硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『一瞬の隙、無限の好機』



Code60.

 ゴスロリ少女、エルザ・ローゼンフェルトはヴァルグレア統制学院の中でも異端と言っても過言ではない人物だった。統制された学園にあってゴスロリ風の服装を好み、口や耳にピアスを付け、気だるげな表情を隠そうともしない。更に言えばヴァルグレアの目指す先にも興味はなく、面倒だと切り捨てる程の豪胆さを持っていた。

 そんな彼女が“処置化”されていないのは単にその格闘センスの高さ故にだった。銃撃戦が当たり前のこのキヴォトスにおいて彼女はそれよりもナイフなどを用いた近接戦闘を好む傾向にあった。無論、銃撃戦が苦手なわけではなく、それさえもヴァルグレアでは上位に食い込む能力の高さを有している。そのうえで近接戦闘が得意というだけなのだ。

 

「くっ!」

「君ってSRTなんでしょ? ならその優秀さを少しは見せて見なよ」

 

 そして、そんな得意分野をエルザは今まさに発揮していた。銃撃戦の一瞬のスキを突き、急接近したエルザはユキノを苦戦させていた。右手に自動拳銃、左手にナイフを装備した彼女の近接格闘戦術にユキノは防衛だけで精いっぱいだった。エルザの格闘術はオリジナルの物と既存の物がミックスされたものであり、なまじ既存の物が混じっているだけにユキノの判断を鈍らせていた。

 

「っ!!??」

「ほら、少しは粘りなよ」

 

 現にユキノの体中には切り傷が無数につき、血を少しずつ流していた。密着されている事でオトギが援護射撃をする事も出来ず、ユキノは引きはがす事が出来なくなっていた。

 

「そろそろ止めと行こうか」

 

 そしてついにエルザが止めを刺そうとその動きをより苛烈にした。キヴォトスにおいて殺人は忌避すべきものとして認識されているがヴァルグレアはそれを平気で犯してくる。実際、エルザはナイフの切っ先を首筋や胸に定めており、防御をしくじれば深々とナイフが刺さる事は間違いなかった。

 

「これで、止め!」

 

 ユキノは血を流しすぎたのかクラリと一瞬だが動きが鈍る。それはエルザにとってはチャンスであり、ナイフを大きく振り上げた。ユキノの心臓へと深々と突き刺す為に。

 だが、それはユキノが作り出した罠だとは気づく事が出来なかった。ユキノはナイフを振り上げたのを確認するとサッと姿勢を低くした。瞬間、エルザの左腕にオトギの対物狙撃銃の弾丸が着弾する。ナイフを砕き、左腕の骨を破壊するその一撃は置き土産としてエルザの身体に衝撃を与え、僅かにのけぞらせていた。態勢が崩れ、後ろへと倒れていく中、ユキノもバックステップで距離を取るとライフルを構え、容赦なく発砲する。弾薬が空になる勢いで全てをエルザへと叩きつけた頃にはエルザの意識は完全になくなっていた。

 

「ギリギリだったが倒すことが出来たか……」

『隊長! 無事? けがはない?』

「FOX4。問題ない。私はFOX2とFOX3の元に向かう。お前も合流してくれ」

『了解!』

 

 クルミほどではないが怪我を負ったユキノは後退したニコとクルミに合流するべく自らも戦線を後退していく。

 そして、その途中でとある通信が入った。

 

『こちらSRT特殊学園別動隊! 目標であった連れ去られそうになっていたサンクトヴァリエの生徒達の救出に成功! 作戦は成功した!』

 

 

 

 SRT特殊学園の生徒は数が少ない。少数精鋭である彼女達ではサンクトヴァリエの防衛ラインを維持する事は難しかった。そこで提案されたのが一連の戦闘で連れ去られたサンクトヴァリエの生徒の救出だった。彼女たちはセリオ・ルベラ分校に建設された簡易的な牢獄に囚われており、一定数集まるとヴァルグレア自治区に搬送される事になっていた。そうなればまたヴァルグレアの戦力が上昇する事になり、サンクトヴァリエは戦力を大きく減らす事になってしまう。

 そこでSRT特殊学園が捕らえられた生徒達を助け出し、その一方で前線を軽く攻撃して視線を誘導するとともにヴァルグレアに損害を与える事となったのだ。

 作戦は見事成功し、サンクトヴァリエは捕えられた生徒達を救出する事に成功し、ヴァルグレアも少なくない損害を受ける事となった。とはいえサンクトヴァリエが形成した防衛ラインは半数以上が破壊されてしまっており、ヴァルグレアが侵攻する限り延命措置にしかならないだろう。

 

「その辺は追々考えるしかない。今は“サンクトヴァリエを攻撃すればSRT特殊学園が出てくる”と思わせる事が出来ただけでも十分だろう」

 

 SRT特殊学園が出動するのは現時点では難しいのだ。それを七神リンの行政能力とヴァルグレアという危機を全面に押し出す事で何とか実現できたに過ぎない。長期的な派遣は七神リンでも不可能だった。

 

「ま、向こうの戦力も大きく減らしたし当分は大丈夫でしょ」

 

 SRT特殊学園用にと貸し出されている医療用テントにてFOX小隊は集まって話をしていた。というのもクルミが負傷したことで治療を受けていたからだ。ユキノも深くはないが全身に傷が出来たために体中に包帯を巻くという見た目だけは悲惨な状態となっていた。

 

「それにしてもまさかユキノが一人で倒しちゃうなんて驚いたわ。約束を破るなんて……」

「あの時はああするしかなかった。逃げる事も難しくオトギの支援が無ければ地に伏していたのは私だったかもしれない」

「キヴォトスであんな戦い方をする人なんて珍しいからねぇ」

 

 実際、ユキノやオトギもあんな戦い方をする人は見たこともないし、記録にも残されていないだろう。それだけ独自の戦闘スタイルをする相手に勝てたのは運が良かったとしか言いようがなかった。

 

「ま、私たちはクルミが負傷したし、小隊長がこんな状態だし直ぐに先生の護衛に戻る事になると思うけどね」

「そうしたら先生には心配をかけてしまうかもしれないわね」

「うっ、確かに……」

 

 ニコの言葉にクルミは大げさに心配してくる先生の姿が簡単に想像できてしまった。なんだかんだと一月ほど接していれば先生の性格もなんとなくだが分かってくるのだ。クルミは自分に変な絡み方をしてくるだろう先生を思い出して少しだけ渋い顔をする。

 

「あれれ~? 先生に慰めてもらうんじゃないのかな?」

「はぁっ!? だ、誰が先生に……なんて……!」

「顔を真っ赤にして否定しても説得力はないよ~」

 

 からかってくるオトギにクルミは顔を真っ赤にして抗議する。それをニコは笑顔で見守り、ユキノは変わらない小隊の様子にため息をつきながら今後の自分がやるべきことを脳内で纏めつつ、今はただけがを治す事に専念するのだった。

 

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