本当にせこい   作:七九六十

77 / 82
14-2 (らく)の不安

 

 

 

 昼になると歌うのを止めて、食事の時間である。

 一度外に食べに行くことも考えたが、せっかくだからとそのままカラオケ店で食事を取ることにする。競争が激しいのか、カラオケ店でも本格的な料理を出しているところが増えてきているのだ。

 

 人数の割には多すぎる料理を平らげ、食後のデザートをこれまた大量に並べる。

 

「それで、あなたは何を悩んでいるのかしら。おばさんが相談に乗るわよ」

「気持ちは嬉しいんですが……」

 

 千花(ちか)の突然だがありがたい申し出を、素直に受け取ることができないのは何故だろうか。

 世の中にはいつまでもオネエサンと呼ばせる剛の者も居るが、中学生のような見た目でオバサンと自称するのもどうかと思われる。

 

 抹茶プリン片手にそんなことを考えつつも、(らく)(くち)を開こうとして気付く。

 今日は彼の抱える悩みについて打ち明けようとしていたのだが、よくよく考えたら千花(ちか)への追い打ちにならないだろうか。

 

 そんな彼の葛藤に対して、千花(ちか)は微笑みながら応える。

 

「私にも関係あることなんでしょ? それともコチラを見ていたのは、おばさんに気があるから?」

「……(ダーリン)?」

「ち、違う!? いや、半分は合ってるけど、そういう意味じゃない!!」

 

 この間とキャラが違うじゃないかと思ったところで、またしても気付く。

 

「……おい岬、さっき耳打ちしてたのって」

「バレたか」

 

 はじめてのおつかいを達成した千花(ちか)の頭を撫でて褒めつつ、ネタ晴らし。

 千棘(ちとげ)のフォローの為に小咲(こさき)を派遣するのも忘れない。

 

「ほら、場を(なご)ませるジョークだよ」

「ぜってーウソだろ。しかも(なご)むどころか修羅場が生まれそうになったし」

 

 隙あらばネタを仕込む。ただそれだけである。

 

 

 

 そんな良い感じに緊張が(ほぐ)れて、新たな緊張が生まれたところで。

 決心がついた(らく)は、上手くまとめられてないがと前置きしつつ語り始めた。

 

「もうすぐ高3、そして大学受験だ。

 ……大学生になったら、オレたちの関係ってどうなるのかなって」

 

 前回の事件の中で発覚した両親たちの行いは衝撃的であったが。

 もしかしたら自分たちも別の大学に入ったりして離れてしまうと、疎遠になるのではないか。

 そんな不安が付きまとうのだ。

 

 (らく)にとって、友達というのは特別な存在である。

 

 小学校の低学年くらいまでは、少ないとはいえ友達と呼べる存在がいたのだが。その後は親の職業がヤクザということで避けられ、友達どころかまともに話せる相手すら居なくなって。どうにかクラスに馴染もうと、クラス全員の特徴をノートに書きだして研究をした、なんてこともあった。

 それでもクラス替えのたびに周囲から避けられる状況に戻ってしまうため、何度心が(くじ)けそうになったことか。

 

 

 

 そんな中でできたのが、今の交友関係である。

 高校に上がるときに縁が切れなかったこともあり、余計に次が怖い。

 

「実際、幼稚園の頃からの付き合いがある(しゅう)とも、今ではすっかり疎遠になってしまったし……」

 

(しゅうと?)

(しゅう、じゃないですかね?)

(え、誰? 私の知ってる人?)

(周……秦倉先生と同じで中国系の人かしら?)

 

 (らく)の独白を聞いていた面々だが、一部よく分からない部分があったために思考に空白ができる。小咲(こさき)千棘(ちとげ)は聞き覚えのない名前に首を傾げ、(つぐみ)は自信なさげ、るりは勘違いしている。

 しかし確認のために話の腰を折るのも(はばか)られるため、恐らく彼の知り合いだろうということで流されている。

 

(岬様?)

