未来を変える鬼狩り達   作:yuki_06090570

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焦る鬼狩り

無限列車の一件からおよそ二ヶ月半。

 

炭治郎たちはしのぶ、獪岳、杏寿郎に続き、他の柱たちにも情報を共有し、皆の強化訓練…もとい"柱稽古"をおこなっていた。

……余談だが、獪岳と行冥は未だ顔を合わせていない。というより獪岳があえて行冥を避けているような状態である。

 

そして一般隊士たちへの稽古については元柱たちが代わりにおこなっているため、自分たちへの稽古に回せる時間が大幅に上昇している。

上弦の鬼と、ひいては鬼舞辻無惨と戦った記憶を持つ者たちとの稽古はあらゆる面で合理的で、柱であろうと成長速度が凄まじい。

 

「…こうして実戦形式の稽古も交えて鍛練を続けていますが、未だ痣の発現すら叶わないとなると……本当に頸が斬れるようになれるのか不安になります………」

 

自身の小さな手を見て俯くしのぶ。

食生活を根本から見直し、毎日水分を多く摂取して人より多く排泄をおこなう。そうしていく内に、身体に纏わりついていた怠さは次第に減少していった。

 

ある程度毒が薄れてきたところで実弥たちの稽古に参加するようになり、まずは痣の発現を目指して鍛練をおこなっていた。しかし血反吐を吐きかけるほどの鍛練をおこなっても、痣が発現する気配は一向に見えてこない。

 

「このままだと本当に……私は役立たずになってしまいます……」

 

「落ち着け胡蝶。何もお前だけじゃない。俺と炭治郎、不死川以外はまだ痣が出ていない……煉獄もだったな」

 

焦りから呼吸を乱すしのぶに、義勇は"慌てる必要などない"と言って落ち着かせる。だが相当過酷な鍛練をしていて尚、新たな痣者が出ないのが不思議なのもまた事実。体温と心拍数以外にも、隠れた条件があるのだろうか。

 

「……"命の危機に瀕した状況でなければ、一度目の痣は発現できない"なんてこともあったりするんでしょうかね…?

"火事場の馬鹿力"的な感じで」

 

炭治郎は少し考え、思ったことを口にする。その言葉を聞き、その場に居た者たちは炭治郎に意識を向ける。

 

「単なる推測に過ぎませんけど、やっぱり実戦かそうでないかは全く違いますし。俺と義勇さんと不死川さんは痣を出した経験…というか記憶がありますから要領は理解してますが、他の皆さんはそうではないので」

 

「……つまり、上弦と戦っている間に痣を出すしかないと…」

 

痣を出すためには上弦のような強力な鬼と極限の戦いをしなければならないのかもしれない。しかししのぶは痣を出せたとしても頸を斬ることは叶わない可能性が高い。つまり毒に耐性を持つ上弦相手の場合、その場で”透き通る世界”に入ることができなければ、完全な足手纏として戦わざるを得ないということに。

…だからこそ

 

「…遊郭でしたよね…上弦の陸は…。

私も…同行させてもらえませんか……」

 

しのぶの希望に、その場に居た者たちはすぐには頷けなかった。

上弦の陸は誰も命を落とすことなく倒せたのだから、わざわざしのぶが戦いに加わり危険を冒す必要性は何処にもない。勿論、一般人の命も余さず助けるとなれば話は変わってくるが、だとしても義勇や実弥が同行すれば良いだけのこと。

 

「あのだな胡蝶……何もそこまでしなくても――」

 

「無謀だし迷惑だってことは分かってます…!

でも…そうでもしないと…!

…私は皆さんと違って…何もかもが足りていない……。

皆さんが速く走る方法を探しているとすれば…私はまだ立つ方法を探している状態なんです……」

 

拳を握りしめ、震えた声で天元の言葉を遮るしのぶ。

その震えは焦りから来るもので、自分が役に立てない…というより、姉の仇を討つ手立てを現状持ち合わせていないことが相当不安なようだ。

 

「……勿論…私の我儘ですから、いざという時は見捨てていただいて構いません……。

だからどうか……お願いします…!」

 

しのぶは懇願するように、炭治郎たちに頭を下げる。

炭治郎たちが本気で却下すれば、おそらくしのぶは引き下がるだろう。だが鬼殺隊を辞めるという選択肢を持たない…持てない彼女がこの機会を逃したまま進んでいくと、近い未来鬼によって命を落とすことになるのはほぼ間違いない。

