硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『統制において監視は必要不可欠。人間は機械と違い監視がなければ直ぐに故障してしまうから』


Code18.

 依頼を受けてひと月の間ヴァルグレア統制学院に潜入する事となった陸八魔アル率いる便利屋68のメンバーたち。初日からヴァルグレアの厳しい現実を目の当たりにして情報収集どころではなくなってしまったがそれから数日たった現在もまともな活動を行えずにいた。

 

「……本当に、ここは酷い所だよ」

 

 カヨコは拠点としている廃ビルの一角でため息をつきながらこれまでの事を思い返した。

 昼間は処置官が大量に監視を行い、何かあればすぐに集まってくる状態になっている。夜間はそもそも人の往来がなく、出歩いているのは目立ってしまう。

 幾人もいただろうアルマ=グラン農業高等学校の依頼を受けた同業者達はこの数日で全滅したらしく、それらしい気配を感じる事は無くなっていた。彼女たちがどのような目に遭っているのか、想像する事しか出来ないが決して体験したいとは思えない。

 

「社長、大丈夫?」

「ごめんなさい。まだ、少し……」

 

 廃ビルで見つけたベッドに横になっているのは社長の陸八魔アルだ。不断の自信たっぷりな雰囲気はなく、心が折られたような弱弱しい雰囲気となっている。心配そうに看病するムツキもあまり元気はない。普段ならいたずらっ子のような笑みを浮かべてアルをからかっているがそのような元気もないのだろう。

 無理もない、とカヨコは思う。アウトローを自称しようと所詮は本当の闇に触れたことがない二人だ。ヴァルグレアのディストピアとしか言いようがない雰囲気は相当に堪えたのだろう。

 

「ムツキ、社長の事は任せたよ」

「ウン。わかったよ……」

 

 こうなってしまえば自分が何とかするしかないとカヨコは今日もヴァルグレア統制学院の制服を着て自治区内を散策する。そうして分かった事だが自治区とは言っても所詮は学園の外の風景でしかない。ヴァルグレアの動きは全く分からなかった。

 生徒に声をかけようにも大半が無表情で会話すらしていない者ばかりであり、とても話しかける雰囲気ではない。あまり余計な事をして潜入しているのがバレるのも困るとカヨコはモブ生徒の振りをしながら思案していた。

 最初は厄介だが簡単だと思っていたこの依頼も蓋を開けてみれば無事に帰れる可能性すら薄い超弩級の厄介な案件だった。不運としか言いようがないが事前情報で得られる知識ではこういった情報が得られなかったために分かるはずがなかった。

 

「今日は少し遠くを散策してみようかな」

 

 ここ数日でカヨコは見るべき所を見終えてしまい、特に見るべき場所は残っていなかった。基本的にヴァルグレアの重要施設は自治区の中心部、学園がある場所に集中しており、カヨコがいるような北部の外環地域に情報を得られるような施設はなかったのだ。

 

「内部地域に入るには今の私じゃ無理だし、他の外環地域にしようかな?」

 

 カヨコは行き先を決めると一般的な生徒の振りをしつつ歩き始める。何かしら情報を得られると信じて。

 

 

 そして、自らが監視されているとも知らずに。

 

 

 

 

 

「最後の一匹を漸く見つけたか」

 

 自治区の中心部、ヴァルグレア統制学院に隣接するように建てられたヴァルグレア自治区管理局。その内部に有るモニター室にてカシウス・レンクロフトは吐き捨てるように言った。

 彼が見ているモニターは“自治区の隅々まで設置されている監視カメラの映像”である。赫灼戦役によって未だ復旧が間に合っていない北部を除き全ての地域で移されない場所はない程の監視カメラが設置されている。それらは目立たず、気づかれずに自治区内の様子を見ており、その中の何台かが不審な動きを見せる生徒を発見したのだ。

 

「確認しましたが彼女の記録は学園にも自治区の住民票にもありません。外部からの侵入者、諜報員と見て間違いないでしょう」

 

 自治区管理局の局員がここまでで集めた情報を基にそう決断を出した。その言葉にカシウスの表情は不快そうに歪んだ。ここ数日に及ぶ諜報員の増加。明らかに何かが起きている事の証拠であった。

 

「捕らえた諜報員は全てアルマ=グランに雇われたと言っていた。恐らくこいつもそうだろう。全く、交換留学を提案しておきながらこの動き。我らを舐めているのか?」

 

 元々交換留学には反対だった彼は統制AIによる決定故に従っているがこうなるのならばやめるべきだと考えていた。無論、既に生徒として活動しているアルマ=グランの生徒は処置を行ってこちらの戦力にするつもりである。外部の生徒など処置しなければまともな運用も出来ないとカシウスは考えているからである。

 

「気づかれないように周囲に包囲網を敷け。恐らく奴は北部の廃墟区を根城にしている可能性が高い。そちらに逃げ込まれないように封鎖せよ。まだ味方がいるかもしれない。奇襲には十分に気を付け、相手が何も出来ないうちに捕縛するのだ」

 

 誰が、何を、何の目的で諜報員を送ってきたのか、それを十分理解しているとは言え確信するための情報は多い方が良い。何より、アルマ=グランが雇った諜報員は基本的に外部の生徒達ばかりである。そういった者達は別で使い道がある。駒は多い方が良いと考えての命令だった。

 

 しかし、カシウスも、カヨコすらもまだ知らなかった。カシウスのこの命令によってヴァルグレア自治区は未曾有の大混乱に陥り、便利屋68がヴァルグレア統制学院に命を狙われる事となるとある大事件が引き起こされる事になるなど予想もしていないのだった。

 

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