アマリア・エーレンベルク率いる大部隊はアビドス高等学校の校舎に向けて進軍しつつ進軍経路の地域を“掃討”していた。とはいえ当初こそ奇襲を受けて大量の死者が出ていたがヴァルグレアの侵攻を聞いてその数は目に見えて減っていた。恐らく大半の市民はアビドスから逃げ出してしまっているだろう。……ヴァルグレアの侵攻を退けたとして、一体どれだけの市民が戻ってくるのだろうか?
「……」
アマリアが持つ指揮官用のタブレットにはドローンと戦闘ヘリ部隊によるアビドス校舎への奇襲報告が表示されていた。統制AIの子機である戦術指揮AIの手に掛かればこの程度の報告などリアルタイムで乗せる事が出来た。
報告によれば校庭に設置されたバリケードの破壊はほぼ完了したがアビドスの生徒が既に集合しており、それ以上の攻撃は迎撃にあってしまいうまくいっていないと書いてあった。アマリア達地上部隊がまだ校舎に辿り着いていない以上アビドス側は対空に専念できるために置きた抵抗だった。
「……時間の問題、だな」
『アマリア・エーレンベルク指揮官、早急にアビドス校舎に向かってください。市民への攻撃は後回しで構いません』
「了解した」
ドローンはともかく戦闘ヘリはコストが嵩む。出来るだけ破壊されるようなことは避けたいためかカシウス・レンクロフトは市街地への攻撃を後回しにしてアビドス校舎の占拠を優先させる事にした。これは戦術AIも推薦する内容であり、アマリアにそれに抗う意味はなかった。
「総員、駆け足。市街地への攻撃は停止し、アビドス校舎への攻撃を優先する」
受けた命令を部隊に通達したことで隊員たちの脚は校舎へと向かっていく。先頭を進むはリディア・ヴァイスロートであり、この中ではアマリアすら凌駕する戦闘能力を有している彼女が主戦力としてアビドス側の最大戦力である小鳥遊ホシノと戦う予定である。
ただ数を用意したのでは小鳥遊ホシノを倒しきれないという事はセイル=アインの一件や小鳥遊ホシノの経歴から見ても明らかであった。故に、高い戦闘能力を有するリディア・ヴァイスロートが相手をし、それ以外は補助や他の生徒の確保に動く予定であった。
小鳥遊ホシノだけは黒服との取引で必ず生きたまま確保しないといけないがそれ以外に関しては殺しても問題は無い。小鳥遊ホシノの神秘の強さから全てを破壊するレベルでの空爆すら想定されている。
「……小鳥遊ホシノ」
アマリアにとって彼女が何故ここまでアビドスに固執するのか理解が出来なかった。今でこそ生徒は5名だが2年前には彼女一人しか残っていない状況だったのだ。アビドス自治区も砂嵐や不良の流入、カイザーコーポレーションによる土地の接収が合わさり急速に衰退している。アビドスはまさに大穴が開いた泥船のような物なのだ。
そんな泥船は小鳥遊ホシノによって延命させられていると言える。彼女が船内に入り込む水を必死に取り除くことで船は沈まずにいられているのだ。普通ならば、そんなことはしない。異常なのだ。
「……だが、それも今日までだ」
小鳥遊ホシノの無駄なあがきは今日を持って終わるだろう。まもなくアビドスはヴァルグレア統制学院の占領下に入る。そうすれば次はカイザーコーポレーションとの争いが始まるが本社への奇襲作戦は既に計画され、実行寸前の状態になっている。カイザーコーポレーションがアビドスから撤退をしなければその計画は速やかに発動され、カイザーコーポレーションの脳と心臓を瞬く間に破壊するだろう。そうなればカイザーコーポレーションの制圧等簡単に行える。
アビドスの掌握などヴァルグレアからすればカイザーコーポレーションとの前哨戦に過ぎないのだ。それだけの戦力差が、両者には存在する。そして、それを覆すことが不可能な事は誰の目から見ても明らかだったのだ。
「シャーレの先生も黒服が抑えている」
唯一の懸念点である先生に関しては黒服が抑え込む手筈となっている。ヴァルグレアにとっては殺しても問題ない、むしろ今後の事を考えれば彼の指揮能力は厄介と言わざるを得ない為に殺すべき対象だが黒服はそれを望んでいない為に殺されたくなければ必死に抑え込むように言っていた。
彼の指揮能力が無ければアビドス等烏合の衆と変わりはない。物資不足だったとはいえヘルメット団という数だけの不良グループに押し切られそうになる者達だ。統制の名のもとに団結し、一つの生命体のように動く事が出来るヴァルグレアの処置官部隊が負けるはずがなかった。
「……そう、負けるはずがない。そのはずなのに……」
だが、アマリアだけは何故か分からないが簡単にはいかない気がしてならなかった。それはアビドスに負けてほしくないという“願望”も混じっているとはいえ直感にも似た何かがアマリアの脳内でうごめいていたのだ。
だが、それが何を意味しているのか? 何が足りないのかなどは今のアマリアには分からなかった。故に、彼女は感じる違和感を無視し、部隊と共にアビドス校舎へと向かっていくのだった。