〜TS転生コキリ族ハイラルを往く〜 ゼルダの伝説 FAIRY OF THE MAGIC 作:ジュミ・ベラウ
ハイリア犬って可愛いよねという話。
数日の間ゲルドの街周辺でウルボザと手合わせを行ったティリアは、雷の扱いが一段上手くなった。ある程度であれば『嵐の歌』に頼らずとも『フロルの風』だけで静電気を発生させてそれを電撃とする事も可能になったのである。彼女はこれを『フロルの
そうしながら街の困りごとを聞き、それを解決して『感謝の理』を集め、また一段と強くなった彼女は、「電気の次は大地だ」として、ハイラル平原を挟んでほぼ対角線上にある火山『デスマウンテン』へと向かう。
デスマウンテンは数百年周期で活動期と休眠期を繰り返す活火山であり、現在は山頂の河口から溢れ出した溶岩が河となって山全体を覆い尽くす活動期となっている。
活動期のデスマウンテンはその熱気で可燃物が自然発火し、ハイリア人などは特殊な装備か、『燃えず薬』を体に塗るかしなければ生きていけないほどである。
原住民である『ゴロン族』は岩より生まれ、それゆえに炎や溶岩に強い耐性を持つ。また岩を主食とするため、畜産や農業に不向きなデスマウンテンでも逞しく生き抜くことができた。
そんなゴロン族の主な産業はその剛腕を生かした採掘業である。ハイラルの戦士たちが使う様々な武器の素材である質のいい希少金属類や、ゴロン族の食料としての旨みがない宝石類。それらを掘って売ることでゴロン族は外貨を得ていた。特に武器の材料は、ハイラル中の魔物から民を守る重要なものである。
そんなゴロン族の住まう町『ゴロンシティ』の採掘業のまとめ役『ゴロン組』はこのところある問題に頭を悩ませていた。それが増えた溶岩流や溶岩塊に紛れて擬態している『マグロック』に組員が襲われる事件が多発していることだ。
マグロック自体はデスマウンテンに生息していることゆえにこの手の事件は昔からそれなりにあることだった。しかし今回はあまりにも頻度が高すぎる。今月に入ってすでに3回。それも別々の場所でマグロックに遭遇しているとの話だった。
マグロック含むイワロック系統の魔物は決まった縄張りから滅多に動かない。数年、数十年、数百年とその場にとどまる事もざらだ。だが今回は明らかに移動していると考えなければ辻褄が合わない。数日前にはいなかったはずの場所で遭遇し、その報告を受けて討伐隊を向かわせても既にいなくなっている。
「どこへ行きやがったんだ?」
愛剣『巨岩砕き』を携えたゴロンの若者『ダルケル』は1人、マグロックを探し歩いていた。彼は『ダルケルの護り』という防御の異能を持ち、炎が結晶化したかのような赤い結界で己の身を護ることができた。それに加えてゴロン族の武器の中でも最重量級である巨岩砕きを片腕で易々と振り回す豪傑であり、まだ若いながらも街の皆から慕われていた。
元来懐が広く面倒見の良い兄貴肌である彼が、友人がマグロックに襲われてその敵討ちに燃えるのは至極当然のことであった。
「魔物……いや、ありゃあハイリア人の子供か?」
登山道沿いを下りチュンゴ湖という溶岩湖のほとりで、金色に輝く剣を持ち、恐ろしい仮面をつけた少女が十数匹の『火吹きリザルフォス』に囲まれていた。
「危ねぇな……よし、このダルケル様が助けてやるか!」
そうして巨岩砕きを抜き放ち、意気揚々と向かって行こうとしたところで、彼は足を止める。少女の身のこなしが明らかに素人ではなかったからだ。
*
sideティリア
数日の間、山麓の馬宿で登山の準備を整えた。山を舐めたら死ぬからネ。特に活動期のデスマウンテンはおよそ生身のヒトが生きていけないほどの環境ジャラ。
こっそりコソコソ忍び寄っては『ヒケシトカゲ』を捕まえて、あとは鍋に魔物素材と一緒に投げ入れる。
じっくりコトコト煮込んだら『燃えず薬』の出来上がり!
ちなみにコレは塗り薬ジャラ。リンクくんは思い切り飲んでたけど違うヨ。リンクくんのは多分、プラシーボ……?
薬品は正しく使わないと命に関わるものもあるので塗り薬を飲むのはやめようネ!
ちなみにちょっとだけ舐めてみたケド、材料が材料なので美味しくはないジャラ。苦いというかエグいというか……舐めた後は妖精の力水ですすがないと舌が気持ち悪かったジャラ。塗り薬だがら粘度が高くて舌に絡むんだヨ。
ゴロン族の商人さんが山から降りてきたのでハナシを聞くと、どうもマグロックの動きが活発化しているらしいネ。今の所登山道沿いには出たためしはないから、大きく逸れなければ大丈夫らしい……
デスマウンテンは大地と炎の力に満ちた場所。うまく研究して地属性の魔法を手に入れられるといいんだケド……理想はイーガ団の使う『土遁の術』を隙の大きい叩きつけの予備動作なしで放てることだネ。
『フロルの雷』が『フロルの風』の派生だったから、地属性の魔法は『ディンの何某』という形になるのかな?
