硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『勝者は全てを奪い、敗者は全てを失う』


Code53.

 アビドス侵攻時に捕らえられていたアマリア・エーレンベルクはナディア・ヒッケルハイム率いる特殊部隊に救出された後、治療の為に短期入院したのち、無事に完治して退院する事が出来ていた。

 

「……」

「あまり浮かない顔をしていますね。そんなに捕まった事が屈辱だったのかしら?」

 

 ヴァルグレア統制学院が運営する病院を出たアマリアを出迎えたのは同じ高等処置官にしてエトラ―ジュ分校の最高責任者も務めているイオナ・ツェルニだった。入口の柱に背中を預け、腕を組んでいる彼女はアマリアに対して見下したような笑みを浮かべていた。

 

「……ツェルニ処置官。何かようですか?」

「えぇ、レンクロフト処置官殿からの命令を伝えに来たのよ。貴方は今回の責任を取って暫く高等処置官としての地位を凍結する事になったわ。要は謹慎処分ね。その間は好きにすると良いわ。自治区外への外出も含めてね」

 

 その言葉にアマリアの表情は険しくなる。通常、こういった場合では自治区外への外出は禁止であり、場合によっては自治区内の重要区画や地域への立ち入りすら制限されるというのにまさかの広い行動が許されるとは思っていなかったのだ。

 そして、その疑問はイオナも理解していたのか肩をすくめて続きを話し始める。

 

「貴方の気持ちは理解できるわ。でもこれはレンクロフト処置官殿の、更に言えば統制AIヴァルグレアの命令よ。私程度では何を考えてこのような命令が出されたのか分からないけど良い機会と思って自治区外に出るのもありかもしれないわよ」

「……成程」

 

 イオナの言葉にアマリアは裏の意図をわずかながら理解していた。要はアマリアを自治区外に出したいという事なのだろう。アマリアに何をさせたいのかは不明だが自治区外に出す事で何かしらのメリットや意味があるのだと判断したのだ。

 

「……了解した。アマリア・エーレンベルク、命令を受託し、これより謹慎に入る」

「えぇ。貴重な休暇を楽しむと良いわ」

 

 それだけ言うとイオナはアマリアに背を向けて歩き出した。アマリアはそんな彼女を見送ると反対方向へと歩き出した。どういう意図があるにしろアマリアは命令に従わないという選択肢は無い。どんな事態にも備えられるように準備をするべく彼女は自らの部屋がある高等部の寮へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「……確かに納品を確認した。また来月に」

「あざしたー」

 

 リディア・ヴァイスロートはやる気のない挨拶を受けながら今しがた納品された大量の日用品を運ぶべく処置官たちに命令を出していく。

 現在、彼女はヴァルグレア統制学院自治区の北西に位置するヴァルトラト分校に来ていた。ここはヴァルグレア統制学院の侵攻を受けてその支配下に入った学校の一つであり、連邦生徒会長の失踪とそれに伴う混乱で発生した不良生徒の流入時に一時期占領されていたが現在ではリディア・ヴァイスロートがその手腕を大いに発揮して復興がほぼ完了しつつあった。

 そして、この分校はもう一つの役目として隣接するアウスヴルグ工業高等専門学校が生産する様々な製品を受け取り、自治区へと輸出する役目を追っていた。先程のやり取りもアウスヴルグの生徒が物資を運んできたのだ。

 ヴァルグレア統制学院は多くの敵を作っている為に自給自足を余儀なくされているがそれでも自治区内で全てを賄う事は出来ていない。そのために日用品などの細々した物はアウスヴルグ校からの輸入に頼っていたのだ。アウスヴルグは基本的に物を作り、それが適正学で売られるならば相手を選ばない気質の為にヴァルグレアとの取引も難なく行えていたのだ。

 

「……ここも平和になってきましたね」

 

 リディアは部下たちが輸送の準備をしている時、ふと周囲の様子を眺めてそう呟いた。不良生徒の破壊活動で一時期は廃墟の如き有様となっていた校舎も今ではヴァルグレアに相応しい厳格な建物へと生まれ変わり、ヴァルグレアの分校に相応しい姿となりつつあった。

 

「……ん?」

 

 その時だった。ふと、敵意を感じたリディアは即座に自らの愛銃である支給兵装C2型を敵意を感じた方へと構える。ショットガンである為に射程は短いがそれでもけん制としては十分と判断したがそれをあたりだった。

 銃口を向けた先ではボロボロの制服を着た生徒が手りゅう弾をリディアに向けて投げた直後だったからだ。リディアは躊躇なく発砲し、投擲された手りゅう弾を破壊した。空中で爆発が発生して、リディアの身体を爆風が撫でる。

 

「敵襲! 周囲を警戒せよ!」

 

 そして、迎撃したリディアは部下たちにそう声をかけて自らは吶喊する。姿勢を低くして一直線に向かう姿に一切の無駄は感じられなかった。

 

「くそっ!」

「一人」

 

 手りゅう弾を投げた生徒が慌てて銃を構えるがその時には既にリディアの射程圏内に入っていた。顔面へと容赦なく発砲したリディアは二発目、三発目と散弾を叩きこんでいく。相手が動かなくなるまで。キヴォトス人はヘイローのせいで頑丈であり、一発二発撃ちこんだ程度では大したダメージにはならない。故に何発も叩き込む必要があるのだ。

 

「ひっ!?」

「二人」

 

 そして、容赦のない発砲は隠れている敵を恐怖させた。その結果近くに隠れていただろう生徒が短い悲鳴を上げてしまい、それを聞き逃さなかったリディアが即座に発砲して鎮圧を図った。そこに僅かな躊躇すら存在しない。ヴァルグレアの教えに従いリディアは淡々と無慈悲に敵対者を倒していくだけだった。

 

「隊長。他に敵影は有りません。こいつらだけのようです」

 

 それから少しして、周囲を確認したリディアたちは他に敵がいない事を確認した。服装からヴァルトラト分校となる前の生徒の生き残りである事は明白だった。徹底的な掃討戦を受けて大半の生徒は“処置”が施されているが未だこうしてゲリラ戦を仕掛けてくる残党が残っていた。リディアもこうして襲撃を受けるのは初めてではなく、既に数回経験していたがそれらすべてを圧倒的な力で叩き潰していたのだ。

 

「輸送の報告と共に襲撃の報告をする。こいつらを物資と共に運送しろ」

「了解です」

 

 そして、リディアの力の前に倒れ伏した生徒達の末路は皆等しく“処置化”が施され、ヴァルグレアに従順な生徒として生まれ変わるのだ。それらはヴァルグレアの支配を受けた学校全てで共通して行われている事であり、ヴァルグレアによって支配された末路として多くの人々の心に刻み込まれる事になるのだ。

 

「行くぞ。襲撃を受けたせいで時間に遅れが生じているからな」

 

 ヴァルグレアの思想に染まったリディア・ヴァイスロートは今日も変わらずにヴァルグレアの為に働き、ヴァルグレアの敵を排除していくのだった。

 

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