「大丈夫。ええ、優秀な殿方を勧誘するだけですし、第六位階は人間の限界という聖女王自ら誠意を見せるに値する方ですから」
夜の王城にてカルカが護衛も付けずに歩いていた。普段ならば侍女なりを権威の為にも引き連れているのが当然ではあるのだが、この時は高位の信仰系魔法詠唱者としての身体能力と魔法を駆使して部屋を抜け出したのだ。
向かった先は客室、ギーシュ達に当てがわれた部屋だ。
シャルティアは女性という事で隣に部屋が用意され、ヘジンマールも聖王国と取引がある一部のドラゴンの為に用意された場所に泊まる事になっている。
デイバーノックが泊まる事には大勢から反対があったものの、そんなの知るかとばかりにカルカが色々な理由を付けて一喝で黙らせた。大勢の怪我人に手を拱いた中、たった一人で千人単位を救った者が従えるアンデッドなのだからとギーシュを引き留める為に頑張った。
「夜景の綺麗な場所で我が国の美しさを教えて、それから国にずっと居て欲しいとお願い致しましょう。実力に見合うだけの地位を用意して、働きを見ていればレメディオスだって認めるでしょうし」
その後は折を見て、と妄想の世界に入り込むカルカ。生憎最低限の教育でしか男女の営みについて知らず、立場や周囲のレメディオス等の影響で異性との触れ合いには無縁だった喪女な為か妄想は自分に都合の良い展開が自然と繰り広げられている。
異性に縁が無さ過ぎる影響だろう。
実際は死んでないので選外で、聖棍棒になった状態で死んだ場合は綺麗じゃないのでそういった目では見られず、何なら今現在与えられた部屋で濃厚なキスをしながら激しく腰を振っている真っ最中。
カルマ値は高くても男運は低いというべきか、皆無を越してマイナスだ。
それでも初恋、少女という年齢ではないが少女の様な気分で足取り軽く曲がり角を曲がる。あとはどう誘うかだが、美しいと褒められる事が多いので多分大丈夫だと考えていた。
死んでいないので異性として全く意識されていないが。
そして護衛も付けずに向かった先で彼女は普通に兵と遭遇した。
「カルカ様!? 何故お一人でこの様な場所に!?」
忘れてはいけないが城の中なので客室の前にも警邏の兵は当然居るという事。当たり前過ぎて浮かれポンチ状態のカルカは気が付かなかったが、兵は普通に彼女に気が付いたので普通に驚いている。警戒されている変人と愉快な仲間達なら当然なので普通に見付かって、普通に注意されてしょんぼり気分で自室に戻る事となり、聖女王が夜中に訪ねようとした事でヘイトは余所者の変人であるギーシュへと向かう事となった。
「何やら部屋の外が騒がしいですね。無粋な真似を……」
来客用の上等な椅子に座るギーシュと向かい合って抱き合う
今の姿は普段の布面積が少ないドレスではなく、忍者が着る様な物。但しピチピチだったり網タイツだったりとセクシー系。一応だがギーシュの趣味ではなくてナザリックの実験による物だった。
家事の腕が上達する魔法の指輪で職業レベルが一だけ獲得可能だったのに目を付け、ユグドラシルでの必要レベルに満たない物が上位の職業レベルを得ているらしい事と合わせてNPCではなくモンスターならレベルの底上げが可能なのではと考えたアインズが所持する装備品……は流石に元の持ち主が創造したNPCが不満だろうと似た服を作らせた上で忍者っぽい戦い方をするモンスターを指導者として付けさせている。
後は実際に忍者としての修行方法を知っている者から聞き出せるかどうかだが、蒼の薔薇が竜王との繋がりがある可能性を考慮してギーシュ任せの状態だ。
これが成功すれば今後相手をするかも知れないNPCやプレイヤー相手に有利だとは考えてはいるものの、底上げに必要な魔法の習得がギーシュの指導能力の無さを理由に成功したら良いな程度である。
「それで今はどんな修行を?」
「ま、先ずはナザリックの書庫にあった忍者についての文献を参考に……あっ」
因みにだがアンデッドを発情させる魔法と虫に集られている幻覚を与える魔法と屁の音をニワトリの鳴き声にする魔法は習得済みなので後はレベルアップをするだけだ。
何故その魔法なのかは相性の問題だとしか。
自室に戻ったカルカが乏しい知識で枕に顔を埋めながら妄想で悶える中、人様の城に泊まっている最中のギーシュは名前も与えていない相手の体を堪能していた。
そしてこれより数日の間、ギーシュ達は運ばれて来た怪我人の治療や避難民の移動中の護衛をしていたのだが、治療を終えた彼等の耳に騒々しい声と荒い足取りの女が近付いて来ていた。
「何故貴様が此処に居るっ! 何の目的でやって来たっ!」
「……騒がしい女でありんすね。アレが例の猪騎士?」
「団長っ!? 彼等が治療や避難民の護衛をしてくれたと聞いているでしょう!? それに……」
今にも襲い掛かりそうな剣幕の女こそレメディオス、この国の聖騎士を束ねる団長であり数年前にギーシュの腕を切り飛ばした人物だ。その一件に関してはギーシュに非があるとしてレメディオスを恨んでいないヘジンマール達ではあったが、それでも彼を庇う様に割って入る。
剣の柄に手を掛けてさえいる彼女に対して副団長のカスポンド達が必死に押さえようとするものの力の差で限界は近そうだ。
「そんな事で知らん! 大体、この男は亜人共が悪では無いと言ったのだぞ! 信用出来るか! どうせ今回も何か関わっているのではないのか!」
「団長、彼には既に多くの国民が助けられています。貴女の立場で彼をその様に言うのは少し不味いかと」
野生の勘と嫌悪から真実に到達するレメディオスであったが元々嫌っているのが知られているので誰も同調はしない。ヘジンマールとデイバーノックはアホが認めないか冷や汗を流すが、当のレメディオスは自分の抱いた疑念を訂正する気はないとばかりに睨んでいる。治療所の手伝いに派遣されたネイアが余波で顔を青ざめさせる中、当の本人であるギーシュは真実を言い当てられても平然とした様子で面倒臭そうに耳の穴を小指で穿っていた。
その厚顔無恥っぷりに助手達が呆れ果てる中、彼の口が開かれた。
「猪かと思ったら鶏だったか。亜人が悪寄りの存在でないと断じたのは貴様の持つ剣であろうに。そもそも私が作った物が関与しているとして、それを使ったのは南側の貴族であり、抑止力になれなかったのは貴様だ、聖王国最強。怒りなら自分に向けろ、自分に」
この瞬間、レメディオスは怒りに任せて拘束を振り払う。もはや言葉すらはっせられぬ程の怒りに任せてギーシュへと襲い掛かり、間に躍り出たシャルティアの蹴りが腹部に叩き込まれた。
鎧の一部が衝撃で砕け、真後ろに蹴り飛ばされた体は先程まで彼女を拘束していた者達を巻き込んで地面を転がって行く。
「まったく、考え無しに暴れるだけの馬鹿は困るでありんすねぇ。静粛に。偉大なる御方に対して相応しい態度で出迎える様にするでありんす」
レメディオス達が起き上がれない中、シャルティアの背後の空間が歪み、