硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

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『未知を許すな、空白を残すな』


Code61.

 カシウス・レンクロフトはサンクトヴァリエ高等学校との戦闘にSRT特殊学園が介入したという話を聞き、面倒な事になったと感じていた。一人、自らの執務室にて報告書がまとめられた紙の束を確認し終えた感想であり、キヴォトスでは禁制品であるタバコを吹かしながらカシウスは今後の対応策を考える。

 

「(サンクトヴァリエへの攻撃は控えるべきか? いや、連邦生徒会長の権限が無ければ動けないはずのSRTが長期間行動する事はないはずだ。状況を確認しながら撤退か経戦かを選ぶべきだな……)」

 

 とはいえサンクトヴァリエへの侵攻を取りやめる事はしない。連邦生徒会長が不在の今がヴァルグレアの勢力を更に拡大させるチャンスなのだ。この程度で取りやめるならば既にヴァルグレアが大人しくしているだろう。

 

「(トリニティががたつき始めたおかげでサンクトヴァリエへの物資提供は縮小しつつある。奴らが物資不足で満足な戦闘が出来なくなるもそう遠い話ではない。SRTに多少は奪還されたがそれでもかなりの生徒の輸送が終わっている。戦力の拡大も十分だ)」

 

 ヴァルグレアではオートマタを戦力としては数えてはいなかった。というのもオートマタはキヴォトス人に比べて脆いという欠点があり、統制AIヴァルグレアのような支援ならばともかく直接の戦闘はキヴォトス人にさせた方が良かったのだ。

 そして、他校の生徒だろうとヴァルグレアの支配下に置く“処置化”の技術がヴァルグレアには存在した。これは“カシウスがもたらした技術を応用して”作られているが彼が目指す完成形には程遠いと感じており、より強力な洗脳や人格破壊を施せるように改良中でもあった。

 

「(サンクトヴァリエはこの方針で問題は無いな。トリニティも粛清の危険性があるがレクス分派を使えば問題は無い。……アビドスに関しては諦めるしかなさそうだな)」

 

 アビドスへと侵攻した事でカイザーコーポレーションから抗議のメールが届いており、関係は完全に破綻していた。再び侵攻したとしても今度はカイザーがその邪魔をしてくる事は確実だろう。ゲマトリアの黒服ともあの侵攻後は連絡が取れなくなっていたが黒服とは一度限りの同盟で会った為に問題は無かった。

 

「(エデン条約の事を考えればゲヘナにも手を打っておきたいがあちらは雷帝が組織した諜報部が優秀だ。学園の特色と合わせて諜報員を送り込むのは難しいな)」

 

 ゲヘナ学園は一見すればいくらでも入り込めそうな学園だが雷帝以後は彼の人物が設立した諜報部や風紀委員会の活躍もあって諜報員の類は直ぐに見つかるようになっていた。実際、雷帝政権崩壊後のゴタゴタを利用して諜報員を多数送り込んでいるが半年もしないうちに全員が捕えられ、矯正局に送られている。以来ゲヘナには諜報員を派遣する事は無くなっており、ハッキングや旅行を艤装した短期の監視や情報収集を行うにとどめていた。

 その点で言えばトリニティは派閥争いのおかげで入り込む事は容易と言えた。三大校の中でヴァルグレアの諜報員が最も多く存在し、最も多く活動で着ているのはトリニティだろう。

 

「(ミレニアムでは先生が廃部を阻止したと言っていたな。ミレニアムはミレニアムで面倒なところだがゲヘナよりはマシか)」

 

 このキヴォトスにおいて最も治安が安定していると言えるのはミレニアムだろう。多少のもめ事はあれど他校に比べればはるかに治安が良く、活気があった。それでいてキヴォトスの最先端を行く技術に電子戦ではハッキング能力の高さ、高出力兵器も開発も行われている等警戒するべき相手だった。

 それでいて内部のセキュリティも万全であり、ミレニアム最強の実働部隊であるC&Cが物理的に、ハッキングでは最強のヴェリタスが電子面で厳重の警戒を敷いているのだ。ヴァルグレアではとてもではないが手を出す事は難しい相手だった。

 

「(侵攻する場合、最も警戒するべきは美甘ネルだな。奴の配下も一騎当千の実力を有している。奴らを抑え込むだけでこちらは何十人もの人員を割かねばならない。

そして、セミナーの会長である調月リオが建設している要塞都市。性能は不明だがミレニアム製の要塞都市だ。対空、対地戦闘は鉄壁と見て間違いなだいろう)」

 

 ミレニアムは何処をとってもヴァルグレアにとって脅威にしかならない相手だった。幸いなのは未だヴァルグレアに対しては中立の立場を保っている事だろう。調月リオが若干の警戒を示しているがトリニティやゲヘナのように明確に対立の意思を見せているわけではなかった。

 

「(三大校が手を組む未来だけは避けねばならないだろう。最悪の場合“切り札”を使う事になるがあれば未だ実験の域を超えていないし制御が難しい)」

 

 その時だった。コンコン、と執務室の扉が叩かれたのは。カシウスは思考を止めて「入れ」とだけ告げると失礼します、と言って包帯や湿布を張り付けたエルザが入室してきた。

 

「ローゼンフェルト処置官、招集に応じて参上しました」

「……ああ、そうだったな。よく来た」

 

 そこで自分が呼びつけていた事を思い出したカシウスは改めてエルザを見た。相も変わらないゴスロリ風に改造された処置官の制服を身にまとう彼女は制服が軍服をモデルとしていなければその辺のギャルと変わらない見た目をしていた。

 

「報告書は読んだがSRT特殊学園の生徒と直接戦ったお前の感想を聞きたい。……強敵か?」

「……そうですね。強敵とは言えるかもしれません」

 

 エルザは少しだけ考えるそぶりを見せてから話し始める。

 

「練度や連携はどの部隊も高かったです。率いていた部下たちは何の役にもたちませんでしたし数で押し切る、という事も難しいでしょう。

ですが個々の戦闘能力はそこまで高くはありませんでした。私が戦ったのは3部隊ですが最初の2部隊は私が奇襲を仕掛けたこともありますが簡単に制圧出来ましたし最後の部隊も隊長や狙撃手にやられましたが撤退に追い込むことに成功したと思います。アビドスの小鳥遊ホシノやゲヘナの空崎ヒナのような単騎での強さは彼女達にはありませんでした」

「……成程な。SRTを相手にするには数よりも質で圧倒しなければいけないか。因みにだがわが校ではならば誰なら勝てると思う?」

「私見になりますがまずはヤーグナー教官殿ならば問題なく勝てると思います。次に最近頭角を現してきたヴァイスロート処置官。彼女の戦闘訓練を確認しましたがあれだけの戦闘能力を持っているのならば小隊相手でも勝つ事は可能でしょう。……それ以外で、となると個人では厳しいと思いますがヒッケルハイム処置官殿ならば相打ちには持ち込めると思います」

 

 エルザが上げた者達はヴァルグレアが誇る実力者たちだ。逆に言えばそれだけの力を持つ生徒でなければSRTの相手は難しいと言っているのと同義であった。カシウスはその言葉を聞き、改めてSRTの厄介さを感じたがそれを表に出す事は無かった。

 

「分かった。やはり現場の意見を直接聞いて良かった。それで、そのほかについてだが……」

 

 その後もカシウスはエルザに様々な質問を行い、今回の一件に関する情報や対応策の案をより確実なものとして固めていく事になるのだった。

 

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