勇者の友達   作:パン3

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お待たせしました。
七月より掲載再開です。
新章開始前に一話を挟ませて頂きます。


第三十九話 ルシフェナとの再会

「全く、なんで分かるかな。私がルナじゃないってこと」

「?……見れば分かるよ」

 

 彼は何でもないかのように言った。

 

 いや、おかしい。

 姿形は全く一緒のはずだし、前回の反省を活かして言動や雰囲気、身に纏う魔力さえもルナに似せている。

 それなのに、彼にとっては全く意味を為さなくて。

 

「悔しい……悪戯は今まで一度だってバレたことなかったのに」

「ごめんね」

 

 ウィルは申し訳なさそうにそう言った。

 

 むぅ……そこは反撃するとこじゃん。調子狂うなぁ。

 

 何というか、やりづらい。

 けれど彼のどこかズレた言動は、嫌いではなかった。

 

「ねぇ、申し訳ないと思ってるならさ。私と一緒に遊んでくれない?」

「遊ぶ、か……」

 

 ウィルが迷うように剣を見ていた。

 多分、修行をサボって遊ぶことに迷いがあるのだろう。

 

「ウィルって遊びたいと思わないの?」

「思わない。父さん達が生きていた頃は遊ぶことが楽しくて仕方なかったけど、一人になってからは思わないな。村の皆も心配して他の子供と遊ばせようとしたけど、どれだけ遊んでも何も感じなかった」

「そう……」

「でも、ルナや君と遊んだ時は楽しいって思ったよ」

「!」

 

 むぅ。

 

 笑顔で言う彼に思わず頬が緩みそうになる。

 ……ウィルはいつか刺されそうな気がするな。

 

 

「ルシフェナ?」

「……ううん、何でもない。何して遊ぶ?」

「ううん、どうしょう。僕、遊びってほとんど知らないんだ。君は何して遊びたい?」

「う――ん、そうだな」

 

 前みたいに空を飛んだり、川を作って泳ぐみたいに魔法に頼りすぎたものだと、もし見つかった時に言い訳ができない。

 仕方ない。ここはとっておきを出そう。

 

「『小鬼がずっこけた』にしよう!」

「何それ?」

「えぇ、コレを知らないってどんな田舎にいたの?」

 

 遊び方は簡単だ。

 一人が代表者となり、木に顔を伏せる。数秒数える間に他の子供がこっそり近づいていく。

 代表者が振り返った時に、子供がまだ動いていたら負け。

 子供はバレないように代表者に触れることができたら勝ちという簡単だが、実際にやってみると駆け引きなどがあって意外に奥深い遊びだ。

 

「ああ、これか」

「やっぱりあったでしょ!これ、私のお気にい――」

「僕が生まれるだいぶ前に流行った遊びだって大人達が言ってたなぁ。皆が勧めてきたからやってみたけど、あんまり流行らなかったんだよね」

「…………」

「ルシフェナ?」

 

 ぷい。

 

「ルシフェナ」

 

 ぷい。

 

「ごめんよ、その『小鬼がずっこけた』をしよう!」

「……いいよ無理しなくて。どうせ流行遅れだし」

「ううん、そうだな……じゃあさ――」

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

「ウィル、手加減しないからね」

「勿論だよ!」

「行くよ。一、ニ、三……」

 

 ルシフェナが数えている間に全力でその場を離れる。

 魔力によって身体強化をしているから、ぐんぐんとその距離は離れていく。

 

 追いかけっこ。

 一人が代表となって、他のみんなを捕まえにいくという遊びだった。

 単純だが、ルールは簡単だし二人でもできる。

 

 走って走って。やがて彼女の姿が豆粒のようになるが、油断はできない。

 初めて出会った時を思い出す。

 彼女はまるで瞬間移動したように超越した速度で移動することができる。

 

 

 

 

 できるだけ早く、この場から離れて――「みーつっけた!!!」

 

「!?」

 

 目の前にいきなりルシフェナが現れる。

 身体の周囲には魔力が揺らめいていた。魔力で身体強化しているのか。何て速度だ。

 

「逃げられないよ!」

「くっ」

 

 抵抗する間もなく距離を詰められ、呆気なく捕獲されてしまった。

 地面に押し倒した僕を見て、ルシフェナは満面の笑みを浮かべた。

 

「次はウィルが捕まえる番ね」

 

 そう言って彼女はあっという間に遠くへと行ってしまう。

 目にも止まらない速さだった。

 

 同じく魔力で身体を強化しているだけなのに、どうしてここまでの差が……

 彼女の走る姿を思い返す。

 

 魔力操作の練度。センス。そして純粋な魔力量。

 土台の身体能力に加え、魔力操作を構成する一つ一つの要素が桁違いだ。

 きっと、魔力の扱いで言えばスネイルさん、リリィさんやルナ以上。いや、それどころかソールや魔王でさえも……

 

 彼女は何者なのだろう。

 そんな疑問を抱えながら、僕は彼女を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

「いぇ――い!!完・全・勝・利!!!」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 ルシフェナが大喜びで飛び跳ねる。

 こっちは息も絶え絶えで視界が霞がかり、立つこともできずに地面に仰向けになっていた。

 

「速っ、すぎる……」

「そりゃあ、何てったって私は――」

 

 それまで得意げだった彼女の表情が一瞬固くなる。

 

