〜TS転生コキリ族ハイラルを往く〜 ゼルダの伝説 FAIRY OF THE MAGIC   作:ジュミ・ベラウ

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 お待たせいたしました……



妖精と水の民と……

 

 sideティリア

 

 ハイラル平原から東に向かい、コポンガ村の湿地帯を抜けてさらに向こうの土地。ハイラル1の大水源を管理する水の種族『ゾーラ』の住まう里……

 地上でありながらどことなく海中のような雰囲気のある土地ジャラ。サンゴみたいな低木とか生えてるし。

 

 表敬団は1日かけて無事に里に辿り着いてた。

 道中、ボクにあまり仕事はなかった。と言うより、魔物が出て真っ先に飛び出して行こうとしたのをストップかけられちゃったんだよネ……

 

「要人に戦ってもらう近衛がどこにいますか……」

「え、ボク戦闘要員じゃなかったの?」

 

 というワケだったのでス……

 考えてみれば、この先厄災との戦いが確定している中、ボクが全部やっちゃって、兵士サン達の成長の機会を奪うのも憚られるネ。でもちょこちょこ魔物の弱点解説くらいはしとこーか。

 「釣った魚ではなく釣り方を教えるべし。それこそが最良の支援である。」っていうしネ。

 それ以外はおとなしく馬車の中でリンクを膝枕していた。リンクは筋肉痛で全く動けない有様なんだケド、里へ向かう道はお世辞にも滑らかとは言い難いからけっこー揺れる。クッションとかないから、リンクを休ませるにはこーするしかなかったんだヨ。……ホントダヨ……?

 

 そんなこんなでゾーラの里にて表敬団はゾーラ王『ドレファン』に謁見を済ました後、技術者は遺物発掘について話し合うために資料室へ、騎士や兵士たちはゾーラ兵士たちとの技術交流のために訓練場として使われている里近くの広場へと散っていった。

 とはいえ今回の主目的はあくまでも表敬挨拶。半ば個々人の自由時間時みた交流ってカンジだネ。発掘調査に関してはシーカー族の学者団が後々訪れることになってるらしいジャラ。

 

 リンクは他の騎士達と同じく、ゾーラ兵士たちの訓練場にいった。ケド、身体の治癒が完了していないと言うことで模擬戦の見学しかさえてもらえず、不服そうな顔で座ってる。

 ボクは今度はゾーラの兵士サンと模擬戦してる……あんまりこっちに来てないはずなのに「森の賢者様」と呼ばれたのはビビったヨ。あんまりかしこまられると、それはそれでキョリがあって寂しーような……

 ドレファン王は……ローム王と違って目上扱いじゃなかったケド、なんだか同格扱いされた気がしないでもない。年齢的にはあっちが年上だし、よくわかんないや。

 

「ケガ……してるよ?」

「?」

 

 あらら? いつの間にかリンクの隣に赤いウロコのゾーラの女の子が座ってるネ。

 彼女がリンクの手をとったら、瞬間、淡い青の光が彼の身体を包んだ。

 彼女の持つ『癒しの力』が働いて全身の細かい傷やらアザやら、痛めた筋繊維やらが修復されてる……

 

「!」

 

 彼は目を丸くして、そして次には瞳を輝かせた。あのカオは多分、「これでまた鍛錬ができるぞ!」って考えてそーな、うん……

 

 それはともかく……伝説的な場面を見ちゃった! 見れちゃった! 

 リンクとミファーの出会いだヨ。リンクもまだまだちっちゃいケド、ミファーもまだまだ幼い顔立ちだネ。

 いいねー初々しいねー。やはりこんな2人を引き裂いたガノンは許されざるヨ。許すつもりなんてありはしないけどサ。

 この世界のリンクくんは誰とくっつくんだろーネ? 結婚式には呼んで欲しいものだヨ。

 ま、結婚は死亡フラグの最たるモノなのでこのハナシはここまでに。

 

 ジッサイ、厄災はともかくガノンドロフに勝てるビジョンがまだまだ見えないんだよねェ。ボク自身も、マスターソードがないからとどめをさせないという点を除いたとしても……ダメだろうなァ。回避ラッシュや弓矢のスローはボクもできるケド……ガノンドロフのラッシュ返しには対応できる気がしないや。ネールの愛も盾と同じくらいパリパリ割られそう。

 というか、リンク君4歳で回避ラッシュしてくるとは思ってなかったヨ。だいぶムリはしてたから、よく観察したら筋肉が内側からズタズタになってるの丸わかりだったネ。

 それも今ミファーが治してくれたので一安心一安心。

 

 ありゃ、リンク達がこっちに来た。邪魔をする気はないケド、ボクにご用と言われれば答えてあげるのが大人の義務だよネ。外見年齢13歳かそこらだケド!

 因みに見た目だけじゃなくて身体機能も子供だから違法ロリだヨ。お酒も当然飲んだことないでス。

 17歳以下立ち入り禁止の『ラネール山』には入ったけどネ。女神像にお参りして、それからネルドラの素材を集めて……

 閑話休題!