 

「……見捨てる訳ないです。俺たちはしのぶさんを…皆を助けるために、今頑張っているんですから」

 

であれば同行を許可して、痣を発現させる機会を多く用意しておくのは愚策ではない…のかもしれない。

炭治郎に至っては、しのぶに覚悟を捨てさせた上、痣の発現と透き通る世界の会得に協力するという約束も(殆ど一方的であったが)あり、ここで彼女の申し出を却下するのは筋違いだと感じていた。

 

「ただ…猗窩座に記憶があったとすれば他の鬼にあってもおかしくはないですし、仮に無かったとしても情報共有はされてるでしょうから、俺たちの知る上弦の陸よりも強い可能性もあります。

勿論俺たちも全力は尽くしますが、本気で危険だと思ったら退いてくださいね」

 

「…分かりました……ありがとうございます」

 

そうして、遊郭には天元、炭治郎、善逸、伊之助に加えて、しのぶが向かうこととなる。

 

「さて…そんじゃあそろそろ行くか。

未来では無限列車の四ヶ月後だったが、俺たちが律儀に鬼共を待ってやる理由なんてないしな」

 

出発の準備を終えたところで、天元はニヤリと笑いながら炭治郎たちに振り返る。

 

「いいかよく聞けお前ら。俺は神だ!お前らは…()の使いだ!まず最初はそれをしっかりと頭に叩き込め!!ねじ込め!!

そして神の使いである以上!一人の女くらい守りきってみせろ!!」

 

天元は炭治郎たちを(ごみ)から神の使いに昇華させ、三人には”しのぶを守る”という重大な任を与える。

 

「相変わらずやべぇ奴だよ……アンタ……」

 

「アンタじゃないぞ善逸!俺たちは神の使いなんだから、しっかり神を敬わないと!!」

 

「…お前も相変わらずとんでもねぇ奴だよ……」

 

多少…大きな差異はあれど見覚えのある光景に、善逸は絶句する。

 

「山の王だろうが、神の使いだろうが関係ねえ!

俺はしのぶだけは絶対守るぞ!!」

 

ただし伊之助だけは少し違った。

何せ伊之助にとってのしのぶは、母親を想起させる人物なのだから。…母親と思われている本人は怒るかもしれないが。

最近では見たことのなかったしのぶの表情を多く見るが、それでも守り助けたいという気持ちはカナヲと同じくらいある。

 

「…あの…私は何から反応すれば良いのでしょうか……」

 

自身を神だと豪語する者。自称神を本気で敬おうとする者。そんな二人を蔑む者。自分を守ると宣言する自称山の王または神の使い。

目の前の異様な光景にしのぶは困惑を隠せないまま、遊郭へと向かった。

 


 

遊郭に到着したところでまず向かった場所は、藤の花の家紋の家だ。

 

「よし。戦いの前に情報共有だ。とは言っても、胡蝶に共有するのが大半だがな」

 

「…お手数お掛けします」

 

そうして上弦の陸についての話をしていく。

一 鬼は兄妹の二人組で、何方か一方の頸が繋がっていると死なない。

 

二 妹の方は帯状の肉体を自由自在に振り回して攻撃してくる。ただし強さは上弦には満たない。

 

三 兄の方は自身の血から生成した鎌を用いて攻撃してくる。血の刃を自在に飛ばすことも可能で、何かに接触するまで延々と追尾してくる。そして兄の血液は猛毒である。

 

「毒に関しては禰豆子が適宜燃やして消す予定ですが、戦闘中では難しいかと思いますので血鎌には十分注意してください。

禰豆子、いざというときは頼むぞ」

 

「もち、ろん!」

 

炭治郎の呼びかけに、禰豆子が言葉を使って返答する。すると炭治郎を含めた皆が目を見開いて禰豆子を凝視する。

 

「…禰豆子さんって……喋れましたっけ…?」

 

「いえ…陽の光を克服するまでは喋れなかったんですけど……ってことは…」

 

「うん!もう、だい、じょうぶ!」

 

禰豆子は握り拳を作り、笑顔で答える。

記憶があるのは禰豆子も例外ではない。その記憶を頼りに効率良く血の成分を変化させ、既に陽の光を克服できる体質になったらしい。

 

