〜TS転生コキリ族ハイラルを往く〜 ゼルダの伝説 FAIRY OF THE MAGIC 作:ジュミ・ベラウ
本当はマジバトルしようかとも思ったんですけど、ティリアが強くなりすぎて相手になる人がいないのでこうなりました。
次回からまた魔物を出せるといいなあ。
スータの忠誠は絶対だった。彼女のもたらす情報はいつだって正しかった。
だがコーガもスッパも気づけなかった。彼女の忠誠はコーガに向けられるもの。本心では、厄災などどうでも良かったのだ。会った事も、言葉を交わした事もない伝説の存在より、今目の前にいて己を導いてくれる人間の方が大事だったのだ。
ティリアに与えられた権限は大きい。ハイラル城やカカリコ村に保管されている厄災についての資料も制限なく閲覧できた。
厄災ガノン。憎悪と怨念の権化。
イーガ団。かつてハイラルと共に厄災封印に尽力した古代シーカー族の末裔。
(イーガ団は、厄災に滅ぼされるのでは?)
彼女がそう思い至るのも当然のことであった。怨念とは赦しの対極に位置するのだから。だからこそ彼女は親兄弟を救うため、ティリアにSOSを出したのだ。
彼女がお守りとして渡した『ゴシップストーン』を通じて。
「というわけでボクはここにいる。」
「どういうわけだ!」
コーヒーなる黒い液体を啜るティリアにコーガは噛み付く。全くもって意味がわからない。アジトの秘匿は確実だった。よしんばバレても、軍勢を率いて攻め込むのが困難な場所にあるはずだった。
*
だが、彼女はやって来た。白昼堂々正面から門戸を叩いてだ。
「ドーモ、イーガ団の皆さん、スタルキッドです。コーガ=サンご在宅ですか?」
のほほんと、およそハイラルの敵に向けるのに相応しいとは思えない声色で、知り合いの家を訪ねてきたかのように足を進めるのだ。
門扉は『ディンの炎』で灰にされ、彼女を阻むこと敵わず、彼女はアジト内に侵入して来たのだった。
「出会え! 森の賢者を足止めしろ!」
隊長格の団員が声を張り上げると、下っ端達は次々に向かっていき、そして簡単に転がされてしまう。
ものの数分でコーガの部屋まで半分のところまで進撃してきたことで、流石に看過できないと最高戦力のスッパが送り込まれた。
「お命、頂戴いたす。」
「できるモンならやってご覧。」
その時になって初めてティリアは白刃剣を抜いた。つまりそれまで他の団員は素手でやられていたのである。それが剣を抜いたというのは、ティリアがスッパを強敵と認めているからに他ならない。
スッパは二刀流の使い手である。しかしその刀術は速さよりも力が目立つものだ。だが力任せの剣かと言えばそんなこともなく、二刀流らしい手数も備えている。
(……来る!)
だが何よりもスッパをイーガ団最強たらしめているのは彼の使う独自刀術の技『無眼』であった。一言で言えば強力無比なカウンター技。古代エネルギーの障壁で攻撃してきた相手の動きを阻害し、動きを止めたところに手痛い反撃を浴びせる刀術と古代技術の合わせ技。障壁はスッパの四方に展開されるため、背後を狙う『背面斬り』でさえ決め技とするには危険だ。
「さっきから避けてばかりにござるな。」
「こっちが打ち込めば『無眼』で反撃するつもりでしョ。勘弁してほしいなァ……ボクってば細っこいから上下に泣き別れしちゃうジャラ。」
実際、ティリアとスッパではかなり相性が悪い。ティリアの弱点はパワーファイターに押し込まれることだ。その点スッパはまだ途上とはいえティリアを押し込むに足る腕力がある。これがあと10年もすれば、盾を構えたリンクとウルボザの2人を剣圧の真空波だけでよろけさせるほどになるのだ。
「全く……キミも大概リンクと同じだヨ。
ひらりひらりと風に舞う木の葉の様にスッパの連撃を躱し続ける。素早さや瞬発力、攻撃を見切る能力においてはティリアの方が圧倒的に上であろうが、スッパもまたそれに準ずる領域にいる。ティリアの動きに追いつけはしなくとも、目で追うことはできている。そうなるとたとえ後ろに回り込もうとも『無眼』の構えを取られてしまうだろう。
その上、白刃剣の方もまるでやる気がない。人間相手なので当然ではあるが、それでもティリアが抜刀したのは、スッパの攻撃を素手で受け流せないからである。
