〜TS転生コキリ族ハイラルを往く〜 ゼルダの伝説 FAIRY OF THE MAGIC   作:ジュミ・ベラウ

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〈絡繰古強者〉歴戦のガーディアン②

 

 歴戦のガーディアンが動きを止めたという報告を受け、ティリアはウルボザ、ダルケル、リンク、ゼルダ(とその護衛)、テラコを伴い、ゲルドキャニオンの神獣ヴァ・ナボリス発掘現場のテントへ来ていた。

 

「ウルボザ!」

「おっと、可愛らしい服装じゃないか、おひい様。」

 

 駆け寄ってくるゼルダを抱き止め微笑むウルボザ。その様子をつぶらな瞳で微笑ましそうに見つめるダルケルへとティリアは近づいていった。

 

「ダ〜ルケルっ!」

「おうっ、ティリア。随分久しぶりだが、かなり強くなったみてえだな。」

「ワカる?」

「当然だな。」

 

 ティリアは楽しそうにコロコロと笑うと、ダルケルの左肩に飛び乗った。

 

「たか〜い。」

「アハハ。あんたは相変わらず小さいね。」

「小さいは余計ジャラ。」

 

 ウルボザに揶揄われて拗ねた振りをするが、直ぐに機嫌を直す。

 

「それで、そっちの子が……」

「ボクの一番弟子! 近衛(ナイト)の家系のリンクくんだヨ。」

「……よろしく。」

 

 おずおずと頭を下げるリンクをダルケルは力強くわしゃわしゃと撫でた。ハイラル1、2の剛腕の持ち主であり、手加減したなでなでであってもリンクは揺れて口の端からアウアウと声が漏れるが、流石の体幹でバランスは崩さなかった。

 それを見たウルボザは「へぇ」と興味深そうに目を細める。

 

「ウルボザとダルケルは知り合いだっけ?」

「顔を合わせるのは初めてだったがな。」

「ウチの装飾品は宝石を使うからね。採掘業のゴロン族とは昔からの付き合いさ。」

 

 ゼルダは興味深そうにその話を聞いていた。やはり王家の姫として、ハイラルの経済に関連する話を聞き逃す手はなかったのである。

 

 *

 

 交流もそこそこに、早速今回の本題に入る。報告を上げたのと同じシーカー研究員が資料を手にやって来た。

 歴戦のガーディアンは3日ほど前からこのゲルド地方にある高台『めがね岩』の上で鎮座しているのだという。

 

「完全に機能停止ているわけではない様子で、体の光が消えていません。目の光は消えており、脚は体を持ち上げずに投げ出されているので、休息状態になっているものと。ご忠告通り、勝手に近づこうとした研究員には厳重注意いたしました。」

「ふんふん。こりゃァ、ボクらを待ってるってカンジだネ。」

 

 その様子が描かれたスケッチには、確かに座り込んで入れど、橙色の灯りが灯ったままの歴戦のガーディアン。その様子は、確かにティリアがいう通り何かを待っているようにも感じられた。

 

「ティリアの話じゃあ、戦いの場所は忘れ去られた神殿じゃないかってことだったけど、違ったみたいだね。」

「ウーン。常駐している研究者さんがいたからかなァ。」

 

 ガーディアンは人類の守護者として生み出されたのだから、試練のために戦うのだとしても、一般人に危害を与えないよう、それなりに広く、その上で人里離れた場所を考えればこの場所を選んだとしても不思議ではない。

 荒野と渓谷が広がり、近くに森もないので、ビームの流れ弾で山火事となる心配もないだろう。

 

「壁蹴りからの落下スローに持ち込めないのはやり辛いかも?」

「アンタは垂直跳びでも2m以上いけるだろう?」

魔法(『フロルの風』)ありならネ。節約できるならそれに越したコトはないサ。」

 

