未来を変える鬼狩り達   作:yuki_06090570

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其々の鬼狩り・壱

 

大きな鬼狩りと小さな鬼狩り

 

柱稽古を開始してから三日。しのぶは現代最強の柱と名高い岩柱・悲鳴嶼行冥の元へとやって来ていた。

 

「こんばんは、悲鳴嶼さん」

 

大きな木々に囲まれた少し小さな家。川のせせらぎに加え、風が吹くと草木が擦れる心地良い音。

短い時間ではあったものの、幼き頃共に暮らした彼の家は何一つと変わっていなかった。

 

「しのぶか。此処に来るのはいつぶりだろうか」

 

声と空気の流れから行冥はしのぶの存在に気が付く。彼にとってしのぶは昔から信用できる子どもであるためか、心做しか普段よりも声色が柔らかい。

当のしのぶが聞けば”もう子どもではない”と言って怒りそうだが。

 

「八年ぶりくらいですかね。時の流れとは早いものです。

……またご飯作りましょうか?」

 

「……時間が空いたときに頼む。それで、今日は何用か」

 

昔話に興じるのも悪くはないが、今はそんなことをしている暇など何処にもない。行冥はしのぶが此処へ来た理由を単刀直入に聞く。

 

「”反復動作”というものを教えて欲しくて」

 

時間を無駄にするべきではないという考えはしのぶも同じで、此処へ来た理由を簡潔に話す。

”反復動作”とは、集中を極限まで高めるために予め決めておいた動作をすることである。動作については何だって構わない。念仏を唱えるも良し。頭の中できっかけとなる言葉を発するも良し。兎に角集中を高めることができれば良い。

 

「姉さんを殺した鬼の血鬼術は話した通り、凍てついた血を散布して人間の肺胞を壊死させる。仮に血を吸わなくても、周囲の温度は少しずつ下がる」

 

「その対策として反復動作により体温を力尽くで引き上げようと……。それがどれほど過酷なものとなるであろうか……南無…」

 

人間の体温は大体三十六から三十七度近辺。痣を発現させようとするのなら、三十九度まで引き上げる必要がある。これだけでも命にも関わるというのに、周囲の低気温を無視できるほどに体温を上げるとなると、体内の温度は最低でも四十度を上回る必要があるだろう。

 

行冥は遠回しに不可能だと言うが、しのぶは首を横に振る。

 

「出来なくても、やらねばならない。そう言ったのは何処のどなたでしょうか」

 

”出来なければ、それで許されるのか”

”出来る出来ないではない。出来なくとも、やらねばならない”

 

勿論軽々しく言った言葉ではない。だがまさかその言葉を胸の中に秘め続け、此処まで上り詰めたというのか。

八年前彼女に言ったことを逆に言われて、行冥は見えない目を見開く。

 

「私は鬼を殺すためなら何だってやる。不死川さんや炭治郎くん……それにカナヲに全力で止められたから止めたけど、藤の毒を身体に溜め込むくらい本気。

半分は果たせないけど、姉さんとの約束は必ず守る」

 

鬼を倒そう。一体でも多く……二人で。

私たちと同じ思いを、他の人にはさせない。

 

二人で倒すことは叶わなくなった。だがだからといって約束が全て消え失せることは決してない。最愛の姉との約束を果たすため、しのぶは命を懸けて戦うことを再度誓ったのだ。

 

「姉さんの仇はとる。鬼舞辻無惨も殺す。そして私も生き残る。どれだけ困難でも必ずやり遂げてみせる」

 

”バカじゃないの? そんなこと出来るわけないでしょう? 誰が出来るのよ? そんなこと!”

”そりゃ、悲鳴嶼さんはいいわよ! 熊みたいに大きいんだから! でも、私たちに出来るわけないじゃない!!”