 

「やー少年。と、ゾーラのお姫サマ。ボクに何かご用?」

「お姫様?」

「そーだヨ。このミファーちゃんはドレファン王のお子さんジャラ。」

 

 リンクも表敬の式典にいたはずなんだケド……まぁ、あーいう儀式めいた手順と難しいマナーの挨拶は4歳にはキビシいよネ。1XX歳コキリ族でもムズかしかったジャラ……ある程度の作法はデクの樹サマに仕込んでもらったんだけどネ……

 

「初めまして。森の賢者様。」

「堅苦しいのはやめてほしーナ。ティリアって呼んでヨ。ミファちゃん。」

「ミファちゃん⁉︎ あ、その、ティリア……さん。」

「なぁに?」

「その、さっきはお父様とお話されてたから、改めてご挨拶に。」

「いいよーかしこまらなくっテ。キミは王族でボク一般コキリ族なんだしサ。」

「?」

「どうしてそこで首を傾げるのかな?」

 

 聞いてみれば、あぁ、ナルホド。ボクのことお姫様だって思ってたのネ……

 

 ナンデ⁉︎

 

 迷いの森の主である大精霊『デクの樹』様の娘であるのなら、森の妖精の姫君も同然? いや、その理屈はおかしい。だって森の妖精はみんなデクの樹サマから生まれるんだヨ。だからこの言い分だと全てのコログは王族になっちゃうヨ。

 

「でも、そのコログ族がティリアはお姫様だって。」

「それは例えってやつジャラ。」

 

 ウン。合点がいったヨ。そもそも人の子っていうのはあらゆる動物の幼生の中でも群を抜いて弱いンだ。例えば馬の子供は生まれて数時間の内に自分の足で立つケド、人間は歩けるようになるまで1年かかる。

 それから喋ったりだとか走ったり跳んだりできるまでそれはもう時間がかかる。小動物なら生まれて一生を終えてるくらいの時間をかけても、それでもまだオトナには遠い。

 ボクは身体年齢がストップするまでの間はそういう普通の人間みたいな成長過程を辿った。……ところで森の中は人間の赤ん坊がハイハイしてアチコチ行くにはだいぶアブない。物心つくまではだいぶとヒヤヒヤさせちゃったみたいだヨ。

 それで頭を打ちかけたこととかもあって、周りのコログ達はスッゴク過保護になっちゃった。

 まるで『お姫様』みたいに大事に育てられたんだヨ。

 

「ふふっ。それで、アイサツはしたし、ボクと何かおしゃべりする? これでも色々知ってるからネ。どんなおハナシが聞きたい?」

 

 子供っていうのは、あんまり可愛いもんだからついついおねーさんぶってしまうヨ。

 ……おにーさんは流石にムリがあるのはもうネ……

 最近胸もほのかに膨らみ始めたし……仮面をつけてても女の子だってバレる程度には声と体つきに女のコ感が出てるみたい。

 

「その、これ……」

「ウクレレ? わァ、ボクが作ったヤツだ。買ってくれたノ?」

「妖精の楽器は魔法が使えるって聞いて、それでムズリに頼んで買ってきてもらったの。」

「アー、そっかァ。城下町でしか売ってないものネ。」

 

 通販とか始めよーかな。どこでも届く『フロルの風便』……いや、そろそろ自分のネームバリューの大きさを自覚するべきかも。そんなコト始めたら製造も配達も間に合わないヨ。

 

「ふむぅ。ウクレレ……てっきりゾーラのお姫サマはハープを選ぶと思ってたんだケド……」

「実は、里の男の人が先に自分で買ってきてたのをみたの。それがギターで、少し教えてもらって。でも私はまだ小さくて持てないからってムズリが。」

 

 なるほどネ。確かにゾーラ族男性はギターが似合うジャラ。〈ムジュラ〉の『ミカウ』のイメージだヨ。

 

「それで、ついてきた楽譜の曲は全部覚えたんだけど、少し前に、里に伝わる古い曲を奏でたら、変わった事が起きて……」

「変わったコト?」

 

 ボクの知らない魔法の曲だったりしたのかな?

 ともかく、一度聞かせてもらうコトにした。

 

 どうも家族以外の周りには秘密にしてたみたいだから、ボクとリンクと彼女の3人で、『ミカウ湖』の方に移動した。里の東にある小さな池で、滝が流れてきてるとこだネ。『雷獣山』のふもと。ミカウの名を冠してるし、曲を奏でるにはここいらで1番のロケーションだと思うヨ。

 

『♩♩♩♩♩〜……』

 

 実際に奏でてもらうと、スッゴク聞き覚えのある曲だった。

 

『♩♩♩♩♩〜……』

 

 ボクもついついオカリナで合わせてセッションしちゃった。順番は逆だケド、弦楽器とオカリナで、原曲に近い組み合わせだ。演奏に合わせて水が流れるようなエフェクトが舞う。魔法の曲を奏でた際には必ず起こる現象だヨ。それぞれに固有のエフェクトが付随してる。だからここまでは魔法の曲であればそこまでおかしなコトじゃない。

 演奏を終てから、彼女の言う不思議なことが起こった。

 

 ミファーちゃんの身体が青い光に包まれて……ウーン、魔力とフォースが微かに活性化してるネ。増強されている、と言うよりは眠ってる潜在能力が大きく胎動してるってカンジ。

 

 彼女が奏でた曲は〈時オカ〉において、水の賢者『ルト姫』が待つ場所、ハイリア湖畔へと誘うワープの曲だった。

 

「この曲は『水のセレナーデ』。水の賢者へと導く歌。ミファちゃん、キミは古の水の賢者の力を受け継ぐ者なんだヨ。」

 