(いや、うん、本人を前にすれば思い出す可能性があるから、このままで)

 

 そういえば、彼がまともに登場したのはいつの話だったか。

 ラブコメの親友ポジションのキャラなのに、扱いを悪くし過ぎてしまったのは反省である。

 

「皆で同じ大学の同じ学部なんて無理なのは分かってる。就職先だってバラバラだ。

 ……でも、顔を合わせてないと一気に疎遠になりそうで、怖いんだ」

 

 親という前例がある。

 自分たちだって小さな子供の頃とはいえ、連絡を取るどころか相手の人相をすっかり忘れていたという前例がある。

 十分に考えられる可能性なのだ。

 

「だから、ずっと皆でこうして一緒に遊んでいられたらって、考えてしまうんだ」

 

 そうすれば、皆との関係がこれからも続いていくのに。

 そんな(らく)の願いに強く同意するのが、千棘(ちとげ)(ユイ)の2人である。

 

 (らく)と同じく家庭環境により友人ができなかった千棘(ちとげ)も、今の関係を失うことを恐れている。

 それこそもうすぐ行われるクラス替えが怖くて、舞斗(まいと)に泣きつくくらいに。

 

 (ユイ)は飛び級により友人を上手く作れず、さらに両親とも死別している。

 彼女にとって(らく)は最後の家族であり、千棘(ちとげ)たちは最後の友人である。

 もうこれ以上は失えないのだ。

 

「なら新しく『(かぎ)』でも作る? ここにいる皆で」

「……え? カギ?」

 

 最近どころかまったくもって出番のないメインテーマについて、ふと思い出した舞斗(まいと)が冗談めかして提案するも、どうやら主人公には通じないようだ。

 

「一条……」

「いやほらあれだよ、あれ、期末テストとかで最近忙しかったし!?」

 

 詳細を聞いてようやく思い出した(らく)であったが、そういえばそんなものあったな程度の認識でしかない。

 最後に手に取ったのは果たしていつだったかというレベルである。

 

 

 というのも『約束の女の子』探しにまったく進展が無かったのだ。

 

 

 彼の『(じょう)』型のペンダントに対し、『(かぎ)』型のペンダントを持つのは4人。

 

 1つは千棘(ちとげ)。1年目の林間学校前日に古い日記と一緒に『(かぎ)』を見つけるも、すぐに忘れてしまい、以降は身に着けることもなく。

 1つは小咲(こさき)。小さなころから持ち続けるも、(らく)千棘(ちとげ)のラブラブカップル誕生時に無用の物となり、そのまま誰にも知られずに机の引き出しにしまったままである。

 1つは万里花(まりか)。転校初日に『(かぎ)』を所有していることを主張するも、誰も興味を示してくれなかったためにその後は使用することが無かった。

 1つは(ユイ)。誰も『(かぎ)』のことを話題に出さないために、自分も所有していることを言い出せずについに最終話である。

 

 とまあ、こんな状態では進展するはずもないのだ。

 

「せっかくサンプル作ってきたのに……」

「なんで事前に作ってあんだよ……」

 

 舞斗(まいと)がペンダントをテーブルに置き、小さな『(かぎ)』をジャラジャラと積み上げる。

 

「こんなにあると、有り難味がねーな」

 

 もとより4つの時点でそんなものは無い。

 

 (らく)は『(じょう)』となるペンダントを持ち上げ、目の前にかざす。

 大きさは以前のものと同じくらいだろうか。卵に似た形をしており、表面には(かぎ)穴がたくさん付いている。

 

「……ん?」

「よっ、と」

 

 (らく)がそのデザインに首を捻る横で、舞斗(まいと)(かぎ)を1つ手に取り(かぎ)穴に差し込む。

 

「……あ、そういうこと」

 

 るりもそれに続き、別の(かぎ)穴に(かぎ)を1つ差し込む。

 

「じゃあ次は私が」

 

 (つぐみ)も差し込む。

 

「私もやりますっ」

 

 さらには(はる)も差し込む。

 

「私も……あっ」

 

 それまで何の反応も無かったペンダントは、小咲(こさき)(かぎ)を差し込むとポンッと音を立てて白旗を上部から突き出す。

 

「あー……」

「黒ひげじゃねーか、使い方はそーじゃねーよっ!? 却下だ、却下っ!」

 

 順番待ちをしていた千棘(ちとげ)が残念そうな声を上げた。

 ようやく状況を理解した(らく)が残念な声を上げた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。