〜TS転生コキリ族ハイラルを往く〜 ゼルダの伝説 FAIRY OF THE MAGIC   作:ジュミ・ベラウ

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 ティリアの口調は肉体に引っ張られているのと、ハイリア語を日本語の発音で話しているのでハイリア語ネイティブにはだいぶ訛りがひどく聞こえてます。



迷いの森のイワロック

 

 sideティリア

 

 10歳になったボクは『森人の剣』と盾を手にコログの森を出て冒険するようになった。それでもハイラル大森林の領域から出ることはしない。うっかり外に出て歳をとり始め、原作前にお迎えが来ちゃったら目も当てられないジャラ。

 一度森から出れば、もう一度入り直しても成長と老化は止まってくれないらしいてデクの樹サマいうてた。

 ボクの肉体強度は主人公リンクくんのようにはいかないので、冒険にはいつも妖精がついてくることになっていた。過保護なミンナの愛である。もし力尽きてしまっても、この妖精が蘇生し、それから逃げるというのができるように。

 奇しくも〈時オカ〉コキリ族と同じような妖精連れだケド、ボクについてくる妖精たちは森で暮らす者達から暇なものがついてくるだけで、相棒というほどではない。彼らはナビィやチャットほども賢くはない。ただ、ポーチや空きビンの中にいるものほども薄情ではなく、閉じ込めなくともボクの頭上を飛んで着いてきてくれる。

 今のボクのステータスをゲーム的にいうならばハート(体力)5個、がんばりゲージ(スタミナ)5分の3周といったところ。栄養豊富な森の恵みを食べてきたから生命力はみなぎってるけれど、成長途中だからスタミナは少ない感じだネ。

 服の守備力は葉っぱだから当然高くないし、森人武器はそこまで強いわけでもないけど、木でできてるから軽くて子供でも扱いやすい。ハイラル大森林の魔物はそこまで強くないし、危険なはぐれ魔物が森に移動してきたら妖精達が教えてくれる。

 今では我流とはいえ『タテ斬り』『ヨコ斬り』『突き』『ジャンプ斬り』『回転斬り』もできる。

 ケド、いかんせん筋力が足りないんダ。弓であれば引き絞りきれずに狙ったところまでとどかせられない。盾のジャストガードでも、パワー不足が祟って相手の体幹を崩したり武器を取り落とさせたりがイマイチ成功しないし、飛び道具もボコブリンの投げるような小石でだったらある程度反射できるケド、オクタ系統の吐き出してくる岩となると弾き返すどころか防ぐだけで精一杯である。それに運よく弾けても、撃ってきた相手にピンポイントでお返しするなんてどれだけ鍛えたらできるんだろ?

 理想が高すぎると言えばそうだろうネ。ブレワイリンクくんは多分歴代最強格だろうしサ。

 でもいずれ相見えるガノンドロフも歴代最強格なカンジだし、どれだけ備えても備え過ぎにはならないはずだヨ。とりあえず遠距離攻撃用には硬い木の実を飛ばす『森人のパチンコ』を自作しておこうっと。

 

 

「タンパク質が足りないヤ。」

「たんぱくしつ?」

「お肉とかおさかなジャラね。一部の豆にも含まれてるけれど……」

 

 現状ボクのタンパク源はオクタを仕留めた際に胃袋から出てくる魚類がほとんど。ハイラルバスとか簡単に焼くだけでもすごく美味しい。淡水魚だから刺身はアブないけどネ。

 ただ、それだけだと足んないカラ1度血迷って魔物素材を食べようとしたんだケド……原作プレイヤーならご存知の通りハイラルの魔物は煮ても焼いても食べられない。よしんば食べたとしても組成物質の大半が魔力や瘴気の類なので消化吸収できてもタンパク質やビタミンはといった栄養は取れない。魔物素材が薬にはなっても料理にはできないのはこういうわけなんだなァ、とボクは当事者になってみて初めて理解したのだった。

 

「わかっタ。森の外で見かけたら持ってくるヨ!」

「売り物だったらちゃんとルピーを置いてくるんだヨ?」

「りょーかい。代わりにまたおハナシ聞かせて。今度はおめんのゆーしゃサマのおハナシ。」

「わかったジャラ。」

 

