未来を変える鬼狩り達   作:yuki_06090570

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里へと赴く鬼狩り達

「炭治郎くん。漸く復帰できる状態になりました」

 

妓夫太郎から受けた負傷が完治し、機能回復訓練も完了した頃、しのぶは師範…もとい炭治郎に知らせる。

因みに師範と呼ぶと話が進まなくなるので、しのぶが炭治郎のことを師範とは呼ばなくなった。本人が居ないときは師範と呼んでいるが。

 

「分かりました。じゃあ、刀鍛冶の里に行きましょうか」

 

どうやらお館様への報告は既に済ませていたようで、炭治郎は出発の用意も終えていたらしい。

しのぶも手早く用意を済ませ、蝶屋敷の玄関を開けると、

 

「竈門、胡蝶。俺も同行させてもらうぜ」

 

実弥が二人に声を掛ける。実弥も準備万端なようで、炭治郎としのぶに拒否する余地はなさそうだ。そもそも拒否する理由がある訳でもないし、寧ろ…

 

「寧ろお願いします。

正直…そろそろ本格的に鬼の動きに変化が起きそうで不安なんですよ」

 

「同感だ。特に刀鍛冶の里は俺ら鬼殺隊にとって一番重要な場所だしな」

 

そうして、炭治郎と禰豆子、しのぶ、実弥は刀鍛冶の里へと向かうこととなった。

 


 

到着早々、三人は入口に佇む二体の縁壱零式を見ることになる。

 

「これ…相当不気味なのですが……」

 

目の前には同じ顔、同じ背丈、同じ手足の人形。複数体同時に見るのが初めてのしのぶは、眼前の異様な光景に乾いた笑いが零れる。

 

「小鉄くんが言っていた"対鬼用の縁壱零式"はこれの事ですね」

 

「…訓練用より強いんなら、此奴で鍛練した方が効率良いんじゃねえのか?」

 

訓練用とは違って速度が最大に調整されている人形。確かにこれを使えば格段に成長できるかもしれない。

だが実弥は知らない。この人形は柱の家に置かれたモノとは異なるということに。

 

「あっ!!気を付けてくださいね!!」

 

近付いて人形を眺めていると、里の方から大きな声で呼び掛けられる。やって来たのは小鉄だ。

 

「小鉄くん。気を付けろって…?」

 

実弥と同様、炭治郎も詳しいことは知らないため人形から離れるよう促されたことに対して疑問を投げ掛ける。

 

「これは襲撃に備えて設置してある人形なので、一度動き出したら電池が切れるか壊れるまで止まらないんです。気を付けないと最悪巻き込まれて死にますよ」

 

淡々と話す小鉄に炭治郎、しのぶ、更には実弥まで顔を顰める。鬼に殺されることも大概だが、絡繰人形に殺されるなんて堪ったものではない。

 

「訓練用の最高速度は対鬼用と同じにしましたので、鍛練するのであれば其方を使って下さい。

というか入口でずっと立ち話するのも何ですし、鉄珍様の所へ案内しますね」

 

そうして小鉄は四人を里へと招き入れ、里長である鉄地河原鉄珍の元へと案内する。

 

「鉄珍様!炭治郎さんたちが来ましたよ!」

 

小鉄が鉄珍を呼びながら部屋へと入ると、変わらず鉄珍は座布団に座っていた。お面で顔は見えないが、かりんとうを大量に用意していたことを見るに、炭治郎の到着を相当楽しみにしていたようだ。

 

「よう来たのぉ。炭治郎くんと禰豆子ちゃんと…実弥くんとしのぶちゃんやね」

 

炭治郎が来ることは小鉄から聞いていた。しかし実弥としのぶが来ることは予期していなかったようで、名を呼ぶのに一呼吸の間があった。

 

「此処に来たのは"あの人形"で鍛練するためかのぉ?」

 

「はい。…ただ鬼の動きが変わる可能性もあるので、警戒も含めて早めに来ました」

 

時期でいえば、鬼が襲撃してくるまでまだ一ヶ月半ほどあり、それに備えて来たというには少々気が早いのかもしれない。だが鬼側に変化があった場合、時期がズレる可能性もある上、追加で上弦の鬼がやってくる可能性も捨て切れない。

