「当初の契約では既存の魔法の選択も合わせて自由にさせてもらえるって話だったが?」
「うん。何かすまないね。勝手な事をした者達には主人から強く言っていただくよ」
本日は代理ではなくデミウルゴス自身が今後の打ち合わせも兼ねて顔を見せる日なのだが、別口で送られて来た希望する魔法の種類についての手紙について文句を言えば少々疲れた様子を見せる。
成る程、手紙には棒を持たない者との子作りやら色々とその手の魔法について如何に必要かが熱弁されていたがデミウルゴス自身でキツく言えない立場か実力の者の仕業か。
それが主人に性欲的な感じで執着しているんだな、関係無いけれど。
「何かこう指輪の作成はノリみたいな物で、作りたいなって思った時と違う時ではクオリティに大きな差がある。魔法の作成に至っては何となーく作れそうだと思ったら作れるんだ。因みに行為自体を可能にする魔法はある。デイバーノックで実験済みだ」
「彼は本当に実験台にされるんだねえ」
「大男になる魔法でな。骨だの内臓を取り除いた皮と肉を着るのに近い。味覚はないが食感は有り、先日渡した魔法なら勃つ。但しどれだけ快感を感じても出せないので最終的に生殺しだと文句を言われたな」
「おや、それは残念だが……」
味覚を共有する魔法が提出されて以降、アインズは部下との交流を口実にナザリックで三食の時間を過ごすようになっていた。
突如彼が外で冒険者になると言い出した際には慌てたデミウルゴスであったが、自分達との交流の機会が出来たとアインズが喜んでいる時点でギーシュへの評価は高くなっている。
提出される魔法も作られる魔法も何の役に立つのか彼にすら分からない物が多いが、中には使い勝手が良い物も含まれる。
そして今回教えられた魔法だが……。
「是非アインズ様にご使用して頂くわよ! 発情する魔法を至高の御方に相応しい素材で作った物にしようしないと!」
「落ち着きたまえ、アルベド。前回の暴走を叱られたばかりだろう? それにだよ。注意事項として最後の最後で生殺しにされるとあったじゃないか。自分の欲望をアインズ様に押し付けてはならないと思うがねえ」
報告の直後、やはりこうなったかとデミウルゴスは予想の的中に辟易する。性欲の微弱なアンデッドの体に加えて骨だけとアインズが迫られるのを抵抗する理由はあったが、この二つが揃えば話は変わる。
こいつ、シャルティアが戻って来る前に既成事実を作る気だと冷静に止めようとしたものの、拗らせたサキュバスには通じない
「あら? 今後何らかの方法で子作りが可能になった場合に備えてアインズ様にそちらへの興味を持って頂くのは当然ではなくて? 現に食事を楽しみにされているのは分かるでしょう? なら、途中まででも欲を満たすお手伝いをするのは責務でしょう」
「だからといって性急過ぎると思うがね。仮に性欲の発散を体験して頂くとして、君がお相手をなさる事に異議を持つ者も出るだろう。幸い、指輪は既に現物を別の研究室に置いてあるから好きに持って行って構わないと言われている」
多分この場で引き下がったとして、後でアインズが肉体を得たら辛抱堪らず襲うのだろうと判断したデミウルゴス。
ギーシュの魔法は有用だが、こうして妙なトラブルを発生させるのは考えものだと胃を痛くするのであった。
「ところで他にはどんな魔法があったのかしら?」
「部屋を綺麗に掃除する魔法があったよ。本当に一瞬で掃除が終わったせいでメイド達やエクレアから仕事を奪わないでと必死に嘆願されてしまってね。まあ、アインズ様には私達からもお願いしようじゃないか」
其処まで話した所でデミウルゴスは表情を引き締め空気を一変させる。棒を得たアインズとの爛れた時間に想いを馳せていたアルベドも彼の様子にただならぬ物を感じ取っていた。
