硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『問いません、逆らいません、私は従います』


Code12.

 意外とも言えるかもしれないがヴァルグレア統制学院には不良生徒が幾度となく侵入する事があった。その数は年間を通して10~20人程であるがそれでもヴァルグレア統制学院という場所を知っているのなら絶対にありえない数値であった。実際、そうやって侵入した者達は全員が行方不明となっていた。何度か、自治区内で労働している姿を見たが全員見た目が似ているだけの別人という扱いで処理されていた。

 

 そして、今宵もヴァルグレア自治区を覆う塀が唯一存在しない北部から侵入した不良生徒、キヴォトス中で活躍するヘルメット団の団員数名が廃ビルの中で屯していた。彼女たちはまるでその辺のコンビニに行く感覚でこの場にいたのだ。手には様々な色のスプレー缶を持ち、談笑しあっていた。

 

「いやぁ、意外と簡単に入れたな!」

「な? 言った通りだろ? 自治区の北側は塀なんてないから簡単に入れるってな!」

「流石じゃん! あ、確か赫灼出身だったか?」

 

 団員たちが侵入したルート以外ではヴァルグレア自治区を囲むように巨大な塀が建造されていた。出入口は制限されたゲートのみであり、塀の上には等間隔にドローンが飛んでおり、塀を越えようとする者に容赦なく銃撃を仕掛けるようになっていた。

 しかし、自治区の北方、赫灼高等女学園との境目はかつての戦争から塀は破壊されており、簡単に出入りが出来るようになってしまっていたのだ。それを理解していた元赫灼の団員がこうして存在を仲間に教えたのである。

 

「んで? どうする? なんて書くか?」

「いつも通り“ヘルメット団参上!” で良いんじゃないか?」

「せっかくだし“ヴァルグレアなんて屁でもねぇ!” って挑発すっか?」

 

 三人のヘルメット団員は各々スプレー缶を持って壁にどんな落書きをするのかを考えていた。真っ暗な空間。光源は月明かりの身であり、街の喧騒は驚くほど聞こえてこない。

 

「いやいや、こんなに広く使えるんだからいっぱい書こうぜ? スプレー缶だってこんなにあるしよ!」

「それもそうだな! 良し! なら私はペロロ様でも……」

「お前ほんと、それ好きだよなぁ」

 

 だが、そんなことに気づかない程彼女たちは熱中し、盛り上がっていた。スプレー缶を振り、壁に吹きかけていく様子は彼女たちの背後、いつの間にか無音で近づいてきたドローンにより一部始終が撮られていた。

 逸脱者や他校の生徒が出入りしやすいこの周辺をヴァルグレア統制学院が見逃すはずがなかった。この周辺は無人ながら大量のドローンが展開しており、異変を感知次第処置官を送る事が出来るように流れが出来ていた。

 

「よっしゃ! これでいっちょ上がり!」

「良いじゃん良いじゃん! 最高傑作だよ!」

「写真にとっておこ」

 

 故に、ヘルメット団員たちが落書きを終え、自らの出来栄えに感心すると同時に彼女たちの背後に一人の処置官が姿を現した。緑の髪を無造作にしたままの少女は何処か壊れたような笑みを浮かべていた。

 

「ひ、ひひ……! 侵入者ぁ、はっけぇぇぇぇぇん!!!」

「うぇ!? な、なんだこいつ!?」

「まさかヴァルグレアの奴か!?」

「撃て撃て!」

 

 少女の登場に気づいたヘルメット団員たちが一斉に発砲をする。それらは少女の体に次々と命中していくがその事でダメージを負った様子はなく、ニヤァと笑みを深くした。

 

「き、効いてない!?」

「化け物かよ!」

「そんなこと言ってないでう……!?」

「おそいよぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 ヘルメット団員が狼狽えた隙を突き、彼女は腕に持っていた銃口を彼女たちに突き付ける。しかし、それは銃ではなかった。大口径のそれより放たれたのはヘイローを持ち、頑丈さで知られている彼女達ですら耐えきれない程の灼熱の地獄だった。

 

「あっつっ!!??」

「相手の武器火炎放射器だっ!」

「や、やべぇ! にげ……!」

 

 一瞬にしてヘルメット団員たちは火に包まれる事となり、慌てて逃げ出そうとするが火炎放射器を持った少女、ヴィオラ・アイゼンシュタインは最初に発射した時点で周囲にばら撒くように火を放っていた。そのために彼女たちの周囲は燃え盛る日に包まれており、逃げ出すことは出来ない状況にあった。

 

「なぁっ!? 逃げ場がない!?」

「嘘だろ!? おま、お前! どうやって逃げる気なんだよ!」

「このままじゃお前も火だるまだぞ!」

 

 次々に絶叫の声を上げるヘルメット団員たちにヴィオラはおかしそうに笑う。その目には感情が宿っておらず、本人の様子も相まって彼女たちの言葉を理解できないようであった。

 

「何を言っているの? 私はヴァルグレアの正しいと言っている事をしているんだよ? そんな私が死ぬわけないじゃん」

「なっ!?」

 

 本気でそう言っているヴィオラの言葉にヘルメット団員たちは二の句が継げず絶句してしまう。そうしている間にも彼女たちの回りは火が広がり始め本当にどうしようもない状況になってしまった。煙が灰に入り込み、ヘルメット団員たちはせき込み始める。

 最早銃を持ち、抗う力もなくなっていき、ヘルメット団員たちはその場に倒れこむがそんな彼女たちをヴィオラはまるでなんともないように冷たく見下ろしていたがふと、耳につけられたイヤホン型の通信端末に指示が入り、ガスマスクを着用した。新鮮な空気が彼女の中で循環していく。

 

「あーあ。本当に脆いね。所詮銃弾は平気でも火や煙には弱いんだね」

 

 淡々と、だがどこか落胆しているような雰囲気を出しながらヴィオラはポケットの中に入れていたスイッチを押し、その場を後にする。彼女は火に包まれようともまるで熱を感じていないように廃ビルを後にする。彼女がビルを出れば事前に仕掛けられた焼夷弾によって廃ビルは一瞬で炎に包み込まれていった。

 廃ビルは夜が明けても燃え続け、凡そ半日後に鎮火した。廃ビルは元々撤去予定だったこともあり、ヴァルグレアはきちんとした調査を行う事はなく、即座に燃えカスを撤去してその場を後にした。その燃えカスの中に、人の骨らしき物があったことに誰かが何かをいう事は最後までなかったのだった。

 

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