硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『秩序の本質は、“疑わないこと”にある』


Code14.

「……私は、混乱の時代に生まれました。

自治区の外に目を向ければそこには壊れた規律、放棄された秩序、そして正しさを語るだけの組織……。混沌とも言える平和亡き世界が、幼き私は見てきました。

 

けれど、その混沌の中で、ただ一つ、明確に存在していたものがあります。それは、統制された秩序という確かな指針でした。

 

本日、我々新入生は、ヴァルグレア統制学院高等部の門をくぐりました。ここは、自由という幻想を捨て、正しさを学ぶための場所です。

 

自らの考えではなく、正しい命令に従うこと。感情ではなく、統制、秩序、命令に従って動くこと。それこそが、“本当の“強さ”であると、私は信じています。

 

私は、いずれ処置官となり、この統制の理を守る者となることを、ここに誓います。

それは名誉であると同時に、逃げ場のない責務です。逸脱を許さず、曖昧を断ち切り、統制の理念を実行する存在。私は、その矛となることを望み、ここに来ました。

 

この学院には、命令を守る覚悟が試されます。覚悟無き者に統制された秩序を夢見る資格はありません。答えは常に上にあり、私たちはそれに従い、拡張し、実行する。

それが、ヴァルグレア統制学院の生徒に課せられた本質です。

 

今日ここに立ち、私は命じられることの重さと誇りを理解し始めています。この制服を身に着ける以上、私はもはや“私”ではありません。

私は、統制という理想の代弁者であり、その命令を完遂することだけが、私の存在の価値です。

 

最後に、私たち新入生がこの場にいることは、偶然ではなく、選別の結果です。だからこそ、私は仲間たちに告げます。

 

逸れるな。揺れるな。問うな。

ただ従え。命じられた通りに、歩め。

 

この学院にふさわしい生徒として、私リディア・ヴァイスロートは、

一切のためらいなく、命令に従い、秩序の盾であり、処置の刃たらんことをここに誓います」

 

 何百人もの生徒が見守り、自治区全体に放送されているヴァルグレア統制学院の入学式。その場で今年無事に入学を果たしたリディア・ヴァイスロートは堂々といたスピーチを行った。その内容はアマリア・エーレンベルクを始めとする在校生及び処置官の面々も感心する程のものであり、彼女の将来が楽しみに思えるものだった。

 ヴァルグレア統制学院という他とは違う場所故に彼女を称える拍手は起きない。だが、その言葉は新入生だけではなく、在校生、卒業生の心にも深々と入り込み、確かな影響を与えていた。

 

 季節が廻り、新年度を迎えるキヴォトスにおいてヴァルグレア統制学院もまた他と変わらない入学式を迎えていた。

 桜が降り注ぐ中で通学する生徒達。だが、彼女たちの表情は皆が無であり、感情を持っている者はほとんど存在しなかった。辛うじて、個性と言える物が髪の色や長さ、ある程度のカスタマイズは許されている制服やアクセサリー類で判別が出来る程度の物だった。だがそれでも、常に感情を抑制する事を覚え、命令に従うだけの機械のような存在となった彼女たちが疑問に思う事はない。彼女たちにとってこれが“当たり前”の事なのだから。

 

 

 

 そんな生徒たちが登校している裏で、ヴァルグレア統括局の中心部では主要メンバーが集まり、会議が開かれていた。定例会議とは違い、今後一年の方針を決定すると言っても過言ではないこの会議には高等処置官だけではなく教官を務めているグラディス・ヤーグナー等の大物も参加しており、いつも以上に空気が重かった。

 

「……さて、今年一年の動きを簡単に決めていこうか」

 

 会議の進行役を務めるのはこの場の誰よりも役職が上であるリヒト・エーレンベルクだ。彼はいつも通りの温和な笑みを薄く浮かべながら話を始める。

 

「昨年はカイザーコーポレーションとの思わぬ取引によってこちらの兵装事情はかなり改善されている。赫灼戦役で判明したこちら側の戦争への理解度の低さもこれで軽減できるはずだ」

「それについては同意ですな。赫灼戦役は我らにとっては黒歴史と言える程酷いものでした。グラディス殿がいなければ我らが勝つことは出来なかったでしょうしな」

 

