硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『“大人なら子供の責任を肩代わりしないとね”』


Code30.

「“ヴァルグレア?”」

「はい。正確にはヴァルグレア統制学院です」

 

 連邦生徒会長の失踪に端を発した混乱も失踪前にキヴォトスの外より呼んでいた大人、先生と呼ばれる人物によって収拾がついた。彼は現在DU郊外に建てられたS.C.H.A.L.Eと呼ばれる部活専用の建物で各学校からの窮状をさばいていたがそんな中で主席行政官である七神リンにとある学校の話を聞かされていた。

 

「先生はキヴォトスの学校及び生徒を救ってもらう為に来てもらっている事は重々承知しています。ですが、この学校に関しては近づく事をお勧めしません」

「“それは、どういう事かな?”」

 

 先生としてもそのような話をされて簡単に頷けるはずがない。彼の役目は生徒を導く事。それを一学園とはいえするなと言われては理由を尋ねたくなるのも仕方ないだろう。

 

「ヴァルグレア統制学院、彼の学校はとても危険な存在なのですよ。連邦生徒会としても何度も是正を試みているのですが徒労に終わっています」

「“どういった学校なのか詳しく教えてもらえる?”」

「勿論です」

 

 そう言ってリンは一枚の書類の束を差し出してくる。そこには「ヴァルグレア統制学院詳細」と書かれており、ヴァルグレア統制学院を示す資料である事を示していた。

 

「詳細はそこに記されている事で全てですが一応口頭でも伝えましょう。ヴァルグレア統制学院は元々治安が急速に悪化、拡大していた自治区の治安の安定化を目指して作られた武装組織でした。

しかし、当時の連邦生徒会は何を思ったのか指揮権をミレニアムサイエンススクールが開発した高性能AIに委ね、隊員は捕えた不良生徒を当てる事にしたのです。

……ええ、そんなものがまともな組織として運営されるはずがありません。結果としてAIは統制を名目に不良生徒達から感情を奪いました。そして、どんな命令も忠実にこなす機械のような兵士に変えていったのです。

ですがそのおかげで当初考えられていた期間の半分で鎮圧が完了しました。その後、鎮圧された土地はそのAI、統制AIヴァルグレアを頂点とするヴァルグレア統制学院として変貌させてしまったのです。連邦生徒会が気づき、事態の収拾を図ろうとした時には全てが手遅れでした。

ヴァルグレア統制学院は学校として運営を始めて以降周辺自治区に“侵略”しています。ヴァルグレア統制学院に占領された自治区は6つ。4年前には隣接する巨大学校だった赫灼高等女学園と事実上の戦争まで引き起こしています。

……それ以降は連邦生徒会長の尽力もあり、ヴァルグレア統制学院が自治区外に侵略をする事は無くなりました。ですが、連邦生徒会長がいなくなった今、どのような事をしてもおかしくはありません。現に彼らは連邦生徒会長失踪時に不良生徒が外部より流入し、更に占領地の抵抗する生徒達が襲撃を仕掛けた際にクラスター爆弾や焼夷弾を用いた殲滅を行っています。……残念ですが先生の考えは甘いです。殲滅はその名の通りのせん滅です。我々連邦生徒会長やヴァルキューレ警察学校、キヴォトスの治安維持を担っている学校の生徒は入る事を許されていない為に不明な点も多いですが確実に大量の死者を出しています。

特に被害が大きいのがイスミル高等学校、現在はヴァルグレア統制学院エトラージュ分校と呼ばれる学校の自治区です。大まかになりますが凡そ8割が更地と化し、半数以上の一般人が死んだと想定されています。実際にはもっと多いかもしれませんが我々ではこれ以上の事は分かりませんでした。

……今言った事はヴァルグレア統制学院が行ってきたことの一部でしかありません。彼らの行ってきたことはもっと多いはずですが我々ではこれ以上の情報を得る事が出来ませんでした。

ですので、先生。連邦生徒会長に呼ばれ、生徒を助けるために来た貴方には悪いですがヴァルグレア統制学院及びその生徒や関係者とかかわらないようにお願いします。我々連邦生徒会でも、かかわった結果、どんな結末を迎えてもおかしくはないと考えていますので」

 

 リンの長い話に先生は驚きで何も返す事が出来なかった。キヴォトスは数千もの学園が集まって出来た学園都市である以上そういった、“良からぬ学園”もあることは承知していた。覚悟もしていたつもりだった。しかし、リンの話を聞いて覚悟が足りなかったと感じざるを得なかった。

 例え先生が願ってもこれでは届く事はない可能性が高かった。

 

「“……リンちゃん。忠告ありがとうね。だけど、私は助けを求められたのなら例えヴァルグレアにでも向かうつもりだよ”」

「……先生の、その気持ちが空回りしない事を祈っています。ですが、ヴァルグレアに関わるのならばどうか気を付けて」

「“うん、そうするよ。ありがとうね”」

 

 先生は改めてリンにお礼を言う。ふと、窓の外に広がるDUの姿が映った。眼下に広がる光景はまさに発展した都市に相応しいものだがその裏ではいくつもの犯罪が多発している。

 

「“……これからは頑張らないといけないね”」

 

 先生は覚悟を改めてつけるように小さくそう呟きシャーレの業務へと戻っていくのだった。

 

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