硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

6 / 33
『統制とは、世界を疑問から解放する慈悲である』


Code06.

 午後2時。カイザー・コーポレーション中枢区画にある交渉室は、24時間いつでも使用できるようにと常に昼間と同じ明るさが保たれていた。

 その会議卓に、機械音と共に現れたのは、光沢ある白銀のボディを持つカイザーコーポレーションのロボットだった。

 表情を模したモニターには穏やかな笑顔、だがその内奥にあるのは完全なる論理と利益の羅列である。ホログラムが点灯し、対面にヴァルグレア統制学院の通信窓口が開かれる。

 

 姿を現したのは、黒と灰の戦術服に身を包んだ処置官ノルド=エンリ。彼の瞳は濁りなく、無感情に、光すら吸い込むようだった。

 

「早速ですが、お呼びした件、先のアビドス自治区における貴校の無許可侵攻行動について当社としては極めて遺憾に思っております。また、経済的損失と風評影響を考慮し、当該行動の再発防止を正式に要求いたします」

 

 ロボットの穏やかだがどこか厳しさを思わせる口調にノルドは淡々と返答する。

 

「ご対応に感謝いたします。

……まず初めに先日の我らによるアビドス自治区に対して学院が実施した軍事行動についてですが遺憾ながらわが校の生徒数名による独断の暴挙であると判明しており、既に島外生徒には“相応の処分”が下されています。また、今後同様の事が発生しないように再発防止の教育の徹底も行われております。

今後、同様の件が起きないと断言しましょう。

加えて、被害者であるアビドス高校に関してはこちらで連絡を取り、きちんとした手打ちが行われていますので貴社が心配するような事はありません」

「そうでしたか。……しかし、アビドス高校は別館とそれに隣接するいくつかの土地を除き我らカイザーコーポレーションの土地になっております。貴方方はそれを無断で侵入したのですよ。こちらとしては苦情を入れざるを得ないのですよ」

 

 ロボットは肩をすくめながら自社の事情を説明する。その様子にノルドは砂漠だけのアビドスにカイザーコーポレーションが求めるようなものがあるのかと疑問を持つがそれは自分が考える事ではないと報告書に後で纏めようと思考を戻した。

 

「我々は秩序を回復したにすぎない。

自治体が学院の統制に協力しないのは、制度的違反だ。貴社の損失は、統制の必要コストと理解する」

 

「そうした貴校が掲げている事に対して否定の言葉はありませんよ。ただし、“時期と場所の選定”が適切でなかったのです。

つきましては、今後の摩擦を回避するために、“技術提携協定”をご提案いたします」

 

 そう言ってロボットは懐から技術提携に関する内容が記された紙を取り出した。そこに関しては様々な事が書かれていたが要約すると以下の通りとなっていた。

 

1. “戦闘ドローン”を始めとする自動兵器の一体化。

2.それに伴う部品の低価格での優先売買。

3. 両方で所有する人工衛星等へのアクセス権限。

4. カイザーPMCで使用される最新武器の提供。

 

 それらはヴァルグレア統制学院において魅力的な物ばかりであった。カイザーPMCはミレニアム・サイエンススクールなどを除けば最先端の武器を揃えていると言われている。それを手に入れる事が出来るというのは魅力以外の何物でもなかった。

 

「これらを提供する対価として、貴学院には今後アビドス自治区への直接軍事行動を停止していただきたい。もちろん、間接的影響や布告レベルの施策については制限いたしません」

 

 ノルドは無言で資料を読み、数秒後に応じた。

 

「……受け入れましょう。この契約は秩序強化の手助けとなります。アビドスについては、貴社の顔を立て、直接行動を停止しましょう」

「誠に賢明なご判断。カイザー・コーポレーションは、ヴァルグレアの秩序維持を常に支持しております」

 

 そう言って二人は握手を交わす。少なくとも表面上はたがいにとって利のある話し合いで終了する事が出来た。だが、それが必ずしも余計な火種を広げない事に繋がるわけではなかった。

