諸君! 私は魔法が好きだ! どの様な原理で発動するのか、使える者と使えない者にはどの様な差があるのか、魔力系や信仰系、ドルイドが使う物はどの様に違うのか! 謎を語れば限り無く! そして魅力は尽きはしない!
魔法が軽視されるリ・エスティーゼ王国の出身ながら両親共に魔法を使える冒険者だった私は幼い頃から魔法に興味を示し、未知の魔法への憧れだけでなくとある願望も持っていた。
自らの手で究極とも呼べる魔法を作り出してみたい、と。
やがて成長した私は既に亡き両親の遺産を元に研究をしつつ冒険者となって金を稼ぎ、それで更なる研究を進めたのだ。
「そんな訳でこれは究極への第一歩なのだよ、ヘジンマール」
「何か耳元で嫌な音がするって言うか全身を虫が這い回る感覚がっ!?」
カッツェ平野の地下に作った秘密の研究所、そこで私は助手二号である太り気味なフロスト・ドラゴンに使ったのは羽虫に集られる幻覚を与える魔法(正式名称未定)。
第一助手にはこっち方面は影響が薄いからな。無性に甘い物が食べたくなる魔法を使ったら流石に怒られたが。
「この魔法、何の意味があるんですか?」
「知らん! 何か思い付いたから作っただけだ!」
むむむ、知識欲が旺盛な癖に役に立つか立たないかを気にするとは甘いぞ。何かに結び付かずとも可能性を見出したから研究した、それだけで良いだろうに!
思い付いた研究を好きな様に行いたいから帝国ではなく王国に留まっている私だが、ヘジンマールの反応を見れば然もありなん、だ。
「さて、次の研究は……の前に資金が尽きた。飯代すら足りん」
「あんなにあったのに!? 何やってるんですか、先生!?」
五月蝿い、研究なんて金食い虫だ。それと詰め寄るな、お前に轢かれたら普通に大怪我するから。連徹は平気でも普通に貧弱なんだよ、こっちは。
「それでどうするんですか? またエ・ランテルでも行って依頼受けます?」
「ふふん。その事なら抜かり無い。最近私の作るアレに興味を示した商人……が居てな。幾つか欲しがったので売る事にした!」
「何か途中で含みもってません? また怪しい連中に関わる気じゃないですよね!?」
相変わらず気が弱い奴だ。宝目当てで忍び込んだ先で意気投合したから連れて来てやったと言うのに。まあ、どうも商人と我儘なお嬢様というには違和感があったのは確かだ。
私の直感がヤベー相手だから敵対するなと告げていたしな!
「その前に死にたての死体が落ちてないか調べねば。エルフとか良いな!」
「まーた死体趣味ですか。そんなのがあるとか知りたくなかった知識だよ……」
何故か引かれているが、別に性癖程度で其処迄反応するか? 良いじゃないか、別に腐乱死体に欲情する訳でもないし、自分で殺している訳でもないのだから。
「普通に商売でやってる人に相手してもらったら良いのに」
「金が掛かる。拾った死体なら無料だし、ちゃんと痛む前に埋葬してるから問題無い」
「倫理的な問題は……」
未だ文句があるのかブツブツ言っているヘジンマールの表情が固まる。視線の先に居たのは眼鏡を掛けた人外で……。
「やあ。君が……」
声色は柔らかいが視線に宿るのはこっちを見下した感じと探るのを合わせた感じ。そもそも隠している入り口から平然と入って今漸く気が付くとか確実に上位の存在だ。
「それで労働条件を聞こう。私はどんな研究をすれば良い? 自由こそが私の発想力を引き出すと告げた上で聞こうじゃないか」
なので余計なやり取りは省こう。私はその辺の紙とペンを手に取る。聞き間違いとか怖いからな。メモしなきゃ。
「何をやってるんですか、アンタはぁあああああああっ!?」
余裕ぶって現れた相手が私の言葉に少しだけ驚きを見せる中、ヘジンマールは相変わらず五月蝿かった。仕方無いだろう、相手はヤバい奴なんだから。
「……成る程。そのドラゴンの反応などを参考に私の力を察し、態度と言葉から目的を導き出したのだね」
「明らかに私がどんな奴なのか知って尋ねて来て、出会い頭に拐わない辺りで矜持とか美学から力を振り翳し好き勝手するタイプじゃない主人が居るとも思ってな。断ったら殺されそうだし、従うなら無駄は省こうと」
現れた男はやはり悪魔でデミウルゴスと名乗った。俺が市場に流したマジックアイテムから噂を仕入れて此処迄やって来たという訳だ。
「そこのドラゴン、ヘジンマールだったかな? 彼は基本こんなのなのかい?」
「は、はい! 基本的にこんなのです!」
スポンサーになってもらうのだから一旦渡しておいた研究レポート、作った時点で興味が失せたので名前が無い物が殆どの作った魔法についてのそれをペラペラ捲って流し読みし、時折興味深そうにしたり困惑しながらも手は止まらない。