 こればかりは隠し立ててもしょうがないので、ある程度ぼかしつつ伝える。かつてのワープ曲は、眠れる賢者の力、その目覚めを促す歌になってるんだと思う。決して強化の力じゃないヨ。

 どーしてわかるかって言うと、昔に、森の賢者へ導く曲『森のメヌエット』を奏でた際に同じような事がボクの身体に起こったからだヨ。その時は強力なバフの手段を手に入れたってはしゃいだケド、ある程度成長してくると効果は消えちゃった。潜在能力が完全に覚醒して、成長の段階に入ったからだと分かった。それを裏付けるように、ゴロンシティで奏でた『炎のボレロ』は曲そのもののエフェクトは舞ったケド、ダルケルの身体に変化はなかったジャラ。アレはダルケルが力を覚醒させた上で鍛える段階に入ってたからだと思う。

 風と雷は……対応する曲が分からないから試してないケド、多分ウルボザには効果はないネ。

 

「水の……賢者?」

「そうだヨ。厄災ガノンの前身、恐ろしき闇の大魔王と戦った賢者達の1人サ。」

 

 ミファちゃん固有の力は癒しの力だケド、水の賢者は水を司る。ゾーラ族であれば大なり小なり水を操れるケド、賢者ともなれば何も無いところにも水を生み出せるはずだヨ。〈ティアキン〉のシドとか、〈厄黙〉のゾーラ姉弟なんかがやってたコトだから、この世界の彼女にもやってできないことはないと思う。 

 

「私……どうしたらいいのかな?」

「好きにすればいいんだヨ。責任さえちゃーんととってればネ。」

 

 大いなる力には大いなる責任が伴う。有名なヒーローのフレーズだネ。でも、望んで得たチカラでもないなら、無理に使う必要もないとボクは思ってる。使わないってコトも十分責任を取る行為だヨ。使わなければムダな混乱とも無縁だしサ。

 ただ、彼女の性格だと、使いこなしたいって思うだろーネ。だっテ……

 

「──みんなを守りたいから。」

「そっかァ。じゃ、特訓あるのみだネ。でもムリだけは禁物だヨ。子供は急いでも大人にはなれないんだから。……何か相談があれば、この曲を奏でてヨ。」

 

『♩♩♩〜♩♩♩〜……」

 

 『サリアの歌』。この世界のボクの代名詞とも言える曲。何でかっていうと暇な時はとりあえずこの曲を吹いてたから。森にいた頃からずっと。

 コログ達もこの曲が大スキだヨ。

 ただ、1番の使い道は、この曲を演奏すれば離れたところからでもボクと会話ができること。だから楽譜は限られたヒトにしか教えてないんだ。王妃サマに、ウルボザとダルケルくらいかな……

 一方通行だからボクから他の楽器の持ち主に声を飛ばすことはできないけどネ。

 

 ところでリンクってばハナシの途中でこっくりこっくり船を漕いでた。やっぱり子供なんだなァ。

 

 *

 

 雷獣山の山頂より、3人の姿を見下ろす黒い影があった。

 

「見つけたぞ、水の賢者の血を引く娘……!」

 

 その男、歳の頃は18かそこら、もっと若くも見える。整った顔立ちに身長は170cmない程度とハイリア人男性にしてはやや小柄か。病的なまでに白い肌と、血の色の瞳。黒みがかった紫の服とマント、頭巾のような三角帽子を身につけ、赤い宝石の飾りが額を彩る。

 

 1体のライネルが彼の後ろに侍っていた。4本足の馬の胴体。人型の上半身に獅子の如き顔と山羊のようなツノ。

 この赤いライネルは古くから電気の矢でもってゾーラ族を困らせてきた雷獣山の雷獣が1体である。ライネルは恐ろしく強い魔物とされるが、赤はその中でも最弱の種だ。

 

「……森の賢者は今は殺せぬか。未来は変えられようと、過去は違う……今は既に過去だ。『時の賢者』にとっては……だが! 水の賢者については未知数。故に、試すとしよう。生きる価値がある命かどうか、ゾーラの里諸共!」

 

 男は一振りの剣を抜き放った。それは夜の闇より更に暗い黒をしていた。

 その刀身が赤い月の如く輝くと、吹き出した瘴気がライネルを包み込む。天に黒雲が揺らめき、そして雷が落ちる。

 

『グララアガア!』

 

 ライネルは咆哮を上げる。その体躯は金色に染まっていた。

 

「生まれ変わった気分はどうだ?」

『ジャリァ……』

「よし。ならば、行け。」

 

 ライネルの目の前に2振りの剣と巨大な弓が突き立てられた。

 それまで身につけていた武器は瘴気によって朽ち果て失われていた故に、ライネルは代わりとして2振りの『獣神の剣』と『獣神の弓』を携え、矢筒には数十本もの『電気の矢』が収まっていた。

 

 『金色のライネル』は蹄の音を響かせ、雷獣山を下っていった。

 

 *

 

 その夜のことだった。宿屋で眠っているティリアは、夜間巡視のゾーラ兵士のつんざくような叫びに叩き起こされた。

 

「ッ!」

 

 そして次の瞬間には右手に剣を、左手に盾、背中に弓と矢筒を携え、飛び出していた。

 

「東か!」

 

 里の東、昼間ミファー達といたミカウ湖の方角。悲鳴はそちらから聞こえてきていた。

 ポーチから取り出した『ゴーゴー薬』を一息で飲み干し、走行速度を増強すると、深夜、人通りの少ない中を駆け抜けて行く。

 里から東に伸びる橋の向こうで稲光が瞬いた。

 

『グララアガア!』

(ライネルの声……雷獣山の赤ライネルが降りてきた?)

