硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『エデン条約に正義はない!』



第三章【トリニティ内戦】
Code49.


 トリニティ総合学園のティーパーティーに属する桐藤ナギサはここ最近続く様々なもめ事に頭を抱えていた。

 トリニティ総合学園は学園を設立した当初から懇意にしているサンクトヴァリエ高等学校と友好的な関係を築いていた。そのため、彼の学園がヴァルグレア統制学院と自治区が接するようになり、小競り合いを始めると様々な支援を行った。元々同様のお嬢様学校である両校は様々な場所で規格を統一しており、武器弾薬を始めとする様々な援助を最大限利用する事が出来るようになっていた。

 しかし、そんな関係も連邦生徒会長の失踪という大騒動でとん挫することとなってしまう。失踪により七囚人の脱獄や不良生徒の自治区への乱入。違法企業の自治区進出や違法物の流入。トリニティ総合学園はキヴォトス三大校の一角と言われるだけの規模を誇るためにこのような状況にあって問題が大量に発生したのだ。

 とはいえ、トリニティ内部は盤石とも言えないが政治機能はしっかりと機能していたためにそれらに対して個別に対処していき、現在ではその大半の問題が解決済みになっている。

 しかし、問題はまだまだあった。というよりも元々あった問題がここ最近で急激に表面化されてきている事だ。

 その問題がレクス分派だ。レクス分派はトリニティが作り上げられた第一回公会議でフィリウス、パテル、サンクトゥスに次ぐ規模を誇る学校だった。しかし、当時のティーパーティーは彼女たちを入れる事で偶数になる事を嫌った為に追い出しを受けてしまったのだ。

 以来彼女たちはティーパーティーに対して憎悪を抱くようになり、ティーパーティーの座を虎視眈々と狙っていた。様々な派閥が部活や同好会に姿を変えてかつての面影をほとんど残さなくなっている中で分派として勢力を維持している事からもその恨みはとても深かった。

 しかし、レクス分派の嫌なところは明確な動きを一切しなかったことにある。彼女たちは不良生徒のように暴れる事もティーパーティーの決定に逆らう事も無く淡々と受け入れていたのだ。結果的にティーパーティーは彼女たちを取り締まる取っ掛かりを得る事が出来ないままに時間が流れてしまったのだ。

 現在のレクス分派は末端まで含めればティーパーティーに匹敵する勢力となっている。三派閥が存在するティーパーティー相手に一つの勢力だけで拮抗している事からもレクス分派を無視する事が出来なくなりつつあったのだ。

 そんな彼女たちは連邦生徒会長が提案したゲヘナ学園との不可侵条約であるエデン条約に対して反対の意見を出していた。曰く、「ただでさえ因縁深いわが校とゲヘナが手を取り合う事など不可能だ。それが出来るのであればこれまでの歴史で既に達成されているはずだ」との事であり、ティーパーティーの明確な失策と声高らかに叫んだのだ。

 

「ティーパーティーは落ちるところまで落ちたのだ! 何故ゲヘナ学園と手を結ばねばならない!? 対ヴァルグレア同盟だというのであればミレニアムでも問題ないはずだ! ゲヘナを忌み嫌う生徒が多いトリニティが条約を結んだからと言ってゲヘナと歩調を合わせられるとは思えない! むしろいざという時に反目しあって最悪の結果となる可能性が高いだろう!

その証拠を一つだそう! トリニティの風紀委員会である正義実現委員会の副部長、羽川ハスミ。彼女はその立場からはあり得ないゲヘナ嫌いを公言している! 調べた情報によればゲヘナ学園の生徒会である万魔殿の議長に対して暴言を吐いたという! 一回の治安維持組織の、それもトップですらない羽川ハスミがゲヘナのトップに対して暴言を吐く! そんなあり得ない事をしている奴がいるのだ! ゲヘナと本気で手を結びたいのであればまずは手を差し伸べるのではなく、内部の意識改善を行ってからするべきなのだ!

誰だって伸ばした手と反対の手にナイフが握られていれば警戒し、手を握る事もままならないだろう! それを怠り何がゲヘナとの融和だ! 失敗が目に見えている条約締結はするべきではない!」

 

 レクス分派のリーダーを務める鏡原レオは毎日のようにトリニティの入り口でそう演説を繰り返している。彼女は常に高らかに叫ぶだけの情報を集めて言う為に一定の説得力があった。更に本人のカリスマ性から演説時には常に人だかりができる程に話を聞く生徒がいるのだ。そして、最悪なのがそうやってきている者の大半がレクス分派とは関係のない生徒という事だ。多少のサクラはいるかもしれないがそれでもレクス分派ではない者達は少しずつ鏡原レオに共感するようになっていたのだ。

 

「更に言えばゲヘナ学園も条約の締結に本気になっているとは思えない! ゲヘナ学園が自由を求め、常に騒乱が響いているのは知っているしどうしようもない事も理解はしている! しかし! それを他校に、それも条約を結ぼうとしている相手に迷惑をかけないようにする努力をしている形跡が一切見られない!