 さて、ゼルダと護衛の兵士達は彼女のナボリス発掘見学のためこの拠点に残り、ガーディアンの元へと向かうのはティリア、ダルケル、ウルボザ、リンクだけである。

 渓谷の各地に設置された足場やリフトを使って目的地へと進んで行く。道中、ティリアが発見したイワロックは、いっそ可哀想なくらいに寄ってたかって瞬殺された。

 

「発掘現場に近いからネ、仕方ないネ。」

「誰に言い訳をしてるんだい?」

 

 一応発掘現場付近の魔物はハイリア兵を相当数動員しての掃討戦が行われはしたが、イワロックのような擬態型はこちらから近づかなければ判別がつけづらいのでスルーされることは度々である。フォース感知で擬態を無効化できるティリアだからこそ発見できたのだ。

 

「結構離れてるし、置いておいてもよかったんじゃねえか?」

「まァ……ウン。だけど万が一ネ、作業員サンとかがちょっと休憩に腰掛けようとして犠牲になったらって思うとネ。」

「座れそうな岩や石は近いところにも沢山あるぜ。わざわざあそこまで行ったとは思えねぇが……。」

「まァ、若い頃のトラウマが、ネ。」

 

 戦利品をエモノ袋に詰め込みつつ、ティリアは頬を掻いた。

 

 *

 

 最後のリフトを降りれば、メガネ岩の頂上である。この高台は名前の通り眼鏡型、あるいは8の字型をしている。ガーディアンが座しているのは眼鏡のレンズに当たる部分の南側の中央である。リフトがかかっているのは北西側であるので、ここからブリッジを渡るのだ。眼鏡の真ん中の部分をブリッジと言い、そしてまたこのめがね岩も天然の砂岩でできた一本橋のようなもので繋がっているのである。

 そのブリッジの手前で一度立ち止まり、テントを張ることにした。

 

 望遠鏡を覗き込めば、停止したガーディアンの姿がはっきりと見える。そしてここに来るまでに、複数の魔物の死骸が見つかっている。いずれも腐敗しかけていたので、ティリアとダルケルが手分けして完全に灰にした。

 

「戦いの前に魔力を使いすぎて大丈夫なのかい?」

「一応妖精の力水はたっぷりビンに入れてきたヨ。」

 

 くぴくぴと喉を鳴らしながら、牛乳ビンを一回り大きくしたような形のビンから、ピンクがかった透明の液体を飲むティリア。

 ふと、ウルボザはその瓶の中身が全然減っていないことに気がついた。

 

「それ、どうなってるんだい?」

「これ? これネ、魔法の『空きビン』だヨ。」

 

 ボックリンのポーチ拡張を応用して拡張し、『ネールの愛』で割れないようにして作ったビンであり、外見状の大きさは牛乳ビンのようだが中身は2Lほど入る。妖精の力水であれば10回分ほど入るので、大変便利なものだ。

 

「割れる心配もないし、中に炎を詰め込んだら持ち運び式暖炉みたいに使えるし、ウィズローブの魔弾とかガーディアンのビームも跳ね返せるヨ。」

「最後のはおかしくないかい⁉︎」

 

 何がおかしいのか、とティリアは首を傾げた。空きビンで魔法弾を打ち返せるのは世界の摂理であるのだ。

 

 と、ウルボザの頭を混乱させつつ、キャンプの設営が完了した一行。陽が殆ど真上に来ており、気温も1日の最高気温へと近づきつつある。

 

 各々昼食を取り、ここへと登ってくるまでの疲れを取れば、いよいよガーディアンへと向かうことにした。

 

 トップバッターはティリアであり、それ以外のメンバーはキャンプから見守るだけである。もしティリアが敗れ、その上挑戦資格を失った場合は、続いてウルボザが挑み、それでもダメならばダルケルが、という順番だ。

 リンクは後学のために連れてこられただけであり、歴戦のガーディアンに挑むには流石にまだ早いというのは、本人も納得していた。

 

「流れ弾には十分注視してネ。」

「このダルケル様に任せておきな。」

「頼りになるねぇ。」

 

