本当にせこい   作:七九六十

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14-3 進路相談(1)

 

 

 

 新しく『(じょう)』と『(かぎ)』を導入する案は、残念ながら没になってしまった。

 他の手を考えよう。

 

「はいっ!」

「じゃあ千棘(ちとげ)ちゃん、どうぞ」

 

 元気よく手を上げた千棘(ちとげ)が指名される。

 

「みんなで同じ大学に行けばいーのよ! 今と同じように毎日遊びましょう!」

「いや、うん、それはさすがに無理じゃねーか?」

 

 (らく)は元から進学予定だから問題無いが、この中には就職だったり、進学するにも短大・専門学校に進むものもいるだろう。

 高校とは違って将来に直結する場合もあるので、そう安易に同じ大学へとはならないはずだと考えている。

 

「そもそも千棘(ちとげ)ちゃんは、どこの学部に行くの?」

「え、どこって……………………どこ?」

「オレに聞くなよ」

 

 小咲(こさき)からの当然の質問に対し、困った彼女は(らく)の方を向く。

 進路希望調査でも適当に進学と書いてお茶を濁していた彼女である。幸いにも担任が目の前に居るので、よく話し合って決めて欲しい。

 

 ちなみに(らく)自身も具体的には決まっていないので、担任とよく話し合って欲しい。

 

 

 

 一方で肝心の担任だが。

 

「……そっか、(らく)ちゃんと同じ大学に行くって手もあるんだ」

「お宅の首領(ドン)があんなこと言ってるけど」

首領(ドン)の最優先の仕事は後継者を作ることね。だから問題無いよ」

 

 (ユイ)叉焼(チャーシュー)会を1つにまとめ上げたことで、首領(ドン)の仕事というのはそれほど無いのだ。だからこうやって日本で教職に就いていても問題ないし、大学で男漁りをしていても問題無い。

 

「……万里花(まりか)お嬢様は、さすがに難しいですね」

「順当に行っても治療に2年。時期的にその年の受験には間に合わないだろうから、一条たちが3年のときに入学か……」

「文系のその頃だと、ほぼ大学に行かずに遊んでる時期では?」

 

 (つぐみ)の偏見、いやそうでもないか、は置くにしても、1年と3年では授業も重ならないし同じ大学に通うメリットはあまり無い。

 それを考えると彼女は日本に戻ってきたときに、どのようなポジションに落ち着くのか見ものである。

 

 

 

「私も大学に行くけど、理系だから一緒ではないわね」

「あれ、ポーラさんは進学するの?」

 

 そんな素振(そぶ)りは無かったのにと(はる)が驚いているが、実は1年生たちのほうは具体的に進路を決めていたりする。

 ポーラは研究職の道に進みたいようだ。

 そのため文系に進む2年生たちとは一緒にならない。

 

美味(おい)しい食材を作れば、料理がもっと美味(おい)しくなるんでしょ?」

「なるほど、ポーラらしいな」

 

 (らく)も納得の理由である。先日の結婚式で味わった料理が決め手だったようだ。

 

 高級食材を使った小咲(こさき)の料理は、普段よりもさらに美味(おい)しいものに進化していた。

 ならば食材のレベルを上げれば、より美味(おい)しくなるのではと考えたのだ。

 某CRISPRの登場でゲノム編集技術が進歩してきたのもあって、そちらからのアプローチを試みるようだ。

 

「ねえ(つぐみ)ちゃん、進学することについては大丈夫なの?」

「優秀なヒットマンが抜けるのは痛いですが、長期的に見れば商売につながる話なので問題ないとのことでした」

「そういえば千棘(ちとげ)ちゃんのお母さんの会社って、お父さん(マフィアのボス)が普通に手伝ってたよね」

 

 るりは物語でよくある抜け忍への制裁とかを気にしたようだが、別に組織(ビーハイブ)を抜けるわけでも敵対組織につくわけでもないので大丈夫なようだ。

 小咲(こさき)のセリフには問題があるが、世界観的には大丈夫なようだ。

 

 

 

「私は進学せずに和菓子屋さんになります!」

(はる)ちゃんらしいな」

 

 (らく)たちもこれは予想できていたことである。

 普段から楽し気に実家の手伝いをしている姿を見ているし、新作和菓子の考案に情熱を燃やしているのを知っている。

 

「技術的な事はお姉ちゃんや岬先輩に教わればいいんですけど、お父さんが言うには『一般的な店のレベルや業務内容についても知っておいた方が良い』とのことで、知り合いの職人さんのとこに弟子入りする話もあります」

