本当にせこい   作:七九六十

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14-7 おしまい

 

 

 

 まあこの世界の謎について、いまさら真面目に向き合っても仕方がない。

 なのでここは歌って忘れるに限る。

 

「となれば一条の持ちネタ、水戸黄門の主題歌で」

「持ちネタじゃねーよ。いや、歌うけどさ」

「あ、私も歌う!」

 

 マイクを持って立ち上がった演歌が十八番(おはこ)(らく)に、千棘(ちとげ)が続く。

 

「じゃあ私も……」

首領(ドン)话筒(マイク)を握たら駄目ね」

 

 (ユイ)も続こうとしたが、護衛である(イエ)の手によって危険から遠ざけられる。

 実に優秀である。

 

「なんでポーラさんはタンブリンを?」

(はる)にマラカスを取られたからよ」

「……え、これタン()リンじゃないの?」

千花(ちか)様、その発言は年齢がバレてしまいます」

 

 (はる)とポーラは鳴り物を手に構える。

 ついでに千花(ちか)と本田にも、手近にあったトライアングルと木魚が渡される。

 

「では私はバックコーラスを」

「お願いだから(つぐみ)ちゃん、どんぐりころころと混ぜないでね?」

 

 歌唱力に定評のある(つぐみ)であるが、どこかの誰かさんの影響でネタに走りやすいという悪癖がある。

 るりもそれを止める割に、後でネタに使えるかもと撮影の準備をしているあたり大概である。

 

 

 

 特徴的な前奏が始まり、鳴り物部隊が好き勝手に楽器を打ち鳴らす。

 マイクを持った主役2人が歌い、それに合わせて周囲から歌声と歓声が響く。

 

 そんな盛り上がりとは裏腹に、独り静かに(たたず)む少女が居た。

 

小咲(こさき)ちゃん?」

 

 舞斗(まいと)は少し不安になる。

 彼女はこの中で唯一、孤独を恐れるのに孤独を選べる人間である。

 (らく)の話で始まった今回の話題、そのどこかでスイッチが入ってしまったのではと心配する。

 

「……ねえ、マイちゃん」

 

 小咲(こさき)はゆっくりとした動作で近づくと、そのまま舞斗(まいと)の身体を抱きしめる。

 これは不味いかと、念のため舞斗(まいと)の方からもしっかり抱きしめる。

 

「……あのね、私は今、幸せだなって」

 

 どうやら心配は杞憂だったらしい。いや、まだ油断できないか。

 

「この2年間、すっごく楽しかったの。それで、これからもそれが続いていくってなって、もしかしたらこれは夢なんじゃないかって不安になって……」

 

 高校に入学してしばらくは、それまでと変わらない穏やかな時間だった。

 それが千棘(ちとげ)が転校してきたのを皮切りに、大きな変化が起きたのだ。

 しかも悪い方向に、である。

 

 それまでも仲の良いクラスメートとの別れに淋しさを感じたことはあったが、特別親しい人との縁が切れるというのはその比では無かった。

 だから、これ以上は失いたくないと、舞斗(まいと)とるりの手を取ったのだ。

 

 そうしたら何故か、今ではこんなに大勢で楽しく過ごしているのである。

 幸せであると同時に、本当にこれは現実なのかと不安にもなるのだ。

 

「じゃあ一緒に初代バイオのエンディングでも歌う?」

「あれはどっちかというと、夢で終わらせたい、じゃないかな?」

 

 あっちはどう考えても悪夢である。

 夢で終わるなら、それに越したことは無い。

 

 まあそんな冗談は置いといて。

 

「心配しなくても大丈夫だよ、小咲(こさき)ちゃん。これは夢じゃないし、これからもずっと楽しい毎日が続いていくから」

 

 小咲(こさき)に言い聞かせるようゆっくりと、そしてはっきりと断言する。

 今の状況は突然湧いて出たものではなく、彼女の日々の積み重ねによるものである。

 だから、そう簡単には無くならないのだ。

 

 それに夢オチは1回別でやっているので、もうやる必要が無いという意味でも大丈夫である。

 

「ここにいる皆も、小咲(こさき)ちゃんの前から居なくなったりしないから」

 

 ちなみに現在の愉快な連中はというと(らく)千棘(ちとげ)のターンは終わり、るりと(つぐみ)が同じく水戸黄門を英語版で、ユーロビートremixなノリで歌って盛り上がっている。

 

「……マイちゃんも一緒に居てくれる?」

「もちろん」

「一緒に双戦舞(ダブルアーツ)も……」

「それは打ち切りになりそうだからダメ」

 

 思えばそのころから端々に悪意というか、構成の(ほころ)びが目立っており、長期連載に向かない感が出ていたような気がする。

 

「もう小咲(こさき)ちゃんは独りになれないから。覚悟してね?」

「…………うん」

 

 舞斗(まいと)(なだ)められ、小咲(こさき)がようやく落ち着きを取り戻したころ。

 歌い終わったるりと(つぐみ)はアイドル引退を宣言し、マイクを置いた。

 