 ダルケルの動体視力と護りの硬さを持ってすれば、流れ弾を見てから弾くくらいわけはないだろう。彼の予定があったからこそ、リンクを見学に連れてくることができたのだった。

 

「そいじゃ、一番手、いかせてもらうヨ。」

 

 無理に勝たなくても、譲ってくれてもいいんだよ、と冗談めかして言うウルボザを後ろに、ティリアは進んでいくのだった。

 

 *

 

 めがね岩のど真ん中に鎮座しているのは、ひっくり返した土器から6本の脚を生やしたような古代機械兵士。体の模様に沿って流れる橙色の光が、本来のシステムを損なうことなく起動した状態であることを示している。

 

 ティリアは剣を抜かないまま、ゆっくりと歩いて近づいた。

 

 6本の脚の先端に備わった鋭い爪を地面に食い込ませるようにして、鎮座していたガーディアンは体を持ち上げる。

 ボォン、と重低音を響かせてモノアイに青い輝きが灯る。

 その者、歴戦のガーディアン。他のガーディアンとは一線を画す性能を誇る存在であり、自らが力を貸すに値するか試練を課す者。

 

 ガーディアンの覚醒に合わせて、ティリアも白刃剣を鞘から抜き放ち、右腕をまっすぐ横に伸ばした。純白の刀身に、黄金の輝きが満ちていく。

 

 剣を立て、腰をやや落として構えをとる。彼女がそうするのに合わせて、歴戦のガーディアンもまた脚を動かし、進んでくる。

 

 さて、ガーディアンを倒す確実な方法としては脚を奪うことが挙げられる。6本のフレキシブルアームは1本2本欠損した程度では歩行にさしたる不都合はきたさないが、これが半分以上失ったならば歩行不全、最悪は身動きできなくなるので、あとは機能停止するまで袋叩きだ。無論ビームには注意する必要があるが、目を突けば、しばらくチャージできなくなる上、足のないガーディアンは身を捩って目への攻撃を対処することもできない。

 あるいは複数人でガーディアンをひっくり返してしまえば、底部の急所が露出する上、脚を使って身を起こすこともほとんどできなくなる。

 こういった攻略手段はティリアによってまとめられ、ガーディアンが暴走した時に備えたマニュアルとしてハイリア兵に周知されているものだ。

 

 しかしこれらの攻略法は歴戦のガーディアンには当てはまらない。このガーディアンの脚を斬ることは本調子のマスターソードでも不可能であるほどには頑強だ。よしんばひっくり返せたとしても脚が健在では姿勢を戻すことは容易いか、あるいは急所と思って迂闊に近づいたところを底部の砲門から極太ビームを浴びせて消し炭にするかである。

 

 例えば、通常のガーディアンは砲門を1つしか持たない。即ちモノアイ部である。それゆえ目玉に攻撃が直撃した場合、機能が回復するまでしばらくの間は遠距離攻撃手段を失う。だが歴戦のガーディアンの砲門はその1つだけではない。一見すると他のガーディアンにもある装飾部品に見える円いパーツ。縄文土器のような模様の一部であり、発光もしているそこもまたビームを発射できる機能を持つのだ。これは身体中に幾つかついているので、迂闊に接近したらば360度を焼き払うビームを喰らう羽目になる。

 これらの砲門はモノアイのそれに比べれば、ビーム1発あたりの威力は低いだろうが、逆にモノアイ以上の破壊力を持った砲門も存在する。それが機体の底部に位置する丸い穴だ。他のガーディアンにとってはモノアイと同じく内部へダメージが通る急所となる部位だが、歴戦のガーディアンはそこに恐るべき武器を隠し持っているのだ。6本の脚で敵に組み付き、その状態で極太の熱線を殆どゼロ距離で照射するのである。

 

 ならばこそ、他のガーディアンとは一線を画す攻撃の多彩さと素早さから来る連撃を掻い潜った上で正面突破で押し切るしか、倒す手段はない。

 

