未来を変える鬼狩り達   作:yuki_06090570

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武術を極めし素流の鬼

無限列車での戦いからおよそ二ヶ月。

猗窩座は来る日も来る日も捜索と鍛練をしていた。夜間は青い彼岸花の捜索をおこない、日中は"至高の領域"へと到達するために鍛練をおこなう。

記憶の中の炭治郎や、以前入れ替わりの血戦で対面した黒死牟を鮮明に思い出す。

 

自分が斬られる瞬間、その時の相手の呼吸、予備動作、目線、足運び、力の入れ方、隅から隅まで余すことなく情報を抜き取り、整理していく。

 

『猗窩座殿ー。おーい、聞こえてないのかなー?』

 

無惨に苦情を入れてから多少はマシになったとはいえ、未だに煩い上弦の弐である童磨からの脳内対話がやってくる。しかしそれも聞こえない程に、猗窩座は鍛練に集中していた。

 

『おーい、おーーい。猗窩座殿〜〜〜』

 

「………………」

 

まるでその場に炭治郎や黒死牟が居て、自身に斬り掛かってきているかのように回避をおこない、拳を振るう。

そしてある程度二人の虚像と戦い終わると、今度は杏寿郎や義勇が"至高の領域"へと達した場合を想定して、また彼らの虚像と戦う。

 

『無視しないでおくれよ猗窩座殿ー!』

 

無視され続けることに、感じることのない憤りを猗窩座に"視覚共有"という形でぶつける。

共有された視覚は童磨の顔と、玉壺に貰った壺に女性の生首を飾った景色だ。

鬼となってから女性を手に掛けることも、女性の死体を見ることも不快でしかなかった猗窩座は、突然脳内に情景が浮かんできたことで集中が完全に途切れるとともに怒りで血管を震わせる。

 

「…何の用だ」

 

『いやぁ、ちょっとお話がしたくってさぁ』

 

怒りで声を震わせる猗窩座に、童磨はいつも通りの調子で話し掛ける。

特に理由もないくせに自身の鍛練を邪魔をしてきて、女性の死体を見させてきて…。

猗窩座は愈々(いよいよ)我慢の限界を迎えていた。

 

「…おい、琵琶女」

 

『……何でございましょう』

 

少しの間が空いた後、鳴女が猗窩座の脳内対話に返事を寄越す。勿論この会話も、童磨や黒死牟、そして無惨に筒抜けである。

 

「俺と上弦の弐を無限城に連れて行け。

上弦の参・猗窩座は、上弦の弐・童磨に……入れ替わりの血戦を申し出る」

 

そう言った瞬間、脳内対話に静寂が訪れる。

数秒か、将又(はたまた)数分か…

 

『…あはは!』

 

その静寂を壊したのは、童磨の笑い声だった。

 

『猗窩座殿が俺に?

良いね!勝てないって分かっていながらも戦いを挑むその姿勢!俺は好きだぜ!』

 

猗窩座の申し出を、童磨は快く受け入れているといった所である。あとは無惨からの許可さえ下りれば、入れ替わりの血戦は確定する。

 

『無惨様…。勝手ながらで申し訳ございませんが、宜しいでしょうか』

 

声に出すと呪いが発動する(らしい)ため、脳内で無惨に語りかける猗窩座。

これまでと同じであれば、無惨からの許可は下りない。何故なら、猗窩座が童磨に勝てる見込みが零に等しいからだ。猗窩座を気に入っている黒死牟であれば、仮に猗窩座が負けたとしても喰うことはない。だが童磨となれば話は別だ。もし負けたならば、童磨は何の躊躇いもなく猗窩座を喰ってしまうだろう。

そのため毎度無惨からの許可は下りない…のだがしかし、無惨の回答はこれまでとは違った。

 

『良いだろう。

猗窩座…今のお前が上弦の弐に足る強さなのか、その身を以て証明してみせろ』

 

無惨がそう答えた瞬間、何処からともなく琵琶の音が鳴り響き、猗窩座は無限城へと招かれる。そして目の前には、にこにこと屈託なく笑う童磨の姿があった。

周辺には無限城の主である鳴女、そして黒死牟と無惨が居る。

 

「じゃあ…早速始めようか!」

 

童磨の掛け声と共に、お互いが戦闘態勢に入る。

童磨は鋭い対の扇を取り出し、猗窩座は……

 

「…………」

 

何故か羅針を展開しない。

この百年以上、猗窩座が戦闘を開始するときは必ず羅針を展開していたというのに、どういう訳か拳を構えるだけだった。

 

「…猗窩座殿…?