 

八年前と今。同じ口からこれ程まで違う言葉が発されるなど誰が想像できようか。あの日生温い言い訳を吐き捨てていた幼き少女の姿は欠片も残っていなかった。

 

「………………」

 

岩を動かせと命じれば、動かすことを諦めずにあの手この手を使ってやり遂げた。異なる育手の下で鍛練しろと命じれば、実行して二人とも最終選別を生き残った。カナエは死んでしまったが、二人とも柱にまで上り詰め、己の力で信用と信頼を勝ち取った。

 

「分かった。あまり教えるのは上手くないが、可能な限り教えよう」

 

子どもというのは自分勝手で、自分を守るためなら平気で嘘を吐く。そして一部ではあるものの、大人もまた然り。

しかしこの二人(カナエとしのぶ)だけは嘘を吐かず、必ずやり遂げてきた。ならば自分もそれに応え向き合わなければ、自分は自分の嫌いな”信用できない人”とは違うと言えようか。

しのぶの前で手を合わせ、彼女の頼みに最大限助力することを約束する。

 

「……もしかして……悲鳴嶼さんが私たちの育手になってくれなかったのって――」

 

「断じて違う。そんな暇が無かっただけだ」

 

決して教えるのが下手だからではない……決して。

 


 

師弟の鬼狩り

 

柱稽古を開始したその日の晩、蜜璃は煉獄邸へとやって来ていた。

 

「煉獄さん! こんばんは!」

 

「やあ! 此処で会うのは久しいな、甘露寺!」

 

日は落ち、隊士たちはそろそろ眠りに入る時間。だが二人は声量を抑えることなく挨拶を交わす。

 

「…兄上、蜜璃さん。もう(じき)皆様お休みになられます。もう少し声量を落としてください」

 

二人のあまりにも大きな声に呼ばれたかのように屋内から出てきたのは、杏寿郎の弟である煉獄千寿郎。二人が師弟であった頃からの付き合いのため、兄に対してだけでなく蜜璃に対しても遠慮なく二人に注意を促すが、それで解決できるほど二人は簡単ではない。

 

「そうだったな! すまない! 以後気を付けよう!!」

 

「煉獄さん、声が大きいままだわ!」

 

時間など気にせず和気藹々と団欒を楽しんでいたものの、そんな暇はないと分かっている二人は早々に本題へと移る。

 

「甘露寺。君も刀鍛冶の里で痣を発現させたと聞いた。ならば次の目指すべきところは把握しているな?」

 

「はい。"透き通る世界"の会得です」

 

炭治郎と実弥からの情報で、"透き通る世界"の会得への道はかなり近道ができるようになった。特に実弥の情報は炭治郎のものとは比較にならないほど正確であった。

そしてその正確な情報を無駄にしないために、戦闘経験をより多く積まなければならない。

 

「では! 早速始めるとしよう!!」

 

「はい!!」

 

声量変わらず、杏寿郎は蜜璃に木刀を勢い良く渡す。

蜜璃も同じく声量変わらぬまま喜んで木刀を受け取る。そして合図も無しに何方からともなく相手へと斬り掛かっていく。

 

杏寿郎は蜜璃がまだ鬼殺隊士ではなかったときから彼女に稽古をつけていた。その頃は当然ながら杏寿郎の攻撃を防ぐことすらままならないほどに剣の素人だった。だが今、互いに木刀をぶつけ合って分かる。

 

「腕を上げたな! あの頃の君とはまるで別人のようだ!!」

 

以前のような力任せな太刀筋ではなく、身体全体を滑らかに(しな)らせて放たれる太刀筋。彼女の持ち味である”常人の八倍にも相当する筋肉量”と合わさり、たった一度の攻撃だけでも凄まじい威力を誇っている。

 

「まだまだ! 煉獄さんに追い付けるくらい頑張ります!」

 

当時の一方的な稽古と打って変わり、両者共に一進一退の攻防を続けていく。互いに互いの成長を喜びながら、何度も何度も木刀をぶつけ合う。

 

「まだいけるな! 甘露寺!!」

 

「はい、いけま―」

 

ぐううぅぅう

 

