本当にせこい   作:七九六十

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原作:第196話ガンバル~最終話ヤクソク まで

・ヒロインが片付いていく流れの後半戦。
 風呂敷を畳んだといえば聞えはいいが……
・ヘイト物のお約束としては、ここはヒロインが次々と(らく)をフッていく流れにするのが正しいが。
 そんな性格の悪いヒロインを書きたくはないし。
 原作と違ってこっちの一条(らく)には愛着が湧いてしまったし。
・というわけで、何とも締まらない最終回になってしまった。




14 - () - ヤクソク
14-1 カラオケ


 

 

 

 橘万里花(まりか)が遠い地へ旅立って1週間ほど。

 今年度最後の定期テストも無事終わり、後はマラソン大会なんかがあるものの、次の学年までの消化試合のような日々が続く。

 そんな穏やかな時間が流れる教室にて。

 

「で、何を悩んでんだ?」

「ん? ……………………………………ああ、(しゅう)か」

「え、ちょっと待って、なに今の間は!?」

 

 オレたち親友だよなと騒ぐ(しゅう)を見やり、そう言えば幼稚園の頃からの付き合いだったかと思い出す。

 唯一の男友達だというのに何か壁があるようで、付き合いが長い割に仲良くなりきれないというか、それどころか最近は疎遠になってないか?

 

 そんな事に思い至った(らく)は、まさにそれが今の悩みにも通じることに気付き、頭を抱えて机に突っ伏すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 最近、元気のない(らく)を気遣ったのか。

 

「よく分かんないけど、ガンガン歌って盛り上がれば大丈夫よ!」

 

 という千棘(ちとげ)の号令の下、週末にカラオケに繰り出した一行。

 今日は朝から夜まで歌うぜ、という若さの勢いに任せた日程になっており、それぞれ好き勝手に持ち歌や新曲で盛り上がっている。

 

「少しは元気でた?」

「……ああ、まあ。ありがとな」

 

 いつものように直球で勝負してくる千棘(ちとげ)に苦笑しつつ、(らく)は決心する。

 いい機会なので、ちょっと相談に乗ってもらおうと考えたのだ。

 

 だが先ずは確認すべきことがある。

 

「なんで本田さんが居るんですか?」

「おや、先ほどデュエットした相方になんとつれない」

 

 (らく)十八番(おはこ)は演歌である。カラオケでも頻繁に歌っており、千棘(ちとげ)たちも混ざって盛り上がるのだが。やはり彼女たちではキャラクター的に軽くなってしまい、演歌感が出ないというかなんというか。

 

 その点で大人の女性である本田はイメージを損なわないため、よくデュエットしているのだ。

 

「いや、橘と一緒にアメリカに行ったんじゃ……」

「一条さん、コマとコマの間には距離や時間が定義されておりません」

 

 隣のコマが地球の反対側だったり、翌日だったり10年前だったりするのだ。

 だからアメリカから遊びに来ることなど、朝飯前なのだ。

 

万里花(まりか)お嬢様はベッドに縛り付けてあるので大丈夫です」

「まあ、ならいっか」

 

 特別待遇の病室でセキュリティもバッチリのため、護衛としては暇なのだ。分身も置いてあるし。

 前話であっさりとした別れだったのは、こうやってすぐに会えるからだったりする。

 

「……で、もう1個疑問なのが」

 

 少し視線をずらすと、選曲中の少女たちが目に入る。

 小野寺姉妹とるりに挟まれ、何を歌おうかと楽しそうにしている……

 

「なんで千花(ちか)さんが?」

「先週から遊びに来ててね。せっかくだから誘ったんだよ」

 

 舞斗(まいと)が答えた通り、橘家の当主にして万里花(まりか)の母親である橘千花(ちか)の姿がそこにはあった。

 

 あの騒動の直後から舞斗(まいと)のマンションに転がり込んでいたのだが、ちょうどテスト期間に重なったため、本格的に一緒に遊び始めたのは昨日からだったりする。

 失われた青春を取り戻すというわけではないが、九州に独りでいるよりもこっちで皆と楽しんだ方がいいだろうと受け入れたのだ。

 

「仕事は大丈夫なのか?」

「ちゃんと引継ぎは終わらせてあるから、よっぽどの事がない限り遊んでて大丈夫だよ」

 

 ちなみに遊んでいる姿をファンクラブの会報に載せるという約束で、会員の皆さんが頑張ってくれた結果である。

 会員のほとんどは橘に関係する会社の役員クラス、つまりは年配者である。

 子や孫を見るような感じで千花(ちか)を見ていたため、彼女が自由になるために尽力してくれたのだ。

 

 さっそく『私服姿の千花(ちか)ちゃん』を配信したところ、大きな反響が返ってきていたりする。

 