「…禰豆子。克服できたことは良いんだけど……今無惨に気付かれるとマズイから、まだ太陽の下に出るのは我慢してくれるか?」

 

「うん。わかっ、てる」

 

「ごめん禰豆子。ありがとうな」

 

炭治郎が頭を撫でると、禰豆子は満足そうにしながら箱の中へと戻っていく。そして箱の戸を閉める直前、

 

「ぜん、いつ、さん。が、んばっ、てね」

 

善逸に手を振り、戸を閉めた。

炭治郎が禰豆子の頭を撫でていたときは顳顬(こめかみ)を震わせていた善逸だったが、禰豆子に手を振ってもらった瞬間、

 

「うん、一撃で上弦の頸を刎ねてみせるさ」

 

自分が思う一番恰好良い表情で豪語する。

そしてそんな善逸を見て、皆呆れるばかりであった。

 


 

情報共有を終えた後、荻本屋、ときと屋へと向かう。理由は単純明快。天元の妻である"まきを"、"須磨"を引き取るためである。

未来で定期連絡が途絶えたのは三ヶ月と少し経過した頃だったため、今であれば鬼に捕らえられていないと踏んだのだ。しかし、

 

「…居なくなっただと…?」

 

当の二人は既に姿を消していた。ということは、おそらく上弦の陸の隠れ蓑である京極屋に居る"雛鶴"も同様に捕らえられている可能性が高い。

 

「お前らは上弦の陸を斬りに行け。俺は俺の一番大切なもんを助けに行った後にすぐ追い付く」

 

天元は冷静ながらも慌てた様子で、鬼の食糧庫となっているであろう地点へと走り去っていった。

 

「善逸、伊之助、しのぶさん……急ぎましょう」

 

記憶より早く連れ去られたということは、鬼側にも何かしらの変化があったということだ。そうなると一般人への被害を想定して、一刻も早く鬼の元へと向かった方が良い。

炭治郎は嗅覚を鋭くして、鬼の気配を辿る。そうして辿り着いたのは当然京極屋。

二階からは鬼の気配が二つ。

 

「……二つ(・・)…?……っ!ま――」

 

妹の頸を斬ると兄が出てくる。そんな先入観を持ってしまっていたことが仇となった。

炭治郎はマズイと言いかけた瞬間、腕を思い切り引っ張られて後退する。

その直後、京極屋の窓が破壊され、先刻居た場所の地面に血の刃が接触する。血の刃は轟音と共に地面を抉り、辺りに土埃を舞わせた。

 

「んん?…攻撃気付いたのかぁ…お前」

 

「あら?随分と美しい鬼狩りね。それに柱かしら。力は弱そうだけど。

…他は不細工ね。あと…何その猪は」

 

震えるような男の声と共に姿を現したのは上弦の陸・妓夫太郎だった。隣には片割れである堕姫も居る。どうやら二人は既に分かれていたようだ。

そして後ろを見ると、しのぶが炭治郎の腕を掴んでいた。

 

「すみません、しのぶさん。守るって言いながら助けさせてしまって……」

 

「いえ、構いません。それよりも今は目の前の敵に」

 

三人は刀を構え、善逸は居合の体勢に入り、兄妹鬼に集中する。

 

「みっともねえなぁお前ら。自分より小せえ女に助けられて」

 

妓夫太郎は炭治郎たち三人を見て嘲笑する。

二人の反応からして、未来の記憶は持っていないようだ。だがこうして最初から同時に現れているということは、やはり何かしらの情報共有がされていたということなのだろう。

 

「…これが上弦……なるほど…」

 

下弦の鬼が赤子に思えるほどの圧倒的な雰囲気に、しのぶは少しばかり気圧される。だがすぐに気持ちと刀を持ち直す。

 

「女に助けられるみっともねえ鬼狩り三人と、頸も斬れなさそうな小せえ柱一人で、俺たち二人に勝てるわけねえんだよなぁ!」

 

妓夫太郎は嬉々としながら、炭治郎に血の鎌を振り下ろす。

炭治郎は血の鎌を辛うじて防ぎ、

 

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃-

 

善逸が妓夫太郎の頸を狙う。

しかし妓夫太郎はもう一方の手に持っている血の鎌で善逸の居合いを防ぐ。

そして動けない炭治郎と善逸に向かって、堕姫は帯の攻撃を放つ。

 

-獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き-

-蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ-

 

伊之助は帯の攻撃を細かな斬撃で弾き返し、しのぶは堕姫本体に接近して刀を複数回突き刺す。

一瞬頸を斬られたかと焦る堕姫だったが、斬られていないことに気付いて口角を上げる。

 

「……やっぱり小さいから力もなくて斬れないのね!

