本当にせこい   作:七九六十

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原作:第21話キズアト~第25話ヨビカタ まで

・林間学校編。何故か男女で同室。
・今回の肝試しのような、千棘(ちとげ)をヒロインにするために小咲(こさき)に損をさせる流れはちょっと……




03 - ヨビカタ
03-01 林間学校 導入


 

 

 

「~♪」

 

 明日から2泊3日で行われる林間学校。千棘(ちとげ)はそのための荷物をまとめていた。

 仲のいい友達が出来て充実した学校生活を送り、また彼女たちのアドバイスにより(らく)と無駄に衝突する回数も減っており、それどころか少しずつ仲が深まってきている。

 

 彼女は今、毎日が楽しくて仕方が無かった。

 

「他に何持ってこうかな~」

 

 鼻歌交じりにクローゼットを開くと、お約束のように中身があふれ出てきて彼女を襲う。

 

「いたた……ん?」

 

 その中にひときわ目を引くモノがあった。

 それは彼女が5歳の時に書いた日記帳のようであった。

 

「……でもなんで日本語で書いてあるんだろ」

 

 日本語自体は両親に習っていたため、書くことはできただろう。

 しかし、わざわざ日本語を使った理由は?

 もしかしたらこの時の自分は日本に居たのだろうか───────

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 翌土曜日。凡矢理(ぼんやり)高校の1年生は林間学校である。

 

「おや? 千棘(ちとげ)ちゃんの様子が……」

 

 何か考え事でもしていたのか、集合場所では上の空だった彼女がバスに乗り込み、(らく)の横に座ったとたん様子が変化した。

 そわそわとして落ち着かず、チラチラと(らく)の方を見ている。

 

 以前とは違い最近の2人の関係は良好で、それどころかふとした拍子に身体が接触すると千棘(ちとげ)が急に真っ赤になって黙りこくってしまう、なんて初々しい状況になっている。

 その変化があった前日に『彼氏(らく)が風邪をひいたので彼女(ちとげ)がお見舞いに』なんてイベントがあったので、そこで何かあったのだろうと周囲は推測している。

 

 本人たちが(くち)で言うほどラブラブカップルには見えていなかった2人だが、お付き合いまで秒読み段階くらいには進歩したんだなぁとクラスからは温かく(ニヤニヤと)見守られている。

 

「実は昨日、昔の日記を読み返していたようで……」

「ふむ」

 

 舞斗(まいと)の横に座っていた(つぐみ)が答える。

 千棘(ちとげ)が5歳のときの、初恋のエピソードが(つづ)られた日記。(つぐみ)は何が書かれているかまでは知らないが、当時も一緒に居たためおおよそのことは把握できている。

 そこから導き出した結論としては、日記を読んで当時の心情がよみがえり、今の気持ちと合わさって整理できていないのでは、というものだった。

 

千棘(ちとげ)ちゃん、カワイイね」

小咲(こさき)、前向いて座ってないと危ないわよ」

 

 一つ前の座席にいる小咲(こさき)が身を乗り出してくる。

 思わず『小咲(こさき)ちゃんもカワイイよ』と返しそうになった舞斗(まいと)だが、同時に『小咲(こさき)ちゃんも本来なら当事者なんだけどね、現在も過去も』とも思ってしまう。

 

 千棘(ちとげ)が首から下げていた『(かぎ)』に、目ざとい舞斗(まいと)は気付いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「よーし、みんなよく聞けよー!」

 

 担任の号令によって最初のイベントである飯盒炊さん、カレー作りが始まる。

 料理というキーワードに反応し、すぐさま千棘(ちとげ)のほうに振り返る(らく)であったが。

 

「まーまー、慌てない慌てない」

「い、いやでも、桐崎に任せるとトンでもねーめに!」

 

 生命の危機だと騒ぐ彼を、一休み一休みと落ち着いた様子の一休(いっきゅう)さんもとい舞斗(まいと)が止める。

 

