Code01.
キヴォトスの一角、とある学園の自治区において夜明け前は、まだ静かだった。だがその静寂は、平穏ではなく“支配された静けさ”だ。
ヴァルグレア統制学院第3管理区、訓練区域。そう呼称されるその場で冷たい金属床に反響するブーツの足音が、規律の証のように響いていた。
「……集合確認。仮想敵との訓練。詳細を」
短くも要件を纏めた命令を発したのは、アマリア・エーレンベルク。黒を基調とし、赤や銀のワンポイントが施された学園の制服を着こんだ彼女。その襟には彼女の身分を示す輝かしい“特等少佐”の階級章。この学園においてその地位を知らない者はいなかった。
そして、その彼女の前に整列する訓練兵たちは皆、反抗も迷いもない顔をしている。だが、それは彼女たちが厳しい訓練を乗り越えた兵士である事を示してはいない。彼女たちの首に装着された電子チップが理由だった。
「この世界には、秩序が必要だ。民が叫ぶ声ではなく、沈黙が秩序を示す」
アマリアは視線を巡らせる。その隣、ドローンのように音もなく佇む少女、ラーナ・グリメルトが一歩進み出る。
「訓練内容:ミレニアム・サイエンススクール内での“反乱”を想定した“鎮圧作戦”。目標は“反乱地区内の生体反応全てのせん滅”及び“以降における反乱抑制の為の整地処理”」
「諸君、直ちに訓練に入れ」
アマリアより発せられるその言葉に一切の感情はなかった。ラーナが話した訓練内容はとてもではないが普通とは思えないものだったがそれに反論する声も、“狼狽える様子”すら見せずに訓練兵たちは黙々と訓練を始めていた。
そんな彼女たちの様子を見てラーナはニヤリと口角を上げた。
「“反体制派の再教育”。うまくいっているようですね」
「当然だ。“硝子の間”で行われる事に不備は存在しない」
ラーナの言葉に返答するアマリアに上手くいっているという安堵はない。彼女にとってはただただ“想定通り”の光景でしかないのだ。
ふと、訓練場の奥で、火花が爆ぜるような音がした。
火炎の残り香。誰かが「楽しい」と呟きながらそこから姿を現した。
現れたのは、ヴィオラ・アイゼンシュタイン。
灰色のマントを引きずるように纏い、無邪気に笑うその目は、狂気の色を孕んでいる。
「ねえ司令官さま。また、誰か燃やすの? 今回は建物もアリでいい?」
「ヴィオラ、お前の役目は制圧。破壊は指示があるまで控えろ」
「はーい。……でも、きっと壊れるよ、秩序って」
不敵に笑う彼女の言葉は明らかにヴァルグレアを批判する内容だ。だが、それに対してアマリアもラーナも何も言わない。何しろ、彼女の言動は“これでもマシと言える程に再教育されているからだ”。
だからアマリアは何も返さなかった。しかし、それが再教育を受けてもなお崩れない彼女の危険思想故にではなかった。
その言葉が、彼女の心の奥にあったものと似すぎていたから。
誰よりも秩序を信じながら、
誰よりもその儚さに怯えているのが、自分自身だと気づいているから。
遥か彼方、学園都市キヴォトスでは今日も変わらずに銃弾が飛び交い、爆炎が人々を焼いていく。
だからこそ彼女たちはいる。ヴァルグレア統制学院が動く。
そして、その先にあるのが――正義か、破滅かは、まだ誰にもわからない。
「自由は混乱を、秩序は繁栄を産む。我らは秩序を作り者。その先兵である」
アマリアはヴァルグレア統制学院の理念を呟く。彼女も知らない心理とは裏腹に彼女が醸し出すは感情を持たない機械のようであった。
ぶっちゃけ色々とツッコミどころがあると思うしブルアカじゃないと思う人もいると思いますがそれでも読んでくれる方がいれば幸いです。