そうして準備を整えていざ登山、というところで馬宿の主人に呼び止められた。どうやら山岳救助隊の隊員が1名、パトロールから戻ってきていないので見かけたら交代の時間だと伝えて欲しいとのこと。
快く引き受けてさぁ登山開始。麓の方はまだ熱くないケド、それでも『オルディン地方』は気温が高め。水分補給はこまめにネ。後はエネルギー切れや頭痛を防ぐために行動食もちょくちょく口にしなくっちゃ。
天然の岩のアーチがある登山口を越えると、左右をキュサツ湖とユフィン湖という2つの温泉に囲まれた道を進むことになる。
それからユフィン湖の横を登ってU字のトンネルを通ると本格的に熱くなってきた。空気中に火の粉のようなものが舞っている。
「アチッ! あ、やばばばば……」
背中に背負っていた森人の盾が黒煙を吹き始めたので慌ててポーチにしまう。コキリの白刃剣の柄部分も木製だケド、こちらは魔力のおかげで燃えない。
「まいったネ。金属盾は重いからニガテなのにナァ……」
腕力が足りない! ハイリア様、腕力を増強する力の器とかありませんかネ……
そんな時だった。向こうから1匹のハイリア犬が駆けてきたんだ。よく見ると毛が燃えず薬でテカってる。馬宿で管理されてる山岳救助犬だ。首輪に印がある。
「バウ!」
「どしたノ?」
ワンちゃんはボクに寄ってくると興奮した様子でぴょんぴょん跳ねて、そしてくるりと踵を返す。それから数歩進んでこっちを振り向く。
「誰かが助けを必要としてるノ?」
「バウ!」
ボクがワンちゃんについて行くと、溶岩湖の脇、岩陰でハイリア人のお兄さんが脇腹を抑えて座っていた。
「大丈夫⁉︎」
「ヒィ……なんだお面か……お嬢ちゃん、ここは危険だ……誰か大人の人を呼んできてくれ……」
「何があったノ?」
「火吹きリザルフォスの群だ。10匹以上いる……まだ近くだ……脇腹をやられてね……」
お兄さんはそう言ってゴホゴホ咳き込んだ。患部を見ると血がひどく滲んでる。
ボクはポーチから妖精の力水を取り出すと、彼の患部に振りかけた。これほど大きく切り裂かれていると即効性はないケド、痛み止めと消毒ができる。
「痛みが、楽になった……」
「治ったわけじゃないジャラ。まだ歩かない方がいいヨ。」
『フロルの風』で麓まで送って行くべきかと考えたケド、風のテレポートは渦を巻くから慣れないと酔いそうになる。ダメージを受けた彼では辛いと思う。
「安全確保が優先だネ。」
岩陰のもうすぐ向こうに火吹きリザルフォスが集まっている。このまま助けを呼びに離れれば、その間誰が彼を守るのか。もし見つかれば燃えず薬だけではリザルフォスの火炎弾までは防げない。そして見つかるのも時間の問題……
「ワンちゃんはここにいてあげテ。」
「バウ。」
ボクは白刃剣を抜き放つとフォースを込めた。金色に輝く刀身に彼の目が吸い寄せられる。
「森の妖精……?」
お兄さんは何か呟いたみたいだケド、か細くて聞き取れなかったジャラ。
ボクはリザルフォスの群の中心に『フロルの風』でテレポートした。
ムジュラの仮面の効果でリザルフォス達はボクを魔物だと勘違いしている。ただ、いきなり現れたのを不審がったか、あるいは好奇心か、近くに寄ってくる。
好奇心はネコをも殺す……
奥義『大回転斬り』が面白いくらい上手く決まった。この一瞬でリザルフォス達は全滅。今回も遺骸は消滅しなかった。ウーン面倒。
ちなみに、この前のキングラジークはゲルド族のヒト達が解体を手伝ってくれた。肝はウルボザ名義でハイラル城に送ってくれたらしい。軽い近況報告の手紙も同封してくれた。
とりあえず役に立つツノと爪と尻尾を切り落としてポーチ内のエモノ袋に入れる。このやり方だと尻尾のドロップ率は100%なのはいいことだネ。
持ってた武器は武器ポーチに入るだけ入れて残りは置いていこう。ゴロンシティに着いたら売って路銀の足しにする。
残りの遺体は……溶岩湖に沈めとこ。
「やるなぁ嬢ちゃん!」
「あら、ゴロン族サン、こんにちは。……死骸を沈めるのは良くなかったジャラ?」
「いやかまわねぇよ。それにしても見事な一撃だったぜ。囲まれてるから助けにいこうかと構えてたんだが、いらなかったみてえだな。」
「いや、実は近くに襲われて怪我をしたお兄さんがいるんダ。麓まで運ぶのを手伝って欲しいジャラ。」
「わかった。俺様に任せとけ!」
ウーン豪快。気が大きくて力持ちを地で行く善性。同じチカラモチでもガノンドロフとはえらい違いジャラ。
「こっちだヨ。」
