つような時代じゃないから、引っ越したと言われたら連絡が取れなくなるのも当たり前だし。そして本田さんのように事情を教えてくれる人も居るとは限らない。

 だから、ただの高校の友達が助けに来ることができなかったとしても、責めることなんてできない」

 

 千花(ちか)もそれが分かっているから、すべてを諦めて受け入れていた。

 それでも娘にだけ助けが来たのを見たときに、自分のときにも助けが来て欲しかったという気持ちが湧いてしまったのだ。

 

「……で、ここからがまだ千花(ちか)ちゃんにも伝えてない事なんだけど」

「もうこの時点で気が重いんだが」

 

 当事者ではない分、まだ(らく)たちは耐えられているが。万里花(まりか)の方はかなり沈んでいる。

 母親は自分の敵だと認識していたからこその今までの態度である。

 それが事情を知ったうえで客観的に見てみると……

 

 まあ彼女の立場を考えれば、そこまで気にするものでもないのだが。

 

「心配しなくてもいいよ。橘さんよりも、一条と千棘(ちとげ)ちゃん、それと小咲(こさき)ちゃんと(はる)ちゃんに関係することだから」

「それのどこが心配しなくてもいい、なんだよ」

「え? 私? それに小咲(こさき)ちゃんたちも?」

「なんだろ?」

「私もですか?」

 

 当事者じゃないと思った矢先にこれである。

 そんな身構える面々に対して、ある意味とんでもない事実が突き付けられる。

 

「助けに来なかった千花(ちか)ちゃんの友達って、君たちの母親3人のことなんだよね」

「………………は???!」

 

 一条家、桐崎家、橘家、そして小野寺家。

 それぞれの母親は凡矢理(ぼんやり)高校の同級生で、友人だったのである。

 もちろん全員初耳である。

 

「ちょっ、(らく)、そーなの?!」

「いや、ウチはそもそも高校に入ってから顔も見てないし……」

「私も似たようなモノだった!?」

 

 母親とは別居中のニセコイカップルは役に立たないようだ。

 となれば小野寺家に注目が集まるのだが。

 

「お姉ちゃん……?」

「私も聞いた事ないよ……」

 

 小咲(こさき)は首を横に振っている。

 

「もしかして、(わたくし)たちが子供の頃に出会ったのって……」

「え? こどものころ?」

「……ちょっと桐崎さん? あなたまさか忘れたとか……」

「え、えぇ? …………あ、も、もちろん覚えてるわよ!? 忘れるわけないじゃない!?!」

 

 やーね万里花(まりか)ったら、なんてごまかそうとする千棘(ちとげ)

 もちろん通用せず、コイツ忘れてやがったなという視線が返ってくるが。

 

 そんな2人に隠れるように、やっべ忘れてたという顔の少年と、そーいえばそんなこと言ってたようなという顔の少女たちが居たりするのだが。

 

「……てっきり、父親の方からの繋がりだと思ってたんだけどな」

「もちろんそっちも関係してるよ」

 

 自分はさも覚えてましたという風を装う(らく)の発言に、そうと分かった上で舞斗(まいと)が乗る。

 

 万里花(まりか)の父である橘(げん)の顔には、額から左目を通り口元まで達するほど大きな傷跡がある。

 それを付けたのが(らく)の父である一条一征(いっせい)であり、その時にお互いを認め合って盃を交わす仲になったという。

 警視総監である(げん)は当然キャリア組であり、彼がやくざ者が居る現場に出るとしたら20代が限界だろうか。

 旧知の仲だと言っているので、そこまで外れてはいないはずだ。

 …………もしかしたら、彼らも同じ高校の同級生という可能性も?

 

「……あ、でもマイちゃん。私たちって三者面談で顔を合わせたけど、お母さんは何も反応して無かったよ?」

「確かにあの時は、ウチの親父も反応してなかったな」

「パパたちはなんとなく顔見知り感はあったけど、言われてみれば……」

 

 今から5ヶ月ほど前であろうか。(ユイ)が赴任してきてようやく行われた三者面談は、ココに居る問題児たちが全員同じタイミングだったのだ。そのため校舎内にて保護者同伴で鉢合わせたのだが。

 

「お姉ちゃん、たぶんお母さんは一条先輩のこと『商売敵のケーキ屋』としか見てないと思うよ?」

 

 為人(ひととなり)をよく知る娘からの言葉に、るりと(つぐみ)も顔を見合わせる。

 

「知識として『友人の息子』とはあるけど、一条君を見てもそれが出てこないってこと?」

「卒業生のわりに校内の様子にも反応してませんでしたし、友人の夫にも子供にも同じように反応しない人なんですかね?」

「お母さんならあり得る……」

 

 身内からも友人からも母親に対する評価がアレなことに頭の痛い小咲(こさき)だが、接客態度も含めて母の他人への接し方を知っているだけに反論もできない。

 

 実は彼女たちは知らないが、原作ではキーアイテムとなっている(らく)の母が描いた絵本を、千棘(ちとげ)の母から譲り受けたことも忘れているくらいである。

 娘2人が気に入っている物の来歴くらい、とか。しかも友人が描いた物、くれた物なんだからとか。

 いろいろと残念な人物である。

 

「というか、遠くに居た千棘(ちとげ)と橘はともかく、オレと小野寺って割と近いところに居たのに……」

「まあそこは、客商売やってるとこにヤクザが関わるのは不味いだろうって配慮したということで」

「一歩間違えれば幼馴染だったのに、残念ね」

 