 リヒトの言葉に処置官たちが同意する。カイザーコーポレーションとの取引はヴァルグレア統制学院にとって追い風となる影響を与えた。カイザーコーポレーションが使用している最新鋭の武器やその技術を手に入れたことで武器のアップグレードが可能となり、全体の戦力を向上させる事に成功したのだ。

 

「ですが赫灼戦役で破壊された北方の壁、あれの修復は急務でしょう。最近では外の不良集団、確かヘルメット団でしたか? それを含む10以上の侵入が確認されています。無論、全て“処分”していますが我々が確認できていないだけで他学園からのスパイも入り込んでいる可能性が高いでしょう」

「その件については報告がありますよ」

 

 懸念点としてあげられた他学園の干渉。それに関しての情報を持っているとして声を上げたのはノルド=エンリだった。処置官でありながら異質な存在と言える彼の発言に誰もが注目する。

 

「実は既に何名かですが他学園のスパイを発見し、監視しています」

「ほう? そのような報告は聞いたことがないぞ?」

「それになぜ監視を? とっとととらえて処分するなり処置を施せばいいだろう」

 

 一気に声を上げたのはカシウス・レンクロフト率いる急進派のメンバーであり、その中でもノルド=エンリを毛嫌いしている者達だった。だが、それ故かノルド=エンリは小馬鹿にしたように肩をすくめて返答した。

 

「把握できた者だけで総数とは限りません。下手に動きを見せてさらに深くに潜伏される可能性だってあります。こちらは気づいていないと思わせて相手の警戒を深めないようにする。この行動の意味が分かりませんかね?」

「理解はした。だが報告が遅い。そういった情報は全体で共有するべきだ。知っている情報を今すぐ全て話せ」

 

 ノルドの小馬鹿な態度に怒りを覚えた彼らを制したのはカシウス・レンクロフトだった。だが、それと同時にノルドですら顔が引きつる圧をかけられることとなり、ノルドも「ええ、勿論。全部話しますよ」と短く返答する事しかできなかった。

 

「発見したスパイはゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、連邦生徒会、他にも中小規模の学校の者達ですね。総数としては順番に上げた順に多く発見しております」

「ゲヘナ……。我らとは対極に位置する害悪どもか」

「とはいえ雷帝によって組織された諜報部は厄介だぞ。あれらは我らですら手に余る組織だ」

 

 少し前までゲヘナを支配していた暴君とも呼べる人物。部下の裏切りで失脚し、卒業。そのままキヴォトスの外へと出ていった彼女の事を思い出して会議に参加するメンバーの表情は曇る。彼女によってヴァルグレアは幾度となく苦い思いをさせられていた。結局、その屈辱を果たす前にあちらが失脚してしまったが彼女が作り出したものは方々に残り続けていた。

 

「とはいえ雷帝無きゲヘナを真の意味で警戒する必要はない。雷帝のような人物でもない限りゲヘナが纏まる事などあり得んからな」

「そういえばゲヘナで思い出したが温泉開発部を名乗る輩がゲートを突破しようとしたことがあったぞ。追い払う事には成功したが中々面倒な奴らのようだ」

「ああ、それの情報なら提出出来るぞ。どうやらゲヘナだけではなくキヴォトス各地で建物を爆破し温泉を掘ろうとする危険な奴らのようだ。自治区に入られた暁には楽園と言える街が混沌で覆われる事になるだろう」

「そうなるとそれらしい生徒は近づく場合は問答無用で発砲した方が良いかもしれないな。所詮、他校の生徒。我らにとってはいようといまいとどちらでも構わない存在だからな」

「だがそれで他校が連携してこちらに襲撃を仕掛けてくるのなら厄介だ。そうならない為にも情報を仕入れて……」

 

 会議は白熱していき、夕暮れ時になっても続けられた。だが、その結果としてヴァルグレア統制学院及び統括局の大まかな方針が決定された。彼らはこの方針に従い今年も統制された秩序の為に職務に励む事になるだろう。

 

 全ては自由無き、統制された秩序の先にある繁栄の為に。

 

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