硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

29 / 33
『制圧は完了するまで続く。それ以外は存在しない』


Code29.

「おい、あれ見ろよ……」

「あ? ……うわ、嘘だろ……」

「目ぇつけられたら嫌だし他行こうぜ」

 

 現在、キヴォトスにおいて最も治安が悪いと言われている場所、ブラックマーケット。学園自治区数個分にも及ぶ広大な土地には様々な悪徳企業が根を張り、犯罪の温床となっていた。

 連邦生徒会長失踪後はそれに拍車がかかっており、治安は最悪の一途をたどっていた。ここではヴァルキューレ警察学校とてまともに手を出せず、外から指をくわえてみている事しか出来なかった。

 しかし、そんな危険地帯において最近はある者たちがよく出入りを繰り返しており、様相が変わってきている。大通りで話をしていた不良達がそれを見て密かに逃げるくらいには厄介且つ危険な存在と認識されているそれは黒い制服と外套に身を包んだ複数人の生徒であった。

 

「……」

 

 その生徒、ヴァルグレア統制学院の処置官たちは何かを探すようにあたりを見回してはターゲットを求めて歩きだし、少ししたら周りを見渡す。まるで機械のセンサーの如き動きをし続ける彼女たちはこのブラックマーケットでも危険な存在と認識され、遠巻きにされていた。

 

 彼女たちがブラックマーケットに出没するようになったのは最近の事であり、当初はヴァルグレア自治区で最重要指名手配犯としてマークされている便利屋68がゲヘナ学園を追い出されるようにブラックマーケットに身を寄せたことが始まりだった。ゲヘナ学園ではまともな所在の確認すら出来なかったがブラックマーケットならば違う。そのために多数の処置官が派遣される事となり、予想通りにブラックマーケットの勢力と大騒動を起こしたのである。

 ヴァルグレアとはいえブラックマーケットは遠い場所に位置しており、まともな交流はカイザーコーポレーションくらいしかない。当然、舐められて突っかかってくる者もいたが処置官たちはそのような者達を容赦なく叩き潰し、時には“処置”を施すために連れていくほどだった。

 そのような行動をとっていれば複数の勢力に目をつけられて攻撃を受けるがそうなればヴァルグレアは大部隊を率いてブラックマーケットを襲撃。兵器の無制限使用こそされなかったがその戦闘は戦争と呼ぶに相応しい勢いにまで達し、連邦生徒会やヴァルキューレ警察学校が介入する事態にまで陥ったのだ。

 

 以降ブラックマーケットではヴァルグレアに対しては手を出してこない限り絶対にちょっかいをかけてはいけない存在として認知され、抗う術が乏しい者達は見つけ次第離れるのが鉄則となっていた。

 因みに、ヴァルグレアと戦闘した企業や勢力が軒並み崩壊、分裂、弱体化する一方でカイザーコーポレーションはなんだかんだで続いている不可侵条約によって手を出さず出されずで終わったために影響力を更に増大させる事に成功していた。

 

「……行ったみたいね」

 

 そんなわけで便利屋68はブラックマーケット内も安全ではなくなり、逃げ惑う日々を送る羽目になっていた。今年度に入り新しい入社した伊草ハルカと共にヴァルグレアから逃げる日々の内に彼女たちのステルス技術は高まっているのが唯一の利点だった。

 

「どうする社長? この調子だとまともな依頼も受けられないよ?」

「事務所なんて借りた暁には爆破されちゃうもんね」

「あああああの! 私が潰してきましょうか?」

「ハルカちゃんやめといた方が良いよ? 危険だから」

 

 この中で唯一ヴァルグレア自治区での大暴れを知らない伊草ハルカが何時もの調子で話すがそれをムツキが止める。その目はいつものお茶らけた雰囲気とは違い本気で言っている目であった。それだけ、ムツキ達にとってヴァルグレアはふざけてはいけない相手として認識していたのだ。

 実際、あれ以降もヴァルグレアの調査依頼を受ける事はあったがその全てを断っていた。前回は何とかなったとはいえ次も同様に上手くいくとは限らない。流石のアルもそれくらいの事は分かっており、絶対に依頼を受ける事はなかった。

 

「でも他の自治区に行くにしても何処に行けばいいのかしら……」

「まぁ、ヴァルグレアがある西側にはいかない方が良いよね。あっちは皆ヴァルグレアを恐れているから向かった暁には捕まって差し出されちゃうんじゃない?」

「まぁ、自治区に入れてもらえるかさえ怪しいと思うけど」

「うっ、そうね……」

 

 正直に言ってヴァルグレアのしつこさをアル達は完全に見誤っていた。最初の襲撃はゲヘナで借りていた事務所でくつろいでいた時だった。突如として砲撃を受けたのである。ドローンを用いた破城爆撃で事務所は呆気なく破壊され、慌てて逃げ出したところをヴァルグレアの処置官たちが銃撃を仕掛けてくる。もし、途中で風紀委員会が登場していなければ今頃便利屋68はこの世にいなかったかもしれない。

 それ以降もヴァルグレアはどうやってか便利屋68の居場所を把握し、襲撃を仕掛けてくる日々を繰り返した。そうしているうちに風紀委員会もヴァルグレアの処置官を見るだけで捕縛対象とするほどの危険人物として認識したらしく両者が争う様子がゲヘナではよく見られるようになっていた。

 そうした日々でゲヘナに居られなくなった彼女たちがブラックマーケットに逃れるとヴァルグレアの襲撃は過激になった。一時期は戦争状態とも言える程激しい銃撃戦があり、便利屋68はその中でつかの間の平穏を手に入れたがその後はブラックマーケットの勢力の中にヴァルグレアに情報を流す者が現れ始めたらしく、ヴァルグレアの襲撃頻度はより激しくなっていた。時には依頼中に襲撃に遭い、依頼自体をおじゃんにする事も多くなっていき、今では便利屋68に依頼を持ちかける者はほとんどいなくなっていた。いたとしても便利屋68が目当てではなく、彼女たちを襲撃するヴァルグレアの力を目当てにする者であり、良いように利用される状態になってしまっていた。

 

「はぁ、この調子じゃ前みたいに公園暮らしになった途端ヴァルグレアに袋叩きにされそうだね」

「うっ、何とかしてこの状況を打開しないと……」

「そのためにはヴァルグレアが私たちを追いかけられないような状況になればいいんだろうけど……」

「わ、私があいつらを爆破してきましょうか?」

 

 4人はうんうん頭をひねるが良い案は出てこなかった。結局、彼女たちは処置官たちに見つからないようにブラックマーケットをさ迷いながら現状の打開策を何とか考えていくことになるのだった。だが、それが為されるようになるのはまだまだ先の話となるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。