「……あの中に居てまったく違和感が無いのがすげーな」

「カワイイでしょ?」

 

 年齢だけ見れば彼らの倍以上。40前後のはずなのだが。

 初対面では無表情なせいで若く見えるのかと思っていたが、表情が出るようになった今は更に幼く見える。

 

 小咲(こさき)に優しく見守られ、るりと(はる)に最近の流行歌を教えてもらっている。

 流行どころか歌自体に触れることのなかった彼女はちょっと混乱気味だが、それでも楽しそうに笑っている。

 

「……あの話って、したのか?」

「うん。こっちに来てすぐに」

 

 (らく)が気になったのは、彼女の友人、つまりは自分たちの母親とのことである。

 見捨てたというと人聞きが悪いが、彼女のことなど眼中に無いと言わんばかりの行動を取っていたのだから、気まずくて仕方がない。

 

千花(ちか)ちゃん、今は整理ついたみたいだけど、相当ショックだったみたいで」

「……だろうなあ」

 

 しばらく舞斗(まいと)にしがみ付いたまま、落ち込んでいたのだ。

 見かねた小咲(こさき)たちの協力もあって何とか持ち直し、その際に彼女たちと新たな絆が生まれていたりする。

 今ではこうやって一緒に外に遊びに出る仲になったのだ。

 

「ただ旦那さんとの間に深い溝が出来てしまったけど」

「う~ん」

「元々あった溝が広がっただけですので、問題ないかと」

 

 本田の言い方は辛らつであるが、事実でもある。

 夫の橘(げん)としては娘の万里花(まりか)を優先するのは当然であり、しかし妻への愛もあるし、大人なんだからいつかは分かってくれると信じていたのだろう。

 

 妻より娘を優先するのは正しいが、それは命が関わるような究極的な場面だけでいいのだ。普段は両方へ平等に愛情を注ぐべきだったのだ。

 そこのさじ加減を間違えたばかりに2人の間にできていた溝が、今回の件で修復不可能なレベルになった、ただそれだけである。

 

 代々当主に仕える職業柄というのもあるが、婿養子よりも現当主の千花(ちか)寄りの立場である本田としては、千花(ちか)が幸せであればそれでいいのだ。

 娘のではあったが、時を越えて結婚式で千花(ちか)を連れ出したことで、ようやくその道が見えてきた。

 ならばあとは全力でサポートするだけである。

 

万里花(まりか)とはどうなるの?」

「んー、今まで通りかな……」

 

 千棘(ちとげ)は自分も母親との関係がこじれていたため、気になっていたようだ。

 しかし彼女の時とは違い、今もこじれたままである。

 

 彼女の場合は顔を合わせるのが年に数回だけという、これまたとんでもない家庭環境であったのだが、少なくとも家族として向き合っていた。

 対して万里花(まりか)の場合は家族としての接点が無く、お互いに相手を必要としない関係になってしまっていた。

 

「少なくとも一条さんへの執着をなくさない限り、他人に向き合うことが無いのでは?」

「……執着をなくしたら、それは万里花(まりか)って呼んでいいの?」

「正直、想像できないよね」

「ひでー言われようだな」

 

 お互いに負い目があるので、なおさら顔を合わせ辛いだろうし。

 今日のように集団で遊ぶ中に混じって徐々(じょじょ)に距離を近づけるという手もあるのだが、そもそも(らく)にしか興味のない万里花(まりか)では……

 

「そういう意味だと(イエ)ちゃん。秦倉先生のほうはどうなの?」

「……姉弟という形で落ち着いてしまたね」

 

 見た目だけならこの中で一番幼い(イエ)がため息とともに応じる。

 今日のカラオケ大会には(ユイ)が参加しており、そうなれば護衛の(イエ)も当然ついてきている。

 

「ひとつ屋根の下、そこの矮子(ガキ)はいつ首領(ドン)を押し倒すのかと期待してたのに、がっかりね」

「護衛のセリフじゃねーな」

 

 叉焼(チャーシュー)会は血の繋がりによって首領(ドン)を決めるのだが、現在は(ユイ)しか残っていないというギリギリの状態である。そのため一刻も早く彼女の子供が欲しいのだが、本人の恋愛観がお子様過ぎて一向に進展しないのだ。今も(つぐみ)とポーラと一緒に発声練習をしており、『お友達と遊ぶのが楽しい!』状態である。

 年齢で見れば華の女子大生のはずなのに、異性の影がまったく無いという危機的状況なのだ。

 

 ただまあ、彼女にとってのお友達というのが、(らく)千棘(ちとげ)、そして今は亡き万里花(まりか)、一歩引いて小咲(こさき)、ギリギリで(つぐみ)の5人しか指していないという問題もあったりする。彼女もまた万里花(まりか)と同じく、もう少し他人に目を向けない限り人間関係が広がることは無いのかもしれない。

