「初めまして。S.C.H.A.L.Eの先生」
その日、シャーレが存在する建物に一人の訪問者が現れた。正門を警備していたサキが既に身体検査などは終わらせており、危険物の持ち込みはしていないと判断されていた。SRT特殊学園のFOX小隊とRABBIT小隊が護衛について以来シャーレへの立ち入りは厳重になっていた。厳重と言っても正面玄関にて警備をしている当直の生徒に訪問理由と危険物の持ち込みをしていないかの簡単な持ち物検査を行い、きちんと訪問したことを記録に残すくらいだ。
それでさえ先生は生徒が気軽に出入りできなくなると渋っていたがヴァルグレア統制学院という目に見えた危険な学園があり、いつ暗殺者を送り込んでくるか分からないからと押し切られている。実際、先生が一度奪われたシッテムの箱はヴァルグレア統制学院の生徒が宅配業者に扮して持ってきていたことが判明している為にあり得ないとは言えない状態だった。
「“それで、君は……”」
「私はサンクトヴァリエ高等学校聖冠評議会メンバーの三島サエと申します。この度はサンクトヴァリエ高等学校の代表として訪問させていただきました」
「サンクトヴァリエ? 聖冠……?」
聞き慣れない学校名や組織名に困惑する先生に護衛として近くにいたオトギが説明する。
「えっとね、先生。サンクトヴァリエはキヴォトスの西にある学校で、トリニティ総合学園に似た学校と言えば良いのかな。それで、ヴァルグレア統制学院の脅威にさらされているよ」
「ついでに言えば聖冠評議会は所謂生徒会だ。つまり、彼女がサンクトヴァリエの代表というのは間違いないだろう」
「“……成程ね。二人ともありがとう”」
説明をしてくれたオトギとユキノにお礼を言った先生はヴァルグレアという言葉が出てきたことで真剣な表情になる。つい最近はミレニアムのゲーム開発部からの依頼をこなし終えて戻って来たばかりだがまさかこんなに早くかかわるとは思ってもいなかったのだ。
当番の生徒がいない日で良かった、と先生は内心で思う。一日ズレていた場合、当番の生徒には暫く外に出ていてもらう事になっただろう。流石に当番に来てくれた生徒に危険な事にまで関わって欲しくはないからだ。ちなみに、前日であればゲヘナ学園のチナツ、翌日であればヴァルキューレ警察学校のキリノが当番であった。
「“それで? 私に一体何の用事なのかな?”」
「はい。実は先生に対して、というよりも先生の口添えを期待して連邦生徒会にお願いがあります」
「連邦生徒会に? それならば直接行った方が良いんじゃないかな?」
「残念ですが連邦生徒会には期待しておりませんので」
サエはそう言って微笑んでいるが瞳から見える感情には連邦生徒会に対する不信感がありありと浮かんでいた。しかし、そうなれば連邦生徒会に対してお願いがあるという言葉に矛盾が生じる。一体どういうことかと先生はサエの言葉を続きを待った。
「先ほど、そちらの方がおっしゃられたように現在わが校はヴァルグレア統制学院と事実上の戦争状態にあります。本来であれば連邦生徒会長が交渉したことで我々は魔の手から逃れられたはずでしたが……」
「連邦生徒会長が失踪したことでヴァルグレアが再び動き出したわけか」
「その通りです。現在、サンクトヴァリエとヴァルグレアの間には廃校となった学園跡地があり、我々はそこに防衛ラインを構築し、ヴァルグレアの侵攻に備えておりました」
廃校、という言葉に先生は一瞬反応するがキヴォトスでは珍しい事ではなく、様々な理由から廃校になる学校は数多く存在する。ヴァルグレアとてそうして生まれた学校跡地がブラックマーケット化するのを防ぐために設立された部隊が発展して誕生したのだ。
「少し前からヴァルグレアは防衛ラインへの攻撃を開始しました。現在は何とか防衛が出来ていますが近いうちに防衛ラインは崩壊するでしょう」
