「エーレンベルク高等処置官、迎えに来ましたよ」
「……ナディア、か」
小鳥遊ホシノとの対話の直後から響いた爆発音や銃声から何が起こっていたのかは察していたアマリアだが厳重に拘束された状態では何もできなかったために静観していたアマリアの前に全てを終わらせてきたナディアが姿を見せた。
「それにしても情けない姿ですね。大役を任されたにも関わらず失敗した挙句にヴァルキューレごときに捕まる。本当に処置官ですか?」
「うる、さい……」
未だホシノとの対話の衝撃から抜け出せていないアマリアはそれだけを言う事しか出来なかった。そんなアマリアに対して興味を失ったのか部下に拘束を解かせる指示を出し、部屋の隅で捕まっている先生に視線を向けた。
「初めまして、連邦生徒会の先生。私はナディア・ヒッケルハイムと申します。ヴァルグレア統制学院において、高等処置官の地位を与えられています」
「“……”」
ナディアの丁寧なあいさつに先生は何も言わない。いや、言えなかった。拘束された先生は口枷をされており、喋る事が出来ないようにされていたのだ。更に肌身離さず持っているシッテムの箱も奪われてしまっていた。
「連邦生徒会長が連れてきたキヴォトス外の大人。どれほどの人物かと思いましたが意外と大したことはありませんでしたね。所詮は先生と呼ばれているだけの一般人ですね」
「“……”」
「まぁ、我々の任務はエーレンベルク処置官の救出であり、貴方に対して何かをせよとは指示をされていませんのでこれ以上の事は何もしませんよ。そこは安心してください」
何かを言いたげな様子の先生に対してナディアはそれ以上言う事はなく、部下と共にアマリアを連れて部屋を後にする。その際に、ひらひらとシッテムの箱を見せた。
「あぁ、ですがこちらのタブレットに関しては預からせていただきます。情報によるとこれはオーパーツと言っても過言ではないハイテクな電子機器のようですので。大丈夫ですよ。我々が無事に撤退したら後日シャーレに返還させていただきます。それまではどうぞこのキヴォトスという当たり前に銃を発砲する世界を生身で出歩く恐怖を感じてくださいな」
「“……!!!!!”」
ナディアは嘲笑するようにそう言ってシッテムの箱を持って撤退していった。
そこから、異変に気付いたアビドス生と護衛のミヤコたちが駆け付けたのはナディアたちの撤退から数分後の事であった。
「……申し訳ありません。私達がいながらこんな失態を……」
「“ミヤコたちのせいじゃないよ。大丈夫だろうと君たちを連れて行かなかった私の責任だ”」
ミヤコたちに助けられた先生は自責の念を感じるミヤコにそう告げて安心させた。アマリアの奪還とシッテムの箱を奪われるという痛手を被ったもののそれ以外では被害は軽微であり、気絶したヴァルキューレの生徒やホシノも無事に目を覚ましていた。
「うへぇ、先生、ごめんね。私がしっかりしないといけなかったのに……」
「“ホシノも悪くないよ。むしろ退院したばかりなのに無理をさせてしまったよ”」
ヴァルグレアの特殊部隊は想像を絶する練度を誇っていた。あの場でどんな行動をとっても行き着く結果に変化はなかっただろう。それが分かるだけに先生は責任を感じているのだ。
完全に甘すぎたと。ヴァルキューレの生徒達が見張っている場所に行くし、ホシノもいるからとミヤコたちを置いてきてしまったと。
アビドスが襲撃され、黒服と共謀した事で危うくその身柄を抑えられそうになってなお自分は大丈夫という慢心があった。もし、ナディアが先生の殺害も命令されていれば今頃先生は死体となっており、守れなかったとミヤコたちに深い傷を負わせることとなっただろう。
「“……ミヤコ。ごめんね。今後こういう事がないように注意するから、私の護衛をお願いできるかな?”」
「っ! 勿論です! 例えどんな状況になっても必ず先生を守って見せます!」
涙目になりながらそう意気込むミヤコを撫でながら先生はもう一つの問題、シッテムの箱が奪われた事について考える。彼女たちの話が本当なら後日返却されるとの事だがそれが本当かどうか分からないし返却する時に壊されていたり何かしらの細工をされている可能性だって否定は出来ないだろう。
一度見てもらった方がいいかもしれないと先生は考える。丁度そう言った事が得意な生徒が多い学校がキヴォトスには存在する上にその上層部の生徒との繋ぎもあった。
先生は自分の危機感の無さや直ぐに慢心してしまう癖を直そうと思いながら今後の事を想定し、シッテムの箱が戻ってくる事を祈るのだった。