アンタは美しいから、帯に取り込…」

 

接近してきたしのぶに対して、帯の攻撃を放とうとする堕姫。しかし堕姫は唐突に(うずくま)り、その場で吐血する。

 

「何…これ…毒…?!」

 

そしてしのぶは、咳き込み悶える堕姫を無視し、妓夫太郎に向かって突きを放つ…がしかし、しのぶが技を放つより先に

 

-血鬼術 飛び血鎌-

 

妓夫太郎は炭治郎と善逸の刀を弾いて、自在に動く血の刃をしのぶへと放っていた。

辛うじて血の刃を防いだしのぶだったが、堕姫が毒を分解する時間を作ってしまった。

 

「お前かぁ…あの山で毒を使ってた奴は…。

よくも俺の妹に毒を打ち込みやがったなぁ…!!許せねえなぁ!!」

 

「…では、貴方が代わりに毒を受けてくれます…?」

 

-蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き-

 

この場に居る誰もが見切れないほどの速度で妓夫太郎に接近し、そのまま刀を突き刺す。

まともに攻撃を受けた妓夫太郎だったが、接近してきたところに反撃で血の鎌を振り切る。

しのぶは寸前で回避をおこなうが、ほんの僅かに鎌の攻撃を掠ってしまった。

 

「しのぶさん!

禰豆子…血鬼術で――」

 

禰豆子を箱から出そうとした瞬間、複数の血の刃がしのぶの方へと一直線に飛んでくる。しのぶは刀で受けたものの、遠くへと吹っ飛ばされてしまった。

そして眼前に妓夫太郎はおらず、毒の分解を終えた堕姫が不機嫌そうに立っていた。

 

「よくも…!!よくも私の顔に毒を…!!許さない…許さないっ!!!」

 


 

吹っ飛ばされた先で、しのぶは妓夫太郎と見合う。

 

「随分と早いですね…毒の分解が…」

 

「お前こそ……俺の血鎌は猛毒があるのに、なんで平然と立ってやがんだぁ…?!

小せえお前は掠っただけでも即死のはずなのによぉ!!」

 

毒を打ち込んだというのに堕姫よりも分解が早く、しのぶは一人では勝ち目がないことを嫌でも悟ってしまう。

そして妓夫太郎も、小柄なしのぶが毒を受けたのに息切れ一つ起こしていない様子に腹が立ち、自身の身体を掻き毟る。

 

「毒なんて日常茶飯事なんですから、効くはずもありませんよ。貴方もそう思いません?宇髄さん」

 

しのぶが賛同を求めた瞬間、妓夫太郎の後ろから大きな刀が頸目掛けて振るわれる。

 

-蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角-

 

その攻撃に合わせて、しのぶは妓夫太郎の身体目掛けて六連続の突きを放ち、多量の毒を打ち込む。

妓夫太郎は血の鎌を振り回すことで頸こそ守れたが、毒により僅かに蹌踉めく。そして二人からの追撃を警戒して血の刃を自身の周囲に纏わせる。

天元は血の鎌に掠りつつも、妓夫太郎から距離を取る。

 

「悪い。まさか既に分かれてるとは思わなかったわ」

 

「…事前に聞いていたら私も油断していましたね。聞いていなくて良かったです。

もう一体の方は炭治郎くんたちが戦っているはずです」

 

妓夫太郎が毒の分解に手一杯で血の刃を飛ばしてこないのを確認した後、しのぶは現況を手短に話しながら懐から注射器と薬剤を取り出し、薬を自身と天元に投与する。

 

「毒の巡りを可能な限り遅らせる薬です。毒の成分が不明瞭なので解毒はできませんが…。

禰豆子さんが居ないので、ひとまず保険で使っておきます」

 

そうして投与が終わると同時に妓夫太郎も毒の分解を終える。そして立ち上がると、妓夫太郎は天元を見る。

 

「…お前も柱かあ?

