本当にせこい   作:七九六十

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13-11 九州動乱 終幕

 

 

 

 さて、今回の騒動はこれで終わりではない。

 

 そもそもの始まりは万里花(まりか)の体調が悪化したことである。そのため因縁に決着がついたところで、彼女が凡矢理(ぼんやり)に戻ることは無い。このままアメリカの病院に隔離もとい収容もとい幽閉もとい入院することになる。

 

「治療に耐えられる体力があるうちに、ってことか?」

「まあそんな感じだね」

 

 大量の薬でごまかすのは身体に悪いので、さっさと病院に叩き込んでしまえ、というわけである。

 治療できるのは世界でただ一ヶ所、アメリカのペンシルベニア州ピッツバーグにある特別病院だけということになっている。

 

「なっている?」

「当主の命に係わる病気の治療をできるのが国外のただ一ヶ所だけ、なんてことには普通しないでしょ」

 

 なんのための経営権だというのか。

 橘家として治療法は押さえてあるので、何なら地元のかかりつけの病院でも治療は可能なのだ。これくらいのリスク管理は当然である。

 

「え、じゃあなんでわざわざアメリカまで行くの?」

 

 千棘(ちとげ)の疑問は(もっと)もだが。

 

「治療に専念させるためとか、俗世への未練を断つためとか、そんな意味があったみたい」

 

 入院は2年ほど必要になる。

 子供が遠い異国の地でそれだけの期間を過ごすのだ。いろいろと諦めるには十分である。

 

「橘さんの性格なら、日本に居たら事あるごとに脱走して来そうね」

「なんなら、アメリカからでも抜けだしてくるのでは?」

「……万里花(まりか)ちゃんには、黙ってようね」

 

 小咲(こさき)たち3人も納得である。

 ただでさえ2年もかかって病院側も大変だというのに、患者が非協力的だとさらに大きな負担となってしまう。

 本田の監視のもと、アメリカで大人しく治療に専念させた方がいいだろう。

 

 

 

 というわけで万里花(まりか)はアメリカに旅立つことになった。地元の福岡空港からでもアメリカには行けるのだが、ピッツバーグに行くのであれば羽田か成田の方が便利である。そのため(らく)たちの帰宅に合わせて関東へと戻ることになった。彼らもいつまでも学校を休むわけにはいかないため、結婚式の翌日には移動するという慌ただしいスケジュールである。

 

 余談だが。

 行きの飛行機にてCA(キャビンアテンダント)たちに『平日の昼間に深刻そうな表情で乗ってきた高校生カップル』と見られて注目の的だった(らく)たち。

 偶然にも帰りの飛行機も同じCA(キャビンアテンダント)たちが乗り合わせており、『実は10人近い美女・美少女を侍らすハーレム野郎だったのか』と認識がアップデートされてしまった。

 

 彼は一体何者なのか、この数日に何があったのか。

 様々な憶測が飛び交い、彼らのウワサはしばらく航空業界を(にぎ)わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「たった2年ですよ。(らく)様に会えなくなるのは淋しいですけど」

 

 いよいよお別れだというのに、いつも通りの万里花(まりか)であるが。

 

「……ですから、そろそろ泣き止んで下さいませんか、秦倉先生?」

「いやぁ、私もアメリカで独りだったし、気持ち分かるなぁ……と」

 

 空港にて合流した(ユイ)に少し押され気味である。

 彼女は飛び級を繰り返した結果、アメリカで孤独なキャンパスライフを送ったという経験がある。それを思い出して、涙が止まらないのだ。

 

 ……決して、原作では仲良かったのに別れのシーンに登場すらできなかったことを悲しんでいるのではない。

 

「…………」

「どうしたの、(ダーリン)?」

「いや、なんか学校に居る時と似たような視線が突き刺さる感触が……」

 

 (ユイ)が増えたことによって発生した『コイツ、まだ居たのか!?』という視線である。

 

「本田さん、万里花(まりか)ちゃんのことよろしくお願いします」

「はい、お任せください。絶対に逃がしませんから」

「あ、そっちなんだ」

 

 小野寺姉妹と話している本田も、継続して万里花(まりか)の護衛兼監視役として同行する。

 

