阿慈谷ヒフミは目の前にいるS.C.H.A.L.Eの先生と相対していたがどういった事を言えば良いのか分からずに苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。というのも先生とヒフミがいるのはトリニティ総合学園のティーパーティーの建物の中であり、ヒフミはこれから先生と共に補習授業部に入る事となった者達を迎えに行かなければならないのだ。
ヒフミはその一方でナギサからトリニティの裏切り者を探すようにと命じられている。ヒフミはまさかそんな人物がいるとは思えなかったがナギサの様子から少なくとも疑わしい人物がいるのは間違いないのだろうと考えていた。
それだけに今から迎えに行くことが不安で仕方なかったのだがまさか先生も補習授業部に関わる事になったとは思わなかったのだ。知られて欲しくはない相手に知られた事でヒフミは凄く恥ずかしい気分になっていた。
「“それにしてもまさかヒフミが部長だったなんて驚いたよ。ヒフミも赤点を取ったのかい?”」
「えっと、それは……」
「“……まさか、モモフレンズに夢中になってサボった、とかではないよね?”」
「あ、あうぅぅ……」
まさにその通りなのでヒフミは本当に何も言えなくなってしまった。ナギサからの要請で補習授業部に入部する事は決まっていたのだがまさかペロロのライブとテスト日が被るとは思ってもいなかったのだ。それにどうせ補習授業部に入るのならばサボっても問題は無いとヒフミは免罪符を手に入れたかのように普通にサボって見せたのだ。当然、ナギサから説教を受けた事は話すまでもないだろう。
「“ヒフミ……。学生の本文は勉強だよ? もちろん友達と遊んだりすることも重要だけど勉強を疎かにしていいわけではない。両立しないとね”」
「はい……」
「“キヴォトスではピンと来ないかもしれないけど勉強の大切さは……”」
そして、そこからは先生によるヒフミへと説教タイムが始まってしまう。本当ならばさっさと迎えに行くべきなのだがなまじ説教の理由が理由なだけにヒフミからはそんなことは言えずに結局数十分にわたってお説教をされてしまう羽目になったのだ。
「“少し長くなっちゃったけどこれからはサボっちゃだめだよ?”」
「はい、先生……」
なんだかアビドスでであった頃よりも先生らしくなったと思いつつヒフミは先生と共に補習授業部の生徒の一人である浦和ハナコがいる正義実現委員会の宿舎へと向かった。
「すみません……」
「……誰?」
正義実現委員会の元に到着したヒフミたちを出迎えたのは新入生の下江コハルだった。彼女は小柄な体躯には似合わない鋭い眼光でヒフミと先生を睨みつける。その視線はまるでヒフミたちを悪と断じているかのようであり、ヒフミは思わずたじろいでしまった。
「あうぅ、私、何かしてしまったんでしょうか?」
「“多分だけど人見知りなんじゃないかな?”」
「誰が人見知りよ。知らない奴が声をかけてくれば警戒するのは当たり前じゃない。ましてやそっちのあんたは男性の大人だし」
武器を向けていないだけマシだろう、と言いたげな様子のコハルに先生は苦笑するしかない。コハルの対応は別に可笑しい事ではない。むしろ警戒心を持っていていい事だと思うがこの状況だと話しづらくてしょうがなかった。
「“私たちは正義実現委員会で捕えている生徒に用事があって来たんだよ”」
「え? それって……」
「あら♪ 私の事でしょうか」
「「「っ!!??」」」
この三人以外の声が突然聞こえたことで誰もが驚き、そちらの方を見るが見た先で更に驚く事になる。そこにいたのはプールでもなんでもないのにスクール水着を着た少女がいたのだ。はちきれんばかりの胸に括れたウエスト、安産型のヒップと抜群のプロポーションを持ちながらスクール水着という体のラインがはっきりと分かる服だけでいる事でとても卑猥なオーラを纏っていた。