いいなぁお前ら。男の方は特にいいなぁ。シミも痣も傷もねえんだなぁ。背も高くて肉付きもいいなぁ。

妬ましいなぁ妬ましいなぁ!!」

 

「痣…ねぇ…。叶うことなら痣が欲しいんだがな。なあ、胡蝶」

 

「ええ…本当に」

 

冗談のつもりで言った天元と、心からの願望を言ったしのぶ。

しかし妓夫太郎からすれば、顔立ちの整った二人に言われるのは何方も煽りにしか聞こえない。

 

「ふ…ふざけんじゃねぇえっ!!俺に対する当て付けなんて!許せねえなぁ!!」

 

妓夫太郎は怒り狂い、血の鎌を大きく振るう。その度に血の刃を幾つも生み出し、周囲に纏わせていた分も同時に放つ。そして血の刃と一緒に、天元としのぶへ血の鎌を振り掛かる。

天元はしのぶを守るように妓夫太郎自身の攻撃をいなし、しのぶは天元を守るように血の刃を一つ一つ落としていく。

 

妓夫太郎の鬼血術を曲にして戦った記憶はあるため、技を繰り出せばかなり優位に立ち回れるだろう。

だが戦闘が始まってからそれ程時間が経過していない。天元の妻たちが遊郭に住む人々の避難を完了させるまでは、周囲を爆発させるような技を使用する訳にはいかないし、させる訳にもいかない。

 

(急いでくれよ…須磨、まきを、雛鶴…!!)

 


 

しのぶが妓夫太郎に吹っ飛ばされた後、炭治郎たちは目の前の堕姫に集中せざるを得なくなる。

 

「あの女の前に…醜いお前らから殺してやる!」

 

堕姫は癇癪を起こしながら、炭治郎たちに帯の攻撃を放つ。更には食糧庫の方に回していた帯も自身の身体へと戻し、四方八方から三人に攻撃する。

 

-日の呼吸 灼骨炎陽-

 

炭治郎が帯を斬り付けた瞬間、堕姫は灼けるような痛みに襲われる。

堕姫が痛みに襲われて攻撃が緩んだ一瞬を突いて、

 

-雷の呼吸 漆ノ型 火雷神-

 

善逸が一瞬にも満たない速度で接近し、堕姫の(しな)る柔らかな頸を圧倒的な速さで斬り落とした。

しかし妓夫太郎の頸がまだ繋がっている影響で、堕姫の攻撃は緩まない。先を考えることを捨てた漆ノ型を使用した善逸は帯の攻撃を対処できないが、

 

-獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂き-

 

伊之助が細かく斬り刻み、善逸を帯の攻撃から守る。

あまりにあっさり頸を斬られた堕姫は喚きながら帯を振り回すが、三人はそれを無視して帯の攻撃を捌き続ける。

 

「炭治郎!お前は兄鬼の方に行って、しのぶさんを助けろ!!

こっちは俺と伊之助で対処できる!!」

 

堕姫の攻撃が単調になり余裕ができ始めた善逸は、妓夫太郎と正面から戦った経験(記憶)のある炭治郎に、しのぶを助けへ向かうように指示する。

 

「分かった!

禰豆子。善逸と伊之助の援護を頼む!」

 

調薬できるしのぶが居ない今、万が一毒を受けてしまうと対処できなくなると判断して、炭治郎は禰豆子に二人の援護を任せる。

そうして禰豆子が箱から出てくる姿を尻目に、炭治郎は妓夫太郎と戦うしのぶの元へと向かう。

 


 

妓夫太郎の攻撃を捌きつつ、一般人の避難完了までの時間を稼ぐ。

だが技を出せるしのぶは兎も角、本気で刀を振るえない天元は、容赦の無い妓夫太郎の攻撃を次第に捌き切れなくなってきていた。

そんな天元を見て妓夫太郎は追撃を仕掛け始める。

 

-鬼血術 円斬旋回・飛び血鎌-

 

妓夫太郎は振りの動作無く血の刃を広範囲に繰り出す。

だが漸く周辺から一般人が()け始め、それを把握した天元は周囲を心配することなく技を出せる状態になる。

 

-音の呼吸 肆ノ型 響斬無間-

 