「戦力比は? サンクトヴァリエとて三大校に及ばないながもそれなりの規模を誇る学校だと聞いているが……」
「確かに生徒数は多いです。しかし、ヴァルグレアと戦える生徒も限られており、わが校の風紀委員会である聖盾団を中心に防衛ラインに派遣していますが……」
「……そうか」
いくら生徒数が多いからと言って全員が全員戦えるわけではない。それもその通りだとユキノはそれ以上追及することは無かった。しかし、状況が悪いという事だけははっきりと理解する事が出来ていた。
「“つまり、君は連邦生徒会に防衛戦力の派遣を要請するという事かな?”」
「正確には連邦生徒会直属の学校であるSRT特殊学園、ですね」
その言葉に反応したのはユキノたちFOX小隊だった。彼女達こそまさしくそのSRT特殊学園の生徒であるがサエも小隊までは気づいていない様子だった。
「ヴァルグレアの侵攻を本気で食い止めるのであれば複数の学校の勢力が必要です。連邦生徒会にそれが出来るとは思っていませんし寄せ集めを寄こされても困ります。今の我々にとってはヴァルキューレ警察学校ですら足手まといにすら感じる程ですので」
ヴァルグレアはその特異性から所属する生徒のほぼ全てが戦闘可能な兵士でもある。つまり、ヴァルグレアは生徒=戦力と言える力を持っており、その練度も他の学校の精鋭部隊に匹敵しているのだ。不良生徒相手に負ける事さえあるヴァルキューレ警察学校や寄せ集めの生徒を寄こされても意味が無かったのだ。
「加えて、ヴァルグレアは捕えた生徒を洗脳する技術を持っているようです。おかげで向こうは戦力を増やす事が出来るのにこちらは減る一方です」
「洗脳、だと? いや、だがそれならヴァルグレアの異様さも説明がつくな……」
「えぇ、我々も気づくまで時間がかかり過ぎました。恐らくですがそうやってヴァルグレアはあれだけの異様な学校を作り上げる事が出来ているのでしょう」
「“なら、皆の洗脳を解く事が出来れば……!”」
解放できるかもしれない、と先生は考えるがサエはそれを首を振って否定した。
「この洗脳は装置を用いた物ではなく、直接脳を弄る事で行われる洗脳なのでしょう。我々が捕えた洗脳されたわが校の生徒は記憶だけではなく、人格や性格、全てがヴァルグレアの都合がいいようにされていました」
「……」
その説明には誰もが絶句するしかなかった。ヴァルグレアの闇は想像以上に大きく禍々しい者であったからだ。
「そういう訳ですので我々が望むのはSRT特殊学園の派遣です。精鋭と名高い彼女たちにしか出来ない事を頼みたいのですよ」
「“……成程、それで連邦生徒会を”」
連邦生徒会事態を信用できなくともSRT特殊学園なら信用できる。そして、連邦生徒会を信用できないから先生を通じて派遣してもらえるように取り計らってもらう。先生はサエがここにいる理由を把握すると優しい表情で頷いた。
「“分かった。私からリンに頼んでみるよ。だけど、SRT特殊学園の派遣が通るかは分からないからあまり期待しない方が良いかもしれないよ”」
「大丈夫ですよ。先生は不可能を可能にしてきたと聞いています。何より、生徒の味方なのでしょう? サンクトヴァリエを見捨てるような事はしないと信じていますよ」
きちんと情報を調べてきているのだろう。サエの言葉に先生は苦笑いを浮かべながら何も言えなくなるのだった。
翌日、先生の口添えもあり、連邦生徒会はSRT特殊学園の派遣を決定した。これは連邦生徒会内部で大きな反発があったが七神リンは事態の深刻さを冷静に解き、反対意見を封殺して派遣を決定させた。
派遣されるSRT特殊学園の中には先生の護衛もしていたFOX小隊も含まれており、彼女たちは先生に見送られてサンクトヴァリエへと向かう事になる。
SRT特殊学園は任務の成功を高めるために前線で暴れる部隊と極秘裏に動く部隊に分かれて行動していく事になるのだった。