ヴァルグレア統制学院の周辺にある学校においてその恐ろしさを知らない学校は存在しない。そういった学校は既にヴァルグレアの“侵攻と占領”を受けているのだから。
唯一占領を免れているのは赫灼高等女学園だが彼の学園も赫灼戦役によって学園としての機能が残っていない状態だった。
当然ながらこういったヴァルグレアの動きに対して他校が動かないはずがなかった。しかし、最近まで連邦生徒会は頼る先としては最悪としか言いようがない状況にあり、抑止力としても機能はしていなかった。
だが、最近になってようやく連邦生徒会も改革が進み、現生徒会長の代にはキヴォトスを統治する機関に相応しい状態にまで何とか立ち直る事が出来た。
それ故にヴァルグレア統制学院は赫灼戦役を最後に他自治区への戦争とも取れる干渉が出来なくなった。とはいえ連邦生徒会も侵攻を阻止するだけで精一杯であり、ヴァルグレアが占領している自治区を“分校”という扱いでその統治を認めざるを得ない状態になった。
ヴァルグレアによる勢力拡大は阻止されたが奪い取った力は取り戻せなかった事が連邦生徒会の限界であり、彼女達ではそれ以上踏み込む事が出来なかった。
それでもヴァルグレアの脅威が極限にまで排除されたという事実は周辺校にとって吉報以外の何物でもなかった。自治区は広いが保有する戦力は無に等しいアルマ=グラン農業高等学校や武装中立を掲げつつもヴァルグレアと直接自治区が接する事で気が気ではなかったエーデルヴァルト中立学園、無政府状態の赫灼高等女学園等の学校は胸をなでおろし、連邦生徒会を評価するようになった。
「キヴォトスの中心地であるD.Uから遠く離れたこの地も見捨てられていたわけではなかった」
アルマ=グラン農業高等学校の新たな生徒会長はいつもの会議においてそう零したという。
「ヴァルグレアはこれを機に落ち着いてくれればいいのだが……」
そう願う他校の生徒達の思いとは裏腹に、ヴァルグレア統制学院は“その日”に備えて力を蓄えていた。
鋼鉄の空に 理(ことわり)刻む
統制の旗 我らの誓い
逸脱を討ちて 軌道を守れ
光なき時代(とき)に 正義を打ち立てん!
進め 我らは制裁の刃
ヴァルグレア ヴァルグレア 栄光の地よ!
脈打つ命 研ぎ澄ませ
沈黙の中に 秩序は在り
心を削り 意志を鍛え
千の報復 万の誓約(ちかい)と化せ!
倒れし同志(とも)よ 見よ我らが進軍
ヴァルグレア ヴァルグレア 運命(さだめ)を貫け!
雷鳴の如く 叫べ、秩序を
一糸の乱れなき 統制の槍
逸れた者に 未来はない
ただ、共に征く者に喝采を!
研げ、意志を 砕け、自由を
ヴァルグレア ヴァルグレア 理想の頂(いただき)へ!
進め! 進め! 進め、統制の子らよ!
叫べ! 叫べ! 統制の名を!
ヴァルグレア! ヴァルグレア! 永劫(えいごう)の誓い!
正しき者よ この地に集え!
重低音のドラムや様々な楽器と共にヴァルグレア統制学院を称える校歌が集まった生徒たちによって歌われる。聞く者が聞けば軍歌と間違えそうな程勇ましいそれはまさにヴァルグレア統制学院に相応しい校歌だった。
校歌が歌い終わり、生徒たちの前方に設置された壇上に一人の男が昇る。その男は壇上に立つと静かに話を始めた。
「……我らの下に、一つの知らせが届いた。既に諸君らも知っているだろうが改めて言おう。
連邦生徒会は先週、我々ヴァルグレア統制学院が治安維持のために管理している他校自治区に対し、「ヴァルグレア統制学院の分校としての運営ならば容認する」と決議した」
そこまで言うとカシウスは一拍置き、演説を続ける。
「……諸君。これはどういう意味か、分かるか?