まさか、羅針も使わずに俺を倒そうとしてるの?

あははは!!無理だよ!絶対無理だって!!」

 

「……構わずとっとと始めろ。

これで負ければ、俺はそれまでだったというだけのことだ」

 

思考を読めない黒死牟は、猗窩座の破滅的な行動に困惑を隠せない。

だが無惨だけは違う。珍しく脳内で言葉を巡らせている猗窩座の思考を読み、彼が何を思ってこのような愚策をおこなっているのかを理解している。

 

(羅針に頼らず…必要最低限の感覚で敵を捉えて拳を振るう……。

極限の状態でそれができれば…"至高の領域"に…)

 

「…フッ」

 

「無惨様……?」

 

普段の無惨から出るはずのない笑い声が聞こえ、黒死牟は無惨の顔を見る。

無惨は猗窩座と童磨から目を離すことなく、黒死牟に話し掛ける。

 

「この戦い…随分と愉快な結果になるやもしれぬぞ、黒死牟」

 

無惨の言葉が合図になったかのように、

 

-血鬼術 蔓蓮華-

 

童磨は蔓状の氷を猗窩座へと放つ。

 

-破壊殺・空式-

 

猗窩座は虚空に拳を振るい、衝撃波を氷の蔓へと放つ。それと同時に、童磨本体へも放つ。

それほど硬度を持たない氷の蔓は衝撃波により簡単に破壊される。童磨は自身へとやってくる衝撃波を扇で容易く相殺する。

 

「うーん!前よりも"少し"強い衝撃波だね!猗窩座殿!」

 

挑発するかのように"少し"を強調する童磨。しかし猗窩座はその挑発には乗らず、平静を保ち続けている。

 

-破壊殺・乱式-

 

猗窩座は童磨に急接近し、無数の拳打を放つ。

 

「うん!無数の拳打!良いねぇ!」

 

童磨は難なく猗窩座の攻撃をいなし、

 

-血鬼術 枯園垂り-

 

お返しと言わんばかりに二つの扇を素早く振り回し、氷を発生させる。

 

-破壊殺・砕式 万葉閃柳-

 

扇が身体に触れる直前に地面を砕き割るほどの拳を振るうと、童磨は攻撃を中断して猗窩座から距離を取る。

 

「良いね良いねぇ!!こうして戦うのは久しぶりで楽しいよ!」

 

-血鬼術 蓮葉氷-

 

今度は童磨が猗窩座に急接近し、扇を振るう。振るった扇の軌道上には蓮の花を模した氷が発生する。

羅針を閉じている猗窩座は闘気を感知することができず、童磨の攻撃をまともに受けてしまう。

 

-破壊殺・脚式 飛遊星千輪-

 

猗窩座は血を流しながらも童磨の腹部を思い切り蹴り上げ、

 

-破壊殺・脚式 流閃群光-

 

宙に浮き上がった童磨を連続蹴りで吹き飛ばす。

城の壁が容易く壊れるほどの威力を誇っているが、童磨にはそれほど効いていないらしく、平然と立って笑っている。

 

「あはは!!良い蹴りだぁ!吹っ飛ばされちゃったよ!」

 

「……………」

 

都度都度喋り掛ける童磨と違い、猗窩座は一言も発さない。

 

-破壊殺・空式-

 

先程と同様、複数の衝撃波を童磨へと放つ。

 

「さっきも使った技じゃあ面白くな――」

 

-破壊殺 鬼芯八重芯-

 

童磨が呑気に話してる間に、空式で放った衝撃波と同じ速度で接近し、八発の乱打を放つ。

 

-血鬼術 寒烈の白姫-

 

童磨は猗窩座の拳で血を流しながらも氷の巫女を作り出し、広範囲に氷の息吹を撒く。

 

「少しは会話を楽しんでくれよぉー猗窩座殿ー」

 

-血鬼術 冬ざれ氷柱-

 

猗窩座が距離を取るであろうことを想定した位置を中心に、多数の氷柱を落下させる。

猗窩座は冷静に状況を把握し、氷の息吹は衝撃波で逆風を作り出して相殺し、氷柱は回避しつつ接触する分を叩き割る。

 

「もー…折角戦ってるんだし、会話してくれても良いじゃないかー…」

 

「……………」

 

話し掛けても全く言葉を返さない猗窩座に、童磨は次第に退屈になっていく。

 

「全く…つれないなぁ……。それなら…終わりにしようか」

 

-血鬼術 結晶ノ御子-

 