 

「そうやなぁ。万一早く来たら、ワシらでは朝まで持ち堪えられんしなぁ。

鍛練以外のことについてはワシらに任しときぃ」

 

近い内に守って貰うことになるのは確定している。ならば衣食住の支援は手厚くするのが当然だ。…普段手を抜いている訳ではないが。

 

時間は有限であるため挨拶も早々に、四人は訓練用絡繰人形の元へと向かう。

 

「これが訓練用…かな?」

 

訓練用と思われる縁壱零式のすぐ傍に冊子が一部置かれており、そこには"取扱説明書(まにゅある)"と書かれていた。しのぶは冊子を開き、炭治郎と実弥は横から覗き込む。

 

「ええっと…背中に開けられる蓋があって、その中にある指針盤(だいやる)を回して、速度と時間(たいまー)を設定するみたいですね」

 

「…これかァ?」

 

実弥は人形の背中に付いている蓋を開けると二つの指針盤(ダイヤル)と一つの開閉器(スイッチ)があった。二つの指針盤の内一つは"速度"と書かれており、指針盤の周りには一から十五までの字が書かれていた。おそらくこれが速度の設定範囲なのだろう。一の所に"癸"、十の所に"甲"と補足で階級が書かれているのを見るに、数字が大きければ速度も上がると推測できる。

もう一つは"時間"と書かれており、こちらの指針盤の周りには零から三十までの字が書かれていた。最大で設定できる時間は三十分ということなのだろう。

 

実弥は確認も含めて、速度を十、時間を一に設定する。

 

「設定した後にこれを上げたら、二十秒後に動き出すようです」

 

しのぶは取扱説明書と実物を見比べながら、開閉器(スイッチ)を開にして電源を入れる。そして開けていた蓋を閉じて、その場から少し離れる。

 

二十秒後、縁壱零式は下がっていた腕を素早く振り上げる。現在武器は持たせていないため、只々腕を振っているだけの滑稽な動きである。だがしかし、先日無一郎が戦っていた人形よりも動きの滑らかさが上昇していた。

 

「人形なのに…動きにガタつきが殆どありませんね……」

 

先日の試験運用を見ていないしのぶは、目の前で腕を振る人形を見て驚きつつも、期待が高まる。

 

一分経過したところで縁壱零式は動きを止め、ゆっくりと腕を下ろした。そして背中の方からカチリと音がした。どうやら動きが止まると同時に開閉器が勝手に閉じて電源が落ちるようだ。

 

「"甲"相当の速度設定でも意外と速いんですね。同じ階級でも人によっては過剰な強さになりかねないかも…」

 

十五段階中の十でも、下弦の鬼程度の強さ相当になるように設定されているようで、馬鹿正直に各階級の位に合わせると大怪我する可能性がある。

 

「説明書には"腕の取り外しができる"と書いてあるので、十五段階から更に六段階の難易度調節できるということなのでしょう」

 

「……随分とまあ、都合の良い絡繰人形だな」

 

炭治郎の不安に対してしのぶは説明書を読み上げる。そして実弥は便利で都合の良い絡繰人形に若干呆れながら木刀を持たせ、速度を十五、時間を三十に設定し直す。そして電源を入れた後、自身も木刀を構える。

 

「…これが沢山あれば、私たちだけでなく一般隊士の方々も効率良く強くなれそうです……。って、不死川さん…既に一人で始めちゃってますか……」

 

しのぶが説明書から目線を外して顔を上げると、既に実弥が縁壱零式との戦闘を開始していた。

 

「痣無しの状態ではありますが、不死川さんが少し押され気味ですね」

 

速度十五はかなり速く、上弦の鬼と戦っているような感覚になるほどだ。防御するだけなら何とかなるが、反撃をするとなると痣が出るほどに体温と心拍を上げて動きを機敏にしなければならない。

 

「…こりゃあ良いぜェ!!」

 

未来で行っていた柱稽古。それ以上の激しい戦闘がこの人形一体で完結できると分かり、実弥は気分が高揚する。

そして意識的に体温と心拍を上昇させ、痣を浮き上がらせる。

すると防戦一方だった先刻から打って変わり、実弥が攻撃に転じる機会がやってくる。

 

