硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『一度の失敗も我らにはあり得ないものなのだ』


Code43.

「ホシノ、大丈夫かい?」

「う、うへー!? 先生!?」

 

 全てが終わり、病院へと運び込まれた小鳥遊ホシノは病室で先生の見舞いを受けていた。あの戦いより1週間が経過しているがギリギリまで戦い続けたホシノの肉体は大きく損耗しており、キヴォトス人でありながらこうして入院することとなっていたのだ。

 幸いにも目立った傷跡が残る事はなく、一月も安静にしていれば完治すると診断されており、話を聞きに来た先生を始めとするアビドス高校の生徒達は安堵のため息を吐いた。

 

「“アヤネ達に聞いたけど大分無理をしたんだってね”」

「……うん。今回ばかりは無理をしないとアビドスは守れなかったからね。おじさん、柄にもなく張り切っちゃったよ」

 

 うへへ、とベッドの上で笑い声を零すホシノに先生は少し悲し気な表情を向けた。自分がもっと気を付けれていれば……、と先生は悔しい気持ちを抱えるがそんな先生に対してホシノは言った。

 

「そんな顔しないでよ先生。先生が駆け付けてくれたおかげで助かったんだからさ」

「“ホシノ……”」

 

 実際、先生がヴァルキューレ警察学校の生徒を引き連れてこなければアビドスは今頃ヴァルグレアの占領下にあっただろう。今なお拡大するヴァルグレアの支配地域の様子を見れば少なくともアビドスにとって望ましい結末は迎える事は出来なかっただろう。

 

「それとSRTの人だっけ? ありがとうね」

「構いませんよ。先生を護衛するのが私達の任務ですので。先生が戦地に赴くと言うのなら可能な限りその要望に応えるだけですので」

 

 ホシノは改めてRABBIT小隊の隊長である月雪ミヤコに感謝の言葉を言った。RABBIT小隊は先生の指揮の元退却するヴァルグレアの処置官たちに打撃を与えており、主犯格であるカシウス・レンクロフトこそ取り逃がしているが数多くの処置官を捕縛する事に成功していた。

 その実力はまさに特殊部隊に相応しい活躍であり、気絶して直接見ていないホシノでさえ聞くだけでも彼女たちの練度の高さを理解する事が出来る程だった。

 

「ヴァルグレア側の前線指揮官であるアマリア・エーレンベルクは捕縛してアビドス高校付近の廃工場に押し込んでいます。暴動が起きた場合に連携されないように他の処置官たちとは離しています」

「そっか……。彼女がね」

 

 アマリア・エーレンベルクをホシノが見たのは今回が初めてであったがヴァルグレアの情報を集めていた為に彼女の事はよく知っていた。ヴァルグレアの理念を体現するかの如き冷酷な女性であり、ここ数年で頭角を現してきた悪魔。情報で得られたアマリアの人物はそのようであったが実際には違って見えていた。

 

「先生。アマリア・エーレンベルクと改めて話す事って出来る?」

「“ホシノ?”」

「少し、気になっている事があってね。……大丈夫だよ。別に戦うわけじゃないし、本当に話しをしたいだけだからさ」

 

 先生は一瞬だがホシノが彼女に対して報復を望んでいるのではと考えた。ホシノはそういう事があるのはこれまでの付き合いからでも判明しており、合わせる事は出来ないと言おうとしたがホシノの真剣な表情を見てそれは杞憂であると理解する事が出来た。今の彼女にアマリア・エーレンベルクをどうにかしようという意思はなく、言葉通り、ただ話がしたいという感情だけが読み取る事が出来ていた。

 しかし、だからと言ってホシノの要望をかなえる事は難しい。そもそもホシノは重症の身であり、まだ安静にしていないといけない身だ。ではアマリアを連れてくるかと言われればそういう訳にも行かない。仮にもここは病院であり、何かが起こってはいけない場所だった。

 

「“……アマリア・エーレンベルクは連邦生徒会の管轄で矯正局に収監される事が決定している。だけど、2週間くらいなら延期させる事が出来ると思う。そのころになればホシノも動けるくらいにはなっているだろうしそれでもいい?”」

「うん。ありがとう先生」

 

 ホシノは笑った。ヴァルグレアの脅威を退け、彼らの元では決して見る事の出来ない心の底からの笑顔だった。

 

 

 

 

 

「アマリア・エーレンベルクが捕まったらしいですね」

「らしいな。次世代の英雄ともあろう人物が情けない」

 

 ヴァルグレア自治区ではカシウス・レンクロフト率いるアビドス侵攻部隊の敗走は出回っていた。それもそのはずであり、今回の敗走は近年でも稀に見る敗北であったからだ。

 特に前線指揮官のアマリア・エーレンベルクが捕縛されるなどヴァルグレア始まって以来の出来事であった。あの大激戦であった赫灼戦役でさえ前線指揮官が敵に捕らえられることはなかったのだから。

 

「とはいえ今回に関しては殿を務めた事で捕縛されたらしい。情状酌量の余地はありだな」

「だがどちらにせよ救出するためにこうして“部隊編成が行われている”時点で失態である事に変わりはないな」

 

 そう言って二人の生徒が話す周りでは同じように整列して待機する10人の処置官の姿があった。そして、この場の全員がヴァルグレア内に置いて上位に位置する実力者で構成されていた。

 

「集まっているようだな」

 

 その時、一人の女性が彼女たちの前に姿を現した。燃えるような赤い髪を肩まで無造作に伸ばした女性はヴァルグレアでは珍しいを通り越して異端とも言える“好戦的な笑みを浮かべていた”。普通の住民や生徒であれば即座に処置が施されるような笑みであるが彼女が対象になる事はない。彼女はそんな異端な行為をしても許される実績と実力を有しているのだ。

 

「今回アマリア・エーレンベルク救出部隊を率いる事になったナディア・ヒッケルハイムだ。短い間だがよろしく頼むぞ」

 

 ナディア・ヒッケルハイム。それは現時点においてトップ5に位置する自治区内の実力者であった。どれほどの銃弾を浴びようと決して倒れる事なく戦い続けられるタフネスと臨機応変に的確な指示と行動をとれる指揮官の能力を兼ね備えた人物であり、指揮官としては最高の人物であった。

 

「今回の作戦目標は単純だ。アマリア・エーレンベルクを連れ戻す事。五体満足で、な。それ以外に目標は設定されていない。どんな手を使ってでも連れ戻せればいいのだ」

 

 それはつまりアマリア・エーレンベルクを統制AIヴァルグレアは失うには惜しい人材と考えている証であった。もし、これが全く必要のないような生徒であればそもそも救出作戦は立案されないし、不都合な事実を持っていたとしても行われるのは口封じだからだ。

 

「アマリア・エーレンベルクの現在地については一切不明。アビドス自治区からは出ていないようだがそれも時間の問題だろう。矯正局に入れられるような事になれば我々だけでは手出しは出来なくなる。その場合はヴァルグレアを総動員して連邦生徒会と戦争をする前提で動く事になるだろう」

 

 流石のヴァルグレアも連邦生徒会と事を起こすつもりは“まだ”ない。そうである以上矯正局にアマリア・エーレンベルクが収監された場合にはあきらめざるを得なくなるだろう。その場合、アマリア・エーレンベルクの価値がどれほど下がるのかは一切不明であった。

 

「詳細に関しては数日で調べ上げ、一月以内に作戦を実施する。そのつもりでお前達は準備を進めておくように」

「「「「「了解」」」」」

「よろしい。今回は解散だ。……次世代の英雄の尻拭いをしに行くぞ」

 

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