まあそんな、もはや絶対にあり得ない可能性の世界は置いといて。
「小野寺はやっぱり調理系の専門学校とかなのか?」
「私はるりちゃんと同じ
調理技術に関しては正直なところ、既に学校どころか下手な店では学べるものが無いのだ。
ではなぜ料理人として就職するのではなく栄養学を、それも専門学校ではなく4年制大学で学ぶのかというと。
「これから先もダイエットや健康食ブームは何度も来ると思うから、ハッタリが利くようにって」
「は、はったり?」
拳を握って主張する姿は可愛らしいが、彼女に似つかわしくない単語が飛びだしてきたため
「
「元々はマイちゃんが思いつきで買ってくる調理器具がもったいないから、せめて使い心地を共有する情報提供サイトみたいなことを考えてたんだけどね」
割といいお値段の調理器具が転がっているのを見ているうちに、その値段に見合う価値があるのか気になったというのもあるが。他の人が購入する際の参考になればと、その使い心地やどれだけ手間や味が変わるのかなどをまとめたWebサイトを作ったのだ。文章や写真だけでなく、実際に調理している動画も載せたところ、かなりのアクセス数になっている。
ちなみに動画といっても顔出しではなく、調理する手元をメインに撮影した後に合成音声で解説を加えたものである。
調理補助として
動画編集をポーラ。
動画の構成と衣装などのデザイン関連を
そして英語翻訳と海外からのコメントへの対応をるりが行っている。
「衣装?」
「手元しか映さないから、逆に衣装が大事なのよ」
調理風景を目立たせつつ、代わり映えのない絵にしないために変化を付けているのだ。
本当は化粧も込みで全身をコーディネートしたい
「ただ調理や解説じゃなくて、無編集バージョンの調理音だけを聞きに来る人が意外に多いんですよね」
「聞いてて安心するというか、落ち着くのは分かるわね」
なんなら目覚まし用のアラーム代わりに使っている人もいるのだとか。すごく幸せな起床になるらしい。
ちなみに調理音以外は例によってミッドバレイしているので、たとえ念能力者が聞いたとしても身元の特定には至らず安心である。
「あとはオマケの食事風景も人気ですよね。テーブルの上からやっぱり手元しか映してないのに」
「食べる量がおかしい系のコメントはもはやお約束になってるわね」
そちらの動画にはポーラたちも出演している。
ちょっと本来の目的から外れているが、楽しんでもらえているようだ。
「今は広告収入だけなんだけど、そのうち商品の宣伝として使わないかと企業に持ち掛けるつもりでね」
「……なるほど。見る人にとっても、依頼する企業にとってもハッタリがあったほうがいいのか」
調理技術は動画を見れば一目瞭然である。これ以上はもはや不要である。
ならば『栄養学を専門に学んでいる』という権威付けのために、わざわざ4年制大学に通うというのもありだろう。
「ちなみに私も小野寺様と一緒に栄養学科ですよ」
「ねー」
2人で手を取り合って喜んでいる。
「
「それは立場的なものであって、職業としてではないので」
ならばキャンパスライフを楽しむのも一興かと、
「この流れで行くと、岬も同じか?」
「んー、大学はそうなんだけど、学科はまだちょっと迷っててね」
あれ珍しいと
中学生の頃から基本的にセットで居るイメージだったので、大学生になっても同じだろうと思っていたのだ。
小野寺はそれでいいのかと目線を向ける。
「大学が同じなら、学科の違いは部活や委員会の違いくらいなのかなって」
通学は一緒にできるし、共通の講義なんかもあるだろう。昼食ももちろん一緒に取れるし、サークルへの参加も可能だ。それを考えれば、同じ学科にそこまで
そんな
「だったら私と
「おい、オレの進路を勝手に決めるな……」
結局その結論に戻ってきた
彼の本命は公務員試験であり、言ってしまえばどこの大学、学部、学科でもあまり関係が無い。専門色の強い配属先を希望しない限り、試験勉強に時間を割けるのであればどこでもいいのだ。
「そうねえ、
思わず担任である
勉強時間の割に成績が伸び悩んでいた彼だったが、周囲に居るのは学年順位が一桁の
これからは受験に向けて周りも力を入れてくるので順位を上げるのは難しくなるが、それでも彼の成績は着実に伸びていくだろう。
「
進路が具体的に決まり、同時に最近感じていた不安も解消し、
人生はなんて素晴らしいんだ。
今なら飼育小屋の連中にも死ぬほど懐かれるのではなかろうか。
「そういえば、卒業したら飼育小屋の子たちはどうするの? 学校に残す?」
「……来年、飼育委員に後輩が入ってくれればそうなるんだが……」
現在の飼育委員は
恐らく来年も無理であろう。
「まあ、ウチで引き取ることになるんだろーな」
「じゃあこれからもあの子たちの世話は続くのね」
動物に好かれないが動物好きな
「いつもすまないねぇ」
「それは言わない約束でしょ」
そんな無自覚にコントを行っている2人の横では、
「社会人入試なんてのもあるのね……」
彼女もまた将来、というか次にやりたいことが決まった。
そのため具体的なプランを立てようとする中で、すでに社会人として働いている人を対象とした特別枠の入試があることを知る。
すべての大学、学部にあるわけではなく、受験勉強に時間が割けないことを考慮してか面接や論文による評価が行われたり、日程が一般入試とは異なり秋ごろだったりする。
ただし
「あ、でも年齢も勤続年数も条件を満たしてない?!」
通常の浪人生と区別するためなのか、社会人入試には高卒資格の他にも条件が設定されている。それが年齢と勤続年数になり、大学によって異なるが例えば『22歳以上、勤続3年以上』のようになる。
まあ、彼女の学力であれば何の問題も無いのだが。