彼らは、かつて我々を「侵略者」と呼び、非難し、今すぐに退去せよと命じた。時には武力を用いて奪い取ろうとしたこともあった。
だが今や、自らの手で“その支配”を正式に認めたのだ。
我々の統制を、連邦生徒会は正義と認めたのだ」
カシウスは今度は周りを見回しながら演説を続ける。
「平和のために、血を流したのは誰か?
治安を維持し、飢えを防ぎ、暴徒を鎮圧し、戦火を止めたのは誰だったか?
矛盾と怠慢に塗れ、腐敗が進んだ連邦生徒会ではない。
口だけ出す奴等ではない」
演説の声は高まり、それを生徒たちは黙って聞く。
「我々だ。ヴァルグレア統制学院こそが、混乱したこの地に“秩序”を執行出来た唯一の存在である。
そして今、敵すら我々の正しさを否定できなくなった。理想を捨て、秩序を認めた。敗者が“我らの統制”を認めざるを得なくなったのだ!
これは妥協ではない! 勝利である!」
カシウスは本来ヴァルグレアでは許されない感情を多分に用いて演説に熱を込めていく。
「正義は我々にある! 統制こそが唯一の答えであり、迷える生徒たちに与えるべき未来である!
混沌の火をくぐり抜け、唯一、秩序を打ち立てた者たちこそ、道を示す権利がある!
これが、我々ヴァルグレア統制学院の理念である!」
カシウスはクライマックスとして最大限の声を張り上げる。その目は血走り、見る者、聞く者の心に入り込むそれは生徒たちの心を虜にしていた。
「立て、生徒達よ! 我らに続け!
我らは制する側であり、導く者である! 膝を屈した彼らに代わって、未来を決めるのは我々だ!
自由は混乱を、秩序は繁栄を産む! 我らは秩序を作り者、その先兵である!
さぁ! 今こそヴァルグレアの旗を高く掲げよ! 我らの正義に喝采を上げるのだ!」
「「「「「ヴァルグレア! ヴァルグレア! ヴァルグレア!」」」」」
カシウスの演説に応えるように生徒たちは声を張り上げてヴァルグレアの名を叫び続ける。そんな彼らを占領されている自治区の代表者たちが苦い顔で見ていた。彼女たちにとってこれから行われるのは無条件降伏と同じでしかない調印式であるのだから。
全ての権利と生徒をヴァルグレア統制学院に明け渡す。彼女たちの学校は歴史からも抹消され、ヴァルグレアに占領された名もなき学校として扱われる事になる。それを実行する書面に調印する彼女たちは処刑を待つ死刑囚と何ら変わらない心持であった。
連邦生徒会による発表より一週間後、ヴァルグレアに占領された学校の代表者との間で調印が行われ、名実ともに彼らは学校を失う事になったのだった。
そして、これがヴァルグレア統制学院による“最後の対外戦果”として後の歴史に刻まれる事になるのだった。
そして、彼らは表面上は大人しく時が流れるのを待ち、“その時”が来るのをただひたすらに待つこととなった。
だが、彼らが待ち望んだ“その時”は1年も経たずに訪れる事になる。
-連邦生徒会長失踪
-独立連邦捜査部S.C.H.A.L.E設立
-S.C.H.A.L.Eの担当顧問としてキヴォトス外部より“先生”を招集
ヴァルグレア統制学院にもこれらの情報は入り、“その時”が来たと判断した。
「自由は混乱を、秩序は繁栄を産む。我らは秩序を作り者、その先兵である。
今こそ我らヴァルグレア統制学院の力を再びキヴォトスに知らしめる時である」
キヴォトス最悪の学校、ヴァルグレア統制学院はこれらの情報の発表と同時に密かに動き出すのだった。
第一章 完
暫く更新を停止します。第二章以降に関してはある程度書き上げてから投稿する予定です。
第二章から原作に入っていきます。