 

 ライネルは基本縄張りから外に出ることはない魔物である。また武人然とした気質を持ち、縄張りに入ってしまっても武器を抜いたりせずに大人しく早々に出ていけば襲ってくることはない。

 だがその行動にも例外がある。最下位の赤いライネルは縄張りに入ったものに見境なく襲いかかる。そして雷獣山の雷獣は電気の矢を使いこなす赤いライネルだ。

 雷獣山には『試しの岬』という飛び込み台のような岩場があり、ゾーラの若者は勇気試しにそこから遥か数百m下の『東の貯水湖』の湖面に飛び込むというある種の伝統があった。

 誰ぞ、無鉄砲な若者がライネルの前を通って岬に行こうとして、ここまで追われてきてしまったのであろうか、と彼女は考えた。普通ライネルは縄張りから十分離れればそれ以上追わずに戻っていくが、そこは個体差というものがこの世界にはある。

 

 しかし事態はより深刻であった。

 

「きゅ、救援を頼むゾラ。ぐわぁーーーッ!」

「し、痺れて動けんゾラ……」

 

 深夜の暗闇を、時折貫く白い稲妻。それに照らされてあらわになるライネルの体躯。

 

金色(こんじき)の……ライネル!」

 

 ハイラルに棲む魔物の最強種たる印、金色。この世界においては、数十年に一度、ごく稀に現れるかどうかという希少個体。金色のライネルは白銀のライネルが雷を浴びて変異した存在とされている。

 

(そういえば昼間から、今もゴロゴロ言ってるケド……赤からいきなり金はやりすぎジャラ……)

 

 ライネルは2振りの剣を巧みに操り、雷鳴を放ちながらゾーラ兵士たちを蹴散らして、橋へと迫ってくる。

 

(……二刀流⁉︎ 雷鳴は……まさか⁉︎)

 

 ライネルは時折剣を天に掲げる。その度に落ちる落雷のエネルギーを剣に纏わせているのだ。

 

(サンダーウォードソード……あのライネルは雷を操る!)

 

 橋の入り口にライネルが脚を踏み入れたタイミングで、ティリアは現場に到着していた。すぐさまライネルは突進気味に右の剣を振るう。ティリアはそれを後ろに飛び退って避けた。バク宙にしなかったのは、回転斬りにも言えることだが、一瞬とはいえ敵に背中を見せるのを嫌ったからである。ボコブリンの如き愚鈍な魔物ならともかく、ライネルという高い知性を持った魔物であれば、バク宙の途中で背中に追撃を狙うくらいはしてくる。ゲームと違って回避ジャストやラッシュに無敵時間なんぞないのだ。

 

「チィッ()つ……」

 

 斬撃そのものは問題なく回避できた。しかし帯電した剣が放つ範囲の広い電撃波までは躱しきれず、右腕に火傷が生じる。体力が満タンでなくなったことにより、コキリの白刃剣(ホワイトソード)に灯っていた黄金の輝き(フォース)が消え失せた。

 

『グルルル!』

「おっそろしいネ、ホント。」

 

 ライネルの赤い目がティリアを見つめている。

 

(赤い目……)

 

 おかしい。金色の魔物は青い目をしているはずだ。人里にわざわざ降りてきたことといい……

 

「フツーじゃないネ、オマエ。」

 

 ティリアは剣を鞘に収めた。そしてライネルを注視するのをやめ、次の瞬間には神速の抜刀から『居合斬り』を繰り出す。

 

 イワロックの身体を容易く両断する一撃を受けても、ライネルの胴体には袈裟懸けに浅い傷が生まれたのみだった。血すら滲むことのない浅さ。

 

「なんて硬くてしなやかな筋肉だろーネ!」

『!』

 

 ライネルはニィっと嗤った。ただ硬いだけなら今の一撃でライネルの身体は切り落とされていただろう。しなやかな筋繊維だったからこそ、そこにうまく力を込めて流動させることでダメージを受け流したのである。

 ライネルが両腕の剣を振り上げた。その動きを見て、ティリアは盾を構える。

 

 しかし予測していた衝撃がくることはなく、ティリアが盾を下ろすと、ライネルは弓に矢をつがえていた。そしてその狙いは彼女ではなく、里の中央。

 

「フェイントか!」

 

 彼女は慌てて振り返る。ライネルの狙う先には、

 

「ミファちゃん!」

 

 幼いゾーラの姫が、怯えまどう里の住人達を宥めようとしていた。

 普通ならざるライネルの普通ではない行動。縄張りを離れ、人里を襲い、戦う意志を持たない幼気な少女を狙う。

 

「このボクの前で、いい度胸だネ。」

 

 彼女は、少しばかりの失望を感じた。自身との闘いより、別の目的を優先されたことに苛立ちを覚えた。

 それゆえの一撃が渾身の力で放たれ、獣神の弓とつがえられた矢とをもろともに両断していた。

 

