「どういうことですか!」
連邦生徒会、統括室主席行政官にして生徒会長が失踪した現在においてその代行として手腕を振るっている七神リンは目の前に移るモニターの人物に声を張り上げて尋ねた。その表情は怒りで歪んでおり、目の前の人物に対して相当怒り狂っている事が分かる。
だが、そんな彼女の怒りを受けてなお、モニターに映る人物、リヒト・エーレンベルクは温厚な笑みを浮かべてその怒りを軽く受け流している。
『こちらとしても驚いているのですよ。まさか“不良生徒たち”が“放火をしてくる”とは思いませんでした』
「……」
白々しい。それがリンがリヒトの言葉を受けて思った感想だった。リンもヴァルグレアで発生した大規模な抗争は把握している。それにより、多大な犠牲者を出した事も。ただ、それに関する調査も対処も今の連邦生徒会には出来なかった。
連邦生徒会の本部であるサンクトゥムタワーは生徒会長の失踪により制御権を失っている状態にあった。様々な方法を用いて奪還を目指している者の、成果はなく、連邦生徒会は何も出来ない状態にあった。故に、リンはリヒトの言葉を否定し、処罰を与えるための力がなかったのだ。
『ですがご安心ください。不良生徒は我々の手で鎮圧しました。連邦生徒会の手を煩わせるような事態には発展していませんよ』
「……我々としても今回の件は見過ごせないと考えています。そちらでとらえている不良生徒の引き渡しを要求します」
そんなことが出来るはずがないとはリンも理解していた。何しろ、ヴァルグレアの行った鎮圧により不良生徒は一人残らず消え去ったのだから。
『ほう? 今の連邦生徒会にそんな事が出来るとは思えませんが?』
「っ!」
『噂によると連邦生徒会の生徒会長が失踪したというではありませんか。確か連邦生徒会の本部であるサンクトゥムタワーでの政策は生徒会長がいないと出来なかったはずではないですかな?』
「……」
『我々にかまう暇があるのなら自分たちの問題解決を優先するべきだと思いますが……。間違っておりますかな?』
あくまで融和な笑みを崩さないリヒトにリンはついに何も言えなくなってしまった。数日以内に生徒会長が派遣する“とある人物”が来るとは言えそれまでは連邦生徒会は名ばかりの存在である事に変わりはないのだ。
『そもそも、ヴァルグレアに対して介入する事は禁止すると決定したのはそちらですよね? 歴代の連邦生徒会が定めた事柄を貴方個人の裁量で犯してはいけないと思うのですが?』
「それは……!」
確かに連邦生徒会はヴァルグレアに対して介入するような事はしないと決定しているがそれは腐敗が進み、名目上のキヴォトスの統治者であった時代にヴァルグレアが多少の支援の見返りとして結ばせたものだ。以降ヴァルグレアは他学園に侵攻、占領し、その勢力を伸ばすようになってしまった事は連邦生徒会の明確な失策だった。
現在ではそれを破棄するべく動いていたがその前に生徒会長が失踪してしまった為に破棄するに至っていなかったのだ。
『とはいえこちらとしても大切な市民や生徒を守れず、多くの犠牲者を出してしまった事に代わりはありません。今後はこのような事態が二度と起こらないように対策をしっかりと行いましょう。まぁ、キヴォトスのトップに位置する人物が何も言わずに疾走する等、普通は起こらないと思いますがね』
「……っ!!!!」
失笑交じりのその言葉にリンは思わず怒鳴り声を上げそうになるがここで言い返せば相手の思うつぼな上に相手の言っている事は事実であるために何も言う事が出来なかった。
『話はそれだけですかな? ならば私も忙しいのでこれにて失礼させてもらいますよ』
「……えぇ。忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました」
結局、リンはリヒトに今回の一件を追求する事はおろか逆に連邦生徒会の体たらくを突かれる形となってしまった。
リンは通信が切れ、真っ黒い画面だけが表示されるモニターを見てため息をつくと頭を抱えた。ここ暫くはまともに眠れておらず、現状の打開に時間を取られてしまっていた。
「ヴァルグレア……。このままではいけませんね」
今回の一件は連邦生徒会が隙を見せたことで発生した事だ。これまでは生徒会長の尽力でヴァルグレアの行動を抑える事に成功していたがそれが無くなった今、ヴァルグレアがどのような行動に出てもおかしくはなかった。かつてのように侵攻をするか、はたまたキヴォトスの支配を目指して連邦生徒会を攻撃するのか。
「会長。このような結果は見えていたはずです。何故ですか。何故、今この時に失踪してしまったのですか……」
リンは行方が分かっていない生徒会長に初めて、弱音を零した。最早リン一人ではどうしようもない現状に彼女はただただ深く息を吐くのだった。