「始末した。次に行くぞ」
SRT特殊学園の七度ユキノは自らが率いるFOX小隊を連れて連邦生徒会の依頼のもとサンクトヴァリエ高等学校とヴァルグレア統制学院が争う学校跡地にて暗躍を行っていた。
彼女達の他にもいくつかの小隊が作戦に参加しており、互いに連絡を取り合いながらヴァルグレアの処置官たちを倒していた。
『いやぁ、それにしても処置官も結構面倒な相手だね』
「そうね。少なくともそこら辺の不良生徒の方がやりやすいわ」
隠れた位置でユキノたちの援護をしている天神山オトギが通信機越しにそんなことを言い、それに対してポイントマンの高倉クルミが同意した。小隊内でも凹凸コンビとして知られている二人は今回の任務でも抜群のコンビネーションを発揮していた。
そして、そんな二人の会話にユキノも同意した。ヴァルグレア統制学院とやり合うのはこれまでも数えきれない程あったがそのどれもが小規模であり、ここまでの戦闘に発展する事は無かった。強いて言えば先生が黒服と会った時に乱入した時くらいだ。あの時は後輩のRABBIT小隊と連携して処置官全てを倒したがその時も今に比べれば規模は大きいとは言えないだろう。
「っ!」
故に、処置官たちの奇襲にあう結果となった。瓦礫の隙間で息を殺していた処置官が急に上半身を出して発砲してくる。それをクルミがシールドで防ぎつつ冷静に対処する。
SRTの介入が知られたらしくユキノたちは既に何度も奇襲を受けていた。それらは機械のように正確であり、エリート部隊と言われているユキノたちでも後手に回る事が多い程だった。
「……厄介だな」
「そうね。でもまだ“ヤギ”からの連絡はないわ。それまではここで視線を引き付ける必要があるわ」
ユキノの思わずこぼれた言葉に副隊長の吉野ニコがなだめるように言った。彼女たちはとある作戦を遂行中であり、その作戦を成功させるためにもここでヴァルグレアの処置官たちを相手にする必要があった。
作戦が開始してまだまもないために成否が分かるためにもまだ時間を稼ぐ必要があった。幸いにもこの作戦にはSRTの3年生の大半が動員されており、彼女達以外にも味方は多くいた。少なくとも四方八方から袋叩きにされるような事に陥る事はないだろう。
『こちらMOLE小隊! 誰か応援を! 敵の増援が急に……!』
『ぐぁっ! こちらRACOON小隊! 敵の反撃が……!』
そんな風に思っていた時、立て続けに二つの小隊の悲鳴が聞こえると同時に通信が途切れた。両方ともFOX小隊の近くに展開していた小隊であり、ユキノたちは一気に警戒度を上げた。今この場にいるのは精鋭たる3年生の部隊だけであり、それらを相手に勝っている事からも援軍としてやってくる相手がかなりの手練れである事は間違いないからだ。
「……んあ? まだいるんだ」
そして、それらしい人物が姿を見せた。複数の処置官を引き連れてやってきたその少女はヴァルグレアの生徒としては異様だった。服装は統制されている事を妄信するヴァルグレアにあってあり得ないゴスロリ風の改造を施しており、本人も口や耳にピアスを付けていた。髪もインナーをピンクに染め上げるなどあり得ない姿をしていた。
それにも関わらず、処置官の制服を羽織ってこの場にいるという事はそれだけの事をしても許されるだけの実力を持っているという事だった。
「へぇ、油断はないね。面倒じゃん」
少女はそう言うと自らの武器であろう自動拳銃を突き付ける。その姿はまるで隙だらけであり、素人の如き立ち振る舞いにしか見えないがFOX小隊は逆に警戒度を上げた。この状況で素人なわけがなく、明らかな罠なのは明白だったからだ。
「(どうするの? 見るからに厄介そうな相手だけど……)」