蜜璃は杏寿郎の問いに元気よく答える。しかしその途中で大きな腹の虫が周囲に響く。

音が聞こえた瞬間、杏寿郎の動きは完全に停止する。

 

「す……すみません……」

 

鳴らした張本人である蜜璃は冷や汗を掻きながら、林檎のように真っ赤になった顔を両手で隠す。

 

「……腹の音で返事をするのは相変わらずだな!! もしや夕餉を食べていないのか?!」

 

「い……いえ…。(どんぶり)四、五十杯分くらいは食べてきたはずなんですけど……」

 

常人の八倍にも相当する筋肉を持つ影響からか、蜜璃は兎に角食事を多く摂らなければならない。勿論今晩も満足するまで食事を摂ったはずなのだが、何故か身体は空腹を訴えている。

 

「はっ! 千寿郎くんが作った甘味を求めているんだわ!」

 

蜜璃は素早く千寿郎に近寄り、彼の両手を掴む。夜間に甘味を食すのは如何なものかと思わない訳ではないが、このままでは空腹感で稽古を継続できない。

当の千寿郎は突然掴まれて驚くが、すぐに困ったような笑いを零す。

 

「……分かりました。お作りしますから、もう少し声量を落として……」

 

二度目の注意で流石に理解したようで、杏寿郎と蜜璃は騒がしかった口を閉じる。

 

そうして千寿郎は蜜璃の手が離れたところで厨房の方へと向かい、杏寿郎と蜜璃は縁側に座って甘味が出来上がるのを雑談しながら待つ。

 

そうして一時間ほど経過し、千寿郎は少々大きめの平皿に照り艶のある薩摩芋の菓子を持って戻ってきた。

 

「きゃー!! 凄い光ってて綺麗!」

 

千寿郎に注意されないよう声を殺しつつ、目の前の甘味に目を輝かせる。

 

「”大学芋”と言います。蒸した薩摩芋を軽く揚げて、砂糖や醤油で絡めたものです」

 

薩摩芋と聞いて、蜜璃だけでなく杏寿郎も甘味から目が離せなくなる。

 

二人は千寿郎から爪楊枝を受け取ると、そのまま大学芋を刺して取り、口へと運ぶ。

 

「わっしょい!!」

 

「わっしょーい!!」

 

薩摩芋を食べたときにだけ出てくる杏寿郎の”わっしょい”。

蜜璃は頬を触りながら、彼に続いて同様の言葉を声高らかに発する。

 

深夜の甘味というのは、どうしてこうも美味しく感じるのだろう。

二人は食べ過ぎないようにと事前に思っていたことを完全に忘れ、口から芋が無くなる度に次の芋を口へと運ぶ。

 

「懐かしいな。縁側で千寿郎、甘露寺とともに甘味を食すのは」

 

杏寿郎は大学芋を食べながら、当時食べたスイートポテト(すいーとぽていと)の味を懐かしむ。とはいっても二年程度であるため、それほど昔という訳でもないのだが。

 

「未来を知る俺としては、兄上と蜜璃さんがこうして幸せそうに甘味を食べているのを見るだけで涙が出そうになります」

 

そうは言っているが、既に千寿郎の瞼には涙が溜まり始めている。

単なる記憶に過ぎないと言えばそれまでだが、未来ではこの広い屋敷が想像もできないほど静かになっていた。それが今はこうも賑やかで騒がしい。……深夜であることが問題だが。

 

「俺には祈るくらいしかできませんが……。兄上も蜜璃さんも、どうか無事に帰ってきてください」

 

「勿論だ! 無限城とやらは良く知らんが、必ず戻ってくる! 千寿郎は父上と一緒に帰りを待っていてくれ!!」

 

「私はこの”大学芋”の作り方を教えてもらわなくちゃいけないもの! 必ず生きて帰ってくるわ!!」

 

二人は生きて帰ってくると約束し、甘味を食べ終えたところで稽古を再開した。

 


 

小柄な鬼狩りと若き鬼狩り

 