よっし! 出会の時点で興味は引けたし、首の皮は繋がった! 正直漏れそうだし、ヘジンマールは少し漏らしてる。死んだら研究が続けられないし、アンデッドになっても思考パターンが変わるからな。
アンデッドの思考で作る魔法は人間の思考で十分作ってからが良い。
「おや? この魔法だが名前が付いているね。ナイトメア……効果は願望が叶った夢を見せる? これで何故この様な名前に? 絶好のタイミングで突き落とされるのかね?」
「いや、失った家族と暮らす日々、誤った選択肢を選ばなかった人生、成功続きの毎日。そんな夢を見る事が出来る魔法なのだが……発明した聖王国で逆恨みをされて」
研究の為に訪れたら防衛戦に巻き込まれて、亜人の死体が触媒に使えるからって機嫌が良いから滞在している時に実験に協力してもらったのだが、何奴も此奴もたかが夢にどハマりして役立たずになりおって。
「お陰で視察に来た騎士団長に殺され掛けた。まさしく悪夢だ」
「成る程。愚か者共に巻き込まれたという訳か」
「じゃあ、取り敢えずサンプル品渡すんで其方の……えっと、陛下? 猊下? それとも悪魔の王だから魔王様?」
おっと、ここに来て大ピンチ。下手な呼び方をすると不敬だと怒られそうだ。こんなデコピン一発で頭が弾け飛びそうな化け物相手に下手な事は言えないな。
「君を見定める為に口にはしなかったが、我々は至高の御方とお呼びさせていただいているよ。では、御方の許可が出たら本格的に出資をしようじゃないか」
私が渡したケースと研究資料を受け取ってデミウルゴスは去っていく。ヘジンマールと顔を見合わせ、目で未だ見張っている可能性を伝えて漸く一息付いた。
「あのヤバいの何なんですか!? 服とか宝物庫にすら入ってなかったですよ!?」
「大陸の中央や反対側、もしくは別の大陸から来たか……六大神の伝承みたいに異世界から来た存在かも知れん。まあ、こっちが下手打たないでも都合一つでブチっと潰せる相手だから逆に警戒しなくて良いだろう」
「逆に!?」
「取り敢えず敬意は払っておけば良い。警戒しても無駄だから」
さてさて、お気に召して出資してくれれば良いのだが……。
「ほぅ。これが例の指輪か」
「はっ! 既に実験は済ましていますが、情報通りMPさえあれば誰でも使える様です」
ナザリック大墳墓の玉座の間にて主人であるアインズはデミウルゴスから差し出された指輪を手に取る。今後の運営で頭を悩ませるスクロールの補充の問題だが、手にしている指輪はそれを解決する可能性があった。
「職業別の適正を無視しMPさえあれば誰でも使え、物理的な破壊さえしなければ使用による破壊は無し、か。独自に開発した魔法も含めて天才とは居るものだ。宜しい。プレイヤーに関わる可能性を考慮して監視しつつ支援をしてやれ」
「はっ!」
「しかし随分と変わり者らしい。性格的には異形種の割合が強そう……む?」
指輪は全部で十個。五個はこの世界では使えるだけで称賛の的となる第三位階の魔法だが、残り五個は作った理由が分からない変な効果の物ばかり。そんな中、目に付いた物が一つ……。
「味覚を共有させる魔法か」
「アインズ様、どうかされましたか?」
アインズがアバターの姿を得る前、食事には基本的に無頓着であった。元が荒廃した世界で庶民が手に入れられる食材だ。栄養以外に興味が失くなっても当然。だが、食べる事が不可能になってから新鮮で豪華な食材が一流の料理人によって調理される環境となった。
アンデッドには食欲無いから別に良いけれど……、
だが、今まさに味わう絶好の機会がやって来た! 問題は支配者が食欲に流されるのは情けないという認識だったが……。
「時に部下と食事を通して交流を深めるのも重要だろう。デミウルゴス、後で一緒にどうだ?」
これなら問題無いだろう! アルベドが別件で席を外していなかったら少し面倒な事になっただろうが、兎に角今日は美食と美酒を楽しもうとウキウキになり、直ぐに沈静化された。
そして食後……。
「凄く美味しかったなあ。……食べ足りないけれど」
ショック! 味は感じても食感と満腹感は無かった!
そっちも感じ取れる魔法を頼むべきか本気で悩むアインズであった。
因みにナイトメアをナザリック勢に使用した場合、アルベドとパンドラ以外はこうなります
「皆(様)! あ痛っ! そうか、転んで痛いってことは夢じゃないんだ。皆(様)が居なくなったあっちが夢……」
みたいに某アフロ骸骨の五十年間の間の夢みたいになります