初見の技故に反応がほんの僅かに遅れるしのぶを庇うように、天元は全ての血の刃を的確に弾いていく。

 

「長々やる必要はねえ!!さっさとトドメを刺しに行くぞっ!!」

 

天元は全力を出せるようになり、嬉々として妓夫太郎へと斬り掛かっていく。

しのぶは天元の速度に追い付くために体温と心拍を上昇させようとするが、小柄故に毒の巡りが速くなることが致命的となり、身体が軽くなる前に毒の影響が強まる。

そして一瞬の蹌踉めきを妓夫太郎は見逃さなかった。天元の攻撃の合間を縫って、血の刃をしのぶへと放つ。隙を突かれたしのぶは対応できず、血の刃に接触…

 

-日の呼吸 日暈の龍・頭舞い-

 

する寸前で、炭治郎が血の刃を斬り落とした。

 

「しのぶさん、焦って無茶しないで!

毒の巡りを速めてしまっては、目的以前の話になってしまいます!!」

 

「…すみません…!」

 

-蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹-

 

無理なら無理で、今打ち拉がれている暇はない。しのぶは妓夫太郎と天元が拮抗している隙間を縫って接近し、急所である頸に毒を打ち込む。

そして妓夫太郎が毒で隙を見せたところで炭治郎も接近し、

 

-日の呼吸 円舞-

 

易々と妓夫太郎の頸を刎ね飛ばした。

善逸と伊之助の方でも堕姫の頸を刎ねていたらしく、妓夫太郎の身体はその場で(ちり)となり始めていた。

 

「…すみません…毒が……」

 

焦って無理矢理痣を出そうとした所為でしのぶは妓夫太郎の毒を余計に巡らせてしまい、その場で意識を落としてしまった。

 

 

…………………………

 

 

目を覚ますと蝶屋敷に居て、カナヲがすぐ傍に座っていた。

 

「姉さん…!良かった…!

アオイーっ!!姉さん起きたよーっ!!」

 

しのぶが目を覚ましたことに気付いた瞬間、カナヲは大声でアオイを呼び付ける。すぐさま人を呼んだのは、おそらく隠の後藤に説教された記憶が根強くあったからなのだろう。

カナヲの声を聞き付けたアオイは大慌てでやってきて、しのぶの無事を心から喜ぶ。

 

「しのぶ様!無事で良かった……!」

 

「…あの…師範を……炭治郎くんを呼んでもらえますか……」

 

相変わらず炭治郎のことを師範と呼ぶしのぶに、カナヲとアオイは違和感を覚えながらも炭治郎を呼び付ける。

 

「しのぶさん。大事無いようで良かったです。

それで、何かお話が?」

 

しのぶは何とか身体を起こし、炭治郎に頭を下げる。

 

「……まず…すみません。我儘で同行した挙げ句、手を煩わせてしまって……」

 

「いえ、謝るのは俺の方です。一番最初で油断してしまってすみません。あの時しのぶさんが後ろに引っ張ってくれなかったら、俺は死んでました」

 

互いに謝罪を繰り返し、暫くしてからしのぶは本題に入る。

 

「…上弦と戦っても…痣は出せませんでした……。勿論、毒の影響で上手く心拍数を上げられなかったのは分かってますが……」

 

今回の任務の前から不安と焦りを感じていたしのぶ。この戦いで痣を発現させられれば、漸く鬼狩りの第一歩へと足を踏み出せるだろうと期待して同行した。しかし結果は惨敗。原因はあれど、痣を発現させられなかったという事実はしのぶを打ちのめすのに十分過ぎた。

 

「……やっぱり私には…透き通る世界どころか…痣も………」

 

「……しのぶさん。今、体温を測ってみましょうか。前は確か三十五度前半だったんですよね」

 

炭治郎に体温計を渡され、しのぶは静かに体温を測る。そうして測り終わって結果を見る。

 

三十六度六分

 

平熱が一般的な値まで上昇していた。そして続けて渡された手鏡でしのぶは自身の顔を見る。毒で(やつ)れていた顔付きは既に消え去り、肌艶が毒を摂取し始める前に近い状態まで戻っていた。

 

「…諦めず頑張りましょう。あの時しのぶさんは一方的に約束してきましたが、俺だってその約束を破るつもりないですよ。

……痣はできれば出して欲しくないですけど、出さなければしのぶさんは……命に変えてもお姉さんの仇を討つでしょうから」

 