「(この辺の処置官は既にあらかた倒している。ここで倒すなり釘付けにして任務達成まで時間を稼ぐ)」
「了解!」
目標を決定したFOX小隊の動きは迅速だった。最初にポイントマンであるクルミが先行した。自らを囮兼タンクとするためであり、クルミの吶喊に処置官達の攻撃が一気に集中する。
「……ああ、成程。スナイパーもいるんだ。これは面倒だね」
ゴスロリの処置官は気だるそうにあらぬ方向を見るとそう呟く。彼女が見た方向にはオトギが潜伏しており、スコープ越しに目が合ったオトギは目を見開いていたほどだ。
『ごめん! 位置がバレた! 補足されたっぽいし効果的な援護は難しいかも』
「それくらいいいわよ! まともに避けられる奴なんてこのゴスロリ以外にはいなさそうだしね!」
クルミは盾を構えつつ銃を乱射する。かく乱が目的であり、命中させる事は考えていないそれに処置官は少しだが怯む。その隙をついてオトギの一撃がヒットし、大きく吹き飛ばされていく。息の合った凹凸コンビを前にゴスロリ少女の視線は険しくなった。
「……流石はSRT特殊学園。サンクトヴァリエが雑魚に見えるくらい強いじゃん。あいつらは元々雑魚だけどさぁ!」
「っ!!??」
ゴスロリ少女は何を思ったかクルミに近づく。まさかの行動にクルミは一瞬だが対応が遅れてしまい、ゴスロリ少女を懐に潜り込ませてしまった。
「クルミ!」
ユキノが銃を発砲するがそれをクルミを盾にして躱す。左腕にいつの間にか持ったナイフを盾を持つ左肩に深々と突き刺す。銃弾には強いキヴォトス人もナイフのような鋭利な刃物による斬撃には弱く、こうして簡単に傷をつけられてしまう。
「~~~~っ!!!」
銃弾など比べ物にならない激痛が左腕に走り、クルミは盾を持っている事が出来なくなり、手放してしまう。それはゴスロリ少女という精鋭の前では明確な隙であった。
「ぅうっ!?」
「FOX3!? くっ! 離しなさい!」
勢いのままクルミへと絡みつき、関節技を決めようとするゴスロリ少女にニコが慌てて銃を発砲する。眼前を銃弾が掠めたことで一瞬だが怯んだ隙をつき、クルミはゴスロリ少女を蹴り飛ばして拘束から逃れた。
「FOX3、無事か?」
「左手が上手く使えないわ。ちょっと戦闘は厳しいかも……」
「分かった。FOX2、FOX3を連れて下がれ」
「ユキノ? あなたまさか一人で……」
「殿を務めるだけだ。無理はしない」
一瞬だがニコが咎めるような口調で言ってくるがユキノとて相手が強いことは理解している。少なくとも自分たちと技量は互角であり、ナイフの件もあり一人で戦うのは危険だとも。故にユキノは時間稼ぎに徹する事にした。元々自分たちの任務は制圧ではないのだから。
「ある程度の時間を稼いだら私も後退する。無茶はしないさ」
「……わかったわ。クルミ、行きましょう」
「え、えぇ」
血が止まらない左肩を抑えるクルミを支えてニコは戦線から離脱する。これでユキノはゴスロリ少女達ヴァルグレアの処置官と一人で相対する事になった。
「貴方一人だけで私たちに挑むつもり?」
「無論だ……とは言わないさ」
「っ!」
瞬間、ゴスロリ少女は飛びのくようにその場を飛びのくと直前までいた個所を弾丸が通過した。遠くなら援護しているオトギが放った弾丸だった。
『お待たせ~。狙撃位置についたから援護再開するよ!』
「了解した。ゴスロリ以外の対処を頼む」
『了解!』
その通信の後、オトギの狙撃が次々と処置官を倒していく。その様子にゴスロリ少女は眉をひそめて煩わしそうに顔をしかめていた。
「面倒な事を……。だけど、貴方だけでも仕留める」
「そんなことをさせるわけがないだろう!」
ユキノとゴスロリ少女は互いに吠えると銃を構え、お互いへと発砲するのだった。