 森の外の情報やアイテムなどはこうやって他のコログ達に頼むしかないのが、ボクにはもどかしかった。とはいえコログ達の存在を認識できる者は限られてるし、またコログの葉を使って飛ぶこともできるので情報収集役としては優秀なはず。彼らが純粋で、ハイラル王家が善良でなかったらスパイとしてこの上なく恐ろしい存在だったろうネ。ただ戦闘力はないので狩猟で肉や魚を取るのは難しいことも考えれば、戦争利用されなさそうなのが救いかな……でもハイラルには火薬が流通してるし、上空爆撃とか……無双ボックリンだコレ! これ以上考えないようにしよ。

 そしてボクがコログ達に対価としたのが、物語を語ること。すなわち歴代ゼルダの伝説のストーリーだネ。

 このためにデクの樹サマに仔細はぼかしつつも転生者であることを明かした結果、デクの樹サマはボクのことを女神ハイリアが地上を救うために使わした使徒だと考えてる。ボクの前世を女神ハイリアに連なる下位の神格か大精霊だったのだろうと認識してるみたいだ。上から見ているから異なる時代や世界線の物語を知っているという解釈。

 実際〈スカウォ(ゼルダの伝説スカイウォードソード)〉における歴史上最初のゼルダは女神ハイリア自身の転生体だったハズ。それ以降のゼルダはスカウォゼルダの血を引くだけで、魂は別だろうと考察できるケド。何せ〈ブレワイ〉や〈ティアキン〉で女神像に話しかけると女神ハイリアの言葉が聞こえるので、〈スカウォ〉ゼルダは没後に女神ハイリアに戻ったのではなかろうかと。モチロン各地の女神像は〈スカウォ〉ゼルダ誕生前から残されている分霊や残留思念の類という可能性だってあるヨ。

 結局ボクの出自について上位世界からの来訪者という点では間違っていないのだが、かと言ってこの世界の常識でわかるように説明するのも難しかったし、ミンナには「当たらずとも遠からず」とだけ言った。実際ボク自身もなぜ転生してきたかまでは知らない。前世の自分の記憶についてはしっかり覚えてるんだケド、死んだ記憶だけはないカラ、神サマとか上位存在が記憶と魂を複製した可能性すらあるんじゃないかなァ。

 

 もし森を出ることになったら『忘れ去られた神殿』の最古の女神像まで聞きに行こうと思う。コログの森の女神像は何も教えてくれなかった……というより聞こえそうで聞こえない。多分ボクの女神の声を聞く能力がリンク達より弱くて小さな女神像では出力不足なんだろう。根拠はないけど、そういうふうに感じる。ハイリア人の耳が長いのは女神の声を聞くためだと言うのに……ボクは耳長いけどハイリア人じゃなかったヤ。

 

 *

 

 ある日のことである。ティリアは魔物狩りをしながらハイラル大森林の北西に位置する広場に来ていた。仄暗い森を、しのび草の青白い蓄光が淡く照らしている。

 この頃、彼女はどこか天狗になっていた。迷いの森でティリアに敵う相手は今までいなかったのだ。前世知識を動員すれば攻略法の分からぬ魔物が居なかった。

 スタル系統の魔物に関しては身軽な子供体型を生かして組み付き、頭蓋骨に剣を振り下ろすという攻略法を編み出していた。

 木に擬態する森オクタは森の妖精であるティリアに擬態は通用しない。小石を投げて気を引き、地上に姿を現したところをパチンコで仕留める。硬いどんぐりを眉間にぶち当てられれば、たとえ一撃で斃せなくとも接近して剣でとどめを刺すまでの隙を生める。

 破裂して電撃を放つ危険なエレキチュチュも、足が速くないので距離をとってパチンコだ。

 

「こんな岩があったんだ。」

 

 それ故に警戒心が弱まり、油断しまくっていた。

 腰掛けるのにちょうど良さそうな岩を見つけ、ちょこんと座り、ポーチからお昼ご飯を取り出そうとしたその時。

 

「?」

 

 彼女の長い耳が小さな音を拾った。小石が落ちるようなそんな音だ。

 チリリリ、と鈴のような音が鳴る。今日着いて来てくれた妖精が身体を赤く光らせ、音を立てて警告しているのだった。

 ガタガタと地震のような揺れがティリアを襲う。石同士がぶつかり合う音が地面の下から聞こえてくる。

 

「まさかっ!」

 

 ティリアはその現象に心当たりがあった。前世において、画面の向こうで数十回、下手をすれば百回以上は余裕で見てきた光景、それを一人称の現実の視界で体感していた。

 