「……痣が出ると、これほど動きが変わるんですね」

 

痣が出た瞬間から実弥の動きが目に見えて変化し、同時に木刀同士が接触する音も鋭くなっていく。最早折れないのが不思議なくらいだ。

 

そうして攻防を繰り返す内、三十分が経過する。

縁壱零式は動きを止め、実弥も心拍を落ち着かせて痣を消す。

 

「胡蝶。次はお前がやれ」

 

実弥は木刀の持ち手をしのぶの方に向け、しのぶはそれを受け取る。

 

「ソイツをぶっ壊すつもりでやりゃあ痣にも近付くだろ」

 

「……そうですね。分かりました」

 

実弥が電源を入れると、しのぶは木刀を強く構える。

少しして縁壱零式は動き始め、木刀をしのぶ目掛けて振り下ろす。

しのぶは辛うじて回避し、続けてやってくる攻撃を木刀で受ける。だが一つ一つの衝撃は重く、力の弱いしのぶでは木刀で完全に受け切ることはできない。次第に後方へと下がらざるを得なくなってくる。

 

「…やっぱり腕力が一番難題ですね……」

 

「こればっかりはな……どうしたもんか……」

 

二人はしのぶの戦闘を観戦しながら、今の彼女に何が不足しているのかを探していた。そして結局出てくる答えは腕力以外にない。

 

「身体の毒が消えたことで力は強くなったとは思うんですが、それでもまだ少し足りなさそうって感じですね」

 

今のしのぶは毒で(やつ)れていたときと比較すれば、相当力は増している。だがそれはあくまで元に戻ったというだけで、しのぶ自身の力が増した訳ではない。

 

「…痣もそうだが、透き通る世界に入れば力は増すもんなのか?」

 

実弥は常々気になっていた疑問を炭治郎に聞く。

痣が発現したとき、確かに身体能力は驚くほど上昇する。だが物理的な力が上昇しているのかどうかは定かではない。何せ実弥は"鬼の頸が斬れない"なんてことに悩まされるほど素の力は弱くないのだから。

 

「……最小限の動作で最大限の力を引き出すだけなので、力が増すとは少し違います。ただ力の入れ方に無駄はなくなるので、相対的には増したと言えるかもしれません」

 

その人個人個人が出せる中で最大の力を引き出す。

もしこの推測通りなのであれば、仮に透き通る世界を会得したとしてもしのぶは鬼の頸を斬ることは叶わないかもしれない。

 

「でも赫刀にしてしまえば、しのぶさんでも確実に斬れると思います。あれは鬼の肉体を灼きながら斬りますから」

 

「赫刀……。馬鹿みてぇな力で握るか、刀同士を思いっきりぶつけるか、だったよな。握る方は当然握力が要るし、ぶつける方は腕力が要る。胡蝶にとっちゃあ一番難儀な問題だぞ」

 

"刀同士でぶつける"方法については不可能だ。鬼の頸が斬れる善逸、伊之助、カナヲでさえもできない程の腕力が必要なのだから。おそらく炭治郎も此方の方法では赫刀にすることはできないだろう。

もう一方の"握り締める"方法については、限りなく不可能に近いが前者に比べれば可能性はある。実弥や義勇よりも腕力がない炭治郎と小芭内にそれができたのだから。特に小芭内は小柄で力も弱いという、しのぶとの共通点が幾つかある中で刀を赫くした。

 

「まあ…何方にしても鍛えること以外に選択肢はないですし、今はできるだけ手助けするのに尽力しましょう」

 

「それもそうだな。俺らが何言っても鬼殺隊を辞めねぇだろうしな…」

 

そうこうしてる間に三十分が経過し、縁壱零式は動きを止める。

そしてそれを確認してから、しのぶは地面に膝を着く。

 

「はぁ…はぁ……。

……不死川さん…よく三十分後……平然と居られましたね……」

 

「…痣が出りゃあ、お前も俺たちみたいな"異常者"になれるだろうよ」

 

大汗を掻き、息も絶え絶えになるしのぶは実弥の凄さを改めて理解した。それと同時に、何としてでも痣を出してみせると再度決意する。

 

「じゃあ次は竈門、お前がやれ。俺らに透き通る世界に入った状態での体捌きを見せろ」

 

