硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『反逆は即ち、存在の否定である』


第二章【アビドス戦役】
Code26.


 この日、キヴォトスは未曾有の混乱に陥った。キヴォトスのトップである連邦生徒会の生徒会長が失踪していた事が判明したからだ。

 これによりキヴォトスの犯罪率は急上昇し、違法な武器の流通が異常な程上昇していた。これに本来なら連邦生徒会が対応するべきなのだが全ての権限を担っている生徒会長の失踪によりそれもままならず、混乱は益々悪化する一方であった。

 

「野砲部隊撃てぇ! 敵をこれ以上進ませるな!」

 

 その余波は遠く離れたヴァルグレア自治区も影響を受けており、ヴァルグレアは不良生徒の侵入を受けていた。更に分校となった各地の抵抗勢力の生き残りがこの動きに呼応。各分校は自治区としての機能を喪失し、ヴァルグレアは一時的に分校全ての土地を奪われる事態になっていた。

 更に北方では赫灼高等女学園の一部生徒が4年前の報復と称して侵攻を開始。ようやく完成したばかりの防護壁を突破しようと試みていた。

 

「奴らにかまっている暇はない! 全て“処分”で構わない! とにかく敵の数を減らすのだ!」

 

 しかし、それも最初のうちだけであった。北方の指揮にカシウス・レンクロフトがつくとその過激な攻撃で徹底的に叩き潰し始めたのである。元々赫灼戦役以降まともな復興も出来ていない敗残兵の如き彼女達はカシウスが指揮する部隊を突破する事が出来ず、全滅の憂き目にあっていた。

 

「こちら側は数が少ない故に我らのような新米が多く配置されている。だが奴等と我らの実力差は歴然だ。訓練通りに敵を叩きつぶせ」

 

 西側では進級と同時に処置官に就任したリディア・ヴァイスロートが同じく新人たちを指揮し、最も数が少ない西側の防衛と分校の奪還作戦を行っていた。冷酷な処置官として成長した彼女の前に抵抗者達は次々と倒れていき、最初に鎮圧を終える事に成功した。

 

「あはははははっ!!!! 皆しね! しんじゃえ!!!」

「ヴィオラの回りには行かないように巻き添えで焼き死にますよ」

「ラーナ。お前は引き続きヴィオラの手綱を握っていろ。残りは私に続け」

 

 そして、最大の激戦地である東側ではアマリア・エーレンベルク率いる大規模な処置官部隊が一進一退の攻防を繰り広げていた。ヴィオラ・アイゼンシュタインがその狂った思考のままに暴れまわり、それに驚き、動きが鈍った敵を冷酷に倒していく。回り込もうと処置官を倒した者達もアマリアの冷静な指揮により返り討ちに遭っていく。

 

「敵の捕縛は命令に含まれていない。我らはあらゆる兵器の使用が許可されている。敵の司令部と思われる周囲にクラスター爆弾を投下せよ。市民への被害は気にするな。敵の確実な殲滅だけを考えよ」

 

 アマリアは更に後方への無差別爆撃を実施。分校の市民への被害を一切考慮しない爆撃は抵抗勢力の指揮系統を破壊し、組織だった行動を不可能にしていた。

 

「エーレンベルク処置官殿! 一部敵勢力がサンクトヴァリエの者の可能性が浮上しました!」

「ならばその勢力圏への逃亡を防ぐために焼夷弾で道を封鎖せよ」

「了解しました!」

 

 アマリアは他の者達と違い敵対者を徹底的につぶす方向で指揮を執っていた。冷酷かつ淡々と行われる身の毛もよだつ命令がヴァルグレア内を飛び交っていく。

 

「アマリア……! なんで……!」

 

 その命令を聞いていたアレクシア・フェルステンベルクは驚愕に顔をゆがめた。いくら武器の無制限使用が許可されていたとはいえここまでやるなど信じられなかったのだ。そうして彼女が硬直している間に事態は進んでいく。

 分校がある自治区の半数が炎に包まれ、逃げ場は無くなっていた。逃げ遅れた市民は炎に焼かれ、ヴァルグレアに牙をむいた生徒や不良は処置官たちの銃弾に倒れていく。煙が立ち込め呼吸が出来なくなっていく中をガスマスクを着け、耐火仕様の防護服に身を包んだ処置官たちが生き残った“敵を処分していく”。アレクシアの目に映る光景は地獄が広がっていた。

 

「うっ……!」

 

 思わず吐き気を覚えその場に蹲る。耳につけたイヤホンよりAI音声でガスマスクの装着をするようにと命令が入るがそんなことに気を留める事が出来ず、胃の中の物を全て吐き出し続けた。

 

「なんで……、こんな……」

『フェルステンベルク処置官。直ちに命令を実行せよ。ガスマスクを装着し、“掃討戦”を実行せよ』

 

 アレクシアの耳にAIの音声が届く。最早敵は敵らしい行動をとる事も出来なくなり、逃げ惑っていた。炎に焼かれた人々の悲鳴があちこちから聞こえてくる。その悲鳴も処置官たちの容赦ない銃撃で一つまた一つと消えていき、やがてアレクシアの耳には炎によって建物が焼ける音だけが響き渡っていた。

 

『“掃討戦”の完了を宣言する。全処置官は指定された地区に集合し、自治区に帰還せよ。集合しない者に関しては“逸脱者”と判断し、処置の対象となる』

「は、はは。もう、終わったんだ……」

 

 気づけば“敵はいなくなっていた”。それを理解したアレクシアは何かが心の中で砕け散るのを感じながら仲間たちの下に集合していくのだった。

 

 

 

 

 

 ヴァルグレアの混乱は大規模なものに発展したがそれも2日で収束した。その過程で大量の犠牲者を出すこととなったがそのことを批判する者はいなかった。この状況で批判する事がヴァルグレアにどのような行動を指せるのかを理解させられたからだ。連邦生徒会が機能不全に陥り、頼りにならない以上周辺の学校に出来るのは自分たちにその力が及ばない事を祈り、身を震わせる事だけだった。

 

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