本当にせこい   作:七九六十

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14-5 進路相談(2)

 

 

 

 まあそんな、もはや絶対にあり得ない可能性の世界は置いといて。

 (らく)たちも落ち着いたようなので、気を取り直して進路の話に戻る。

 

「小野寺はやっぱり調理系の専門学校とかなのか?」

「私はるりちゃんと同じ姫知利(きちり)大だよ。ただ学部は違って、栄養学科だけどね」

 

 調理技術に関しては正直なところ、既に学校どころか下手な店では学べるものが無いのだ。

 ではなぜ料理人として就職するのではなく栄養学を、それも専門学校ではなく4年制大学で学ぶのかというと。

 

「これから先もダイエットや健康食ブームは何度も来ると思うから、ハッタリが利くようにって」

「は、はったり?」

 

 拳を握って主張する姿は可愛らしいが、彼女に似つかわしくない単語が飛びだしてきたため(らく)は驚いてしまう。

 

小咲(こさき)ちゃんたちは最近、商売につながりそうなことをやり始めてね。将来への布石だよ」

「元々はマイちゃんが思いつきで買ってくる調理器具がもったいないから、せめて使い心地を共有する情報提供サイトみたいなことを考えてたんだけどね」

 

 割といいお値段の調理器具が転がっているのを見ているうちに、その値段に見合う価値があるのか気になったというのもあるが。他の人が購入する際の参考になればと、その使い心地やどれだけ手間や味が変わるのかなどをまとめたWebサイトを作ったのだ。文章や写真だけでなく、実際に調理している動画も載せたところ、かなりのアクセス数になっている。

 

 ちなみに動画といっても顔出しではなく、調理する手元をメインに撮影した後に合成音声で解説を加えたものである。

 調理補助として(つぐみ)(はる)

 動画編集をポーラ。

 動画の構成と衣装などのデザイン関連を千棘(ちとげ)

 そして英語翻訳と海外からのコメントへの対応をるりが行っている。

 

「衣装?」

「手元しか映さないから、逆に衣装が大事なのよ」

 

 調理風景を目立たせつつ、代わり映えのない絵にしないために変化を付けているのだ。

 本当は化粧も込みで全身をコーディネートしたい千棘(ちとげ)であったが、さすがに顔出しのリスクは理解している。

 

「ただ調理や解説じゃなくて、無編集バージョンの調理音だけを聞きに来る人が意外に多いんですよね」

「聞いてて安心するというか、落ち着くのは分かるわね」

 

 (つぐみ)は疑問のようだが、るりの言う通り刺さる人には刺さるのだ。

 なんなら目覚まし用のアラーム代わりに使っている人もいるのだとか。すごく幸せな起床になるらしい。

 

 ちなみに調理音以外は例によってミッドバレイしているので、たとえ念能力者が聞いたとしても身元の特定には至らず安心である。

 

「あとはオマケの食事風景も人気ですよね。テーブルの上からやっぱり手元しか映してないのに」

「食べる量がおかしい系のコメントはもはやお約束になってるわね」

 

 そちらの動画にはポーラたちも出演している。

 ちょっと本来の目的から外れているが、楽しんでもらえているようだ。

 

「今は広告収入だけなんだけど、そのうち商品の宣伝として使わないかと企業に持ち掛けるつもりでね」

「……なるほど。見る人にとっても、依頼する企業にとってもハッタリがあったほうがいいのか」

 

 (らく)は深く(うなず)く。

 調理技術は動画を見れば一目瞭然である。これ以上はもはや不要である。

 ならば『栄養学を専門に学んでいる』という権威付けのために、わざわざ4年制大学に通うというのもありだろう。

 

「ちなみに私も小野寺様と一緒に栄養学科ですよ」

「ねー」

 

 2人で手を取り合って喜んでいる。

 (つぐみ)も将来の事を考えて、有資格者は複数居た方が良いだろうと小咲(こさき)と同じ進路を選んだのだ。

 

(つぐみ)は秘書になるとか言ってなかったか?」

「それは立場的なものであって、職業としてではないので」

 

 (つぐみ)の所属するビーハイブ(マフィア)舞斗(まいと)への伝手を残したい事もあってそういう話になったのだが。この場合に求められるのは一般的な秘書としての技能ではないため、専用の教育を受ける必要がなくなり時間を持て余すことになったのだ。

 ならばキャンパスライフを楽しむのも一興かと、小咲(こさき)と一緒に進学することにしたのだ。

 

「この流れで行くと、岬も同じか?」

「んー、大学はそうなんだけど、学科はまだちょっと迷っててね」

 