 

 

 

 

 

 その日の深夜。ヴァルグレア統制学院の戦略局、全ての戦闘関連の事を担当しているそこの資料閲覧室にノルドの姿はあった。隣には副官の処置官を連れており、薄暗い部屋の中で煌々と輝くモニターを凝視していた。

 そのモニターには戦略局は先ほど作り上げた、“アビドス再侵攻計画”の計画書が表示されていた。

 ノルドはモニターに映る資料をスクロールしながら副官に告げた。

 

「“技術提携協定”は、本当に我らに対して大きすぎる利を与えてくれました。カイザーコーポレーションの衛星からの情報で侵攻計画を完全に最適化することが出来ました。戦略局の者達も手が早いですね」

 

 モニターには僅か数時間で作成されたとは思えない程綿密な再侵攻計画が記されていた。衛星写真を用いた侵攻路が記されていた。

 

【侵攻手順(仮)】

1. 通信遮断

・他校や現在は意味がないものの、生徒間の中遠距離通信を遮断。連携を不可能とし、敵勢力の動きを鈍らせる。

2. ドローンを用いた航空偵察

・衛星により随時監視を行うがドローンによる屋内や詳細な部分の偵察を行い、作戦遂行における不確定要素を極力取り除く。

3. 住民への威嚇射撃及び敵対者のあぶり出し

・アビドス自治区に住む住人を作戦遂行の邪魔になると判断し、追い出しを行う。その際に抵抗する者はアビドス高校の協力者と断定し、処分対象とするがそうでない場合は極力被害を避けるように行動する。

4. 航空戦力によるアビドス高校への空爆

・戦闘ヘリやドローンによるアビドス高校への空爆を実行する。これは市街地に展開するアビドス勢力を減らし、高校という相手方の精神的主柱の破壊を目指す。場合によってはこれにより敵勢力の抵抗心がなくなる可能性もあり。

5. 48時間以内の実効支配

・空爆後速やかに地上部隊による浸透作戦を実施。アビドス高校の生徒の捕縛と校舎の選挙を実施する。なお、現在は小鳥遊ホシノのみであるが今後入学する生徒がいるかもしれない為に遂次生徒の情報は入手していくこととする。

・また、可能であれば小鳥遊ホシノについては捕縛に止め、白化(記憶・人格の削除、それに伴う新たな人格の植え付け)を行いヴァルグレア統制学院の戦力にする。

 

 そこまでを確認したノルドは最後に計画書に付随されている個人ファイルを開く。

 

-小鳥遊ホシノ-

 現在時点においてアビドス高校唯一の生徒にして最大の障害。身体能力及び戦術眼が異常とも取れる程高い為、通常の処置官では対処が不可能とされている。侵攻時には高等処置官数名による飽和攻撃による対象の無力化を通常戦術とする。

 しかし、彼女の無力化に失敗する場合は侵攻作戦の失敗を意味する程に戦術的能力が高い為アビドス高校の実効支配は彼女の無力化無くしてあり得ないと判断する。

 

「……前回のセイルの暴挙はこの情報を得られたことを考えれば無駄な行いではなかった。これでアビドス高校襲撃時にはこの情報を基に完璧な侵攻を行う事が出来るだろう」

 

 その時、副官が懸念点を呟く。

 

「リヒト処置官にこの計画を開示しますか?」

 

 リヒト処置官。その言葉を聞いたノルドの表情は一瞬だが険しくなる。リヒト処置官。それは現在ヴァルグレア統括局の頂点に立つ人物だった。そして、ノルドとの関係はあまりよくはなかった。

 ノルドは静かに首を横に振った。

 

「必要ありません。彼にとってこの情報が劇薬でしょう。彼に今駄目になってもらっては困るのですよ」

 

 

 

 アビドスでは、少女たちがその危機をまだ知らずに

 静かに、今日という一日を生きていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。