硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『足掻く。最後まで』


Code39.

 砂狼シロコは目の前で起きている光景が信じられなかった。小鳥遊ホシノに拾われ、アビドスで暮らし始めて1年以上。最早見慣れた光景となった荒廃していくアビドスの姿は急速に崩壊に向かって進んでいた。

 

「っ!」

「シロコ先輩! 危ないですよ!」

 

 攻撃が止んだ隙をつき、瓦礫の裏から飛び出したシロコは後輩の静止の声も聴かずに上空に向かって発砲する。アサルトライフルより放たれた弾丸はまともに狙いをつけずに放たれたためにあらぬ方向へと飛んでいく。だが、それらの何割かは敵、ドローンに当たり爆発と共に撃墜する事に成功した。

 急いで別の瓦礫の裏に隠れたシロコへと銃弾が一斉に放たれる。鉄筋がむき出しになったコンクリートの塊はみるみるうちにその大きさを縮小させていくがその代わりにシロコに被弾することはなかった。

 

「ん。厄介」

 

 急いでリロードを行い次の攻撃チャンスを虎視眈々と狙う。先程の攻撃、シロコは別に狙っていたわけではない。何機か撃墜できたのはシロコの能力でも腕前でもなんでもない運だった。だが、それも当然といえるだろう。今、アビドス校舎の上空は“陽を覆い隠さんばかりの無数のドローン”が支配しているのだから。

 シロコたちがホシノの連絡によって急いで集合した直後に行われた空爆を受けて5人は校舎の内部に避難した。空からの攻撃では外にいては直ぐに特定されてしまうし、最初の空爆で校庭は更地と化していたのだから。

 そこからは5人によって対空戦闘が開始された。とはいえ実際に攻撃が出来るのはシロコ、ノノミ、セリカの3人だ。ホシノのショットガンは広範囲に銃弾をばら撒けるが射程が短く、アヤネは後方支援寄りで持っている銃もハンドガンの為に撃墜するには威力が低かった。

 しかし、これまで幾度となく行われてきた戦闘によって培われた実力はたった3人であるにもかかわらずヴァルグレアの航空部隊を圧倒していた。特に一番高火力である戦闘ヘリは優先的に狙い撃ちにしたために半数を撃墜し、残りを撤退に追い込む戦果を上げていた。

 

「もう! なんなのよ! この数は! カイザーの基地の時だってここまでじゃなかったわよ!」

 

 思わずと言ったようにセリカの怒号がシロコの耳に入る。シロコの位置からではセリカは見えないが声を出せるあたりまだ余裕がある事を示していた。

 最初こそ余裕があったシロコたちだが戦闘ヘリ部隊が全機撤退してから状況は一変した。ヴァルグレアは次に無人戦闘機の大編隊を投入したのである。ヴァルグレアを統括しているのがAIである為にAI技術に関してはミレニアムに匹敵する技術力を獲得していたヴァルグレアが作り出したこれらの無人戦闘機隊はエリートパイロット並みの腕前を持っており、アビドスを一時的に無力化することに成功したのである。

 無人戦闘機隊の攻撃が終わった後は戦闘ドローン部隊が大量に展開し、アビドス側の動きを制限したのである。最早シロコたちは瓦礫の裏に隠れていないと一瞬でやられる程の数のドローンが上空に展開し、常にシロコたちの動きを見張っていた。

 

「これは厄介……。アヤネ。先生と連絡は?」

「残念ですが未だに既読はつきません。それに、電波がすごく不安定で圏外になってしまう時もあります……」

「それもヴァルグレアの仕業という事? 本当に厄介……」

 

 電波妨害に大量のドローンによる制空能力。カイザーPMCとの戦闘がお遊びに感じる程ヴァルグレアの攻撃が容赦がなく、徹底されていた。シロコはこうなって初めて小鳥遊ホシノが常にヴァルグレアを警戒していた理由を知ることが出来た。

 その小鳥遊ホシノはシロコたちとは離れている。対空戦闘の為に校舎の上階に上がったシロコたちと別れてホシノだけはいずれやってくるだろう地上部隊を迎え撃つ準備の為に1階に留まっているせいである。

 

「っ! シロコ先輩! アヤネ! 聞こえる!?」

「はい! 聞こえます!」

 

 その時、セリカの声が聞こえてきた。セリカはノノミと共に行動しており、二人の視界には入らない位置にいた。

 

「ノノミ先輩が撃たれたわ! しかもすごくしびれているような感じで倒れたから気を付けて!」

「っ! ノノミは無事!?」

「意識はないけど無事よ! だけどこのままじゃ……!」

 

 ノノミが撃たれたと聞いて思わず焦ったシロコだが生きていると聞いてひとまず安堵するが状況は悪くなるばかりだった。校舎は半壊し、身を晒せば大量の銃弾が飛んでくる為に逃げる事も難しい。そして時間の経過とともに地上部隊が向かってくる。

 正直に言ってここから出来る事などたかが知れている。シロコのように少しでも敵を減らすために倒される覚悟を決めて反撃するかひたすら瓦礫の裏に隠れ、最後の時を迎えるか、無謀にも逃げ出して倒れるかのどれかしかない。

 

「ん。ホシノ先輩は大丈夫?」

「それは……。分かりません。こっちに来てから連絡は取れていませんので……」

 

 電波妨害されているうえにこの爆音が響く中では近くにいるはずのセリカ達との会話すら難しい状態にあった。それ故にかなりの距離があるホシノの様子を確認することは二人には出来なかったのだ。

 

「とにかくこの状況を何とか……っ!?」

「シロコ先輩? どうかしましたか?」

「……来た」

 

 シロコの真剣な声にアヤネはそれが何を意味しているのかを瞬時に理解した。そしてそれが状況を最悪なものにするものであるとも。もし、これが援軍ならシロコの表情は少しは柔らかいものになるはずだ。しかし、表情は険しくなっており、とてもいい報告ではないのだ。そうなれば“来た”の言葉が意味するのは一つしかない。

 

「っ! セリカちゃん! ヴァルグレアの地上部隊が到着しました! 気を付けてください!」

「うそでしょ!? これじゃまともに戦えないわよ!」

 

 悲鳴にも似たセリカの絶叫に同意しつつアヤネは瓦礫の隙間から外の様子をうかがう。相も変わらない無数のドローンの群れに気づかれないように気を付けながら眼下を見ればそこにはこちらに向かって隊列を組み、向かってくる一団の姿があった。

 軍服にも見える黒い制服を着こみ、統一された武装を持ち、眉一つ動かさない表情がない死神の如き存在。ヴァルグレア統制学院の処置官部隊がついに到着したのである。その数は目に見える範囲で100は軽く超えており、現状と合わさってとても戦えるとは思えなかった。

 

「これは……。どうすれば……」

「ん……」

 

 アヤネの絶望が混じった言葉にシロコも何と声をかければいいのか分からずに何も言えなかった。シロコとてこの状況は不味いと感じているがここまで封殺されていては逃げる事すらままならない。とてもじゃないが勝ち目は0と言わざるを得なかった。

 

「……」

 

 それでも、状況が好転することを祈ってシロコたちは戦う事しか出来ない。彼女たちに、アビドスを捨てて逃げるなどという選択肢は最初から存在しないのだから。

 

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