「分かりました。まだ一度も入れていませんが、何とかします」

 

"見取り稽古"。炭治郎は父である炭十郎からそうして学んだ。実弥やしのぶとは技や呼吸の本質が違うが、それでも見本があるかないかで大きく変わってくる。

結局皆が会得するには、少しでも早く炭治郎が会得する必要がある。

 

炭治郎は縁壱零式の電源を入れる。そして二十秒待っている間に痣を発現させ、神経を研ぎ澄ます。

 

「……」

 

呼吸の音が変わり、肌で感じる気配が人のそれではなくなる。

 

「ちゃんと見とけよ…胡蝶」

 

「…はい」

 

炭治郎が木刀を構えると同時に、縁壱零式は接近して斬り掛かってくる。

だが炭治郎は六本の腕から放たれる攻撃を容易く回避し、続けてやってくる攻撃を木刀で相殺する。

 

「…凄い……」

 

透き通る世界に入った状態の動きを見るのが初めてなしのぶは、実弥を軽く追い越すほどの体捌きに息を呑む。

 

今の炭治郎なら、縁壱零式を破壊することも容易い。だがそれをせずに回避と防御、そして攻撃の相殺しかしていないのは、二人に自身の体捌きを多く見せるためである。

 

「人のこと言ってる暇はねぇか……俺も学ばなきゃなんねぇ…」

 

それに気付いた実弥は、辛うじて目で追えるか追えないかの速度で動く炭治郎から盗めるところが何処かを余すことなく探す。

 

しかしこういう時の三十分は短く、すぐに学びの機会は終わりを迎える。

縁壱零式が動きを止めると、炭治郎は体温と心拍を元に戻す。

 

「…こんな感じです。今は上手く入れましたが、戦闘中に時間を掛けてはいられないので、実戦ではまだ厳しそうって状態ですね」

 

今回は神経を研ぎ澄ますのに二十秒の猶予があったため安定して透き通る世界に入ることができたが、戦闘ではほんの一瞬が命取りとなる。そのため実戦で使うにはまだまだ不十分だ。

 

「…先がまだまだ遠いということは分かりました。貴方の努力家なところを倣わなければなりませんね」

 

しのぶは意識を変える意味で大きく息を吐き、また木刀を手に持つ。そしてしのぶと同じ思いの実弥も、立ち上がって木刀を強く握る。

 

「俺は透き通る世界を、胡蝶は痣を目指してやるかァ」

 


 

縁壱零式を用いて、時には実弥としのぶが共闘で炭治郎が稽古を付けたりしながら凡そ一ヶ月が経過する。

襲撃の時期が近付いてくると、この地で戦う鬼狩りが続々と集まってくる。

 

「…………」

 

その内の一人である鬼狩りは不死川玄弥。

呼吸が使えない影響で刀を新調する頻度がどうしても増えてしまい、この地に来るのは何度目だろうか。

 

自身の刀を打つ刀匠の元へと向かう途中、本来この地で会うはずのなかった者と出会うこととなる。

 

「…兄貴……」

 

「…待ってたぜェ」

 

兄と会うため、兄にあの時のことを謝罪するために鬼狩りを目指した。だが偶然会う機会があっても

 

『テメェみたいな愚図、俺の弟じゃねえよ。鬼殺隊なんか辞めちまえ』

 

と一蹴されて謝罪する時間すら与えてもらえずにいた。それなのに今、目の前で"兄"の目をして立っている。

 

「兄貴…俺……」

 

「謝罪は聞かねえぞ。俺はお前を守るためにお袋()を殺しただけだ」

 

結局謝罪を聞き入れては貰えなかった玄弥だが、これまでとは違った意味だったため、少々困惑しているようだ。

そんな様子を見て、実弥は優しさのある笑みが零れる。

 

「聞きてえことは山ほどあるだろうが、まずはついて来い」

 

実弥が背を向け、ついて来るよう促すと、玄弥は小走りで実弥の後ろを歩く。

日が傾き、空が橙に包まれる中を二人で歩くと、あの日約束したことを思い出す。……あの時とは違って、守る対象である母も弟妹もこの世を去ってしまったが。

目的地に到着し、襖を開けると部屋の中には炭治郎、禰豆子が居た。

 