『ガ、ラ?』

 

 ライネルは僅かに戸惑い、すぐさま弓を捨て、剣を抜く。

 

「この橋落としてもいーい?」

「やむを得ん。許可するゾヨ!」

「ありがとっ!」

 

 玉座の間に声を張り上げてドレファン王から許可をもぎ取る。それを聞くか聞かないかのうちに魔法『ディンの巌』は発動していた。

 突き立てられた剣先から橋の内部に熱が送り込まれ、その熱膨張によって橋を構成する青い石が砕ける。その破片もろともライネルは数十m下の水場へと落下していった。

 

 闘う気がなく、里に甚大な被害をもたらすものと見たならば、誉も何もない駆除を行うだけである。

 

『バジャァゥ⁉︎』

 

 ライネルの巨体であっても脚はつかない。犬かきならぬ馬かきで泳ぎながら、ライネルはティリアを睨みつける。

 そして大きく息を吸い、火炎弾を吐き出そうとして、

 

「隙だらけジャラ。」

 

 その脳天をヘッドショットで撃ち抜かれた。

 通常の弓より遥かに速い矢速である。分厚いライネルの皮膚を穿ち、深々と傷をつけた。

 一瞬とはいえ、意識を失ったライネルの身体が沈み始める。脂肪が少なく筋肉隆々のライネルは水に浮きにくい。

 

 しかし油断はならない。ライネルにはテレポート能力がある。これを使って侵攻することはなく、基本は縄張りへ帰る時にのみ使われるが、しかしてこのライネルは普通ではない。テレポートで背面を取ってこない保証はない。

 

「だからこーするヨ。」

 

 青い結界が水底に沈んだライネルを包み込む。

 ライネルは必死に足を動かして浮上を試みるが、青い結界はその場から動かずライネルを閉じ込めてしまった。

 次にライネルは剣を掲げた。稲光が真っ直ぐ剣へと落ちてくる。しかし結界は雷を素通りさせた。ライネルは剣を振って、ティリアめがけて電撃波を飛ばそうとする。

 しかし電撃は結界の表面にぶつかると霧散して消えてしまった。

 

「名を冠するならば、『ネールの()』ってトコロかな?」

 

 それは『ネールの愛』をそっくり反転させた魔法だ。

 『ネールの愛』には裏表がある。ゆえに外からの攻撃を弾き、内側からは攻撃が通る。それを逆転させた。

 外からの攻撃は通り、内側からは通らない。

 人ではなく場所を対象とするため結界が移動しない。

 水や空気は自由に出入りできたのがそれも一方通行に。

 何よりも、結界の中で自由に動けたのがそれも不可能だ。

 『ネールの哀』の結界は、内部のものを停止させようとする。分子運動の停止。即ち、

 

「凍結、だヨ。」

 

 ライネルを取り囲む水の水温が下がってきていた。ライネル自体は炎上することも、感電することも、凍結することもない高い耐性を持った魔物だが、水はそうではない。

 白い塊の中に、金剛の獣人が閉じ込められていく。

 

「……つっかれたジャラ……」

 

 元来『ネールの愛』は群を抜いて魔力消費の大きな魔法だ。それを反転させてあれこれ改造したために、今の今まで理論でしか完成していなかった魔法である『ネールの哀』は、彼女の魔力の大半を奪っていった。

 

 ──ピシリ……

 

「やっぱりネ。」

 

 結界にヒビが入り、そして即座に砕け散る。

 もうもうと水蒸気が上がり、その中から赤く光る球体が勢いよく飛び出してくる。

 雷雨が、さらに強くなった。颶風が球体を吹いて運ぶ。

 

 ゾーラの里中央に着地したそれは、その形をライネルへと変えた。

 

『ガラララ!』

 

 胸から顔にかけてが痛々しく焼け爛れていた。

 口から放つ火炎放射を体内で炸裂させて無理やり凍結を破ったのだ。

 

 ティリアは思わず舌なめずりをしていた。ポーチから取り出した焼きリンゴを食らって体力を全快させると、金に輝く白刃剣を抜き放つ。

 

「そー来ると思ったヨ。」

 

 ライネルを閉じ込めている間に里のゾーラ族たちは避難済みである。しかしライネルは橋を渡って里の住民を追うよりも、ただティリアを見据えて待ち構えていた。

 

「ふふっ。これで心置きなく闘える……防衛戦は苦手でネ!」

 

 全速力で駆け寄って、猛然と突きを見舞う。それを躱されたなら馬、次は横に薙ぐように斬りつけ、それも大したダメージにならない。

 

()りがいがあるねェ。」

 

 彼女の心は高揚していた。これだからライネルとの戦いは癖になる。

 ライネルにはティリアほどの技術はない。そしてティリアにはライネルほどのパワーとスタミナはない。

 総合的に見た時、ライネルはティリアと同等か少し下程度の強さなのだった。そしてそれは、『白銀』の個体での話。

 一つ上の金色ともくればまず間違いなく格上であろうと踏んだ。そういう相手に人々を守りながら戦い抜くことは不可能と言えた。

 

 *

 

 彼女とライネルの戦いを、ハイラル兵士、ゾーラ兵士は里の外から遠巻きに見つめるしかなかった。

 

「は、速い……」

「あれが、森の賢者の、全力か。」

「我々は随分手加減をされていたのだな。」

 