 それと同時に、動き出す者たちが居る。

 

(イエ)ちゃん、私たちは中国語で対抗よ!」

「だから话筒(マイク)は駄目ね」

 

 (ユイ)が張り切るも(イエ)に水を差される。

 

「では千花(ちか)様、我々は博多弁でいきましょう」

「それはいいけど、私たちは別に方言キャラってわけじゃないわよ?」

「そのギャップ狙いです」

「なるほど」

 

 年長組の本田と千花(ちか)がよく分からない方向に進もうとしている。

 

「ポーラさんどうしよ、私たちの使える属性って何かないかな」

「うーん、年下とか?」

「………………よし、『まんが水戸黄門』のオープニングで!」

「それは逆方向じゃないかしら?」

 

 年少組の(はる)とポーラがこれまたよく分からない方向に進もうとしている。

 

 すでに歌い終えている(らく)千棘(ちとげ)、るりと(つぐみ)のペアは腕組みをしてその光景を見ており、挑戦者を待ち構えるかのように不敵な笑みを浮かべている。

 

「いつの間にか、変な流れができてるね」

「まったく、ちょっと目を離すとこれだから……」

 

 自分のことは棚に放り投げる。

 舞斗(まいと)は抱きしめていた小咲(こさき)の身体を離すと、改めて手を差し伸べる。

 

「じゃあ、俺たちも行こうか」

「うん!」

 

 小咲(こさき)はその手をしっかりと握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 ────むかしむかしあるところに 2つの王国がありました

 

 2つの国の王子さまとお姫さまはとっても仲良し

 

 2人は大きくなったら結婚しようと約束していたのでした

 

 

 

 ……ですがある日 2つの国で戦争が起きて2人は(はな)(ばな)れになってしまうのです

 

 

 

 お別れの日にお姫さまは言いました

 

「ザクシャインラブ」

 

 あなたは『(じょう)』を 私は『(かぎ)』を肌身離さず ずっと大切に持っていましょう

 

 いつか2人が再会したらこの(かぎ)でその中の物を取り出して 幸せに暮らしましょう

 

 

 

 2人は(かぎ)の付いたペンダントの中に宝物をしまって 再会を誓って別れたのでした

 

 

 

 (はな)(ばな)れになった2人は会いたくて仕方ありません

 

 王子さまはたまらず走り出しました

 

 野を越え山を越え 王子さまはお姫さまの下へ向かいます

 

 お姫さまの所へはもう一息です しかし……

 

 

 

 なんということでしょう

 

 お姫さまのお城が燃えているではありませんか

 

 王子さまは疲れも忘れて走り出しました

 

 ですが残念なことに お姫さまはすでに亡くなっていました

 

 王子さまは大声でわんわんと泣きました

 

 

 

「ザクシャ・イン・ラブ」

 

 王子さまはそう言うと お姫さまが大事そうにかかえた手から(かぎ)を受けとり 自分の(じょう)に差し込みました

 

 すると(じょう)はいきおいよく開いて 中から2人の名前の入ったまほうの指輪が出てきました

 

 王子さまが2人の指に指輪を付けると天使が現れて

 

「かわいそうな王子さま」

 

「私たちがお姫さまに会わせてあげましょう」

 

 そういうと王子さまを天国へ連れて行っておひめさまをいきかえらせてくれました

 

 

 

 王子さまとお姫さまは天国で幸せに暮らしたのでした

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ザクシャ・イン・ラブ」

 

 王子さまはそう言うと お姫さまが大事そうにかかえた手から(かぎ)を受けとり 自分の(じょう)に差し込みました

 

 すると(じょう)はいきおいよく開いて 中から2人の名前の入った魔法の指輪が出てきました

 

 王子さまが2人の指に指輪を付けると天使が現れて

 

「かわいそうな王子さま」

 

「私たちがお姫さまに会わせてあげましょう」

 

 そういうとお姫さまを生き返らせてくれました

 

 

 

 王子さまとお姫さまは幸せに暮らしたのでした

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ザクシャ・イン・ラブ」

 

 王子さまはそう言うと お姫さまが大事そうにかかえた手から(かぎ)を受けとり 自分の(じょう)に差し込みました

 

 すると(じょう)はいきおいよく開いて 中から2人の名前の入った魔法の指輪が出てきました

 

 王子さまが2人の指に指輪を付けると天使が現れて

 

「かわいそうな王子さま」

 

「私たちがお姫さまに会わせてあげましょう」

 

 そういうとお姫さまを生き返らせてくれました

 

 

 

 王子さまとお姫さまは幸せに暮らしたのでした

 

 

 

 おしまい

 

 

 

 

 

 

 






『……で、結局好きと言わずじまいか!?』

『ヘタレ』

千棘(ちとげ)「一生かけて、言わせてみせるわ!」

(らく) 「さすがに、いまわの際まで引っ張ることはないと……思う……たぶん」


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