「やあ玄弥」

 

「…………」

 

玄弥は二人を見て、聞きたいことが更に増える。一人は最終戦別で腕を折ってきた奴。一人は何故か鬼なのに呑気に寝転んでいる。

 

「甘露寺と時透がまだ来てねえが、あいつ等には話はし終わってるから良いか…」

 

そうして、炭治郎と実弥は未来の出来事を玄弥に話していく。当然ながら玄弥にとっては荒唐無稽な話であるが、二人の言葉には有無を言わせぬ迫力があった。

 

「じゃあ俺は…兄ちゃんを助けられたんだ……」

 

あの日守って貰うことしかできなかった自分が未来では兄を守ることができたんだと思うと嬉しく思う反面、兄をまた悲しませてしまうのかと辛くも思ってしまう。

だが実弥はそうは思っていない。未来を変えられることは既に証明されているのだから、今度は自分が変えてやれば良いだけのこと。

 

「どうせ胡蝶と同じで、俺が何言っても鬼殺隊を辞めねえんだろ。だから俺がお前を直々に鍛えてやる。二人で鬼を皆殺しにして、今度は一緒に家に帰るぞ」

 

「…うん…!」

 


 

「はぁ……今日も過酷だった……」

 

この一ヶ月間、来る日も来る日も縁壱零式を用いた稽古。そしてその疲れを毎晩温泉で癒している。

しのぶがいつものように温泉に入ろうとしたとき、先客が一人既に浸かっていた。

 

「…甘露寺さん?」

 

「あっ!しのぶちゃん!!」

 

先客は恋柱・甘露寺蜜璃だった。どうやら二時間ほど前に里へとやって来ていたようで、しのぶに気付くと満面の笑顔を浮かべる。

しかしその笑顔はすぐに崩れ去る。理由はしのぶの身体である。鍛錬で負った怪我が至る所にあり、場所によっては内出血までしている。

 

「ちょっと?!傷だらけだよ!?」

 

「いえ、大丈夫です。これでもかなり減った方ですから……」

 

初日に比べれば傷は相当減少しており、日に日に負傷が減少していくと、その分強くなっているのだと感じられる。そのためしのぶにとっては寧ろ嬉しい傷となっていた。それでも痛いことに変わりはないが。

 

「痛っ……ふぅぅ……」

 

恐る恐る湯船に浸かると、打撲して擦り傷となっている部分に沁みて鋭い痛みが全身に廻る。だが我慢しなければ何時まで経っても終わらないので、毎度の如く深呼吸で何とか痛みに耐えつつ凝った身体を温めて(ほぐ)す。

 

「頑張ってるのね、しのぶちゃん」

 

「ええ…。分かっていたとはいえ、未来で姉の仇に喰われて死ぬなんて聞かされてしまっては、頑張らざるを得ないというか……」

 

毒を食んでいたのだから、自身の結末は分かっていた。しかし複数の仲間から改めてそれを告げられると(こた)えるものがある。そしてその毒も捨て去ってしまったとなれば、このまま行くと本当の役立たずで終わってしまう。

 

「毒の摂取については、不死川さんたちが揃って"止めろ"と言うもんですから止めざるを得ませんでしたよ」

 

「…私ももし未来を知ってたら、全力でしのぶちゃんを止めていたと思う。だって……しのぶちゃんには死んでほしくないもの…」

 

「…甘露寺さん。それは貴女も同じですよ。私も甘露寺さんには死んでほしくない」

 

鬼殺隊の中では珍しく同性で、更には柱の二人。お互い生き延びて欲しいと思っているし、全てが終わったら今度は本当の意味で友人になれると信じているからこそ、何が何でも死ぬ訳にはいかない。

 

「じゃあ…!鬼が居なくなったら一緒に色んなところに遊びに行こうよ!二人で"普通の女の子になろう!!」

 

蜜璃が笑顔でしのぶの片手を両手で掴むと、しのぶも笑ってもう一方の手を蜜璃の手に重ねる。

 

「はい。"普通の女の子"を探しに行きましょう。そのためにも、今は"異常な女の子"を極めないと…ですね」

 


 

