硝子の間に咲いた火花   作:鈴木颯手

66 / 67
『補習授業部、始動』


Code63.

 浦和ハナコ、白洲アズサという補習授業部のメンバーを見つけたヒフミは最後の一人である下江コハルを連れて補習授業部の教室へと来ていた。コハルが自分が対象だと言われた時にはあり得ない程の絶叫を上げていたがそれも仕方ないだろう。直前まで散々補習授業部に入るなんて情けないと言っていたのだから。まさかそんな風に貶していた部活動に自分が入る事になるとは思わなかっただろう。

 

「えっと、それではここにいる四人で補習授業を行っていく事になります。合格ラインは60点で全員が合格しないと駄目だそうです……」

 

 ヒフミは事前に用意されていた説明書を読んで3人へと説明するが誰からも返事は帰ってこない。空気は最悪であり、コハルなどは絶対零度の視線をヒフミへと向けていた。

 しかし、それも仕方がないだろう。何しろコハルは正義実現委員会のメンバーであり、ハナコとアズサはその正義実現委員会が捕まえた犯罪者なのだから。一緒の空間にいる事も嫌だという気持ちがひしひしと伝わってくる。

 

「あうぅ……(こ、コハルちゃんの視線が厳しいですぅ! 私、こんな調子でナギサ様からの依頼を達成できるのでしょうか……)」

 

 内心では大量の涙を流しつつヒフミは引き続き説明を続ける。

 

「今後はこの教室で特別学力試験を受けていく事になります。そして、3回の試験のうち、1回でも全員が合格すれば補習授業部は終わりという事になります」

「……成程、全3ミッションのうち、1つでも全員でクリアすればいいわけか。大丈夫だ、問題ない」

「うふふ♡」

「……」

 

 アズサは自信満々に、ハナコは楽しそうに笑い、コハルは未だに鋭い視線を送り続けている。三者三様の様子にヒフミはたじたじになっているがそこへ先生が補足を行う。

 

「“私は主にみんなのスケジュール管理などを行っていく事になるよ。試験時の監督官も務めるからこれからよろしくね”」

「うむ、頼むぞ先生」

「はい♡ よろしくお願いします」

「……よろしく」

 

 その後は軽く自己紹介を行い、早速勉強を開始するのだが……。

 

「ふむ、こうしてみるとトリニティは大分試験範囲が進んでいるのだな」

「あ、そう言えばアズサちゃんは転校生でしたっけ? 前の学校に慣れていないだけなら直ぐに何とかなりますよ」

「あら? 白洲さんは転校生だったのですか? 珍しいですね」

「……まぁ、色々あってな」

 

 アズサは何処か言いづらそうに、言葉を濁す。その様子にヒフミは不思議そうにしているがハナコだけは少し真剣な表情で見ていた。

 

「ま、まぁトリニティに転校してくる生徒はかなりいるみたいですし珍しいものではないんじゃないですか?」

「そうですか? 私の周りにはそういった方はおられなかったので……」

「聞いたところアズサちゃんのようにトリニティに転校する生徒は多いみたいですよ。最近だとキヴォトスの西からの転校生が多いそうです」

「そうなんですね……。知りませんでした」

 

 ハナコは少し何かを考えていたようだがすぐに何時もの表情に戻った。アズサに対しても変な事を言ったと謝罪し、名前で呼ぶように話していたがその一方でコハルだけは厳しい視線のままだった。

 

「コハルちゃん? どうかしましたか?」

「……認めない。認めないわ! 私は正義実現委員会のエリートなのに何でこんな……!」

 

 わなわなと震えだしたかと思えば爆発したように声を張り上げるコハルにこの場の誰もの視線が向く。コハルは全員に見られた事で一瞬たじろぐも話を続ける。

 

「1年生は私だけみたいだけどあんたたちの事を先輩なんて呼ぶつもりはないから!」

「別にそう言うのは気にしてないので……」

「そ、それに! 私は飛び級の為に2年生用のテストを受けていただけで1年生用の試験を受ければ一発で合格できるんだから!」

「力を隠していたのか。それは凄いな。ちなみに私は転校して間もないからな。コハルと同じ1年生の試験を受けるぞ」

「……だ、だからあんたたちとなれ合うつもりなんてないんだから!」

「そう言わずにお互いに全てをさらけ出して体の隅々まで知っていきましょう♡」

「なによ、もうーーーー!!!」

 

 思い通りにいかないせいだろう。コハルはそう声を上げると補習授業部の部屋を飛び出していった。まるで嵐のように大騒ぎをして出ていったコハルにヒフミは何と言えば良いの分からずに困ったように先生の方を見た。先生もあはは、と苦笑しながらヒフミの代わりに話をする。

 

「“とにかく。このメンバーで補習授業を受けていく事になるよ。みんな頑張って合格を目指そうね”」

「うん。よろしく」

「はい♡ よろしくお願いします」

 

 何はともあれ、補習授業部はこうしてスタートを切る事となった。そして、その裏ではナギサによるトリニティ内部の粛清計画が着々と進行しつつあった。

 

 

 

 

 

「離せ! 離しなさいよ!」

「はーい。大人しくするっスよー。あまり抵抗されるとこっちも面倒なんで」

 

 正義実現委員会の仲正イチカはティーパーティーからの要請を受けて校則違反者の拘束を行っていた。その対象者はとても多く、正義実現委員会が総出で事に当たるほどだった。

 

「それにしてもブラックマーケットに入り浸るなんてダメっスよ? ちゃんと校則に明記されているんスから」

「わ、私だけじゃないわよ! 他にも校則破っているやつなんて……!」

「安心するっスよ。あんた以外にも拘束される生徒はいるっスからね~」

 

 拘束が完了したイチカは後輩たちに後を任せて一呼吸してちょっとした休憩を取る。今日だけでイチカは5人の対象者を捕らえており、その誰もが抵抗したために疲労が溜まっていた。特に2人目の生徒に至っては友人たちも加勢したために仲良く牢屋に送り込む羽目になっていた。

 

「全く。ティーパーティーも人使いが荒いっスねぇ……」

 

 今頃戦闘能力を持った対象者相手にツルギ先輩やハスミ先輩が向かっている頃っスかねぇと内心で思いながら対象者リストの事を考える。

 この時期に行われる事からエデン条約を意識している事は明白だが不思議とそこにはレクス分派に属する者達の名前は記されていなかった。とはいっても末端の名前はちらほらと載っている為に完全ではないがそれでも中堅以上は一切載っていなかった。

 

「(何かしらの考えがあるとは思うっスけど何を考えているのか……)」

 

 面倒な事にならないと良いっスけど……とイチカは何処となく不穏な空気が流れ始めているトリニティの空を見て呟くと次の対象者を捕らえるために休憩を終えて向かうのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。