 縁もゆかりも無い異国の地に行くのであれば、同行者は気心の知れた相手の方が良いだろう、ということになったのだ。

 それに加えて常日頃から万里花(まりか)を病院に叩き込みたいと思っていた彼女なら、万が一にも逃げられるようなことは無いとの信頼もある。

 

「アメリカの病院食って、どうなの?」

「……聞きたいですか?」

「……………………」

「ポーラちゃん、落ち着いて」

 

 るりの何気ない一言に(つぐみ)は遠い目をし、ポーラは舞斗(まいと)に抱き着いて震えている。彼女たちは職業柄、ケガをすることが多かったため何度か入院しており、その時の記憶がフラッシュバックしてしまったようだ。

 

 アメリカの病院食はそこまで不味いというわけではない。病人、怪我人への配慮が無く、いつものジャンクフードがいつもの量で出てくることが多いくらいか。多数の民族が集まるだけあって、稀に当たりもあることだし。

 今の食事が美味(おい)しいだけに、その落差に涙が出そうになっただけである。

 

 その手の話はむしろヨーロッパ側の方が……

 

「……………………」

「大丈夫だよ。橘さんが行く病院は橘家の手が入ってるから、ちゃんと日本人向けの病院食が出るから」

 

 会話が聞こえていたのだろう。

 万里花(まりか)がものスッゴイ不安そうな顔で見てくる。

 

 まあ橘家当主、次期当主のための病院である。ちゃんと味と量はまともなものになっているのだ。

 

 ……決して、そのために経営権を握ったわけではない、はず。

 

「そ、それは良かったですわ。アメリカナイズされてしまったら、2年後に戻ってくる計画が狂ってしまうところでした」

「ん?」

 

 計画とは。まだ何か企んでいるのだろうか。

 

「あら、何か疑問ですか? (わたくし)をたった1回フラれただけで諦める女だとお思いですか?」

 

 瞳に闘志を燃やして宣言する万里花(まりか)であるが。

 

「1回? たしか子供の頃にもフラれたんじゃなかったかしら」

「なんでも女の子らしい方が好みだからって、千棘(ちとげ)ちゃんに軍配が上がったらしいけど」

「ということは、2回目だから諦めるって事ですかね?」

「ちーがーいーまーすー!」

 

 るりが余計な事に気付いてしまったが、そうではないようだ。

 ちなみに当時はその千棘(ちとげ)ですら勝者ではないのが何とも言えない。

 

「入院中だろうと(みずか)らを磨きに磨いて、も~っと素敵なレディになって帰ってきますから!!」

「……橘、言いにくいんだが。2年後にはオレたち、みんな卒業してるんだ……」

(はる)ちゃんたちも卒業してるわね」

「私も教職は来年までだし……」

「そもそも万里花(まりか)ちゃんは、3年生になれるのかな? 2年生のままなのかな?」

「ちーがーいーまーすー! そーじゃありませんー!!」

 

 そうなると、どこに戻ってくるつもりなのだろうか。

 父親ももうすぐ退官だろうし、天下り先次第では関東に残るのかもしれないが。

 

万里花(まりか)お嬢様、そろそろお時間です」

「ちょ、本田、離しなさい! この人たちには一度ぎゃふんと言わせないと!!?」

 

 本田が袖口から取り出したロープによって拘束され、万里花(まりか)は保安検査場へと消えていった。

 何やら『あいるびーばっく!』やら『りめんばー・ぱーるはーばー!』と聞こえてくるが、気にしてはいけない。

 

「本田さんって、検査通れるの?」

「大丈夫だよ。装置をごまかす手段なんていくらでもあるし」

「何が大丈夫なんだよ」

 

 たとえ止められたとしても、職業が忍者だと言えば通してくれる。

 

 

 

 

「……私が言うのもなんですが、ココはもっと感動的な別れのシーンだったのでは?」

 

 (はる)の発言からは全力で目を逸らしつつ、旅立つ2人を見送るのであった。

 

 

 






橘母(誰か助けて……)

橘父「手伝うから自分でやれ。もうお前を守る騎士(ナイト)はいない」



舞斗(まいと)「いるさっ! ここにひとりな!!」



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