柱稽古を開始してから数日。毎度の如く無一郎は他の柱の元へと赴いていた。理由は勿論、”透き通る世界”を会得するためである。

 

「伊黒さん、こんばんはー」

 

今晩赴いた先は伊黒邸。此処には十体以上にもなる絡繰人形が置かれており、多種多様な稽古ができる。

現に無一郎が玄関の戸を開けると、既に小芭内が複数の絡繰人形と戦闘を行なっていた。

 

「時透か。少し待て」

 

小芭内は絡繰人形との戦闘を継続したまま、無一郎に短く返答する。

無一郎は玄関口で立ち止まり、小芭内が戦う姿を眺める。とても木刀とは思えないようなうねる太刀筋。杏寿郎曰く、彼の関節は蜜璃以上に柔らかいそうな。だとしても、あのような斬撃を繰り出せるとは到底信じられないものだが。

 

そうして二分ほど待っていると、絡繰人形は順々に動きを止める。

 

「待たせたな」

 

「ううん。僕が勝手に押し掛けて来ただけですから。それで、伊黒さんに教えて貰いたいことがあって」

 

最早説明など不要といった風に小芭内は木刀を渡し、無一郎は特に疑問もなくそれを受け取る。

 

「丁度俺からも聞きたいことがあった」

 

「お先にどうぞ」

 

先手を譲る無一郎に対して、小芭内は木刀を彼の脚へと向ける。

 

「お前のその脚捌きについて聞きたい」

 

無一郎の脚捌き。それは他の鬼狩りとは大きく異なる。勿論彼が着用している袴によるものでもあるのだが、相対すると動きがまるで読めないのだ。

小芭内の着用している裁着袴(たっつけはかま)で動きを完璧に模倣するのはおそらく不可能だが、柔らかな関節を利用すれば少しは意味あるものになるだろう。

 

「代わりに俺は太刀筋に関して教える」

 

無一郎の要求していることを知ってか知らずか、小芭内は自身のうねるような太刀筋を無一郎に伝授することを約束する。

 

「よろしくお願いします」

 

互いに木刀を構え、無一郎は稽古場の中央に居る小芭内へと斬り掛かる。

小芭内は無一郎の攻撃を受け止め反撃で斬り返すが、無一郎はその場から消えたかのように居なくなる。

 

「なるほど。不思議な体捌きだ」

 

動作を開始するまで上半身はあまり動かさない。脚全体に力は溜めるが、寸前まではあまり力を込めない。動作一つ一つに異様なまでの緩急をつける。

 

一度の斬り合いで小芭内が理解したのはその辺りだろうか。

 

「小柄で体重が軽いからこそできる芸当のようだな」

 

大柄であればあるほど、身体を動かすには予備動作が必要になる。加えて背が高ければ高いほど、その分重心を移動する方向に移さなければならない。

寸前まで重心を移さなくても動作に差し支えがないのは、背が低く体重が軽いからこそだ。

 

「慣れるまでは苦労しましたけどね。どうしても無意識に移動する方向に上体を動かしてしまいますから」

 

「だがその動きが身体に染み付いたのなら、相手が"透き通って"いたとしても翻弄できる」

 

"緩急のついた素早い動き"と"相手の隙へと入り込むようなうねる斬撃"。

この二つが合わされば、向かうところ敵無しといっても過言ではない。

 

「まあでも、単純に速度で負けていたら全部破綻しますけどね。なので"透き通る世界"の会得が必須事項なのは変わらずです」

 

「ああ。竈門の情報は話にならなかったが、不死川の情報は有効に使わなくてはな。

……話が逸れた。稽古を再開しよう」

 

二人は木刀を構え直し、体捌きの話で中断してしまった稽古を再開した。

 

 

…………………………

 

 

一対一や、絡繰人形を用いた対複数想定の稽古を一、二時間ほど稽古を続け、二人は休憩を挟む。

 

「隊士の方はどうだ」

 

休憩ついでの雑談の意味も含めて、小芭内は無一郎から見た一般隊士の評価を聞く。とは言いつつも、返答など殆ど分かりきったようなものなのだが。

 