が、手段を選ばなければイーガ団を壊滅させるくらいわけはない実力が彼女にはあった。ではなぜそうしないかといえば、彼女の目的のためには手段を選ぶ必要があった。不殺を貫く必要があった。
それからついでに自身の修行も兼ねていた。縛りプレイでもしないと近頃はまともなレベルアップが難しいほどの実力に彼女は至っていたのである。
「もらった……!」
その代償を、ティリアは支払うことになった。
疲労で動きの悪くなった、しかし僅かな隙に過ぎないところに差し込まれたスッパ渾身の一撃が、彼女の首を刎ねた。
「……。」
しばしの残心の後に、刀を鞘に納める。
「⁉︎」
違和感があった。手応えが軽すぎる。ないわけではない。だが人体の首の骨というのは硬いのだ。しかし、今スッパの手に残る感触は剣術訓練用の巻藁を斬ったのよりも僅かに軽いものだった。
倒れ伏したティリアの首の断面は真っ黒に染まっている。血も流れていない。しかしスッパはこれが異変なのか、それとも妖精の身体構造を考えれば当たり前なのか判断がつかない。コキリ族をこれまで斬ったことがないので当たり前であるのだが。
しかして、実際のところは間違いなく異変なのだが、若きスッパは判断に遅れた。
ティリアは森の妖精である。彼女の纏う葉っぱの服は大妖精の加護により、森林の中では着用者の移動速度を増加させる効果を持つ。そして彼女自身もまた、森林の中では強化される。自然治癒の速度もそうだが、何より、森の中では眠らなくてもじわじわと魔力が回復し、魔法を使う際の魔力消費も低減する。そしてまた彼女は100年を森で生きた故に、森の歩き方を熟知している。木の根に足を取られることも、枝葉に視界を奪われることもないのだ。
いわば彼女は森の中においては最強だ。
「これがボクの必殺技。実戦で使うのは初めてだヨ。名を冠するとして『ティリアの
魔力を込めたどんぐりやハイラルボックリ、魔法のマメをばら撒き、そこに彼女自身のフォースを与えて発芽。あっという間に育ってその場を森にしてしまう。
彼女はアジトを駆け回っていた。もはや行っていない部屋がないほどに。後を追うスッパが気が付かないように、コーガの部屋が見つからない演技をしながら。
太い蔓と幹が斃れたティリアから伸び、スッパを確実に拘束する。アジトのあちこちでも、魔法のマメの木によって団員たちが次々捕縛される。そしてまた、誰1人として逃げられなかった。転移の術を含めた全てが使えなかったのである。
*
sideティリア
いやー上手くいった上手くいった。
何をしたのかって? スッパ=サンが戦ってたのはボクの『ぬけがら』だヨ。『ぬけがらのエレジー』で作った、ネ。それを魔法のタクトで『操りの唄』を奏でて遠隔操作してたんだ。本体はとっくにコーガにたどり着いてたのサ。
ちなみに持たせてた白刃剣だけは本物だヨ。『フロルの風』でバッチリ回収したケド。いやー、側にないと落ち着かなくってェ……おかげでソワソワして『ぬけがら』の操作が覚束なくなっちゃッタ……
「どういうつもりだ!」
「いやァ、だって、ネェ……」
ウン。コーガ=サンが喚くケド、看過するのはキツいでしョーが。王妃サマ暗殺計画だなんてサ。スータさんに渡したゴシップストーンは『耳』つまりは収音マイクの役割しかない不完全品で、スータさんの意思でのみ起動できるんだヨ。で、ボクの持ってる『口』のゴシップストーン、つまりはスピーカーを通じてアジト内の会話が聞こえてきたわけだネ。それでまァ、なんとも無謀な暗殺計画が聞こえてきたもンだから慌ててやってくる羽目になったのサ。
オマエらさァ、ヒドいヨ。ナンデあんなこと考えるの? 悲しいジャン。
せっかくサ、今まで見逃してやってたのに。なのに、ナンデこんなマネすンの?
「もう殺すしかなくなっちャうヨ。」
「な⁉︎」
おー、ギョッとしてるギョッとしてる。ウン、怖いよねェ佐川はん構文。まぁ、ボクの声はコログと似た声だから怖さ半減なんだけども。
そもそも和解の余地がなくなるレベルの決定的な対立を避けるために時々アジトに潜入して情報を盗んで先回りすることで犠牲者を減らしてきたのに、その努力をパァにされちゃァたまったもンじゃないってばヨ!