()ろうか……歴戦の。」

 

 ガーディアンは答えない。ただ、4本の足で体を持ち上げ、前2本の足を振り上げて応えるのみ。

 戦いの火蓋は切って落とされたのである。

 

 振り下ろした2本の足をムチのようにしならせて地面を叩きつけながら前進してくるガーディアン。それは振り下ろしというより振り落とし。ムチのしなりを持ちながら、響く音と土煙は鎖鉄球を思わせる。

 連打しながら前進してくるガーディアンからティリアはかなり大きめに距離をとって様子見に徹した。攻撃パターンを詳しく覚えていないためである。覚えていないということは正しく無知に等しい。既知に強く未知に弱いのが己である、と彼女は冷静に己を評していた。

 

 崖際までまっすぐ進んで行ったガーディアンは、モノアイのある最上段だけを回転させてティリアに向き直った。体の向きを変えずに転身できるのがガーディアンの強みであるのだ。

 そうして目と目があった瞬間、ティリアは突きによる剣ビームを飛ばした。ビームは過たずモノアイの中心に当たる。

 

「ナルホド。」

 

 通常の機体であればダメージを受けて怯む一撃だが、目の前の古強者はそういった兆候を一切見せないでいる。あるいは、本来ならば量産型もこうあるべきなのかもしれないが。

 

 しかし、怯まなかったとはいえ、今の一撃がダメージになっていないわけではなかった。古代遺物達は皆地下から吸い上げた古代エネルギーによって駆動するが、ティリアはそれが持つ特有のフォース波長を読み取れる。今の刺突剣ビームは歴戦のガーディアンの内にあるエネルギーを極々僅かではあるものの、確かに削っていた。

 

 そう認識した瞬間、ガーディアンの目から数発の光弾が放たれる。熱線のビームと違うのはチャージを殆どしなかったところだった。その分威力は低かろうが、出が早く、隙のない牽制技として優秀である。

 放たれた数発のうち、直撃ルートにあったのは2発だけであるので、1つを剣で斬り捨て、1つを『盾アタック』で弾き返した。殆ど無意識、条件反射の如く身体を動かし、それから1テンポ遅れて(まずイ……)と気が付く。

 

 ティリアが跳ね返した1発は、ガーディアンの目元へ向かって正確に飛んで行く。しかしその光弾がガーディアンにダメージを与えることはなかった。

 ガーディアンは全身にエネルギーの力場を纏いながら一回転し、光弾を力場の表面で滑らせるようにして軌道を逸らしながら再加速させてティリアへと返してきた。

 

 今度は回避を選んだ彼女は、背後で光エネルギー体が着弾、爆発するの感じとりながら駆けていた。

 

(今の反射技……多分エネルギー系だったら古代エネルギービームでなくてもイケそーな……)

 

 もしその考察があっていたならば、ティリアにとって少々面倒なことになる。彼女の得意とする『ディンの炎』が跳ね返されてしまいかねないのだ。それどころか、これが物理的な飛び道具にも適応されていた場合、使い所を誤れば試作古代兵装・矢が無意味になる可能性すらある。

 

 かのガーディアンは体中に古ぼけた武器が突き刺さってはいるが、おそらくそれは白銀以上のモリブリンか、ライネルといった力自慢が振るってようやく刺さったというところであると考えられる。しかも、刺さったはいいが内部機構には全く届いておらず、かといって引き抜くには難しいということになったのだろう、つまりは装甲を真正面から抜こうとするのは愚かな選択と言うしかない。

 

 注意深くフォースの流れを観察して見れば、練り上げた古代エネルギーを体内のパーツ一つ一つに纏わせているような形になっていた。つまりはエネルギーが枯渇するまでは内部機構そのものに一切のダメージは入りそうもない。

 そして此度の試練を乗り越えたと歴戦のガーディアンが認めるであろう条件も予想が付く。エネルギーを削り切れば良いのだ。

 そのためには歴戦のガーディアンの猛攻を掻い潜り、幾度も攻撃を叩き込むしかない。

 