「…私だって…何も死にたい訳じゃないんです。ただ…死なずに勝つ方法が無いだけで……。だからといって鬼殺隊を辞めることは…両親が…姉があんな風に殺されてしまってはできるはずもありません……」

 

しのぶは先程まで諦めかけていたが、平熱が上昇したこと、自分でも分かるくらい顔色が良くなったこと、炭治郎の言葉、そして両親と姉、継子が殺されたことを思い出して、再度痣と透き通る世界の会得を目指そうと決意する。

 

「傷が癒えたら……またよろしくお願いします」

 

「勿論です。ただそのことで少し知らせることがありまして」

 

炭治郎は、しのぶが眠っている間にあった話を要約して話す。

 

「…私は刀鍛冶の里へ行けば良いと……。炭治郎くんは…?」

 

「俺も一緒に行きます。

アレが量産されたとなると、一般隊士の方々だけでなく俺たちにとっても有用な"武器"になりますからね。

……改良もしたとか嬉しそうに言っていたので、最悪本当に死にかねませんけど………」

 

炭治郎は"アレ"で鍛練した記憶もあり、改良の具合に恐ろしい想像をしてしまう。今の炭治郎ですら死にかねないのであれば、自分は瞬殺なのでは…と恐怖するしのぶだったが、強くなる…痣を出すのに最も近い稽古()なのは間違いない。

 

「隊士の治療はアオイさんに任せて大丈夫です。アオイさんも未来ではカナヲと一緒にしのぶさんを継いでいたので、調薬の方も問題ないはずです」

 

「…分かりました。では、復帰でき次第知らせます」

 

そうして、しのぶの次なる稽古が刀鍛冶の里でおこなわれることとなった。




【あとがき】(長いです)

お読みいただきありがとうございます。

今回は遊郭の戦闘というより、強さを求めるしのぶが焦り苦悩するお話がメインなので、戦闘シーンは手短に済ませました。……手短になってますかね…?

妓夫太郎はこんなに弱くない気がしますが、彼の攻撃は個人的に文字での表現が難しいんですよね……。
後は未来を知ってから三ヶ月弱なので、炭治郎たちは柱と同等位の強さになります。要は妓夫太郎と堕姫は柱5人を相手にしてたということに…。

しのぶは毒を失ったことと頸を斬れないことでかなり焦りを感じている様子を危うさで表現してみました。
彼女の雰囲気が原作と大きく離れていますが、話が進むにつれて原作の雰囲気に寄せていくつもりでいます。

ところで…上弦の鬼と戦ったものの、しのぶは痣が発現しませんでしたね。
果てさて"次"の上弦との戦闘では発現するのでしょうか……?

投稿主は鬼滅キャラの中でしのぶさんが一番好きなので、登場回数が他より増えるのはご了承ください。…彼女が一番何とかしないと死ぬキャラというのもありますので……。

ちなみに天元も痣は出していません。
痣を出した方が良いのは承知の上で、嫁さんたちと幸せに長生きしたいという想いがあるためです。
出したいけど出せないしのぶ。出せるけど出したくない天元。
つまり天元としのぶは真逆の立ち位置に居る訳ですね。
何せ、長生きした現役柱は天元だけな訳ですし……。


"無惨が雲隠れする"ということを懸念されてる方も居られるでしょうが、
成長して透き通る世界を会得した炭治郎たちと、縁壱一人
…どっちがヤバいかは比べるまでもないし、陽の光を克服した禰豆子の件と産屋敷邸を発見することも加味した上で、無惨が雲隠れするか否かの結論は出ているかと。(珠世&しのぶの傑作は考慮されていません)

今回の鬼側…というより無惨の考えですが、原作でも言っていた"妓夫太郎が最初から戦っていれば勝っていた"を実行させた訳です。
ただ初手でしのぶが炭治郎を助けたことと、炭治郎たちが未来の記憶を持っていることが決め手になって、普通に妓夫太郎は負けました。



余談ですが、
妓夫太郎の台詞は"いいなぁ"ではなく"いいなあ"です。
ただ小文字の方が個人的に読みやすそうだったので小文字にしました。
(杏寿郎の"うまい"とは違い、あえて変えてます……)

誤字脱字があれば報告していただけると幸いです。
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