先週、トリニティの商店街が爆破された! ゲヘナの温泉開発部によるものだ! 奴らは温泉を掘り当てて施設を作ると言っていたが何故そこに作ろうとする? あの商店街はトリニティに住む高齢者が多く集まる地域だった。そこにある商店街は彼女たちの生命線とも呼べる場所だったのにそれを破壊して温泉を作るだと? ふざけている! 実にふざけている! そして温泉開発部を捕まえた正義実現委員会がゲヘナの風紀委員会に身柄をッ渡した。これは良い。これで奴等の活動が無くなるのならと信じていた。しかし! 今日! 奴らは釈放されたのだ! ゲヘナの正式な文書によって! 何故だ!? 市民の安寧を脅かすテロリストを何故釈放する? 手に負えない? 彼女達も生徒? 青春を楽しむ権利がある? それによって他の人々が犠牲になっても良いというのか! 私は昨日、爆破された商店街に行ってきた。店を失い、物を変えない市民の方々の支えになろうと向かったら、復興は遅々として進んでいなかった。それどころか温泉開発部が掘った部分は奴らが所有する土地にされてしまっていた。その真上に店を構えていた店主に話を聞いた。涙ながらに語ってくれた。急にそんな通告を受けて補填もなく土地から追い出されたみたいだとな。トリニティが出来る前からあそこで店を営んでいる人で二代目になったばかりだという。これから親が残してくれた店を引き継いで更に盛り立てて行こうとしている最中だったそうだ。

……なぜだ? 皆も考えてほしい。店主は悪なのか? 悪ではないのならばなぜ正義は手を差し伸べてくれない? 明確な悪である温泉開発部を何故許せるのだ? 店主だけではない。あそこに住むご老人方は言っていた。店が壊れたから私達は何処で買い物をすればいいんだと。体力もなく長い事歩けないあの人たちにとってあの商店街は最後の時まで生きる上で必要な場所だったんだ。それを、それを、一方的に破壊され、破壊した側は数日の収監で済まされる。おかしいだろう? ゲヘナは何を考えている? そして、そんなゲヘナと手を取り合おうとしているティーパーティーはもっと何を考えているんだ?

だから言わせてもらおう。我々は! レクス分派はティーパーティーが行おうとしているエデン条約の締結に反対すると! これ以上不幸な人を増やさない為にも我々は断固として反対すると!」

 

 その日のレオによる涙ながらの演説は大歓声と共に締めくくられた。この演説が最も効果的であり、トリニティ内部ではエデン条約について考える生徒が増えてきた。

 

「エデン条約は失敗する」

「条約が結ばれればゲヘナ生が今以上に自治区内に入ってくる」

「そうなったら温泉開発部みたいな悪い人が増える」

「ティーパーティーは何をやっているんだ」

「エデン条約なんて結ぶな!」

「断固反対!」

 

 そして、考えはやがて反対意見になり、ティーパーティーへの批判へと繋がっていった。トリニティ自治区内ではエデン条約締結の反対デモが相次いで発生し、それによって正義実現委員会が駆り出される事態になる事も増えてきた。

 

「……本当に面倒な事をしてくれます」

「アハハ。ナギちゃん、そう思うならレオちゃんを捕まえれば良いんじゃない?」

「……ミカさん。そんなことをしては彼女たちの行動を助長させてしまいますよ」

 

 現在は2人で行われているお茶会でナギサは同じティーパーティーの聖園ミカの言葉をため息とともに否定した。鏡原レオの拘束はナギサも何度も考えたことではあった。しかし、彼女の言葉は信用できる情報が含まれており、下手に拘束すれば低下し続けいているティーパーティーの権威を更に傷つけてしまうだろう。

 更に言えば鏡原レオは演説を邪魔されないようにティーパーティーに対してきちんと申請したうえで行っている。迷惑にならないように用意周到に準備された事で違法演説として取り締まる事は難しかった。ここで申請を却下すれば「ティーパーティーは都合の悪い真実を隠そうとしている」などと騒がれて余計に騒動が起こるだけだろう

 

「とにかく、今は騒動を抑えつつエデン条約に向けて準備するしかありません」

「……ナギちゃん、本当にゲヘナと手を組むの? レオちゃんの意見に賛成するわけじゃないけど無理じゃない?」

「ミカさん。これはもう決まった事ですよ。今さら取りやめる事など出来るはずがありません」

 

 元々ミカはゲヘナ嫌いであり、エデン条約については前々から反対していたのだ。故にナギサもいつもの事だと聞き流すように返事をしていた。……もし、彼女がきちんとミカを見ている事が出来たのならばこの時のミカの表情が何時もと違い、覚悟を決めたかのようなものになっている事に気づいただろう。

 そして、これがのちに始まる混沌へと飲まれる事になるトリニティ総合学園が絶望の未来を回避する事が出来る最後の瞬間であったのだった。

 

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