小咲(こさき)ちゃんのは商売に向かない技術もあるからね。通年で商売としてやっていく味を作る、ってのは良い経験になると思うよ」

 

 同じ働くにしても、実家で手伝いの延長として働くのと他人の店で社会人として働くのでは、得られるものが違うというのもある。

 この修行によって一回り大きく成長し、ゆくゆくは実家の和菓子屋『おのでら』を継ぐ予定である。

 

「でもお店の事はよく分かんないので助けてください!」

「はいはい」

 

 力強い宣言である。

 妹気質というか何というか、可能な範囲で甘えることに躊躇(ためら)いが無い彼女である。

 舞斗(まいと)としてもその方が気が楽だし、何よりカワイイので問題ない。

 

「あと千花(ちか)ちゃんは違うから、座ってなさい」

「……ん」

 

 拳を握って『私の出番か!』と立ち上がった千花(ちか)だが、舞斗(まいと)にたしなめられて若干しょんぼりしながら腰を下ろす。

 (はる)がなりたいのは町の和菓子屋さんである。○○御用達の高級老舗ではないので、残念ながら千花(ちか)の出番はないのだ。

 

 

 

「たしか宮本は具体的に進路が決まってたよな?」

「ええ、姫知利(きちり)大学の外国語学部英語学科が第一志望よ」

 

 そこの教授のゼミが目的である。

 るりは翻訳家を目指しているため、それに合わせた進路を選択したのだ。

 

「夏休みなんかの長期休暇はアメリカかイギリスに短期留学するし、現地の体験プログラムにも参加する予定よ」

「そこまで決めてんのか」

「ちなみに費用はマイちゃん持ちで、小咲(こさき)たちも参加するわ」

「おい、いいのかよ」

「いいのいいの。可愛い子には旅をさせよって言うでしょ?」

 

 るりのパトロンとしてというのもあるが、舞斗(まいと)自身も皆で遊ぶのが好きなのである。

 だからそのための資金、労力を惜しむつもりは無い。

 

「一条も参加する? 個人のお土産代だけ自己負担にする感じなんだけど」

「する」

 

 即答であった。

 そして(らく)が行くのであれば、当然のように千棘(ちとげ)も反応する。

 

「お姉ちゃん、私も……ってあれ? 私ってアメリカ育ちよね? アメリカに留学?」

「そういえば千棘(ちとげ)ちゃんたちって、アメリカの学校に通ってたんだよね」

小咲(こさき)が言う通りすっかり忘れてたけど、今までその設定って何かに使われたかしら?」

「えーっと、宮本様の英会話講師をしている、くらいですかね?」

「あとはポーラさんがアメリカから(つぐみ)先輩たちを追いかけてきたとか?」

「……でも、私もアメリカ人らしいことって何もしてないわよ?」

 

 そんなはずはない。見落としているか忘れているだけで、何かあったはずだ。メインヒロインをわざわざアメリカからの転校生に設定したのだ。何か本編で大きな役割を果たしたに違いない。

 まさか『主人公がヤクザならヒロインはマフィアだ、ならばアメリカ人だ!』というだけではあるまい。

 

「私の場合は『小学生の頃に中国に引っ越して飛び級でアメリカの大学を卒業して中国でマフィアの首領(ドン)やって、日本で高校教師になってまた大学に入って、またアメリカに留学』ってなるのか……」

「お宅の首領(ドン)があんなこと言ってるけど」

「なかなか愉快な状況ね。いっそトコトンまで行くのも面白いよ」

 

 (イエ)としては(ユイ)が結婚して子供が生まれるのであれば、過程はあまり気にしていない。

 むしろ真面目な性格だとこのメンバーでは埋もれてしまうので、ここらで面白い属性が付くのもいいかもしれないと考えている。

 

「……万里花(まりか)お嬢様には、黙っていた方が良いですね」

「治療が終わるまではね。お見舞いには行くけど、長期滞在しているなんて知ったら病院抜け出して来そうだし」

 

 来年は受験であり、卒業旅行も考えている。そのため本格的に滞在するとなったら早くても大学1年目の夏季休暇になるが、どう考えても万里花(まりか)の治療が大詰めを迎えている頃である。そんな大事な時に病院を抜け出し治療を中断してしまうと、下手すると治療前より悪化するなんてこともあり得る。

 そのため彼女には伏せておいたほうが良いだろう。

 

 彼女が健康になってからでも、時間は十分にあるのだから。

 

 

 

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