 弾かれるように立ち上がり、走り出した。だが、スタミナ(がんばりゲージ)不足が祟って、十数メートルかそこらの地点でへたり込んでしまう。

 その彼女を、黒い影が覆い込んだ。

 

「イワロック……」

 

 岩石の像。頑強な巨体を誇る大型魔物。

 大きく距離を取るよう走り出せば、イワロックはすぐさま腕をぶん投げて攻撃してくる。今のティリアにはリモコンバクダンやバクダン花やバクダン矢、ビタロック+やモドレコといったイワロック攻略向きのアイテムなど当然無い。

 横を向いて飛び退いて、すんでのところで躱し、前転で勢いを殺して受け身を取る。

 これだけのたった数秒で、今の自分のスピードとスタミナでは逃げきれない可能性があると彼女は悟る他なかった。誰かが助けに来てくれればあるいは。だがコログもあまり近づかないところに、どうして助けが来ると言えよう。

 その上、目の前のイワロックは胴体の上部に弱点である鉱床がない。背中にあるタイプ。つまり地上からではリーチが足りず、かといって安定する上部に登れたとしても攻撃しにくい嫌な位置。

 ティリアは役に立たないであろう盾とポーチを捨てて身軽になった。最低限の護身には剣が1本と妖精が1匹。それから腰のベルトに挟んだパチンコ。

 1度だけなら致命傷を即座に治癒してもらえるが、その後妖精は魔力を使い切って去ってしまう。

 

 倒すにしろ、逃げるにしろ、最大限の注意を払うべしである。妖精はあくまでも傷を癒して体力を回復するだけ。死者を蘇生しているわけではない。死ねばそれまで生き返らない。ここはゲームではなく現実。コンティニューはない。魔物の行動に本能的なパターンはあれども、確実ではない。イレギュラーは存在する。

 それこそ目の前のイワロックのように体躯の9割以上を地下に隠すような個体はゲームにいなかった。まず見つけられないからだ。ゲームはほど良い難易度を求められる。

 しかしここにあるのは本物の生存競争。イワロックは強敵に見つかりにくければにくいほど良く、そして目の前の少女が弱いのであれば本能のままに叩き潰してもう一度眠るだけだ。

 ゲームであればある程度離れればそれ以上追ってこない。そういうプログラムだからだ。だが目の前のこいつがティリアを諦めると誰が保証してくれよう。魔物に心があるならば、中には一際執着心の強い奴がいるかもしれない。そしてそれが目の前のイワロックではないと誰が保証できよう。

 イワロックが出てきた地面は捲れ上がって、地面は抉れ、土砂が周りの草花を押し潰している。先ほど投げてきた岩石の腕は地面にめり込むようにしてその場に残っている。都合よく地形はそのままだったり、投げた岩石が跡形もなく砕け散って消えてくれたりはしない。

 

「……」

 

 ズリズリと短い足を引き摺るたびに草が踏み潰されて行く。地面も踏まれて固まっていることだろう。

 

 ティリアは早足で後ずさる。恐怖で呼吸が乱れ、スタミナ(がんばりゲージ)が中々回復しない。

 イワロックは残った腕を振り上げた。薙ぎ払いで届く位置にティリアはいない。ゆえに彼女は投げてくると判断する。

 両腕がなくなったイワロックは地下の岩石を引き抜いて新たな腕とするその際に大きく隙を晒す。その時に倒せそうだったら倒しに行く。無理であれば全速力で逃げる。ティリアはそう決めた。

 彼女は迷いの森の霧の中でも問題なく動ける。自分の位置を見失わないようコログ達と練習したからだ。だがイワロックはそうではないだろう。ティリアが真っ直ぐコログの森に霧のない正規ルートを通ってしまわない限り追いかけては来れないと信じる他ない。

 

 腕が振るわれた。ティリアは飛び退いて受け身を取った。だが来るはずの衝突音と振動は来なかった。

 イワロックの左腕は胴体にくっついたままだ。

 距離感を見誤ったのか、それともフェイントか。顔のないイワロックが外界をどうやって認識しているか彼女は知らないが、そんなことはどうでも良かった。

 ティリアが立ち上がるより前にイワロックが近づいてきていた。

 ぐらり、と姿勢を崩し、右肩を彼女の方に向けながら倒れ込んでくる。

 