「これは彼との雑談で分かった事で、未だ確証は無いのだが我々がこの世界に転移した理由が分かったかも知れないよ」
ビーストマンの侵攻を受け続ける竜王国。女王ドラウディロンは幼い少女の姿をとっているのだが、そんな彼女が座る玉座の前にヘジンマールの姿があった。
「すいません。デイバーノックさんは怖がる人が多いし、先生は絶対何かやらかすので自分だけで来ました」
先日も王国の城内でラナー達に国の腐敗ぶりと八本指を普通に捕まえても無駄である事を露呈させるだけして普通に帰って来たのだ。
対策の話し合いはどうせ何かあれば王国を捨てるからと拒否したらしく、これにはヘジンマールも絶句するしかない。
王国には未来がないが、ギーシュには良識がない。
「いやいや、構わぬよ。あの男、妾の本性を見抜いて幼女の演技にドン引きしておったからな。こっちだって好きでしているんじゃないのに!」
「女王様、落ち着いて下さい。食われてる国民の為にも必要な事ですので精神程度犠牲にして下さい」
「ぐぬぬぬぬ」
色々と追い詰められている竜王国だが、宰相と女王のやり取りにヘジンマールは少し安堵を覚える。普通の善人ってこんなんだよなあって癒された。
何せ聖王国では相手がどれだけ悪の性質に寄っているか調べる魔法を亜人に使った際、悪寄りじゃなかった事に騎士団長がわめき散らしたのだが、向こうは狩りと食事をしているだけだし当然だろう。人間視点だけで善悪は決まらない、そんな発言をした事で斬りかかられた程だ。
もはや悪魔の方が人の心が分かるのではと疑いたくもなる
「それで今回も国境付近での侵攻に対する防衛を頼めるのだな?」
「はい。先生もビーストマンの死体が欲しくなったし、ちょっと女王様に流れる竜王の血が欲しいので血を抜き取る魔法を使わせて欲しいそうです」
「そーいう事を平然と口にする辺り、お主も染まって来とらんか……?」
間違いなく染まってしまっている。もう戻れない。
冒険者チーム・ハートレスの対ビーストマン戦は極めて単純だ。
手が届かず、矢を放っても威力が下がる位置からの一方的な攻撃。
デイバーノックの魔法は兎も角、ヘジンマールの放つ冷気のブレスも流石に威力が激減するのだが……。
「吹雪を油に変える魔法!」
「ファイヤーボール!」
極寒のブレスは空中で極冷の油のブレスになってビーストマンの軍勢へと降り注ぐ。毛皮の表面に油性の霜が張り付く中、すかさず火球が連続で放たれれば辺り一面は火の海だ。
粘性の高い油に包まれたビーストマンが火の手から逃げようにも地面の油を伝って火が追い付いて来る。
通常のエルダーリッチのそれよりも遥かに威力の高い魔法を放ったデイバーノックは魔法を連発しつつ指に嵌めた指輪に視線を向けた。
「草を生やす魔法」
忽ちビーストマンを散り囲むように伸びる太く長い草。爪で容易く切り裂き強引に割って進めるにしても隙間無く生え、周囲数十メートルにも続く群生地域となれば話は変わる。
どうしても対応に時間がかかる中で再び降り注ぐ油。
せめて一矢報いるかと投石や矢の構えが取られるが、それは許されない。
「金ダライを落とす魔法」
その頭上に出現したタライが頭上に落ちた瞬間、カーン、と大きな音が響いてビーストマン達の動きが一瞬硬直する。タライの存在に気が付いて避ける動作を行おうとした者さえも動いた先に軌道を変え、防御の隙間もすり抜けて落ちて来たタライが必中。
そして再び連発される火球。
瞬く間に火の海と阿鼻叫喚の地獄が広がる中、第三者の声が響いた。
「他人に力を分け与える魔法」
声の主は今回の出陣予定を聞いて急遽護衛にとナザリックが貸し出したオーバーロードワイズマン。金貨を消耗しても守るべきと派遣された彼の指にはどうせならと渡された指輪。
彼からデイバーノックへとMPが注がれ、この地獄は暫く続く事となった。