本当にせこい   作:七九六十

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02-05 ツグミちゃん登場(2)

 

 

 

 ようやく千棘(ちとげ)も落ち着いて、5人で仲良く談笑することしばし。舞斗(まいと)(つぐみ)がどこからともなく取り出したティーセット(椅子とテーブル込み)を使い、授業の事なぞ忘れて楽しい時間が過ぎていく。

 そんな中、(つぐみ)は気になっていた点を質問する。

 

「ところで、マイちゃん様だけなぜお嬢の事を『桐崎さん』と呼ぶのですか?」

「女の子を名前呼びするのはハードルが高いって」

 

 小咲(こさき)とるりを名前呼びしている時点で苦しい言い訳である。

 本当は恋人である(らく)が彼女を『ハニー』と呼んでごまかしている現状で、彼より先に名前呼びは不味(まず)かろうという配慮だったりするのだが。

 

「……私は、名前で呼んで欲しい」

 

 普段の千棘(ちとげ)からは想像できないほど控えめな声と、不安と期待が混じった眼差しに、舞斗(まいと)はどうしたものかと考える。

 いろいろと理屈を付けて断ることも可能だが……

 

「……分かった。これからは皆と同じく『千棘(ちとげ)ちゃん』って呼ぶね」

「うん!」

 

 笑顔で頷く千棘(ちとげ)と、良かったねと声をかけるこちらも笑顔の小咲(こさき)

 一条なら『千棘(ちとげ)』と呼び捨てるだろうから『千棘(ちとげ)ちゃん』と呼ぶ分には問題ないかと妥協した形だが、思いのほか喜んでくれたようだった。

 

 

 

 

 

「ところで、マイちゃん様はなぜセーラー服なのですか?」

「クラスの女子に着せられるってのと、後はノリで」

 

 服装に左右されるほど、自分の男としてのアイデンティティは(やわ)ではない、と胸を張る。

 

(つぐみ)ちゃんはセーラー服、着ないの?」

「ヒラヒラした格好だと、いざという時に対応できませんので」

 

 武器を隠すにも男物のほうが楽ですし、と笑って答える(つぐみ)

 そう、ウワサの美男子転校生『(つぐみ)誠士郎』は、こんな名前だがカワイイ女の子だったのだ。

 

「……なぜか昔から、男だと間違われるんですよね」

 

 遠い目をしながら(つぐみ)は語る。

 育ての親とも言える上司(クロード)は今でも彼女の事を男だと認識していたりするのだ。

 

 ちなみにるりは見ただけで女だと分かったのだが、小咲(こさき)舞斗(まいと)が『(つぐみ)ちゃん』と呼びかけるまで分かっていなかったので、少し申し訳ない気持ちになっている。

 

「ほらつぐみ、やっぱり女の子らしい服装のほうがいいって」

「し、しかしお嬢……」

 

 千棘(ちとげ)の言葉に反対することはできず、とはいえ受け入れることもできない。

 困惑する(つぐみ)に、舞斗(まいと)から救いの手が差し出された。

 

「待つんだ千棘(ちとげ)ちゃん。(つぐみ)ちゃんには女の子らしい見た目よりも、男物を取り入れたカッコよさの中に可愛さが残る、くらいが似合うと思うんだ」

「なるほど」

 

 訂正。救いの手ではなく、単なる好みの主張だったようだ。

 

「じゃあ上だけ女子の制服にしてみる?」

「アクセサリも付けましょう」

 

 小咲(こさき)とるりからも提案が上がる。

 こうしちゃいられないと空いている更衣室に連れ込み、(つぐみ)の着せ替えを行う一行。

 

「……つぐみ、あんたいつの間に!」

「あぅ」

「以前より明らかに大きくなってるから、まあそれくらいはあるか」

「…………」

「…………」

 

 ちょっと始めの方でアクシデントがあったが。

 それはともかくとして千棘(ちとげ)の手持ちの服を着せていく。

 なぜこんなものを学校に持ってきているのかというのは、聞いてはいけない。

 

 

 

 まずは本人が嫌だと言っているヒラヒラした女の子らしい服。

 千棘(ちとげ)がどうしてもというので、ひとまず着せてみた。

 

「ええ!? いや、これはちょっと……」

「こんなにカワイイのに……つぐみは嫌だって言う……」

「トマトじゃなくて千棘(ちとげ)ちゃん、落ち着いて」

 

 

 

 次にチャイナドレス。もちろんスリットは強調していく。

 

「お嬢なぜこんな物を!?」

「なんか女スパイって感じだね!」

小咲(こさき)ちゃん惜しい、スパイじゃなくてヒットマンだよ」

 

 

 

 最後にビキニ。着るどころか見た時点で羞恥心が限界を超えている。

 

「ヒイィィー~~~!!?」

「……チッ」

「るりちゃん、落ち着いて」

 

 

 

 総評。

 

(つぐみ)ちゃんの表情と仕草がカワイイせいで、色気がありません。要改善です」

「うぅ」

 

 精神的な消耗が激しい(つぐみ)小咲(こさき)に泣きついており、よしよしと頭を撫でられて癒されている。

 今ある衣装では(つぐみ)の魅力を引き出すことはできなかった。

 

 ならばせめてと、彼女の髪に大きなリボンを付ける千棘(ちとげ)

 

「うん、カワイイ」

「お、お嬢?」

「これでもう、男の子だって間違われないでしょ?」

 

 鏡を使って本人(つぐみ)に見せつつ、満面の笑みで答える。

 

「お気持ちは大変うれしいのですが……! 私にこんな女の子らしいものなんて」

「カワイイ!」

「カワイイ!」

「カワイイ!」

 

 (つぐみ)を取り囲み、カワイイを連呼する千棘(ちとげ)舞斗(まいと)小咲(こさき)