「ッ……」

 

 潰される前になんとか這いずってイワロックの股下を通り、震える足に鞭打って立ち上がる。

 そして振り向いて、瞬間、絶望する。

 

「希少イワロック……」

 

 背中から突き出した黒く艶やかな岩石には、所々黄色く染まっている部分があった。ハイラルで見られる希少鉱床の特徴だ。そしてそれを体に持つということは、このイワロックは最上位の『イワロック(希少)』個体ということ。

 その耐久力は高く、森人の剣を何度叩きつけようと、弱点の鉱床を砕くより先に間違いなく武器の方が砕け散る。

 パチンコだってイワロックの鉱床を超える硬さの弾がないのでは弾かれるだけでしかない。 

 

 彼女が気を取られているわずかな間にイワロックは振り返っていた。先ほど右肩から倒れ込んだ時に地盤の下から岩石を引き抜いて新しい腕にしていた。攻撃と回復を同時にこなしていたわけだ。先ほどまでティリアがいた地面には大穴が空いていた。

 振り出しだ。イワロックの両腕は揃ってしまった。そして今の彼女に逃げるだけの持久力もスピードもまるで足りていない。武器の攻撃力や耐久性も足りない。素手になれば何度殴ろうとも鉱床が砕けることもなく、代わりに彼女の指骨が粉微塵になることだろう。

 端的に言って詰みであった。

 イワロックは両腕を振り上げた。確実に獲物を叩き潰す為に。

 

(死ぬのか、ボクは……)

 

 時間が引き延ばされ、ティリアの脳裏に数々の思い出が想起されては消えて行く。走馬灯、と言う奴である。彼女は前世で死を経験した記憶がないからか、前世の記憶までが走馬灯として走り始めた。

 

 段々と視界を覆う岩石が、もうそろそろティリアに触れようかと言う時、不思議なことが起こった。

 突然、彼女の眼前の岩が粉々に砕け散った。ワンテンポ遅れて彼女は自分が青色透明の結界で覆われていることに気がつく。その結界の強度がイワロックの岩石を上回ったが為に、その腕は振り下ろしのエネルギーの反作用を丸々受けて粉々となった。

 土埃が本来あり得ないほどにゆっくりと舞い上がる。それは、ティリアの意識だけがまだ加速しているからそう見えたのだ。走馬灯だったそれはいつしかゾーン状態へと変化していた。ゲームにおいてはジャスト回避や空中で弓矢を構えたのと同じ現象であった。

 ティリアは剣を強く握った。そして横っ飛び、から斜め右に前転でイワロックの脇を通り抜けて背中に回り込む。意識は素早く、凄まじいスピードの身体の動きをさらに置き去りにする。

 だからこそイメージと実際の動きのズレを認識し、後からいくらでも補正できる。

 2度目の前転で完全に真後ろに回り込み、身体に捻りをつける。そのまま前転の反動を利用して回転ジャンプで飛び上がる。その跳躍で森人の剣はその射程に鉱床を捉え、回転の遠心力のままに振るわれた刃は、一太刀でそれを真っ二つに叩き斬っていた。その斬撃は()()の軌跡を描いていた。

 

 イワロックが膝から崩れ落ちると同時にティリアの時間は元通りに流れ始める。すると先ほどまでの全能感はどこへやら頭が砕けると錯覚するほどの頭痛と、全身の筋肉が悲鳴を上げてそこから一歩も動けなくなった。

 イワロックは何が起きて何をされたか理解していない。同じくティリアも自分が何をしたのかまだ混乱している。違うのは、イワロックはもうこの先それを理解することは永遠にないと言うことだ。

 イワロックの体躯が闇色に染まり、そして紫の光の粒を発しながら完全に消滅する。後に残されたのはいくつかの鉱石だけである。

 

 それを見届けると、ティリアもまた糸が切れたかのように倒れ込み、意識を失った。

 





 答え合わせは次回。

 もし公式設定と齟齬があればコメントで教えていただけると幸いです。
 ただイワロックはじめとした魔物の生息域についてはこの世界では生き物なので移動します。今回の希少イワロックは何百年も前に地下に潜ったのがほんの少しづつ地表に出てきた個体です。森の外から侵入してきたのがかなり前なのでコログたちも忘れていました。
 などなどティリアの生まれる以前から少しづつ正史と齟齬がございます。
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