つまらない戦い(遊戯)を手早く終わらせるため、童磨は自身を模した氷の人形を六体ほど作り出す。

 

「漸く、か…」

 

猗窩座は待っていたと言わんばかりに、拳を握りしめる。

氷の人形は一体一体が自由に動き回り、

 

-血鬼術 寒烈の白姫-

-血鬼術 冬ざれ氷柱-

-血鬼術 蔓蓮華-

-血鬼術 凍て曇-

-血鬼術 散り蓮華-

-血鬼術 枯園垂り-

 

四方八方から猗窩座に攻撃を放つ。

今の猗窩座にこれらの攻撃を凌ぐ術はない。このままでは奮闘虚しく敗北で終わるだろう。

 

(モノにするなら…此処だ…!)

 

猗窩座は全ての攻撃に意識を研ぎ澄ませ、極限まで集中する。

 

-破壊殺・終式 青銀乱残光-

 

瞬間、童磨の攻撃は全て同時に見える程の速度で掻き消された。そして同時に、結晶ノ御子も一体残らず破壊された。

 

「猗窩座……まさか…お前……」

 

遠くで観戦していた黒死牟は驚愕する。

この一瞬、猗窩座は紛れもなく黒死牟と同じ領域へと入っていた。そうでなければ、あれだけの血鬼術をほぼ同時に掻き消すことなど不可能だ。

 

「猗窩座殿…今、何したの…?」

 

感情を持たない童磨も流石に驚きを隠せない。

眼前の敵は、先刻までとは何もかもが変わった。視線は童磨の肉体ではなく、更に奥を見透かすような…。そして、あれだけ溢れ出していた殺気は微塵もない。

 

「…終わりだ、上弦の弐。

俺は遂に……長きに渡って求め続けてきた"至高の領域"を…この手で掴んだ…!!」

 

-破壊殺・滅式-

 

先刻までとは比べ物にならない速度で接近する猗窩座。

 

-血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩-

 

慌てて巨大な氷の仏像を作り出す童磨だったが、仏像は攻撃する間もなく一瞬で破壊され、猗窩座の拳は童磨の身体中に放たれる。

 

肉を殴り潰す鈍い音が周囲に鳴り響き…やがて静かになる頃には、童磨の身体はボロボロになってその場に倒れていた。

 

「…ま…さか……俺…が……負け……る……なん…て……」

 

肉体を再生させながら、童磨は自分が負けたことに驚く。だがしかし、それでも悔しさなどは全く感じることはなかった。

 

「…言ったであろう、黒死牟。愉快な結果になる、と」

 

いつの間にかすぐそばに立っていた無惨は、珍しく愉快そうに黒死牟に話し掛ける。猗窩座はすぐさま無惨の方を向き、片膝を床に付ける。

 

「猗窩座よ。お前が勝利した今、此奴を生かすか喰うかはお前次第だ」

 

選択を迫られた猗窩座は再生中の童磨に目だけを向け、再度無惨へと意識を戻す。

 

「…俺はコイツを喰いません」

 

「それは何故だ…?」

 

強さを求めながら、強くなれる道をわざわざ手放す猗窩座。

無惨は若干興醒めしつつも、猗窩座の考えを問う。

 

「俺はコイツを心底嫌っていますが、強さだけは認めざるを得ない。俺が喰ったとして、コイツの穴埋めができるほど強くはなれないでしょう」

 

「…それだけか?」

 

そうではないだろう、と言いたげな無惨。女性を喰わないことに嫌味を言いつつも、純粋な強さを求める猗窩座を無惨は気に入っている。それ故、猗窩座の考えは手に取るように分かるのだ。

 

「…愚かながら俺は…俺自身の力で昇り詰めたいのです」

 

猗窩座は更に頭を下げ、期待を裏切ることに謝罪する。

 

「しかしご命令とあらば勿論…俺はコイツを喰いましょう」

 

あくまでも無惨の思うままに動く態度は変えない猗窩座。

無惨は醒めた興が戻り、再び笑みを浮かべる。

 

「良かろう。猗窩座、お前の好きにすると良い。

そして、今日よりお前には上弦の参から改め、弐の数字を与える」

 

ほんの一瞬、瞳に衝撃が走る。それが収まった頃、猗窩座の左目には"参"ではなく"弐"の文字が刻まれていた。それと同時に、童磨の右目には"弐"ではなく"参"の文字が刻まれていた。

 

「良くやった猗窩座。これで脳内対話が煩くなくなるであろうな」

 

「……………」

 

