硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『統制の為に統制の為に統制の為に統制の為に統制の為に統制の為に統制の為に統制の為に』


Code20.

 カヨコたち便利屋68の逃亡を許した日の夜。カシウス・レンクロフトは怒りの感情を内心に秘めながら部下の報告を聞いていた。

 

「確認できました。彼女たちは便利屋68と名乗る自称企業のようです」

「自称、だと?」

「はい。彼女たちはゲヘナ学園の生徒ですが彼の学校において起業は許されていないので自称という事になっています。ですので一般的な部活動と変わらないですね」

 

 ゲヘナ学園らしい自由奔放さだとカシウスは内心でこき下ろした。ヴァルグレア統制学院の対極にいると言っても良いゲヘナ学園。自由と混沌さではキヴォトスでも屈指と言え、キヴォトス全体でも見ても危険な奴らは大体がゲヘナ出身である程だ。

 

「社長として1年の陸八魔アル、係長に同じく1年の浅黄ムツキ。課長として2年生の鬼方カヨコが在籍しています。依頼によっては傭兵を雇う事もあるようですが今回の事を考えればこの3人のみの潜入と思われます」

「たかが3人……。そいつらにいいようにされたわけだな」

 

 カシウスは思いだす。投入したいくつものドローンを撃ち落とされ、煙幕でかく乱され、ついに逃がすこととなってしまった事を。

 

「統制AIは今回の事を重く受け止めている。奴らの実力は高く、当時の戦力では対処不可能と判断された為に私に責任は追及されなかった。だが、失望させることとなったのは事実だ」

 

 統制AIヴァルグレアに報告したカシウスは自らが“処分”される覚悟でその沙汰を待ったがヴァルグレアは予想外にも“お咎めなし”と判断したのだ。AIによる大量の情報精査によってカシウスが情報なしで対処できたとは思えず、相手の実力も想定以上と判断した結果だった。

 だが、当然カシウスは今回の失態を恥と考え、明日から始まる大規模捜索の指揮を完璧に勤め上げ、雪辱を晴らす気でいた。

 

「奴らの想定は3人でグラディス・ヤーグナーと同格とする。待機している処置官及び生徒の中でも実力のある者を招集せよ」

「かしこまりました」

 

 たった3人に対する人員とは思えない程だがヴァルグレア最強と言われるグラディス・ヤーグナーと3人で同格ならば妥当と言える戦力だろう。むしろ3人である以上柔軟性は向こうの方が上だろう。

 

「なんとしてでも奴らを捕えるのだ……! たとえできなくとも確実に“処分”するぞ」

「了解しました」

 

 こうして、便利屋68を逃がさない準備は着々と進められていく。カシウスの雪辱を晴らすため、ヴァルグレアという聖域に侵入した異物を処分するために。

 

 

 

 

 

「便利屋68?」

「はい。どうやらかなりの手練れのようで想定としては3人でグラディス・ヤーグナー教官と同レベルと判断しているようです」

「それは……なんとも……」

 

 ヴァルグレアの処置官であるアマリア・エーレンベルクは補佐官を務める統制児1013号の言葉に驚きを隠せなかった。3人でとはいえヴァルグレア最強にして英雄たるグラディス・ヤーグナーと同等の存在が自治区内に侵入している。その事実はアマリアの表情を崩させるには十分すぎたのだ。

 

「グラディス・ヤーグナー殿と同レベルの存在がまた現れるとは……。近年は何かに導かれるかのように強者が多くあらわれるな」

 

 現在、ヴァルグレアが把握しているグラディス・ヤーグナーと同格の生徒は以下のとおりである。

 

 先ずはアビドス高等学校の小鳥遊ホシノ。彼女の実力は言わずもがなであり、ヴァルグレアをアビドスに近寄らせなくした最大の障壁である。最近でこそ新入生が入ったがそれまでは約1年近くもの間一人で学校を守ってきたことからもその事実をうかがえる。

 

 次にゲヘナ風紀委員会の空埼ヒナ。今年より急速に頭角を現してきている新進気鋭の逸材であり、将来的には小鳥遊ホシノと共にグラディス・ヤーグナーと同レベル或いはそれを凌駕する可能性すらあると言わしめた存在だ。彼女が頭角を現して以降ゲヘナの治安は目に見えて改善しつつあり、ゲヘナは漸く一つの学校としてみる事が出来るようになってきていた。

 

 続いてミレニアムサイエンススクールの美甘ネル。表向きはメイド部の部長として実体のない部活動をしているが裏の顔は凄腕のエージェントであり、彼女が受けた依頼の達成率は脅威の100%。接近戦においてはグラディス・ヤーグナーを凌ぐと言われており、ヴァルグレア統制学院内部にて徒手格闘戦の教育レベルの上昇の直接の原因となった人物であった。更に言えば彼女が依頼で入った場所は爆破される運命にあり、被害額はかなりのものに及ぶことが想定されている。

 

 最後にトリニティ総合学園の剣先ツルギ。正義実現委員会という向こうの風紀委員会に属しており、その狂気的な言動と表情通りの恐ろしい戦闘力を持っているが最大の特徴が戦闘では冷静に行動することが多々あり、考え無しのバーサーカーではないという事である。彼女と相対する場合には彼女以上の冷静な心が必要とされている。

 

 他にも候補はいくつかいるが現時点ではこの4人がグラディス・ヤーグナー級の実力者であると考えられている。そんな中で突如として現れた新たな実力者。総指揮を執るカシウス・レンクロフトの慎重さにもうなずけるというものである。

 

「この作戦にはアマリア処置官の参加が義務となっております。作戦は後8時間後には開始されますが相手の出方次第で作戦開始時刻は無制限に早まりますのでどうぞ作戦エリアに急ぎ向かってください」

「了解した。そういう事なら直ぐに準備を整えよう」

 

 アマリアは予定していた図書館での読書の予定を破棄し、即座に自室に戻っていく。彼女の脳内では今後の綿密な動きが計算され始めており、冷静に、冷酷に物事の対応に当たるようにしていた。

 

「(……ゲヘナ学園)」

 

 ふと、アマリアは便利屋68が属しているゲヘナ学園について考える。ヴァルグレア統制学院とは対極に位置する学園であり、雷帝という最悪な存在の統治時代を除き、自由と混沌が校風のいかれた学園であった。学校教育においてもゲヘナ学園は“統制からも秩序からも最もかけ離れたこの世の地獄”、“彼の学園にいるだけで汚染され、統制された秩序を理解できなくなる汚染区域である”、“一人一人の処置は不可能故に実行する場合は自治区全土を滅却処分するつもりで大規模攻撃を仕掛けるしかない”等その酷さを何度も教えていた。

 

「……」

 

 アマリアにとっては忌むべき存在であり、その生徒である以上いつも以上に心掛けて戦う必要がある相手ではあるのだが、アマリアの心には一瞬だが、“羨ましい”という感情が生まれていた。それは直ぐに消えて本人にすら自覚はなかったが冷酷無比なアマリア・エーレンベルクという存在が変わるきっかけの一つとして彼女の心の中に残り続けるのだった。

 




そう言えば水着セイアのガチャ引いたらムツキが引けました。これで便利屋68一応揃いました。ついでにセイアも引けました。
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