「んー……まあ、ギリギリ許容範囲くらいですね。何人かは下弦とも単独で戦えそうな人は居ましたが」

 

「同感だな。正直なところ、隊士を鍛えるより一日中柱同士で稽古をしている方が意味があるのではと思えてならない」

 

当然ながら無一郎も同様、柱同士で稽古をし続けていた方が良いのではと思ってはいる。

実弥や天元から聞いた、下弦と戦える一般隊士すら居なかった状態に比べたら幾分マシかもしれない。だが彼らを鍛えることは柱にとって利があるのかと改めて考えれば、当然答えは否。下弦程度の鬼を倒せたところで、上弦に敵わないのであれば焼け石に水だ。

 

「でももう"一人くらい別に死んでも構わない"なんてことは思わないので、皆が強くなる助力は惜しまないつもりです」

 

記憶が朧気だった以前とは違う。命というものは優劣をつけるような簡単なものではない。強かろうと、弱かろうと、好きだろうと、嫌いだろうと、総じて守るべき大切な命だ。

勿論、その命を(いたず)らに奪う鬼は例外だが。

 

「甘い理想ですけど、皆には生きていて欲しいって思います」

 

「……そうだな」

 

それは時透、お前もだ。

 

口には出さないが、小芭内はそう思わずにはいられなかった。

 


 

生き残った鬼狩りたち

 

柱稽古を開始してから……いや、する少し前。

天元、義勇、実弥は三人で集まっていた。

 

「愈々近付いてきたな」

 

無惨の動きが変わらないのであれば、総力戦まで凡そ一ヵ月半。始まりの日の出が見られるか、将又(はたまた)終わりの夜を迎えるか。全ては年末年始で決まる。

 

「俺は無限城に落とされてないからどんな所なのかは知らねえが、聞く限りでは上下左右が滅茶苦茶且つ阿呆ほど広い異空間。そんで琵琶の鬼次第で空間内の地形は自由自在。雑魚鬼どもは下弦程度の力を持たされ、その数は数千にも及ぶ。

で、合ってるか?」

 

「ああ。無駄にだだっ広い癖に、塵共は気色(わり)いくらい次から次へと湧き出てきやがる」

 

数だけで見れば途轍もない。がしかし、雑魚鬼達は下弦程度の力を持たされている(・・・・・・・)だけに過ぎない。持っていることと扱えることは全く意味が異なる。

 

「雑魚鬼達はそれほど強くはない。だから隊士の皆に任せて問題ないだろう。依然として問題なのは上弦の鬼達だ」

 

結局のところ、上弦の鬼と無惨に対抗できるのは柱と炭治郎たちだけなのに変わりはない。疑似太陽光を発生させる機械があるとはいえ持続はそれほど長くはないし、それを充電する方法も無限城にはない。それならば無駄に体力を消費しないために任せてしまう方が良いだろう。

 

「上弦の鬼……ねぇ。誰がどいつと鉢合わせするか分からない上、束になって襲って来る可能性があるとなると、一点に絞るのは愚策か……?」

 

「いや、一点に絞って問題ねぇはずだ。

鬼舞辻が上弦共に下した命令は"柱の始末"っていう曖昧なもんだろう。上弦はどいつもこいつも単独行動していたし、猗窩座は竈門目掛けて突っ込んで来たと聞いた。そこまで統率が取れてないのなら、早い段階で琵琶の鬼の気を散らせば邪魔が入ることもない」

 

尤も、それは記憶の中の情報に過ぎないのだが。

しかし珠世から聞いた話によると、鬼が群れない理由は無惨が自分に対し徒党を組んで謀叛を起こさせないためらしい。それが事実なのであれば、上弦の鬼が群れることは無惨にとってなによりも危惧しなければならない問題だろう。

 

「刀鍛冶の里襲撃時も各々別行動をしていたようだし、上弦が手を組む可能性も捨て去って構わないと思う」

 