どーやったかって? コログや龍たち精霊は一部のヒトにしか見えないし、聞こえないってカンジに一切認識できないからネ、その力を持ったお面を作ったんだヨ。『石コロのお面』サ。ただし、妖精が見えるヒトには効果がないから、コーガとスッパには効果がないネ。
さて、コーガも逃げようとして逃げられてない。そりゃァそうだヨ。ちゃぁんと準備してきたんだからサ。今のいままでイーガ団本部にカチコミかけなかったンはそれなりに理由がある。
コーガやスッパが慕われてるからネ、ウカツな排除は残った団員が統率が取れないなりに動きの読めないゲリラになりうるってこと。厄介極まりないわけだヨ。それはひとえに連中の神出鬼没性からくるものだ。
「なので作ったのサ。『イーガジャマー』をネ。」
シーカー族の使う古代エネルギーは青い。しかしイーガ団のものは赤い。そこに着目して研究し、ようやく完成させたイーガ団の古代技術だけを阻害する装置。それこそがイーガジャマーだ。転移の術も、土遁の術も、コーガの究極奥義も、スッパの『無眼』も、範囲内ではゼーンブ使用不可になる。基礎そのものは、古代兵器が厄災に乗っ取られた際に遠隔で停止させるためのものとして開発していたものサ。
「逃さねえってわけか。」
「当然。」
「殺さねえのか?」
「殺さないネェ。もったいないもの。」
「もったいない?」
「そうともサ。さて、イーガ団総長コーガ=サン、取引と行こうじゃァないか。『特命全権大使』であるこのボクとサ。」
ふむ。あんまり驚いてはいないネ。流石に組織の長だけある。
……ただ、ずっと平静でいられるのもなーンか腹たつし、ここは是非驚いてもらおうかなァ。
ちなみに、特命全権大使っていうのは、某悪質外星人と同じ肩書きで、内容としては、イーガ団とのやりとりにおいて、ボクはローム王から全権を委ねられてるってわけだヨ。責任重大! イーガ団の処遇についてはボクの一存でゼーンブ決められる。
「取引だぁ?」
「そ。停戦協定を結びたいのサ。」
「停戦だと。」
「ウン。そっから段階に休戦まで行ければ万々歳ってトコだ。」
「ふざけてる……ってわけじゃないな。」
「モチロンだヨ。人命がかかってんだからサ。」
「嫌だといったら?」
「別に、何もないヨ。ただ、キミ達を滅ぼすのに少しばかり本気になるだけサ。今まで見逃してきて理由もなくなる。イーガジャマーの配備が進めば、キミ達の無力化は容易い。今、ここが分水嶺だ。」
さて、説得がうまくいくといいケド。
そもそもイーガ団の信仰は厄災ガノンに向いているようで、多くは総長コーガの方を向いている。コーガがガノンを信奉しているから結果的にイーガ団全体が同じ方向を向いているようなもンだヨ。
だから、コーガさえ言い含められればイーガ団を味方に引き入れられないまでも、無力化くらいはできるはずなんだヨ。
さてさて、対人会話の経験ではコーガに圧倒的に劣ってるボクだけど……情報のアドバンテージでなんとかするしかないなァ……
*
が、結局のところ、コーガに協定を蹴る余地は残されていなかった。ティリアは自分で思っている以上に彼らを恐怖させていたのだ。
そして協定の内容もまた、かなり意外なものであった。
「厄災の復活は定まった事象だ。だからネ、ボクがイーガ団に求めるのはたった一つ、厄災が復活するまでは大人しくしていろってことだけ。」
その上で選べばいいと彼女は言う。
厄災がイーガ団に幸福をもたらす存在であるのならば、そのまま厄災の下にいればいい。
だが厄災がイーガ団をも害するのであれば、ハイラルに戻ってくるといい。
「正気か?」
「正気だとも。キミたちは選べる立場だ。他と違ってネ。だから、助かる道を潰してまでこちらに付けとは言えんヨ。それでも、キミたちは誰1人として本物の厄災を見たことも、言葉を交わしたこともないはずだ。果たして、それを信じれるのかな? 少なくともスータさんは無理だった。今イーガ団で1番厄災に詳しい彼女が、だ。」
「だから裏切ったのか?」
「いや。彼女は裏切らなかったヨ。だって、彼女がくる前からボクはここの場所を知ってたんだもン。」
「……。」
コーガは絶句した。ティリアの口にすることは全て事実であるのだ。ゆえに彼女は一切の嘘を口にしていない。それが分かるからこそ、どうしようもないのである。
「彼女はイーガ団のためにボクという保険を用意したにすぎないわけだ。全てはコーガ、キミへの忠誠がためにネ。責められる謂れがあるのかい?」
スータに手を出せば赦さんと、言外に告げられていることに気付けないコーガではない。
「厄災ガノンがイーガ団の思うような偉大な存在であるのならば、今のままでよしサ。その時は真正面から叩き潰してやるヨ。逆に、1万年の時を信仰に捧げたキミたちをも害そうとするのであれば、その時はボクらが守ってやるサ。」