 目を離していなくとも、その動きを追うのがままならない。二転三転と両者の姿勢が変化する。ライネルの剛剣をティリアの技が弾き、ティリアの美麗な剣をライネルの剛力があしらう。

 放たれる電撃波とフォースの剣ビーム。2つの金色がぶつかり合って消える。

 線熱の『ディンの炎』がライネルの火炎弾を貫いて霧散させる。

 纏った『ネールの愛』の結界が、タックルによって粉砕される。

 

 一進一退の攻防。されどお互いに有効打を与えられず。

 

「ッ! 賢者さまのスピードが落ちたぞ?」

「疲れたのか?」

 

 騒ぎ出す人々の中、ミファーの隣でリンクだけが正しく現状を把握していた。

 

(違う。ずっと前から疲れてた。)

 

 子供の肉体。パワーとスタミナが不足し、そして直ぐに眠くなる。『ネールの哀』で消耗した時点で魔力は碌に残っていない。

 普段ならその時点で眠くなる。そして今日は真夜中に叩き起こされたので寝不足もあった。コンディションは最悪一歩前。対するライネルは生命力の張った金色ゆえに、時間と共に傷は癒えてゆく。火炎弾で負った大火傷もいつの間にか消えていた。

 それでも彼女が戦えていたのは『ゴーゴー薬』の効果で身体を加速させ、脳内麻薬で誤魔化していたからだ。彼女は闘いを楽しんでいる。数十年ぶりの格上の敵に心を躍らせている。

 メガマグロックの時はダルケルがいた。そしてあれは戦いであって闘いでなかった。危険な作業という側面が強い。邪魔な溶岩塊を解体するという。

 今は彼女1人だけ。他の兵士は足手纏い。近くに誰もいないからこそ、彼女は取り繕うこともない。己の中の鬼を隠さない。

 

「修羅……」

 

 誰かが、ポツリとそう言った。

 薬のドーピングが切れ、動きが鈍化してもなお、彼女は剣を振り続けている。

 いつの間にか防戦一方に追い込まれているようで、それでも笑っていた。仮面の下にある表情は、しかし隠されてはいなかった。

 ムジュラの仮面はすでに、『森の小鬼』の本当の顔であったからだ。

 

 *

 

 獣神の剣に雷が落ちる。全力で挟み込むように斬りつけてきたそれを、ティリアは剣と盾で受け止めた。

 しかし盾は剣が食い込み、その下の腕に刃を食い込ませる。赤いシミが生じ、ぽたりぽたりと滴っては地面に小さな血溜まりを作る。

 

 だがライネルはそれ以上押し込むことはできない。かといってティリアも離れることはできない。

 

『グラァ……』

 

 ライネルはニタリ、と嗤う。思い切り頭を振り上げ、ヘッドバッドでティリアを地面に叩きつけた。

 石造りの床が砕け、細かな欠片が舞う。

 

 遠くで見ていた人々が悲鳴を上げる。

 

「……いったいなー、もー……」

 

 のそり、と立ち上がる。砕けたフロドラのウロコ盾と左腕をだらんとぶら下げて、それでも右腕だけで剣を構える。

 

「にゃはは。これくらい乗り越えないと、厄災には勝てんジャラ!」

 

 何もかもが皆遅く感じた。走馬灯が走るように、しかしそれは100年近くぶりの事象。勝ちの一手を手繰り寄せるもの。

 振る下された一撃をサイドステップでジャスト回避。そのまま後ろに回り込む。

 奥義『背面(そとも)斬り』。彼女の十八番が綺麗に決まった。矢筒や弓を背負うためのベルトが切断され、背中にざっくりと大きな傷が刻まれる。

 『フロルの雷』を剣に落とし、サンダーウォードソードを完成させたティリアがライネルを正面から見据え、剣の切先を突きつける。

 背中に傷を負わせたことと合わせての挑発だ。

 

『グララアガア!』

 

 それに乗ったライネルは突進気味に切り払う。それをティリアは上に飛び上がってジャスト回避。そのままライネルの頭上を取って縦に回転しながら、奥義『兜割り』を叩き込んだ。

 ライネルの背後に着地して、脳震盪で怯んだライネルの馬体に騎乗する。ライネルが振り落とそうと暴れ出すより先に彼女は急所を見定め、背骨の中央目掛け、全体重をかけつつ剣を突き立てる。

 

 奥義『とどめ』が確実に決まった。

 

『ガ、フッ……!』

 

 ライネルは激しく吐血すると、その巨体を崩れ落ちさせた。

 

 *

 

 魔剣士は変わらず雷獣山山頂から里での戦いを見つめていた。

 

「不甲斐なきヤツ。森の賢者には勝てぬのだから無視すればよかったのだ。……万年赤のままに、この雷獣山で大将気取り……力だけを与えようと心まではそうはいかないか。」

 

 男は手に持った黒刃剣を見つめる。柄に輝く橙色の宝玉には、悍ましい魔力が込められている。しかし使えば使うほどその力は減り、最終的には回復のため剣は眠りについてしまう。

 

「……まだ行けるか。」

 

 魔力の残量を確かめた魔剣士は、その切先をライネルへと向けた。はるか向こうで崩れ落ちたその巨体は、既に黒ずみ、消失の寸前であった。

 

「せめてその死でもって役立って見せろ。」

 