 あれ珍しいと(らく)が驚くのも無理はない。

 中学生の頃から基本的にセットで居るイメージだったので、大学生になっても同じだろうと思っていたのだ。

 小野寺はそれでいいのかと目線を向ける。

 

「大学が同じなら、学科の違いは部活や委員会の違いくらいなのかなって」

 

 通学は一緒にできるし、共通の講義なんかもあるだろう。昼食ももちろん一緒に取れるし、サークルへの参加も可能だ。それを考えれば、同じ学科にそこまで(こだわ)る必要はない。独りだと不安だったが、(つぐみ)も一緒に居てくれるので問題ない。るりが独りになるのは本人が勉学に集中したいと考えた結果だが、舞斗(まいと)が陰からこっそりとフォローするのでこちらも問題ない。

 

 そんな小咲(こさき)たちの将来設計を聞いた千棘(ちとげ)は、良いことを思いついたとばかりに手を打つ。

 

「だったら私と(らく)も行けば、また皆で一緒にいられるね!」

「おい、オレの進路を勝手に決めるな……」

 

 結局その結論に戻ってきた千棘(ちとげ)であるが、(らく)としてもその選択肢は有りかもしれないと考える。

 彼の本命は公務員試験であり、言ってしまえばどこの大学、学部、学科でもあまり関係が無い。専門色の強い配属先を希望しない限り、試験勉強に時間を割けるのであればどこでもいいのだ。

 

「そうねえ、(らく)ちゃんの今の成績なら、学科を選べば十分に合格圏内よ?」

 

 思わず担任である(ユイ)の方を見ると、彼女からは良い感じの反応が返ってくる。

 

 勉強時間の割に成績が伸び悩んでいた彼だったが、周囲に居るのは学年順位が一桁の猛者(もさ)ばかりである。彼女たちに教えを請い、根本的な勉強の仕方から改善を行った結果、今回のテストでは学年28位という好成績を収めたのだ。

 これからは受験に向けて周りも力を入れてくるので順位を上げるのは難しくなるが、それでも彼の成績は着実に伸びていくだろう。

 

姫知利(きちり)大か……」

 

 進路が具体的に決まり、同時に最近感じていた不安も解消し、(らく)は視界が急に明るくなったように感じた。

 人生はなんて素晴らしいんだ。

 今なら飼育小屋の連中にも死ぬほど懐かれるのではなかろうか。

 

「そういえば、卒業したら飼育小屋の子たちはどうするの? 学校に残す?」

「……来年、飼育委員に後輩が入ってくれればそうなるんだが……」

 

 現在の飼育委員は(らく)千棘(ちとげ)のみである。

 (らく)の評判から敬遠されているというのもあるが、そもそも小型とはいえワニの世話ができるはずもなく、今年は人が集まらなかったのだ。

 恐らく来年も無理であろう。

 

「まあ、ウチで引き取ることになるんだろーな」

「じゃあこれからもあの子たちの世話は続くのね」

 

 動物に好かれないが動物好きな(らく)である。幸いにも家の敷地は広く、世話をするだけの経済的な余裕もある。そしていつの間にかプロのような手際の良さを身に着けた千棘(ちとげ)もいる。

 

「いつもすまないねぇ」

「それは言わない約束でしょ」

 

 そんな無自覚にコントを行っている2人の横では、(ユイ)が手元の端末を使って調べ物をしている。

 

「社会人入試なんてのもあるのね……」

 

 彼女もまた将来、というか次にやりたいことが決まった。

 そのため具体的なプランを立てようとする中で、すでに社会人として働いている人を対象とした特別枠の入試があることを知る。

 すべての大学、学部にあるわけではなく、受験勉強に時間が割けないことを考慮してか面接や論文による評価が行われたり、日程が一般入試とは異なり秋ごろだったりする。

 ただし人気(にんき)のある大学だと一般入試よりも倍率が高かったりするので注意が必要だ。

 

「あ、でも年齢も勤続年数も条件を満たしてない?!」

 

 通常の浪人生と区別するためなのか、社会人入試には高卒資格の他にも条件が設定されている。それが年齢と勤続年数になり、大学によって異なるが例えば『22歳以上、勤続3年以上』のようになる。

 (ユイ)は現在20歳。来年の受験では21歳なので、この時点でアウトである。年齢的には3浪と同じであり、まだまだ普通に見かけるレアリティなので、一般入試で頑張ることになる。

 まあ、彼女の学力であれば何の問題も無いのだが。

 

 

 

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