「ふん。ハイラルの奴らが納得するとは思えねえが……」
「するサ。だってイーガ団が最後に襲撃を成功させたのはいつだい? ボクの記憶が確かなら、先代コーガの時代だと思うケド。」
ゆえに、今のイーガ団を憎む正当な理由を持つハイラル国民はいないのだ。同時に今のイーガ団に現ハイラル王家を憎む正当な理由もないが。
「全ては旧イーガ団の罪だ。そーいうことになってる。キミたちについては切り離して水に流せるのサ。ボクにはそれだけの実績がある。」
「よく回る口だな。妖精というより悪魔の弁論だぞ。」
「キミたちを救えるなら悪魔になる価値はあるサ。あるいは、他にカバーストーリーが必要かい? なら、こんなのどウ?」
『古代ハイラル王家によって理不尽にも追放されたイーガ団はしかし、厄災の信徒を装うことで敵の懐に入り情報を集め、そして来たる厄災復活に際してハイラルを救うために馳せ参じた。』
「──ってシナリオだネ。」
「呆れたぜ。そんな詭弁が本当に通用すると思ってんのか?」
「するんだヨ。キミが停戦を受け入れさえすればネ。スパイ活動は続けてもらっても構わない。もしスパイを見つけても無事に返してあげる……ただし、部下の手綱はしっかり握る事だ。厄災復活までにキミがハイラルの何処かへの攻撃を指示、もしくは部下の暴走を黙認したのなら、それを持って協定は無効化。ハイラルの精鋭を引き連れたボクとマジバトルだ。」
「……悪くねえな。悪くねえ。……だがわからねえな。お前に何の利がある?」
「余計な人殺しをせずに済む。ハイラルの敵は魔物だけになる。……それで納得してもらいたいもンだ。」
「情報収集を止める気はねえぞ。」
「どうぞ……何ならスータさんを残しといてくれると嬉しいネェ……あの子すっごく優秀だしサ。こっちにいたら変なやっかみ受けない?」
こうして極秘裏の停戦条約は相なった。スータは今まで通りティリアの助手として古代研究所に勤め続けることになる。
「それじゃ、これお土産だヨ。」
「なんだこりゃ?」
「森の賢者直筆、バナナ料理のレシピだヨ。それから連絡用のゴシップストーンも置いとくネ。使い方はメモを読めばいいジャラ。」
ついでに少しでもイーガ団を味方につけやすくなるよう、胃袋を狙うのも怠らない。人心掌握はこういう細かい行動の積み重ねが肝要なのであった。
「なあ、最後に一つ聞かせてもらおうか。もしお前が、今のハイラル王家に、古代シーカー族みたいに追放されちまったら、どうするつもりだ?」
「さてネェ……あり得ない想定を考えるのは無意味だからなァ……少なくとも厄災討伐がなるまではどんな手を使ってでも居座ってやるサ。厄災がいなくなったのなら、大人しく出ていくヨ。」
「へっ……欲のねえこった。」
「欲はあるサ。ボクほどエゴに塗れた生き物もそういないぜ。……それに、ハイラルの外にも世界は続いてるんだ……旅をするのも悪くないネ。」
「ちぇっ……最初から無駄だったわけか。」
「さてネェ……スータさんがいなけりゃこの協定もなかったンだ。ムダってわけじゃァないと思うネ。」
コーガはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向きつつ、もらったレシピ帳を開いた。
*
もしもスータがゴシップストーンを使う決断をせず、ティリアが王妃への襲撃計画を知らないままであれば、襲撃の成功確率は低くなかった。
いくらティリアが強くとも彼女は1人しかいないのだ。情報収集とリンクへの稽古と古代研究を同時にこなすことはできないのだから。
もし運悪く襲撃が成功してた場合、イーガ団はティリアの手によって皆殺しにされていただろう。そして退魔の役割を持って生まれた白刃の聖剣は、人の血によって汚れ、その神秘を損なっていただろう。
ゆえに実際ゴシップストーンは大したものだったのだ。ハイラルに住む多くの人々を救ったのだから。
・ゴシップストーン
こっそり聞いた話だが……ではなく、〈風タク〉のアレをティリアが再現したもの。ただし一つの石に受信スピーカーと送信マイクどちらかの役割しか与えられない一方通行で、ペアリングした石同士でか声の送れない試作品。将来的には送受信の可能な完成品を群の隊長格全員に配備したいと考えている。
・石コロのお面
〈ムジュラ〉のアレを再現したもの。デスマウンテンの軽石でできているので見た目より軽い。妖精が見える人には無力。
次回はそろそろゼルちゃん出したいなァ。あとはその次か次の次くらいにボス戦を……
季節の変わり目で体調を崩してしまいました。皆さんもお気をつけて……