「やることは変わらんネ。」

 

 脚をプロペラか、丸鋸の如く回転させ、ホバリングしながら突進してくる歴戦のガーディアン。本来であれば『アイスメーカー』の氷に激突させてカウンターを狙うのだが、あいにくシーカーアイテムを使うためのシーカーストーンは未発見であるし、テラコの力で強化しなければ、水場無しに氷を生み出すこともできない。

 『ネールの哀』では氷の生成には時間がかかりすぎてしまうが、かと言って回避ジャストを狙ってギリギリで躱すには攻撃範囲が広すぎる。大きいということは大抵の場合それだけで強みなのである。ただ大きいだけなら的も大きいが、ガーディアンには堅牢な装甲がある。それに加えて歴戦のガーディアンは巨体に反した機敏さや、エネルギーバリアもある。

 

 ならば、とティリアは真上に向かって大きく跳躍し、空中で縦に一回転しながら『兜割り』をガーディアンの頭部に叩き込んだ。

 内部機構に衝撃が伝わり、さしもの歴戦のガーディアンも動きが一瞬止まる。だがその隙は、ティリアがもう一撃加えるにはあまりにも短い。これが通常のガーディアンであれば再起動までに10発以上斬撃を浴びせられたものだが。

 

 ぐるり、と首の回転機構を生かして素早くティリアをロックオンしなおすガーディアン。

 モノアイから青白いエネルギーが飛び出すと、長方形のバリアを形成する。それを叩きつけるようにするが、ティリアは隙なくバックステップで躱した。

 

 回避されたと知るや、ガーディアンは頭突きの要領で自らバリアを粉砕しつつティリアに迫る。砕けたバリアの破片は消えることなくガーディアンの周囲の古代エネルギー力場に乗って漂い続ける。

 

 ティリアに肉薄したガーディアンは全身を振るわせ、全身の砲門からビームを乱射した。

 それらの熱線はバリアの破片によって乱反射し、不規則な軌道で部屋中を埋め尽くさんばかりの勢いで駆け巡る。

 ティリアは冷や汗を流しながら光線の軌道を辿って防御姿勢をとった。

 

「こりゃァ目で追いきれんネ……!」

 

 直撃こそ避けたものの、片方の靴が焼け落ちてしまった。目算ではギリギリで避け切れるつもりであったが、そこまで甘くはいかなかったのだ。

 仕方なく脱ぎ捨てるが、左右でバランスが狂うので無事なもう片方も脱ぐしかない。予備の靴はポーチに入っているが、履き替える余裕はなかった。

 

 ざらりとした砂岩の感触が素足に直に伝わってくる。森にいた頃は裸足であちこち駆け回っていたため、靴をなくしてスピードが損なうことこそないが、かけてあった『フロルの風』が消えたので、垂直方向への大跳躍の度に魔法を使う必要が出てきた。

 

「どうしたもンかネ。」

 

 全く隙がないわけではない。なんなら隙そのものの頻度は高い。行動と行動の隙間に、必ず一瞬動かない時間がある。動けないわけではなくあえて動かない、攻撃を叩き込めと言わんばかりの隙が。

 反面攻撃そのものはかなり激しく、素早く、範囲も広い。攻撃中にそれを掻い潜ってこちらの攻撃を通すのは至難の技である。

 もしここにいるのがティリアでなく、魔物の群れであったならば、この古強者は一切の手心なく攻撃を繋いで行ったことだろう。

 試練だからこそ、手加減されている。さもなければ本気の猛攻は、最悪全盛期のリンクを完封しかねないのだ。これは一種のプロレスだからこそ勝負になるのである。

 

「嗚呼……ま、全力は出さンか、お互い。味方になった時のが強いってのはなかなか……ネ。」

 