そんな少女、浦和ハナコの登場にヒフミやコハルは顔を赤くし、先生は思わず顔をそらした。そんな三者三様の動きにハナコはニコニコと笑みを浮かべた。
「あら、皆さん面白い反応をしますね」
「な、な、な、何であんたがここにいるのよ!? 牢屋に入れていたはずでしょ!?」
「カギは開いていましたよ?」
「うそでしょ!? カギ当番は何やってんのよー!!」
コハルがそう怒鳴ってしまうのも無理はないだろう。牢屋のカギを閉め忘れた結果脱獄されましたなんて大失態以外のなにものでもないのだから。ハナコがその気ならとっくに脱獄されていもおかしくは無かっただろう。
「それとあんた何でそんな恰好……!」
「あら、下江さんはスクール水着はお気に召しませんでしたか? ならばもっと脱ぐしかありませんね……」
「脱ぐな! バカ!」
肩の部分に手を添えたハナコにコハルが顔を赤くしながら払いのけた。過剰に反応を見せるコハルが面白いのかハナコは笑みを浮かべていた。
「それで、私に用があるとか」
「え、あ、はい。実は今回の赤点を受けて補習授業部に入ってもらう事が決まりまして……」
「……補習授業部、ですか。確か赤点を取った人の学力向上を目指す部活でしたね」
先ほどまでの雰囲気とは一変し、ハナコは真剣な表情でそう問いかけてくる。そこに先ほどまで卑猥な言動を見せていた雰囲気は無く、まるで獲物を狙うハンターの如き鋭い気配を纏っていた。
そんなハナコにヒフミは驚きながらもなんとか答える。
「は、はい。それでハナコさんもその対象になったので補習授業部に入部してもらう事になりました……」
「……そうですか。態々ご苦労様です」
「ちょっと! 何勝手に話をしてるのよ! あんたは今すぐに牢に戻ってなさい!」
そこまで話したところで蚊帳の外に置かれていたコハルが声を上げた。とはいえそう声を上げるのも仕方ないだろう。ハナコは牢に入れられていた身なのだ。こうして外にいるのは正義実現委員会としては見過ごすことは出来ないのだろう。
ハナコをぐいぐいと牢屋のある部屋へと押していったコハルを見送るとほぼ同時に、玄関側の入り口が開かれた。
「コハル、ただいま戻りましたよ……あら? 先生?」
「“ハスミ、久しぶりだね”」
入って来たのは正義実現委員会の副委員長を務める羽川ハスミだった。ハスミとはキヴォトス赴任時のシャーレビル奪還作戦で協力してもらって以来の久しぶりの再会だった。
「まさかここで出会うなんて思いもしませんでした。今日はここにどんな御用ですか?」
「“私はヒフミの付き添いだよ”」
「えっと、実はこの度補習授業部が創設される事になり、対象者に通達していま、し……て……」
そうヒフミが説明をしようとした時だった。ハスミの後ろからボロボロの様子の生徒が入って来たのだ。両脇を正義実現委員会の生徒にがっちりと固められたその少女は何故かガスマスクを被っており、シュー、シューと不気味な呼吸音を響かせていた。
「……」
先ほどのハナコとは違う意味で普通ではない生徒の登場にヒフミはトリニティにも変な人はいっぱいいたんだなぁと何処か悟りを開きそうな心境となってしまっていた。別名を現実逃避とも言う。
「……? ああ、彼女は先ほどまで学校中を駆け回って暴れていた生徒ですよ。名前は確か白洲アズサと言ったかと」
「白洲アズサ、ですか!?」
それは補習授業部のもう一人の生徒の名だった。まさかここで二人目を見つける事が出来るとは思っていなかったが二人目も奇抜な人物だと部長になった事を後悔しつつあった。
「くっ、まさかあそこで弾切れになるとは……」
「あんたまだ戦う気だったの?」
「弾丸さえあればまだまだ道連れに出来たのに……」
そして、ヒフミが現実逃避をしている間、白洲アズサはそんな事を呟き正義実現委員会のメンバーを呆れさせていたのだった。