数日後、無一郎も刀鍛冶の里へとやってきたところで、炭治郎は毎度の如く皆に情報共有を行う。

 

「上弦の伍については詳しくは知らないです。時透くんが一人で倒してしまったから。ただ聞いたことだけで言うと、壺から壺へと移動できるそうです。そして術で作った壺からは魚のような異形の鬼が出てきて、本体から離れて自由に動きます。

 

上弦の肆は、本体が掌に乗りそうなほど小さいです。その本体を守るように、喜怒哀楽…四体の分身が襲ってきます。

怒の鬼は錫杖を地面に突いて雷を発生させる。

哀の鬼は槍を使って強烈な突きを放ってくる。

喜の鬼は羽が生えていて、自由に飛び回っては爪で引き裂いてくる。そして口から超音波のような攻撃をしてくる。

楽の鬼は団扇を持っていて、その団扇を振ると身体が吹き飛ばされるくらい強烈な突風が生まれる。

そして本体が危うくなると、四体の分身は合体して憎の鬼になります。憎の鬼は木の竜を自在に操り、四体の分身が使っていた術も使ってくるので、一人で本体の頸を斬るのは困難だと思います」

 

「…相変わらずクソみてぇな鬼だ。厄介さでいえば上弦の壱よりも上なんじゃねぇのか?」

 

難易度に大きな差はあれど、黒死牟は一体でそれ以上にはならない。だが半天狗は四体、五体と兎に角数が多い。しかも本体は野鼠程度の大きさときている。炭治郎の嗅覚がなければ見つけ出すこともできず、分身に体力を削がれることになるだろう。

 

「頸が弱点なのが唯一の救いですよ。猗窩座は最後の最後で頸を克服していましたからね……。それよりも気掛かりなのは――」

 

「他にも上弦が来るかもしれねぇ…てことだな」

 

炭治郎と実弥の懸念。

遊郭では最初から堕姫と妓夫太郎が分かれていた。そうなると鬼の動向が大きく変化してもおかしくはない。それこそ周囲を術で埋め尽くしてしまう様な鬼が……。

 

 

その時、建物の外から太鼓を叩く音と共に、異様な気配が急接近してくる。全員戦闘態勢を執るが、凄まじい突風により建物から吹き飛ばされてしまう。

 

「クソったれェ!!憎の鬼が既に出てきてんじゃねえかァ!!」

 

-風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風-

 

唯一風で相殺できる技を持っていた実弥だけはなんとかその場に留まることができたが、一人で憎珀天と対峙することとなってしまう。

 

「……憎たらしい…。儂の術を相殺しよって……」

 

全員散り散りに吹き飛ばすつもりだった憎珀天は、その場に佇む実弥を見て不快感を覚える。

だが不快感を覚えているのは実弥も同じである。これから炭治郎が戻ってくるまで無意味な戦いを続けなければならなくなってしまったのだから。

 

「…まあ良い…。これは透き通る世界を手に入れる絶好の機会だよなァ…!」

 

実弥は改めて刀を強く構える。

直後、憎珀天は大量の石竜子(トカゲ)を実弥へと放つ。聞いていた情報よりも随分と数の多いのは、喜怒哀楽で消耗するはずだった力を残したまま憎珀天になっているからだろう。

実弥は迫ってくる石竜子を片っ端から斬り落とし、憎珀天へと接近する。

 

-狂圧鳴波-

 

憎珀天は実弥が接近してきたところで、口から凄まじい超音波攻撃を放つ。

 

-風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風-

 

しかしそれを予期していた実弥は超音波攻撃が来る寸前で大きく跳躍し、回避と同時に憎珀天へと斬り込む。憎珀天は肉体を大きく損傷するが、当然ながら本体ではないため攻撃の手を止めることはない。空中で身動きの取れない実弥に向かって四方八方から石竜子を放つ。

回避ができないなりに、実弥は身体を捻って石竜子を斬り付けて防御に徹する。

 

「もっと打ってきやがれェ!!その程度じゃあ透き通る世界に行けねぇんだよ!!」

 

炭治郎が戻るまでの間に、憎珀天に力を使わせ続ける。そうすれば本体は人肉を求めて単調な動きになるはずだ。そう考えた実弥は、痣を出して憎珀天に斬り掛かり始めた。

 