 手加減されている事実に幾ばくかの悔しさを禁じ得ないのは、ティリアにも戦士としてのプライドがある故である。

 が、そんなプライドより大事なのはハイラルの未来だ。使えるのならば遠慮なく使うのもまた彼女の遣り方である。

 

 与えられた隙を使い、風を纏った足で地面を蹴って跳躍し、落下しながら弓を構える。ひょうと放ったのは試作古代兵装・矢だ。先端の古代エネルギー刃は、歴戦のガーディアンのモノアイに直撃する。さしものガーディアンも、ただでさえ放った矢の速度が速い特性を持った妖精の魔宝弓と、落下スローとの合わせ技の前には反応し切れなかったようである。それは間違いなく大ダメージに違いない。

 

「それでも、かァ。全弾命中してようやく半分ってトコ? タフってもんじゃないヨ、こりゃァ……。」

 

 困ったようにそう言うが、しかし彼女はまだ確かに笑みを浮かべている。

 古代矢の一撃は、確かにガーディアンを怯ませた。それは時間にしてコンマ1秒もない。だがそれだけあれば『フロルの風』で加速し、後頭部に『背面斬り』を叩き込むのに十分だった。

 欲張ればそこからさらに『ディンの炎』の熱線まで繋げられそうであったが、ガーディアンと目が合ったことで諦め、また飛び退って距離を稼ぐ。追い討ちの光弾はしっかり躱すが、これにしてもガーディアンが全力ならば避けようがないほどの弾幕を張れるだろう。

 

「いいネ、強い。久しく、滾らせてくれるじャないかァ……!」

 

 大跳躍し、フォースを纏わせた刀身で上段から斬りかかれば、ガーディアンは脚を振ってそれを弾く。ティリアが飛び退って着地するのに合わせて、光弾を飛ばそうとし、

 

 ──ゴゥン……!

 

 後頭部へと飛来した衝撃により角度がガクンと下がり、挙句怯んだ。光弾は狙っていたより遥か手前に着弾する。

 

「さっすがボクの強打者(スラッガー)……良くやったジャラ。」

 

 ティリアは、いつの間に投げていた妖精のブーメランをキャッチしつつ、刺突による連撃をモノアイへと叩き込んだ。

 

 *

 

 ティリアの戦いぶりを見て、三者三様に感嘆の声を漏らす。

 

「いつ投げたの?」

「最初だな。」

「だね。ずっと外側を飛んでたよ。」

 

 リンクが疑問の声を漏らすと、ダルケルとウルボザが揃ってそう言う。最初がどこを指すのかわからず、リンクが首を傾げると、ウルボザは微笑みながら説明してくれたのだった。

 

「最初ってのはガーディアンの突進の時さ。派手に砂埃が待っていただろう? あれで一瞬視線が途切れたのを見た瞬間に投げてたのさ。」

 

 しかも、ただ投げるのでなく、勢い良く手元を離れた瞬間に『フロルの風』でめがね岩の外側へとワープさせていたのである。あとは念によるコントロールで隙が生まれるまでの間、外縁部をぐるぐる飛ばし続けていたのであった。

 

「それって……!」

「だな。ガーディアンの動きを見て、自分の攻撃を通しながら、ブーメランのことも考え続けてたってことだ。俺様にゃあちと難しいな。」

「確か、マルチタスクって言うんだったかい。やっぱりあの子は面白いことを考えるもんだね。」

 

 激しい砂埃を上げつつ、ガーディアンは脚を振り回し、光線で薙ぎ払う。

 一方のティリアは舞うようにくるくると回避と攻撃の動きを繋ぎ、ガーディアンにダメージを与えて行く。

 

「五分ってところだな。」

「え?」

 

 このままティリアが押し切ってしまうに違いない、と考えたリンクの思考に冷や水が浴びせかけられたようだった。

 

「ままならないもんだね。生きてきた年数で言えば私らよりずっと年上なのに、肉体的にはまだ子供を作れない程度に未熟なのさ。それを技術で強引に補ってる。」

 

