硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『殺してやるぞ陸八魔アル』


Code22.

 便利屋68の実力。決して侮っていたわけではないが想像以上の粘り強さを持っていたとアマリア・エーレンベルクは自身の認識の甘さを痛感していた。

 カシウス・レンクロフトより前線指揮官の役職を与えられた彼女は周辺の処置官約100人の指揮権が与えられていた。彼女は基本通りの陣形を組み、便利屋68を数による圧殺を行おうとした。

 しかし、結果を見れば彼女たちはまるで意にも返さないと言わんばかりに戦いを続けている。この場について約30分。与えられた兵の半数は地に伏せ、周辺の建物が崩れて瓦礫が散らばっている。それらを巧みに生かして便利屋68は戦場を縦横無尽に駆け抜け、時には遮蔽物として、時には奇襲の為の隠れ場として利用して処置官たちを次々と倒していた。

 グレネードランチャー隊による砲撃は最初のうちに狙撃でやられ、建物の狙撃班は建物を爆破される事で無力化された。

 

「(だが確実に相手は追い詰められている)」

 

 アマリアがはるか後方より眺める前線の様子には傷つき倒れる寸前の便利屋68がいた。銃弾が当たったくらいでは死なないキヴォトス人でも何発も喰らえば痛みでもだえ、最悪の場合は失神や死に至る。ヴァルグレアのように痛みにすら反応を見せない生徒ならばまだしも彼女たちのような存在が痛みに耐えて戦えている状況をアマリアは理解できなかった。

 

「(逃げるわけでもない。この場を離れるわけでもない。何かを待っている? 味方がいる? そんなはずはない。既に周囲は完全に包囲しており、誰も駆け付けることは出来ない。

それに、何故あそこまで傷付き戦う事が出来るのだ? 奴らは我らとは違う。痛みで全てを鈍らせる者達だ。なのになぜあそこまで戦えるのだ……)」

 

 アマリアには便利屋68が異質なものに見えてしょうがなかった。そして、それと同時に興味を持った。彼女たちの原動力を知りたくなったのだ。

 

「(……出来れば死ぬ前に、“処置”が行われる前に話を聞いてみたい)」

 

 アマリアは初めて感じた明確な“疑問”を大事にした。それは本来ヴァルグレアにとってはよろしくない事だったがアマリアはそんな事も忘れて便利屋68を処分する対象から捕獲する対象として切り替え、戦術を変えた。

 

「弾薬を電撃弾に切り替えよ。切り替えは班ごとに行い、それ以外の班は援護せよ」

 

 どちらにせよこれ以上は実弾を用いるにはいい状況ではない。状況次第では一撃で気絶させる事が出来る電流が走る弾薬の使用を決め、それを命じた。幸いにもこの命令は様子を見ているカシウス・レンクロフトや統制AIも賛同し、彼女の突然の命令が疑われる事はなかったのだった。

 

 

 

 

「くっ! 社長! そろそろ限界……!」

「アルちゃーん! まだぁっ!?」

「あと少し、あと少しだけ耐えて頂戴!」

 

 ゲート前の十字路。そこから少しそれた位置で絶望的な防衛線を繰り広げている便利屋68は全員が傷だらけであった。最初に奇襲を仕掛けた時よりも手ごわい相手によってアル達も苦戦を強いられていたのだ。それでもここまで戦えていたのは彼女たちの実力の高さによってだった。彼女達でなければここまで粘る事は難しかっただろう。

 

「……よし! 開いたわ! 準備OKよ!」

「了解! それじゃ戦っている最中にもらった爆弾を全部使っちゃうよ!」

 

 アルの言葉にムツキが最初に反応を示した。彼女は戦いの最中で倒した処置官から奪い取った手りゅう弾を一斉に四方に投擲した。それらは便利屋68の回りで爆発を起こし、一時的に爆発の壁をヴァルグレアと便利屋68の間に作り上げたのだ。更にそのせいで建物が崩れ、彼女たちの頭上に瓦礫の雨を降らせた。

 

「そしておまけのこれ!」

 