 黒刃剣より瘴気が放たれ、それはにわかに吹き出した颶風(ぐふう)に乗ってライネルの元へと届けられた。

 

 *

 

 ティリアは消えゆくライネルの前で残心を解こうとして、思いとどまった。突如吹き荒んだ強い風に乗って赤黒い瘴気の塊が飛んできたからだ。

 彼女は咄嗟に『フロルの風』で吹き飛ばそうとしたが、その強風は普通ならざるものであった。ティリアの風を飲み込み、勢いを増したのだ。それは魔の颶風であった。自分以上の使い手が放った自然ならざる風だとティリアはすぐに理解した。

 

 瘴気はライネルの身体に飛び込む。

 消えゆく魂に燻る怨念を煽り、増幅させる。

 

 赤黒のに染まり、今にも塵と化して消えそうな身体で、ライネルは立ち上がる。

 身体のあちこちに雷色の斑が浮かび、再び開かれた目は爛々と輝く。それは消えゆく命の灯火が、最後に一際強く輝くのに似ていた。

 

『…………!』

 

 もはや声も発せないままに咆哮を上げる。武器を手に取ることもなく、鋭い爪を振り回す。知性は完全に失われ、闇に飲まれたままに振る舞う。

 

「オマエのようなザコがいるか……!」

 

 ゲーム風に言うなれば、第二形態(ボスの特権)

 

 『怨念のライネル』はティリアの、その背後に焦点を合わせていた。

 

「!」

 

 つられて彼女が振り向くと、『ゾーラ大橋』の向こうから2人の子供が走ってきている。

 

「ミファちゃん、来ちゃダメジャラ!」

 

 彼女は傷ついたティリアを癒そうと、『とどめ』が決まった段階ですでに走り始めていたのだった。

 それが、裏目に出てしまった。

 

 ライネルはティリアを突き飛ばし、ゾーラ大橋へ向かって駆けて行く。彼女は必死で追おうとして、それで足をもつれさせて転ぶ。もう体力が残っていない。

 

(これだから防衛戦は嫌ジャラ。自分以外の動きなんて制御できるわけない!)

 

 ミファーが悪いなどと口が裂けようと、魂が張り裂けようと言う気はない。言えるわけもない。

 誰が悪いか。ライネルを操る黒幕だ。

 

 急いでポーチを探り、回復薬を取り出そうとして、上にあった予備の盾を掴む。それを彼女は渾身の力で投擲した。盾はライネルを追い越し、ミファーの隣にいたリンクの足元に転がる。

 リンクはそれを構え、ミファーの前に躍り出て、ライネルの爪を打ち払った。

 

 そのリンクの小さな背中を、ミファーは頬を染めて見つめていた。

 

 彼が防いだ一撃でオルドラのウロコ盾は粉々に砕けた。砕けることで衝撃を殺し、リンクの腕を守り切った。

 

(流石はリンク。未来の勇者だ!)

 

 そのほんの僅かな猶予。リンクの勇気が生んだ隙間時間に、ティリアは『ガッツ薬』と『マックス薬』を飲み干し、無理やり体力を回復した状態で『フロルの風』を使い、ライネルの前にテレポートする。

 

「ちぇりあッ!」

 

 フォースを纏った斬撃がライネルの胸を切り裂く。黄金の輝きが、まとわり付いた汚泥の如き怨念を霧散させる。

 だが、怨念は晴れない。すぐさま膨れ上がって再び身体を覆う。

 

『〜〜〜〜〜〜〜!』

 

 咆哮を上げれば、全身から間欠泉の如く怨念を吹き出し、そしてティリアの掲げる白刃剣の輝きの前に霧散する。

 ならば、とライネルは滅茶苦茶に腕を振り回す。

 しかし知性のない、乱雑なだけの暴力ではティリアを捉えるに至らず、ひょいひょいと回避された末に、胸の中心、心の臓を貫かれた。怨念を纏ったことで、かえって白刃剣に弱くなってしまったのだ。

 何より、このライネルはすでに死んでいた。魂と怨念だけで身体を動かしていた。

 そのために、筋肉は死後硬直をはじめ、斬りやすい硬さになってしまっていたのも、こうなった要因であろう。

 

 ライネルは再び崩れ落ち、肉体が黒い塵になって崩壊していく。

 

「終わった……の?」

「ッ……どこまでも!」

 

 終わってなどいない。厄災ガノン然り、怨念はしぶといのだ。

 

 朽ち果て、崩壊し切った骸の中より飛び出せしもの。胴が、脚が、腕が朽ちようとも、生首だけが怨念の汚泥を吹き出しながら浮かんでいた。目の輝きはとうに消えている。かのライネルはもはや自分が雷獣山の誇り高き獣人であったことも忘れ、ただ与えられた命令を遂行するべく、ミファーに向かって突貫して行く。

 

 死して尚その牙は鋭く、ゾーラ族の少女など一噛みで即死させられる大きさだった。

 

 ティリアは反応できた。しかし彼女の肉体に残る疲労が迎撃するには多すぎた。薬で回復しても疲労を取り去ることは不可能故に。

 リンクもまた反応できた。しかし彼の場合はこの骸を迎撃する手段がなかった。

 

 ミファーを守るものは、もう無いと思われた。

 ライネルの牙が突き刺さる。

 