岩陰のお兄さんのところまで歩いて行くと、待たせていたワンちゃんが飛び出してきた。尻尾をぶんぶんさせて飛びついてくる。
「よしよし。可愛いネ。」
癒される。ハイラルの犬科は他だと旅人を襲うようなサンゾクオオカミやらカラカラコヨーテやらで可愛げがないし、こういう癒し枠はホーント貴重なのサ。
「……」
「あれ、どうしたノ?」
ボクが振り向くとワンちゃんもボクの肩に顎を乗せてゴロン族サンの方を向いた。
途端に彼は小さな悲鳴をあげて向こうを向く。体を縮こめて赤い結界が全身を覆う……
アレ、『ダルケルの護り』だよネ、どう見ても……
ワンちゃんはキョトンと首を傾げる。うん、キミは悪くないんだ。
髭が伸びてなくて顔の印象が全然違ったから気づけなかったケド、彼こそ若かりしダルケルそのヒトだったのである。
小さい頃に犬に追いかけまわされてトラウマになってるらしい。可愛いところもあるネ、ホント。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だ。このダルケル様に二言はねえ。……だからちょーっと離れてついて来てくれると助かる……」
「わかったジャラ。」
こうして元来た道を戻って山麓の馬宿まで戻った。馬宿には他にも沢山の山岳救助犬が飼育されてるケド、ダルケルは我慢して馬宿のベッドまでお兄さんを運んでくれた。
そしてすぐさま丸まって転がり、馬宿から十分な距離をとった。ウーン筋金入り。
しばらくしてお兄さんが目を覚ましたので話を聞くと、どうももっと上の方に生息している魔物がどんどん高度を下げているらしい。個体数そのものはそこまで増加していないみたいだケド、これまでにない行動で、予想外の場所にいたので逃げ遅れたみたい。脇腹の傷はワンちゃんを庇った名誉の負傷だったそうだ。
ワンちゃんもお兄さんに守られた自覚があるのか彼が目を覚ますまでずっとベッドの横に座っていた。健気。
「森の妖精様、命を救っていただきありがとうございます。」
「様はやめて欲しいジャラ。それにボクを呼んだのはこの子だヨ。目一杯褒めてあげてネ。」
お兄さんはワンちゃんを抱きしめる。感動的な光景だネ。そんな彼らの頭上に金色の光が集まって、そして正三角形の結晶が生じて、ボクの胸に飛び込んできた。
『感謝の理』を手に入れた。しかも2つも。これで4つ集まったから、ゴロンシティの女神像で器と交換してもらおうっと。
馬宿から出るとダルケルは離れたところで待っていてくれた。
「どうやら移動してるのはマグロックだけじゃないみたいジャラ。」
「そうみてえだな。とすると原因はなんなんだ? 縄張り争いに負けたのか?」
「ねェ、移動してるのは魔物だけなのかな? オルディンダチョウもいつもと違うところにいたりしない?」
「調べて見る価値はありそうだな。俺達ゴロンは肉は食わねえから見落としていたが、ありうるな。」
ボクはダルケルと行動を共にして、ゴロンシティを拠点に数日間魔物や動物の移動ルートを調査した。
「いた、マグロックだ。」
「こんな低いところにいたのか。」
「周りに溶岩がないから擬態の
街道から外れているとはいえ、周囲の草木が燃えてしまっていたので生態系を保つためにも討伐はした。ボクとダルケル2人がかりで完封だ。
そうそう。ボクの『ネールの愛』に興味を持ったダルケルと硬さ比べをしてみたけど、何度かぶつかりあうといつもボクの結界の方がすぐ割れた。やっぱりボクは色々できる分それぞれの専門家には及ばないみたい。『フロルの雷』も『ウルボザの怒り』には及ばないしネ。多分『フロルの風』の勢いも未来の『リーバル
それはともかく調査した結果を地図にメモをして分かった事がある。
「大移動の原因は……『オルディン橋』の向こう、デスカルデラに居るみたいだネ。」
火口の周りをぐるりと囲むデスマウンテン最大規模の溶岩湖。そこに住み着いた何者かが他の生き物を遠くへ追いやっているようだ。
このところ小規模な噴火で火山弾が降ってくることもあったケド、これはひょっとするかもしれない。
「なあ、アンタ賢者って呼ばれてるんだろ? 原因に心当たりはねえか?」
実際のところなくはない。ないケド、これほどの存在かどうかは確証がない。ゲームだとそういう描写はなかったから描写された側面しか知らない。ただできるできないで言えば「できそう」というのが素直なところ。
「まあ、なんにせよ行けばわかるか。」
「明日に備えて今日は休むべきだネ。」
こうしてボクらは各々眠りについた。
次回、ボス戦。