 女の子らしい格好をさせるため、リボンだけでも押し切ろうとする者。

 恥ずかしがる(つぐみ)が可愛くて便乗した者。

 純粋にカワイイと思っているだけの者。

 

 3人の攻撃によって真っ赤に染まった顔を両手で隠し、(つぐみ)はへたり込んでしまう。

 

「……そろそろやめてあげなさい」

 

 その宴は、見かねたるりが止めるまで続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、千棘(ちとげ)ちゃんはなぜ一条と偽装カップル(ニセコイ)に?」

「ああ、それは私たちの両親の、ちょっと特殊な関係と事情のせいでね。

 私たちは恋人のフリ────ィイイィイィイ?!」

 

 何とか(つぐみ)が復活したので、そろそろ教室に戻ろうとしていたタイミングでの質問。

 完全に油断していた千棘(ちとげ)はあっさりと秘密を暴露してしまう。

 

 秘密を知られた中に、(つぐみ)が居たのが問題だった。

 彼女はおそらくクロードの差し金。連鎖的に彼にもバレてしまい、そうなればビーハイブ(ギャング)VS集英組(ヤクザ)の抗争が始まってしまう。

 

 そんな彼女の心配をよそに当の本人(つぐみ)はというと、発言の内容なぞ気にも留めず、『あー、アレ私もやられたなー』と他の2人とともにのん気に過去を懐かしんでいたが。

 

「カツ丼、食うか?」

「刑事さん、私がやりました」

 

 犯人、もとい千棘(ちとげ)の自供によって、彼女たちの事情(ニセコイ)が白日の下に晒された。

 抗争がいよいよ戦争になりそうだったので、それを回避するためにお互いの二代目同士が恋仲だと嘘をついたこと。

 そしてその後も疑われないよう苦労していること。

 

 まあ舞斗(まいと)はすでに(らく)から直接聞いているし、小咲(こさき)とるりもそれを共有されているのだが、千棘(ちとげ)自身が第三者に話すというのが大事なのだ。

 それに事情を知らない(つぐみ)もいるので一石二鳥である。

 

「まさかお嬢が組織や街を守る為に、その身を犠牲にされていたとは……!」

「つぐみ……!」

 

 ヒシと抱き合う2人に、感動で涙ぐむ小咲(こさき)

 

「……ねえマイちゃん。小咲(こさき)は既に被害を受けてるんだから、怒ってもいい立場だと思うんだけど」

「仕方ない、というにはちょっと、両家の親の対応が(まず)いからねぇ」

 

 抗争を止めるためという(もっと)もらしいことを言っているが、実際にはどうだろうか。

 

 本当に抗争を止めるつもりがあるのなら、子供2人だけに任せている現状に説明がつかない。

 子供2人をくっつけるための方便でしかないのなら、部下たちの特にクロードの暴走を止めていないことに説明がつかない。

 

 2人の失敗を理由に抗争を起こしたいのか、下を制御できないほどトップに統率力が無いのか。

 

 

 

 

 まあ恐らくはお見合い的に『顔合わせは済んだから、後は若い者同士で……』という感じに軽く考えていて、現状を知りもしないし気にも留めていないだけなんだろうなぁ。

 

 過去の調査で知った2人の親に関する情報と照らし合わせつつ、そう推測する舞斗(まいと)であった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 目隠しをして座る(つぐみ)の前に、分解されてバラバラになった金属片が広げられる。

 

「準備はいいか? ……始め(スタート)!」

 

 ストップウォッチを持ったクロードの合図でそれに手を伸ばした彼女は、そのうちの一つを掴み上げると次々に他と合わせていき、瞬く間に元の自動式拳銃に組み上げる。

 

「ふむ……いいタイムだ。腕は落ちていないようだ」

 

 満足そうに頷くクロード。

 

「ところで例の集英組の二代目の様子はどうだ? 何か掴めそうか?」

「ぁ」

 

(忘れてたー!)

 

 

 新たな試練が迫っていた……はずだったのだが……

 

 

 






鬼切「友達思いで可愛い。豪放だけど聡明。そしてスタイルもいい。
   乱世でなければ間違いなくメインヒロインになれた存在……それが(つぐみ)誠士郎。
   蜻蛉(とんぼ)関はこういう()、好きでしょ?
   俺とこの()について土俵(コッチ)でちょっと語り合いません?」

蜻蛉「まぁ……そうだな。確かに性格や人柄が良いし気遣いもできるから、
   他の()にはできない距離感で接することができるってのは、魅力的だとは思うよ」

蜻蛉「今回の話(原作の方)でちょっとカッコイイとか思ったりする所は確かにおおっと思ったよ。
   でもあの()(らく)よりも千棘(ちとげ)の方が好きなんでしょ?」

蜻蛉「俺そっち方面はあんまり……」



幕下(こういう関取もいるのか……)



蜻蛉「丸さんはどう思う? この()についてなんか感じる事ある?」

丸サン「自分は彼女は(らく)千棘(ちとげ)と一緒にいるときが一番魅力的だと感じますね。
   お互いを信頼してるからこそできる、トゲのない優しい世界……
   そしてそこから生まれる新しい仕草や感情……」

丸サン「この三位一体にハマったら、もう他には戻れない(とうと)さ……
   転回(Uターン)するなら今のうちです」

丸サン「まぁそれでも、自分は(鶫の)先輩(ジェシカ姉さん)の事を押しますけどね」

蜻蛉「……なるほど」

蜻蛉「丸さんほどの実力者がそういうのなら……
   まずは話だけでも聞かせてもらおうじゃないの」



幕下(チョロいなこの人……)

幕下(そしていくら先輩キャラが居ないからって、それは無理スジだぜ丸さん……)



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