 ヤクザなんて設定が無ければ、ポーラが言うように(らく)小咲(こさき)は幼馴染だったかもしれない。そもそも親同士がもう少し交流を持っていれば、少なくとももっと早い段階で面識を持っていたのではないだろうか。

 

「秦倉先生と幼馴染でひとつ屋根の下、そこに小咲(こさき)ちゃんと(はる)ちゃんが幼馴染として加わると」

「これは刺されてもおかしくないわね。ヤクザだというのを除いても男友達は絶望的だわ」

「それは今も同じでは? 一条ハーレムとして学内では有名ですし」

「有名なのは、お前らが事あるごとにネタにするからだと思うんだが」

 

 どうせ今と同じなら小野寺と幼馴染が良かったなぁ、なんて考えている(らく)の横に、浮かぬ顔をした少女が居る。

 

「ねえ、お姉ちゃん……」

 

 千棘(ちとげ)がおずおずと舞斗(まいと)に問う。

 

「聞くのが怖いんだけど、私のママって万里花(まりか)のこと……」

「もちろん知ってるよ。ただまあ、あまり興味は無いみたいで『昔の友人に娘と同年代の子供が居たのね』くらいの認識みたいだね」

 

 万里花(まりか)と同じクラスになったと知っても、特にリアクションするほどの事でも無かったらしい。

 

「えぇ……」

「ちなみに一条のところも同じみたいだよ」

「ウチもかよ。いや、家を出て自分の好きな事やってる人だから、薄々そーじゃねーかなと思ってたけど」

「むしろ何故そんな人ばかりなのに、10年前に接点を持てたんでしょうね?」

「同窓会で久しぶりに顔を合わせて盛り上がったとか、そんなところかしら?」

 

 定期的な交流ではなく、その場限りの集まりだったのが余計に謎である。

 

 一条家と桐崎家は父親の仕事のため。

 橘家は娘の療養のため。

 ついでに(ユイ)の母親も万里花(まりか)と同じところに入院していたようで、その関係で居合わせたようだ。

 

 秦倉家が居たのが偶然でないとしたら、そこに橘父が療養だと娘を連れ出し、合わせて一条・桐崎家が仕事を名目に合流、でさらに小野寺家が観光か避暑目的に参加、といったところだろうか。

 

「……10年前、(わたくし)()に連れられて療養所に向かった記憶があるのですが」

「はい、母君様はあの場には……」

 

 万里花(まりか)は一筋の冷や汗を流しながら、(かたわ)らの本田に問いかける。あのときはまだ母親に面会したことが無く、当然あの場に姿が無かったことに気が付いてしまったのだ。

 そして余計な事にも気付く。

 

「そういえばあなた、当時からまったく変わってませんわね」

「若さの秘訣は適度な運動と腹八分目だそうです」

 

 ちょっとした現実逃避に対して、訳の分からない答えが返ってくる。

 

 千花(ちか)の見た目が変わらないのは橘家の血ではなく、技術によるものなのだろうか。

 10年前に療養中だった万里花(まりか)の護衛は今と同じく本田であり、当時から外見の変化が無かったりする。

 ……よくよく考えれば、当主に仕える忍者『隠衛衆(かくれこのえしゅう)』で一番の実力者を護衛兼監視という名の世話役として娘に付けているのは、母親としてどういった心境なのだろうか。

 

 なお舞斗(まいと)が10年前を調べたときの情報源として活躍したのも彼女である。

 万里花(まりか)(そば)を離れることが無かったため断片的ではあるものの、その場にいた唯一の大人として客観的な情報を持っていたのは大きい。

 

 

 

 当時のそんな状況を聞かされた(らく)は、何となく嫌な結論に辿(たど)り着こうとしていた。

 

「な、なあ、まさかとは思うが……」

「いやそのまさかでね。高校時代の友人たちが家族ぐるみで楽しんでいるのに、千花(ちか)ちゃんだけ除け者にされて、さらに今日(こんにち)に至るまで誰も千花(ちか)ちゃんのことを気にも掛けていない。そんな状況でね」

 

 これにはさすがの一同も、頭を抱えて(うな)ることしかできない。

 お気楽なラブコメのはずなのに、どうしてここまで悪意のあるシチュエーションが用意されているのだろうか。

 

「これをどうやって千花(ちか)ちゃんに伝えればいいと思う?」

「もぅマヂ無理」

 

 外の世界に出れば、いずれ知ることになるだろう。

 だったらせめて、舞斗(まいと)から伝えた方がダメージは少ないのだろうが。

 

「……(わたくし)、この章の『悲劇のヒロイン』枠だったはずなんですが」

万里花(まりか)は立派な悲劇のヒロインだと思うわ。ただ、相手が悪かっただけで」

 

 その場限りの舞台装置として適当に用意したキャラが、今までの設定の積み重ねのせいで強キャラ化してしまっただけである。

 娘や夫と違い左右対称の脇役(モブ)顔なところに、原作者の力の入れ具合が分かる。

 

 千棘(ちとげ)万里花(まりか)を慰めながら、宴の中心を見やる。

 そこには多くの人に囲まれ、戸惑いながらも幸せそうな千花(ちか)の姿がある。

 憑き物が落ちたというか、険の取れた彼女は自分と同年代の少女のようにしか見えず。

 

 もしかしたら、悲劇性だけじゃなくてヒロインとしても負けてるんじゃ……

 

 そんなトドメとなりそうな台詞を(くち)から出さないよう、お茶と一緒に飲み込むのだった。

 

 

 

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