「魔王の孫娘、だから……?」

「!!……なんだ、やっぱり聞いてたんだ」

 

 ルシフェナと初めて出会った時に聞いた言葉。

 今まで聞こうかどうか迷っていたけれど、やはり聞いておきたかった。

 

「教えて欲しい。君の過去を。ルナとはどういう関係なの?」

「それは――っつ!?」

「ルシフェナ!?」

 

 彼女が突然、頭を抱えだした。

 激しい頭痛に耐えるかのように苦悶の表情を浮かべている。

 心配になって肩を抱くと、彼女は手で大丈夫だ、と合図していた。

 

「私もはっきりとは覚えてないんだ。覚えているのは、おじいちゃんの顔と誰かと遊んだ記憶、それに剣が怖いってことだけ。それ以上思い出そうとしても、こうなっちゃって先に進めないんだよね」

「どうしてルナの中にいるの?」

「分からない。気づいたら、あの子の中にいたの。いたって言っても、最近まで意識はぼんやりしていて夢の中にいるみたいだった。はっきりと覚醒したのは、イルゾーストの魔法にかかった時かな。彼の魔法で心の中に侵入された時に、はっきりと目覚めたの」

 

 イルゾースト。

 心を操る魔法で僕たちを苦しめた強敵。

 ルナに何かしていたのは知っていたけど、そんなことをしていたのか……!

 

「ウィルはさ。私が怖くないの?」

 

 ルシフェナがどこか不安そうな表情で聞いてきた。

 虚を突かれ、イルゾーストへの怒りが霧散した。

 

「どうして?」

「だって、正体も分からない奴が友達の中にいて身体を使ってるんだよ。怖くないの?」

「…………」

 

 ルシフェナの話は最もだった。

 正直、今この時もルナが心配じゃないかと言えば嘘になる。

 彼女の言葉を信じれば、一つの身体に二つの心があるということだ。その場合、身体の主導権はどちらにあるのか。今はルナでいる時間が長いようだけど、それもいつまで続くか分からない。

 

 ルナのことだけを考えるなら、スネイルさんたちに打ち明けて、対策を考えるべきだ。

 だけど……

 

「怖くないわけじゃないよ。ルナのことだけを考えるなら、君を何とかするべきだと思う」

「だよね……」

「でも、そうはしない。だって、君は僕の大切な恩人なんだから」

「えっ……」

 

 彼女に近づき、手を取った。

 恐怖で強張っている指を温めるように包み込む。

 

「前に魔力操作を習得できなかった時、君が助けてくれたおかげで僕は前に進むことができた。折れそうだった心を、君が勇気づけてくれたんだ。君がいてくれたから、僕はここにいられるんだ!」

「……私、ここにいてもいいのかな」

 

 彼女は恐怖と期待が入り混じったような表情を浮かべていた。

 記憶がない彼女自身が一番不安を抱えているのかもしれない。

 

「当たり前じゃないか!」

「!!!……ありが、とう」

 

 えへへ、と気が抜けたようにルシフェナが笑う。

 彼女の顔がルナに似ているのもあって、思わずドキリとしてしまった。

 

「そ、そういえばルシフェナと会うのって久しぶりだよね。それって、自分の意思で表に出ることが難しいから?」

「まあね。さっきも言ったけど、あの子が表に出ている時って、夢を見ているような感じで意識がぼんやりしているんだ。だから、自分の意思で自在に表に出ることはできないかな。それに、出られたとしても長時間は無理だしね」

「そっか……」

「あ、でも実は夜遅くにこっそり起きることもあったんだ。気付かなかったでしょ!」

 

 ルシフェナは得意気に鼻を鳴らした。

 そしてポケットから小さな布袋を取り出した。

 

「アリスであの子が買った魔法菓子なんだけど、すっごく美味しいんだよね!夜起きて、こっそり食べるのが最高なんだよ!」

 

 幸せそうに雲のようにふわふわとした食感が楽しめるという綿雲キャンディーを幸せそうに食べるルシフェナ。

 普段ならば、どこかほっこりとした気持ちになるはずなのに急速に頭が冷めていくのが分かった。

 

「……ねえ、お菓子を食べるようになったのっていつから?」

「へっ?そうだなあ、一月前くらいかなぁ」

「そのお菓子って宝玉キャンディーだったりする?」

「ああ、あの込めた魔力の属性や量によって味が変わるキャンディーだよね?めちゃくちゃ美味しかったよ!」

「それ、寝ている僕の近くで食べた?」

「えっと……うん。食べたよ。ウィルったら修行で疲れて全然起きないから頬っぺを突いて……どうしたの?」

 

 不穏な空気を感じ取ったようにルシフェナの声が若干強張っていた。

 

「一月前に、ルナが大切にとっていたお菓子がないって騒いでさ……甘い物を取られたルナの怒りは凄かったんだよね」

「……」

「挙句の果てに甘い匂いがするって疑われて。誤解を解くのに数日かかったんだよ」

「……そ、そうなんだ。ああ、そう言えば、そろそろ眠くなって――」

「ルシフェナ」

「はい……!」

「正座」

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ルナは足が痺れると不思議そうに語っていた。

 僕はそうなんだ、と曖昧に返事をした。

 

 アスラの郷まで、あと少し。

 

 

 

 

 

 

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