「そうか。やっぱ根城の現地調査した奴が言うと説得力が違うな。

じゃあ誰がどいつに対応するかだが……」

 

実弥は上弦の壱・黒死牟との戦闘経験(記憶)がある唯一の存在。義勇は現上弦の弐・猗窩座と二度戦闘して生き残っている。勝つ見込みが高い要素をわざわざ捨てる必要などはないだろう。であれば、

 

「俺が氷の鬼と戦わなきゃならねぇか」

 

「悪いな。奴との戦闘経験無しで任せちまって……。だが宇髄の譜面が勝ち筋になるはずだ。胡蝶、栗花落、嘴平は迷いなく童磨に向かうだろうから、あいつらが戦ってる間に譜面を完成させてくれ」

 

無理難題であることは分かっているものの、それ以外に明確な勝ち筋を見出だせない実弥は申し訳なさそうに天元に頼み込む。

数秒経って、天元は頭を掻きながら大きくため息を吐く。

 

「お前なぁ……それがどんだけキツいか分かってんのか? 俺とあいつらの手足が四、五本吹き飛んだ上で倒せたら上々って程度だぞ」

 

堕姫という片割れが居たものの、妓夫太郎は一体だけだった。しかし童磨は自身と同じ強さの人形を殆ど無制限に生成できる。人形の数が増えれば増えるほど譜面は複雑になり、破壊する又は生成される等で数が変化すれば譜面は作り直し。

正に"賽の河原の石積み"

 

どうにか予行演習のような事ができれば多少は希望が見えるかもしれないが。

 

「なら嘴平と稽古をすれば良い。彼の奇想天外な戦いから学べるかもしれない」

 

義勇からの提案に、天元は改めて伊之助についての情報を整理する。

 

独自で編み出した異質な呼吸。基礎も応用もないが完成された太刀筋。常人にはできない芸当の柔軟性。自由自在に関節を付け外しできる肉体。ほんの僅かな殺気すらも察知できるほどに鋭い肌感覚。

 

あまりにも常人とはかけ離れている彼が相手であれば、予行演習には十分かもしれない。

 

「……丁度あいつも氷の鬼と戦う訳だしな。そうするわ」

 

その後は個々が分かる限りの情報を共有し、柱稽古に向けての準備を開始した。




【あとがき】

……大変お待たせしました。
お読みいただきありがとうございます。

今回はそれぞれの柱たちのお話でした。
時系列にばらつきがありますが、それほど重要ではないので気にしなくて大丈夫です。

行冥としのぶは"鬼滅の刃 片羽の蝶 第一話 片羽の蝶"を参考に、
杏寿郎と蜜璃は"鬼滅の刃 外伝 煉獄杏寿郎外伝"を参考に、
小芭内と無一郎は"鬼滅の刃 公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐 百十四頁 蛇柱・伊黒小芭内から見た柱たち"を参考にしています。
実弥、義勇、天元は生存組だからという理由ですね。

まだ無限城には落ちません。次回は五感組+αを交えた柱稽古の予定です。
長ったらしいとお思いの方も居るでしょうが、稽古をカットしてしまっては最終決戦で色々情報が吹っ飛びまくってしまうので、長々と書きます。


ということで、現状の確定事項は
黒死牟
実弥

童磨
しのぶ、カナヲ、伊之助、天元

猗窩座
義勇

となります。とはいえそれほど原作から離すつもりはないので、原作で戦った相手が変わる案は今のところありません。
もしかしたら変わるかもしれませんが。


誤字脱字があれば報告していただけると幸いです。


【余談】

毎度毎度誤字報告ありがとうございます。
いやあ……投稿前に4、5回読み直して誤字脱字の確認しているのですが、どうにも上手くいきませんね。
今後も誤字脱字はあるでしょうが、何卒ご容赦願います。


……現在モチベの低下が凄まじいです。
書く暇があまり無いというのも理由ですが、中々手が進みません……。
更新頻度は相当遅くなるかもしれませんが、のんびり待っていただけると幸いです。
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