それだけを言い残し、無惨は無限城から出て行った。

猗窩座は無惨に冗談を言われるとは思っていなかったらしく、鬼には不要な瞬きを繰り返した。

もしくは冗談ではなく、猗窩座が入れ替わりの血戦をしたもう一つの理由がバレていたのかもしれない。

 

 

 

その後鳴女の琵琶によって、三者それぞれが元居た場所へと戻されることとなった。

 

「…………」

 

猗窩座は己の"透き通った"拳を見て、強くなったことを実感する。それと同時に、自分自身が何故強さに拘るのかを今一度考える。

 

「…何か…とても大事なことを…忘れている気がする……」

 

先の未来で、猗窩座は炭治郎、義勇と戦っていた。そして炭治郎に言われた言葉に、何か大きな意味があったように感じる。

 

―お前もそうだよ猗窩座。記憶にはないのかもしれないけど…赤ん坊の時のお前は、誰かに守られ助けられ…今生きているんだ―

 

―強い者は弱い者を助け守る。そして弱い者は強くなり、また自分より弱い者を助け守る。それが自然の摂理だ―

 

その考えが不快だと感じる一方で、全くその通りだとも感じて仕方がない。

 

「他人と背比べをしている訳ではない……。戦う相手は……いつも…自分自身……………」

 

何処かで聞いたことのあるような言葉が、自然と自分の口から出てくる。

 

「重要なのは……昨日の自分より強くなること……か…」

 

先の未来で、自分は炭治郎によって頸を落とされた。しかし、死亡した本当の理由はそうではない。経緯は分からないが、自分自身に拳を振るっていた。

 

「…………」

 

そして拳を振るう瞬間、何故か炭治郎に対して感謝の気持ちを向けていた。理由は分からない。だが…炭治郎には今一度感謝の言葉を述べなければならないと、何故かそう思ってしまう。

 

「…竈門炭治郎……。お前は俺の何なのだ……」




【あとがき】

お読みいただきありがとうございます。
盆休みは暇な時間があるから書く時間が多く取れて良き良き。


猗窩座が至高の領域に到達した場合、おそらく童磨には勝てるのではないかなと思い、こういう展開にしました。
アニメというか映画を観て、透き通る世界が如何に強力なのかを感じましたのでね。
猗窩座が童磨を喰わなかった理由がこじつけみたいですが、童磨を離脱させてしまうと今後の構想が根本から崩れてしまうので無しです。
とは言いつつも、毎度の如く殆ど無計画で書き進めているので、今後どうなるかはまだ決まってません。


因みに…この入れ替わりの血戦中、鳴女は
"私の城を矢鱈滅多に壊さないでくれないかなぁ…"
としか思っていません。
良いぞ…鳴女さん…!
映画でも水の演出入れるくらいロックな鳴女さん!


感想にあった質問について、どういう形で返答するか悩んでいたので、ここでまとめて書きます。

鬼側の記憶について
敵側の鬼で現状未来を知っているのは猗窩座だけです。今後他の鬼が未来を知るかどうかは……………。
有利不利は……どっちなんでしょうかね?
その辺りのことは全く考えてませんでした。行き当たりばったりで書いてますので……。


炭治郎の技量についての解釈
まず前提として、炭治郎は日の呼吸を使い熟すまでには至っていません。これは公式にある通りで、完結時の炭治郎は"できる"と"使い熟す"の中間辺りにいるためです。
そしてここからが私の解釈ですが、記憶では分かっていても、炭治郎の身体は日の呼吸をそれほど理解していません。要は錆兎の言っていた"知識として身につけただけで、身体は何も覚えていない"という状態です。なので無限列車時には、数回だけでも日の呼吸を使うと動けなくなる。という風にしています。
……痣についてはノーコメントで。

まあ、決戦時の強さを持っていたら、義勇が参戦する意味がなくなってしまうからというメタ的な理由が本音ですが………。
炎柱と水柱の共闘を書きたかったんですよ……。そのシーンは短かったんですけどね…。

兎も角、所詮は二次創作なので細かい所は見逃して頂けると……。


しのぶの足を使えばいいのでは?について
…足で日輪刀は、実弥以外にできる気がしないんですよね…。それに足を攻撃手段にすると、折角の移動・反射速度に影響もありそうです。



話は変わりますが…誤字報告ありがとうございます。
一つ笑ってしまった誤字報告があったのですが、
杏寿郎の「うまい」を「美味い」と書いてしまっていたようです。
確かにこれは紛れもない誤字でした。申し訳ございません。


今後も誤字脱字があれば、報告していただけると幸いです。
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