 爆発とほぼ同時、ムツキは逃走時に使用するはずだった煙幕弾を自分たちの回りで爆発させた。真っ白の煙が彼女たちを包み込む。そんな煙を割くように瓦礫が落ちてきて爆発の壁と同時に処置官を近寄らせない防壁として機能した。

 

「……? 何を考えている?」

 

 その行動の意味をアマリアは理解できなかった。建物は半壊したがだからと言ってそこから逃げられる程甘くはない。既に建物やその付近にも処置官が展開している。例えそこを突破したとしても何かしらの報告が入るはずだ。しかし、アマリアの通信機にそのような報告は入ってこない。つまり、まだ煙の中にいるという事だ。

 

「……煙が収まり次第突入せよ。敵はここまで爆弾を用いている。使い切ったと思うが念のために警戒して進め」

 

 結果、アマリアは安全策を取った。下手に今突撃するわけではなく、煙が晴れるまで敵の身動きを封じる事にしたのだ。幸い、煙幕はそこまで持続する物ではなく、30秒もすれば薄まりつつあった。

 

「突撃せよ」

 

 これなら大丈夫だとアマリアは便利屋68との戦いに終止符を打つべく部隊を動かし始めた。敵からの発砲を警戒しつつ進む処置官だが両者が発砲する事はなかった。

 

『こちらA班。敵の姿が見えません』

『D班です。反対側に展開していたO班と合流しました。敵の確認できません』

『敵発け……。いえ、味方でした』

 

 通信機に入るのは無感情のはずの処置官たちでさえ困惑してしまう程の敵が見つからない事の報告だった。アマリアは驚愕する事しか出来なかった。先程まで煙にいたはずの敵が、便利屋68がいない。

 

「……瓦礫の下敷きになっている可能性もある。入念に調べよ」

『……こちらB班。それらしき姿が見えません』

『H班です。瓦礫に潰された味方を発見ししました』

『O班ですが瓦礫の下に血痕すらありません』

「……何だと?」

 

 何が起こっているというのか。それはアマリアにも処置官たちにも分からなかったがただ一つ言える事があった。

 

「(私たちはここまでの戦力、被害を出してなおたった3人を捕える事が出来なかったというのか……!!)」

 

 アマリアが、ヴァルグレアが初めてとも言える明確な敗北をしたという事実であった。そのような事実を受け入れられるはずがない。自然と血が出る程の強さで拳を握りしめたアマリアは捜索範囲を広げて便利屋68の行方を追った。自らも参加し、建物内部の、家具の内部や裏側さえひっくり返す勢いで始まった捜索は日が昇りきり、統制AIが作戦終了を言い渡すまで続けられる事になったのだった。

 彼女たちが通った道が瓦礫の下に埋もれている事に気づく事なく……。

 

 

 

 

 

「……いやぁ、運良く逃げられてよかったよねぇ……」

 

 浅黄ムツキは全身が汚れ切った姿でそう呟いた。その言葉にうなずくアルとカヨコも同様の姿をしている。

 彼女たちがいるのはアルマ=グラン農業高等学校の一角。そこにあるマンホールから出てきた所だった。下水で汚れ、吐き気を催す程の悪臭の中を無心で突き進んできた彼女たちは道行く人々が目を細め不快そうに近寄らない程度には酷い匂いを出していた。まだホームレス生活をしている者達の方がマシな臭いをしているだろう。

 

「社長があの時マンホールを見つけていなかったらどうなっていたか……」

「少なくともこんな匂いに悩まされる事はない代わりにこんな軽口も叩けない状態になっていたと思うよ」

 

 匂いのせいかいつも以上に口が重い。ムツキでさえ笑顔を浮かべる事はない。

 

「とにかく、依頼主に報告しましょう。それで少しでも遠くに逃げるのよ!」

「さんせー。多分だけど血眼になって探そうとするんじゃない?」

「少なくともヴァルグレアの怒りをかった事は確かだろうね」

 

 3人は今回の依頼によるあまりにもでかい代償にげんなりとしつつも命が助かったことを喜び、依頼主の元まで向かっていくのだった。

 

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