 それは水のバリアであった。ミファーは生み出した水の球体で自身を覆っていた。一瞬のこと。彼女も無我夢中でよくわかっていない。

 

「もうやめて。」

 

 バリアは役目を終えて消滅する。ライネルの骸は空中に投げ出され、そして再びミファーに向き直って動きを止めた。

 ミファーの両手が、癒しの力が、ライネルに向けられていた。純真な『ミファーの祈り』で怨念を癒そうとしていた。

 しかしミファーの力は肉体を癒す力。怨念は心より湧き出るもの。

 

 それでも、ライネルは動きを止めた。

 

「そっか。結局、キミ達に助けられちゃったヤ。」

 

 ミファーのしようとしたことを理解したティリアは、妖精のオカリナを構えた。

 

『♩♩♩〜♩♩♩〜……』

 

 『いやしの歌』。優しい、それでいてどこか物悲しいような、切ないような旋律が響く。

 ライネルの亡骸はそれが聞こえた瞬間、ボロボロと怨念が剥がれ、本来の赤い顔へと戻った。

 

『グララアガア!』

 

 一声、遠吠えを上げるように叫びを轟かせ、そして塵となって消滅する。

 カランカランと音を立て、後にはライネルを模ったお面だけが残された。

 

「……今のは?」

「今度こそ、ホントに終わったジャラ。リンク、ありがとう。ミファちゃんを守ってくれて。……ボクだけじゃ、きっとどうにもならなかったから。」

 

 リンクとミファーを抱き寄せ、優しく頭を撫でようとして気づく。

 

「ありゃ……左手が動かないや。」

 

 傷は塞がっている。しかし塞がっただけで治癒したとは言い難い。

 

「そんな!」

「ダイジョーブダイジョーブ。このくらいすぐ治るヨ。これでもまだ成長期だし。ミファちゃんが無事でよかったヨ。」

 

 彼女を抱き寄せ、頭を撫でる。

 3人で密着した状態になり、リンクは頬を朱に染めた。

 

「わ、ゴメン! 汗臭かったでしョ……」

「ううん……そんなこと……」

「私も平気だよ……」

「なんて健気な子たちジャラ……」

 

 リンクは2人からいい匂いがしたことはなんとか口にせず済んだ。

 

 *

 

 山頂の魔剣士は、目の前の光景をにわかには信じられなかった。

 

「怨念を……祓っただと⁉︎」

 

 王家の姫が持つ『光の力』と『退魔の剣』以外にそのようなことができようとは思いもしなかった。

 魔法の曲の存在は知っていた。だが怨念を払う曲があろうとは予想もしなかった。黒刃剣に宿りし魔力はただの怨念とは出来が違うのだ。

 

「杞憂であればいいが。所詮はあの獣が怨念。厄災とは大きさが違う。……だが留意してはおこう。それにしても、藪蛇だったか。水の賢者が覚醒するとは……いや。」

 

 全ては運命(さだめ)。この事象さえも。ここが時の賢者にとっての過去であるうちは変えようがないのだ。知らない、語られていないだけで。

 分からないから知るために行動を起こした。その結果がこれならばそれでいい。行動していなかったなら、それもまた運命(さだめ)であったのだろうから。

 

「とかく、次の一手を考えねばな。」

 

 魔剣士の姿が掻き消え、後には颶風だけが残された。

 




『金剛雷獣神』ライネル
 ライネルの特異個体。通常の金色ライネルと違って、獣神の剣二刀流という凄まじい攻撃力を2倍の手数で放ち、その上サンダーウォードまで使いこなす。まさに雷獣山の主に相応しい風格を持ったライネル。

『ライネルのお面』
 つけると力の湧いてくるお面。攻撃力が蛮族装備2箇所分上がる。雷獣山の主の誇りが込められたお面。

奥義『兜割り』
 相手の上をとって切りつける技。その後相手の後ろに着地する。この技を決めるにはジャスト回避か『盾アタック』で怯ませるかしなくてはならない。この技が決まるとライネルであろうと大きくスタンする。ライネルに『とどめ』を決めるにはこれからつなげるコンボ以外ではまともに狙えない。

奥義『とどめ』
 姿勢を崩すなどして隙を見せた相手を一撃を葬る技。基本は仰向けに倒れている相手に、飛びかかって全体重を乗せて剣を突き立てる。ただし、大抵の場合は胸か腹をぶち抜くので、肝をドロップしなくなってしまう。その代わりに決まりさえすれば白銀だろうが金色だろうが一撃必殺。
 ライネル相手の場合は仰向けに倒れないので、スタンさせて背中に乗り、背骨と神経を貫く。なお、ヘッドショットからの馬乗りでは暴れまくるので、乗ってから暴れ始める前に狙いを定めて突き立てなければならない。


 なお魔剣士くんはオリジナルキャラです。アストルと予想されてる人もいましたが、彼の力は厄災ガノンの黒いガーディアン経由で手に入れたであろう力なので時間軸が合いません。ただ名前と風貌はゼル伝シリーズから取ってきてます。わかる人にはわかるかも。今回名前は直接出してませんが。

 そしてミファー強化。ゆくゆくは無双ミファー化をさせたいですね。

 次回はゾーラの里からハテノ村のリンク家に遊びに行く予定です。リンクの家族構成はちょっと悩んでます。妹は公式設定じゃなくアートワークの初期案か何かでしたっけ?
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