 それだけ彼女の中で10年前の夏の思い出は特別なものになっているのだ。

 

 既に忘れられて久しい(らく)のペンダントであるが、彼女にとってあれは再会の約束を形にしたものである。

 1つの(じょう)と4つの(かぎ)。自分と同じくそれを所有する人間が、彼女にとっては特別なのである。

 

 その意味だと、その場に居たがそれほど顔を合わせなかった(はる)が除外されるのは分かる。

 しかし同じく(かぎ)を渡されることなく、また最後に再会を誓った場に呼ばれもしなかった(つぐみ)がお友達枠なのは何故なのだろうか。

 そして(かぎ)を持っているのに、小咲(こさき)と他2人に扱いの差があるのは何故なのであろうか。

 

 そういう人間関係への線引きも含めて、秦倉(ユイ)と橘万里花(まりか)はキャラが被っている感が強いのは気のせいだろうか。

 だから2人のエピソードは似た流れの物が多く、そのせいで退場が早くなったのだろうか。

 

 まあそれを言うと千棘(ちとげ)(つぐみ)小咲(こさき)(はる)についても同じなのだが。

 (つぐみ)のエピソードは正直、ほぼ千棘(ちとげ)に寄せてもいいものであるし。

 (はる)の葛藤についても、これは小咲(こさき)だけがやるほうが物語的に盛り上がるものである。

 

 というかヒロイン同士の絡みが少なすぎて人数が居る意味が無く、この二次創作でも活躍させることができなかったのだが。

 もっとキャラ同士の関係性を掘り下げるエピソードが欲しかったところである。

 

 

 

(ユイ)姉の歌のほうは、少しは上達したみたいだな」

「……いずれカラオケデートしたときのため、と考えれば無駄では無いのかな?」

 

 そんな話よりも(らく)にとっては(ユイ)の上達具合の方が気になる。

 というのも彼女がカラオケに初参加したときに発覚、一部の人間にとっては思い出したのだが、すごく音痴だったのだ。それもジャイアンレベルで。

 そのときは舞斗(まいと)がミッドバレイでホーンフリークしたために被害者は出なかったのだが、興味本位で実際に聴いてみたくなった千棘(ちとげ)がアンコールし、巻き込まれた(らく)と共に目を回して失神したという悲しい結末を迎えてしまった。

 

 それからは歌の上手い(つぐみ)を講師に、感覚派な彼女を補佐するためのポーラを助手として指導を行ってきたのだ。

 意外といってはなんだが、努力家であるポーラは要点を伝えるのが上手かったのだ。

 

「見てないでお前も行くね。少しは異性を意識させるよ」

「いや、なんでオレが……」

「また東方的威風(プロジェクトA)をえんどれすで聴きたいか?」

「やめてください腹筋がもちません行かせていただきます」

 

 (イエ)に蹴りだされ、(らく)(ユイ)の下へと送り出される。

 

 彼女は中国語訳された日本の曲をよく歌うのだが、あるとき何を思ったのかジャッキーしたのである。

 その結果、一部の人間が笑い過ぎて呼吸困難になるという珍事が発生してしまったのだ。

 ちなみに首領(ドン)の音響兵器っぷりに対抗したのではという疑惑が持ち上がっている。

 

「……早いとこ縁談まとめないと、このままズルズル行てしまいそうね」

「ウチも、2年後に向けて準備を始めなければなりませんね」

 

 本田はそう言いながらも、チラリと舞斗(まいと)の方を見る。

 もしかしたら万里花(まりか)お嬢様には、年の離れた弟妹ができるのではと。そちらに当主を任せた方がいいのではと。

 

「種なしスイカのマイちゃんと一部では評判だから、期待には答えられないかも」

「いつから私立探偵(プライベート・アイ)に?」

 

 舞斗(まいと)の手によって千花(ちか)の病気は完治しており、肉体的にも健康そのものとなっている。そのためそこら辺のコントロールは大事である。

 

 まあそれはともかく。

 

「そもそも出会いが無ければ、その先も無いからね。

 2人の周りにお見合いと偶然を装った出会いで複数人配置すれば、何とかなるんじゃないかな」

 

 万里花(まりか)(ユイ)もスペックは高いのだ。周囲にそれに見合った男が居るならば、しっかりと自分で選び取るだろう。

 そもそも彼女たちに釣り合うような男が、しかもフリーの状態でそこらを歩いているはずが無いのだ。意図して環境を整えない限り、いつまで経っても独り身で居る可能性が高い。

 

 彼女たち護衛兼世話係の働きに、万里花(まりか)(ユイ)の未来が懸かっているのだった。

 

 

 

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