千棘(ちとげ)ちゃんみたいに感覚で動く人が料理を失敗するのって、自分のイメージと現実にギャップがあるからなんだよね」

 

 例えば調理実習の時に薄力粉90gを用意しようとして、計りの上で袋をいきなり逆さまにしていたこと。

 これは90gの薄力粉がどのような見た目になるのか、袋の傾きによってどのくらいの勢いで出てくるのかという知識が足りない状態で、『計りの上に粉が山盛りになっていて、針が90gを指している』というゴールに向かった結果だ。

 フライパンが火柱を上げたのも、コンロの火力に対する知識、何がどのように燃えるのかという知識が足りない状態で、『確かこんな感じでやっていたはず』という漠然としたイメージに沿って実行した結果である。

 

 だから、視覚的にどうなるのか、手に加える力は実際にはどのくらいなのか、というのを一つ一つ体験して学ぶ必要があるのだ。

 

小咲(こさき)ちゃんも昔はそんな感じでね。それが今では本職にも勝る料理上手だ。彼女に任せておけば大丈夫だよ。

 (つぐみ)ちゃんも料理は上手いし、るりちゃんもまあそれなりにできる」

 

 この手のタイプは一度感覚を掴むと成長が早い。

 無論その先にはそれを理屈として落とし込まないと超えられない壁というものが待っているが、そのレベルが必要になるのは極々限られた人間だけである。

 

「それに、多少の失敗は楽しもうよ。『あのときのカレー、不味かったよな』って笑えるような思い出って、こういうときにしか作れないものだしさ」

「………………そうか。そう、だよな」

 

 舞斗(まいと)の笑顔に少しドキッとしつつも、(らく)は楽しそうに盛り上がっている千棘(ちとげ)たちを見やる。

 心に余裕を持って、何事も楽しむのが吉である。

 

「よし、じゃあオレたちはこっちをやるか」

「だね」

 

 自分たちは飯盒の準備を始める。

 どんなにおいしいカレーが出来ても、ご飯がダメなら台無しになる。

 また逆に、多少カレーが不味くとも、ご飯が良ければなんとかなる。少なくとも腹は膨れる。腹が膨れれば心も満たされる。

 そんな大事な作業に、自分たちは集中するのだ。

 

「……………………いろいろと、ありがとな」

「ん?」

「いや、最近、だけじゃないけど、世話になってばっかだなって」

 

 千棘(ちとげ)秘密(ニセコイ)を共有した相手として舞斗(まいと)たちを連れて来るのは予想できていたが、そこからの変化は彼の想像を超えたものになった。

 

 

 『ラブラブカップル』を演ずるのに、2人きりでいる必要はない。

 言われてみれば当たり前だが、まさに目から鱗だった。

 

 

 世の中にはグループデートというものがあるんだから、(つぐみ)ちゃんが男だと勘違いされているのを利用して、みんなで遊べばいい。

 何か言われたら、大勢の中で2人の世界を作れるからこそ、ラブラブカップルなんだと言い返してやればいい。

 

 屁理屈ではあるが、そう言われて随分楽になったのも確かである。

 余裕ができたことで落ち着いて桐崎千棘(ちとげ)に向かい合うことができ、新たな一面に気付くことができた。関係は一歩一歩ではあるが、着実に進んでいる。

 

『いや進めちゃダメじゃん! オレには小野寺がーっ! いやでも桐崎(こいつ)桐崎(こいつ)でカワイイしぃー!』

 

 という新しい葛藤が生まれてしまったが。

 

「問題への対処としては一条の考え方のほうが正しい時もあるから、参考程度にね? 物事に正面から向き合うそのやり方、俺は好きだし」

 

