硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『正しさは“従うこと”によって定義される。判断ではない』


Code11.

 アビドス高等学校はいつもと変わらない静寂に包まれていた。砂に埋もれ、学校として機能していない廃校寸前の校舎をホシノは日課である見回りを行っていた。電気が消え、月明かりだけが光源の廊下は薄暗く、砂が侵入し、あたり一面に薄く積もっていた。

 いつも通り、変わらない寂しい校舎の見回りを終えたホシノはふと、廊下の窓から見えるアビドスの街並みに目をやる。明日はそちらの見回りを行う予定となっている。最近になりヘルメット団と名乗る不良グループが頻繁に屯するようになっており、アビドスは治安が悪化しつつあった。ホシノが入学したころに比べればマシになっているとはいえ不良生徒はいくらでもやってくるために心が休まる日は中々訪れない。

 

「……来るかな、また」

 

 だが、ホシノの心の中にあるのは梔子ユメが死んで以降で発生したいつも通り以外の出来事、ヴァルグレア統制学院の事である。セイル=アインと名乗る少女の交渉という名の買収。その夜には実力で占拠を狙う暴挙に出ていた。

 ホシノにとっては軽く追い返せる程度の、その辺の不良生徒を相手する程度の感触しかなかったがヴァルグレア統制学院がそれで終わるとは思えなかった。アビドスという寂れた場所にいても彼の学院の悪名は伝わってきているのだから。

 セイル=アインを退けて以降ホシノはまともに眠れない日々が始まった。ヴァルグレア統制学院が何時第二波を仕掛けてきても問題ないように常に気を張って過ごしていた。幸いな事にホシノは倒れる前にヴァルグレア統制学院の使者が訪れたことでそれも終わりを迎える事が出来た。

 

---当学院は今回のセイル=アイン“元”処置官による暴挙に一切かかわっていない。だが、迷惑を方々にかけたのも事実。これはその迷惑料と考えてもらいたい。そして、我々はアビドスへの交渉は二度と持ち掛けないと誓おう。

 

 そう言って一方的にホシノは迷惑料として大金を手に入れた。額としては1億近いものであり、あまりの額にホシノは返金していた。これを受け取ったが最後、一体何をさせられるかわからなかったからだ。

 

---ならばこちらからカイザーローンに掛け合い、借金をその金額分減らすように交渉しよう。こちらとしては今回の暴挙をそれだけ重く見ていると思ってくれれば問題ない

 

 そして、返金すれば使者はそう言って借金を勝手に一部返済してしまったのだ。翌月、確認してみれば1億分借金は減っていた。それでも、まだまだ億単位で借金があり、完全返済に至るまでにはまだまだ長い道のりであった。

 以降、ホシノはそれまでどこか感じていた監視されているような視線が消えた事が分かった。少なくとも、使者の言葉は真実であったとそこで漸く信じる事が出来たのだ。だが、だからと言って警戒を解いたわけではない。例えヴァルグレア統制学院の襲撃がなくとも不良生徒が屯する事に変わりはないのだから。

 

「蜥蜴の尻尾切り、か。嫌な話だね」

 

 使者が言っていたセイル=アイン“元”処置官という言葉。あの学院が罰を下すのであれば自分達では考えが及ばない程の物になっているだろう。それこそ、文字通り“処分”されている可能性すらあるだろう。

 だが、同情する事はない。彼女たちも自分に危害を加えようとしたのだ。その報いがあったとホシノは考えるようにしていた。

 

 ふと、ホシノは左肩に担いでいる盾に目を向ける。数少ないユメ先輩の遺品であり、自分を何度も助けてくれた武装。自然とホシノの厳しい目つきは緩み、悲し気に微笑んだ。

 

「ねえ、ユメ先輩。私さ、貴方が死んだ時、もう全部終わりにしようと思ってた」

 

  風が吹く。瓦礫の影が一瞬、誰かの立ち姿のように揺れた。

 

「だけど、終われなかった。知ってる? 最近うちに入学したいって言ってくれた娘がいるんだよ。私も来年には後輩が出来るんだ。それまでに、このキツイ性格を直して、ユメ先輩みたいに優しい性格にしたいと思っているんだ。

だから、絶対に終わらせない。不良にも、ヘルメット団にも、借金取りからも、そして……、ヴァルグレア統制学院からもアビドスを、私たちの学校を、必ず、守って、見せるから……」

 

 言葉の途中から、ホシノの声は震え始める。大切な先輩の死。それを短期間で乗り越えられる程ホシノという少女は精神が強くも、薄情でもない。

 

「ユメ先輩……。もう一度、もう一度だけで良いから、会いたいよ……。

バカな行動に呆れて、天然な性格に突っ込んで、また先輩の突拍子もない行動に振り回されて……。

また、あの日々を……」

 

 ホシノは内からあふれる物を抑え込むようにその場にしゃがみこむ。頬を伝い涙が落ち、砂を濡らす。

 肩にかけてきていた盾を抱きかかえ嗚咽を漏らす。大切な先輩の死を思い、声を震わせて泣き始める。

 

「……ふう」

 

 しかし、それもすぐに終わりを迎える。心の中で折り合いをつけたホシノは目に残った涙をぬぐい、再び校舎の見回りに戻る。ユメ先輩との大切な日々を、自分が大好きなこの場所を失わないようにするために。

 

 

 そして、その翌日に、小鳥遊ホシノは大切な“仲間”が増える事になる。

 

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