 その最たるものが奥義『とどめ』である。相手がどれだけ体力が残っていようと関係なく屠れるからこそ、最小限の消耗で戦闘を終わらせられる。

 だが、ガーディアン相手にその技は使えない。

 さらには、長期戦は苦手だからこそ速攻で片付けるのが彼女のやり方であるのに、その速攻も不可能であるのだ。

 

『どんな生き物も攻撃を受ければ、痛みを感じ、恐怖を覚え、隙が生まれるンだヨ』

 

 かつて、ティリアはリンクにそう言った。

 生き物だからこそ、魔物相手に先手をとり、相手が動き出すより先に一撃を加え、その痛みを持ってして動きが鈍ったところにさらなる連撃を叩き込めば相手に何もさせずに倒し切るのも不可能ではない、と。

 だが、ガーディアンは痛みでは怯まない。そしてティリアの連撃ではガーディアンを怯ませるほどの衝撃は発生しない。ならば彼女がどうしようと関係なく反撃してくる。体力で劣る彼女では、一撃でもまともに喰らえばノックアウトしかねない。

 必ずヒットアンドアウェイで戦うしかないのだ。さすれば必然、長期戦となる。

 

「今の所ダメージは1発ももらってないけどさ、一撃でももらったら負けが確定するとも言えるね。」

「余裕がある、とは言えねえな。全く、こんなに強え相手がいたとは知らなかったぜ。」

 

 内容の割に、大人2人の声色は呑気である。何せ、これは試練であって殺し合いではないのだから。

 無論ガーディアンの攻撃は当たりどころ次第では即死しかねないが、ティリアがそんな攻撃をまともに受けるようなヘマはしないという信頼があった。攻撃を受けるにせよ、きちんと受け身は取るだろう、と。

 

「ま、ボウヤは心配せずに、しっかりあの子の戦い振りを見て学ぶことだね。それがあの子も一番嬉しいはずさ。」

 

 そう言われてハッとしたリンクは、拳を固く握りながらティリアの姿を見守るのだった。

 

 *

 sideティリア

 

 つっかれたッ!

 攻撃苛烈だし攻撃チャンス少ないしッ!

 

 まずいネ……剣に纏わせたフォースが薄れてきたヨ。被ダメはないケド、疲労でハートが減ってきたみたいジャラ。

 でも回復アイテム使うヒマが……。

 

 一応お昼に魔法のマメコーヒーを一杯キメたから、疲労からの眠気はまだ少ないケド、それもいつまで持つかってカンジ。

 

 しっかしやばいネ、あのガーディアン。なんだヨ、ガードジャスト返しっテ……いや、ラッシュ返しよりはマシかな……?

 でもなァ、1回ガードジャスト返し返ししても、さらにガードジャスト返し返し返ししてきたんだよなァ。しばらくラリーしなくちゃダメか。流石に剣では弾けないンだよねェ。けど、盾けっこー重いから振るのに苦労するジャラ。避けた方が早いか。

 

 避けると言えばだ、回避ジャストを狙うのが難しぃのヨ。何せゲームじゃないから無敵時間なんかないしネ。回転攻撃はゾーンに入るまでは簡単だケド、ラッシュに持ち込んでも相手が怯んで止まってくれるワケじゃァないから、欲張って攻撃しようとするとズタズタにされるだろーし。

 魔力はできる限り攻撃に回したいから『ネールの愛』は使えない。

 そもそも『ネールの愛』を展開したら結界の分当たり判定増えちゃうヨ。このレベルで苛烈な攻撃相手だと避けにくくなっちゃうジャラ。そもそも展開したところですぐ粉砕されるのがオチだネ。そういうところでは『ネールの哀』でもさして抑えられんジャラ。

 

 さて……コッチを向いた。試作古代矢最後の1本食らうジャラ!

 

 バッチリ命中ゥ! この隙に近づいて……?