 そういう意味ではないと分かっていても、カワイイ子から好きだといわれて再び鼓動が跳ね上がる。

 これ以上悩みを増やさないで欲しい。(らく)はそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

「……それにしても、薪から上がる炎って、なんでこんなにカッコいいんだろうな」

「ずっと見てられるよね」

 

 彼らは決して、サボっているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「おお~! ここが今日オレたちの泊まる部屋か~!」

「舞子君は違うでしょ」

「帰れ」

「いやぁるりちゃんも誠士郎ちゃんも手厳しー!」

 

 各班ごとに割り当てられた部屋に荷物を運びこむ一同。

 林間学校なのだから『○○青少年自然の家』とかいう系列ホテルと思いきや、旅館の立派な和室が用意されていた。

 

「いや~(らく)(うらや)ましいなぁー! クラスどころか学校のキレイどころを5……いや4人も(はべ)らせてー!」

「いてーよ、つつくな」

 

 テンション高く(らく)とじゃれている(しゅう)であったが、彼はこの班のメンバーではないので、無論同室でもない。

 この班は(らく)千棘(ちとげ)小咲(こさき)・るり・(つぐみ)、そして舞斗(まいと)の6人である。

 

 というのも事前の班決めにおいて、まず小咲(こさき)・るり・舞斗(まいと)の3人がまとまり、次いで千棘(ちとげ)(つぐみ)のペアが合流した。

 そして表向き『ラブラブカップル』なので一緒じゃないのは不自然だろうと、千棘(ちとげ)(らく)を連れ込んだのだ。

 ちなみに(らく)は元から小咲(こさき)たちと組む予定だったのだが、事前に舞斗(まいと)から『合流は少し待って』という謎の指示を受けていたせいで、千棘(ちとげ)言い訳(照れ隠し)を聞かされるはめになっていたりする。

 

 

 

 そしてそのときに何食わぬ顔をして混ざってきたのが(しゅう)である。

 当初は(らく)の幼馴染ということもあって彼を加えた7人の班にしようかとも考えられたが、『(らく)を出しに、あわよくば自分が』という魂胆が透けて見えたので、今の6人に落ち着いたのだ。

 

「さ~てどうする? まだ自由時間あるし、せっかくだからトランプでもやんない?」

「だから、自分の班に戻りなさいよ」

 

 先ほどるりに仕掛けたイジリが不発だったのは残念だが、彼はそれをおくびにも出さずに続ける。

 

「普通にやってもつまんねぇし、負けた奴は罰ゲームってのはどーよ? 負けた人は自分のスリーサイッ?!」

「……まあ、(しゅう)の自業自得だわな」

 

 満面の笑みで自分の欲望を(くち)に出そうとしていたところを、横から舞斗(まいと)の拳が打ち抜いた。

 

「夕食の直前に目が覚めるよう、調整しておいたから」

「さすがはマイちゃん様です」

 

 パチパチと拍手する(つぐみ)

 

 別にセクハラ発言が悪いわけではない。いや社会的には悪いのだが。

 それだけなら舞斗(まいと)だってよくやるし、何なら発言だけでなく行動がともなう分、より悪質ともいえる。

 ただ違うのは、舞斗(まいと)は『相手を傷つけない・自分だけが楽しむために行う』のに対し、(しゅう)は『相手が傷つくことを考慮しない・衆目に(さら)すことに抵抗が無い』という点である。

 

 まあ要は、同族嫌悪の末に強いほうが生き残った。ただそれだけの話である。

 

「せっかくだし、トランプやろっか」

小咲(こさき)ちゃんも動じないわね……」

 

 (つぐみ)には見えていたようだが、他からは(しゅう)が突然崩れ落ちたようにしか見えておらず、普通なら慌てるべきところである。

 そんな中で平然とトランプを取り出す小咲(こさき)に、少し戦慄を覚える千棘(ちとげ)であった。

 とはいえ彼女としても、みんなで仲良くトランプを楽しむことに異論なぞ欠片も無いのだが。

 

 

 

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