 

………………………

 

 

憎珀天がやって来てすぐ。里の入口では玉壺の術で生み出された、魚を模した異形の鬼が刀匠たちを狙っていた。しかし図体が大きいことが仇となり、縁壱零式の配線を引き抜いてしまう。

配線が抜けた瞬間、止まっていた二体の縁壱零式は素早い動きで異形の鬼へと斬り掛かり始める。

 

「皆下がれっ!!鬼は絡繰人形に任せれば良い!!柱の刀を持ち出せ!長を安全な所へ逃がせぇっ!!」

 

息つく暇もない程にやってくる異形の鬼。それを延々と斬り殺し続ける縁壱零式。そして…それを少し離れたところから眺めて情報収集している鬼が居た。

 

「あははっ!刀鍛冶師ってあんなものも作れるんだ。一体どんな仕組みで動いてるんだろうなぁ」

 

異形の鬼が狩り尽くされた頃に、その鬼は縁壱零式の動きが単調なものであることに気が付く。その瞬間から、観戦を辞めて戦闘に加わる。

素早く縁壱零式へと接近し、"鋭い扇"で容易く切り刻む。すると縁壱零式は駆動部に重大な欠陥を負い、その場で動きを停止してしまう。

 

「こういうのキカイっていうんだっけ?存外脆いものなんだね」

 

鬼を狩る機械を破壊して脅威が無くなったことを判断した鬼は、愈々(いよいよ)刀匠たちを殺害しに掛かる。

一番近くに居た刀匠へ、扇を振り下ろす……寸前で、横から鋭い殺意を察知し、刀匠への攻撃を止めて殺意の方を防ぐ。

 

「…男だらけの里に女の子がいたんだぁ!」

 

頭から血を被ったような鬼。にこにこ屈託なく笑い、穏やかに喋る鬼。鋭い対の扇を武器にする鬼。

 

「…お前か……姉を殺した鬼は…!!」

 

蝶の髪飾りを着け、姉の羽織を身に着けた小柄な鬼狩りは、出会うはずのないこの地で仇と邂逅する。




【あとがき】

お読みいただきありがとうございます。

今回は次回(刀鍛冶の里での戦い)に繋ぐためのお話です。その中でしのぶの稽古と不死川兄弟、女性柱の短い掛け合いを書きました。

以前にも書きましたが、現状敵側に記憶があるのは猗窩座だけです。なので刀鍛冶の里を(玉壺が)見つけ出すまでの期間に大きなズレはありません。ただし半天狗と玉壺が負ける未来については情報共有されていますので、無惨は上弦を追加で向かわせました。
とはいえ無惨は小心者なので、上弦の壱と弐(このお話では黒死牟と猗窩座)を手許から離そうとはしません。そのため黒死牟と猗窩座を向かわせずに童磨だけを向かわせたということです。


補足ですが、味方側?で未来の記憶を持っているのは鬼殺隊関係者且つ原作終了時点で生存している者のみです。なので一般人に未来の記憶はありませんし、今後見ることもありません。(一般人の話を書くのが面倒だからというのが本音です……)


少し痣に関する疑問なのですが、25歳で死亡というのはどういう理屈なんでしょうか。
どうやら人間の平均心拍数は60~70程度で寿命はおおよそ80歳とのこと。痣を出した場合の心拍数は200以上で、平均値からおよそ3倍。寿命は25歳で、平均のおよそ3分の1。
……もしかして痣を出し続けないのであれば、25歳を超えて生きられるのでは…?
原作で行冥が死亡したのは失血とすれば違和感はないですし、どうなんでしょうね……。
ちなみに大正時代の平均寿命は40後半らしいので、それを加味すれば寿命が25歳でもそこまで違和感はない…かも?(輝利哉は100歳超えてますので何とも言えませんが)

以上、勝手な疑問と考察でした。


誤字脱字があれば報告していただけると幸いです。


余談ですが、PROPLICA日輪刀を予約しました……二本。
飾る用と振り回す用です()
刀と鞘だけじゃなく専用の台座もあるみたいで、来年の6月が楽しみです。

ということで、私はこれから4Dエクストリームで無限城編第一章を観に行ってきます。
台風?…はて…何のことやら……知りませんね。
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