 

 *

 

 げ、と思わず足を止めて声が出る。にわかに強い風が吹いてきたかと思えば、めがね岩の周りを覆って渦を巻く。

 強い風が『フロルの風』を阻害して、バランスを崩したブーメランをなんとか回収するという大きな隙を見せたティリアを、怯みから立ち直ったガーディアンは攻撃しなかった。頭部を回転させながら、注意深く辺りを見渡している。

 

「まいったネ……とンだジャマが入ったヨ。」

 

 ティリアの風をかき消すほど強い風。ゾーラの里以来、それこそ3年近く前の記憶だが、同じものであるというのに気がつくまで1秒とかからなかった。腹の底がムカムカするかのような嫌な感覚が全く同じであるからだ。

 

(あの時は夜だったから気が付かなかったケド、この風は黒い風だったのか。)

 

 風とは大抵不可視だが、ティリアのそれが緑のエフェクトを伴うとと同じように、この風は黒い渦となってめがね岩の片方を覆い包んでいた。

 

 ウルボザとダルケルに注意を促そうと叫ぶティリアだったが、黒い風の嘶きにかき消されてしまい、届いていないようである。

 

 歴戦のガーディアンは試練のために己に課していたリミッターを解除している。彼の中に備わる計器類は、厄災ガノンと同質の闇の波長を感じ取り、その方角を見据えている。黒い風に阻まれ、姿形は分からないが、確かに向こうに浮かんでいるということはティリアもまた認識していた。しかしこれではビームのロックオンすらままならない。

 

 妖精の魔宝弓もまた『フロルの風』を利用したアイテムであり、今この場においては普通の弓となんら変わらない。ティリアは左手の指先に『ディンの炎』を発生させ、膨大な魔力を注ぎ込みつつ圧縮。取り込んだ空気がプラズマ化するほどの線熱として、見えざる敵の方角へと解き放った。

 

 *

 

 黒い風のドームを貫き飛んできた線熱を、魔力の障壁で受け流した魔剣士は、携えた剣から瘴気を引き出し始めた。

 

 心を持たぬ兵なれば、厄災程度でも掌握できよう。だが、このガーディアンは歴戦の中で獲得した戦士としての精神を持つ。その至高の精神は生半な闇を阻むのだ。

 それでも、この魔剣の瘴気であればその程度の心をも塗り潰せるはずだった。量はともかく、濃度において魔剣の瘴気は厄災を遥かに上回る。

 

 だが、十数年前に彼は歴戦のガーディアンを手中に収めるべく向かい、手痛い敗北を喫していた。ガーディアンもガーディアンで内部回路にダメージを負ったが、どこかに隠れ、地下からエネルギーを吸い上げて自己修復に勤めていた。そうして今年になってから活動を再開したのである。

 

「全ては最古の女神像の膝下にいたからこそだ。ここで見つけたからには、もはや油断はしないが──」

 

 時を経て魔剣の力も回復した上、ついさっきイーガ団の墓所にて残されし怨念も啜らせた。本来であればその全てを今度の侵攻計画に用いる予定であったが、ここで歴戦のガーディアンを掌中にできさえすればそれを使い果たそうとお釣りが出るだけの戦力を獲得できる。

 

「さて、運命はどうなっているか。あの機械兵は我ら『()()』のものとなるか、それとも、またもや跳ね除けるのか……」

 

 赤黒の瘴気は、3本の槍の形をとった。その一本一本が、常人であれば20人以上を蝕み、発狂死させられるほどの悍ましい闇が込められているのだ。

 その瘴気の3本槍は、躊躇うことなく歴戦の機械兵へと向けて飛び出した。

 





『歴戦のガーディアン』
 本来の歴史であれば軌道はもっと先〈厄黙〉か、表舞台に出てこない〈ブレワイ〉だったが、謎の魔剣士と相対して起動。痛み分けとなる。その後、自己修復を終え、増加しつつある魔物をかりつつ、情報を集めていた。テラコほどもしっかりした感情はないが、心を持つため、洗脳耐性を持つ。
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